アンモニア燃料とは?メリット・デメリットや企業の取り組み事例を紹介

強い刺激臭が特徴の物質「アンモニア」が今、新エネルギーとして注目されているのをご存じでしょうか。
「アンモニア燃料」は燃焼時にCO2を排出しないため、環境負荷の少ない燃料といわれています。水素燃料よりも安価である点も特徴です。
本記事では、アンモニア燃料の仕組みやメリット・デメリットを分かりやすく解説します。国内企業によるアンモニア燃料の取り組み事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
アンモニア燃料とは?
アンモニアには独特の強い刺激臭があり、毒性があるため「劇物」として扱われます。分子式は「NH3」であり、N(窒素)とH(水素)で構成されています。C(炭素)が含まれていないため、燃焼させてもCO2が発生しないのが特徴です。
アンモニア燃料は、「混燃」と「燃料電池」の2つの方法で利用されます。
「混燃」とは、石炭火力発電にアンモニアを混ぜて焼却し、エネルギーを作り出す方法です。アンモニアは燃えにくい特性を持ちますが、石炭に混ぜることで既存の火力発電設備が利用できるようになります。
「燃料電池」は、水素の代わりにアンモニアを使って電池をつくる方法です。将来的にはアンモニアの燃料電池を利用した自動車や家庭用の発電システム、大規模な発電システムの開発などが期待されています。
製造方法の異なる3つのアンモニア
2019年の国内のアンモニア使用量は、約108万トンです。そのうち8割は国内生産です。
アンモニアの製造方法は3種類に分けられ、製造方法により名称が異なります。
グレーアンモニア
グリーンアンモニア
ブルーアンモニア
化石燃料を使用する「グレーアンモニア」
アンモニアは、金属触媒(主に鉄)を用いて、水素と窒素から製造されます。「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれる製造方法です。1906年に開発されて以降、一般的な方法として知られています。
「グレーアンモニア」では、化石燃料から水素を製造します。水素の製造時に発生したCO2は大気中に放出されるため、3種類のなかで最も環境負荷が高い製造方法です。現在はほとんどのアンモニアがグレーアンモニアに分類されます。
再エネで生成される「グリーンアンモニア」
「グリーンアンモニア」は、再生可能エネルギーを使用して製造されるアンモニアです。再生可能エネルギーの電力を使い、水を水素と炭素に分離し、ハーバー・ボッシュ法でアンモニアを製造します。
グリーンアンモニアは燃料の製造時も燃焼時もCO2を排出しないため、カーボンフリーのアンモニアです。しかし、製造時に大きなエネルギーが必要であり、再生可能エネルギーの発電量に左右されるため、製造コストに課題があります。
化石燃料を使うがCO2を分離回収する「ブルーアンモニア」
「ブルーアンモニア」は、グレーアンモニアと同様に、水素の製造時に化石燃料を使用します。製造時には、CO2が排出されます。しかし、発生したCO2を分離回収するため、実質カーボンフリーになるのが特徴です。
CO2は「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」という方法によって、回収・貯留されるでしょう。地中や海底などに貯留されたCO2は、地層水に溶解したり、鉱物になったりします。
ブルーアンモニアには、回収したCO2の輸送技術の確立やCCSの効率化、高コストなどの課題があります。
アンモニア燃料がもたらすメリット
アンモニア燃料には、3つのメリットがあります。
- 燃料時にCO2が発生せず環境への負荷が低い
- 水素よりも貯蔵・輸送がしやすい
- 水素よりも発電コストが低い
燃料時にCO2が発生せず環境への負荷が低い
アンモニアはN(窒素)とH(水素)で構成されており、C(炭素)を含みません。燃焼時にCO2を排出しないのが特徴です。カーボンニュートラルの実現が求められるなか、アンモニア燃料は環境負荷の低い新エネルギーとして注目されています。
現在は、石炭と混燃して利用されていますが、将来的にはアンモニア燃料のみで燃焼させる「専焼」の技術開発も進められています。「専焼」技術が確立すれば、より環境負荷の低いエネルギーになるでしょう。
水素よりも貯蔵・輸送がしやすい
クリーンエネルギーとして注目されているものに「水素」があります。水素の燃焼時にもCO2は排出されません。しかし、水素は常温では気体になり、輸送が困難です。水素の液化には-200度を維持する必要があり、インフラ整備が課題となっています。水素は燃えやすいため、製造・貯蔵・輸送の各段階で厳重な安全対策が不可欠です。
一方、アンモニアは-33度に冷却するか、少しの圧力(0.857MPa)を加えるだけで液化します。アンモニアは世界中で広く製造・利用されているため、サプライチェーンがすでに整備されています。アンモニア燃料のインフラ技術をゼロから開発する必要がない点は大きなメリットです。
水素よりも発電コストが低い
アンモニアはサプライチェーンや安全性などの観点から、水素よりも製造コストは低くなります。
経済産業省の燃料アンモニア導入民間協議会の発表によると、2020年時点の水素発電コストは97.3円/kWh(専焼)であるのに対し、2018年時点のアンモニア発電は23.5円/kWh(専焼)でした。
化石燃料などよりは発電コストが高くなりますが、今後の技術開発により、コストダウンが期待されています。
参考:燃料アンモニア導入官民協議会 中間取りまとめ|燃料アンモニア導入官民協議会
アンモニア燃料がもたらすデメリット
アンモニア燃料には、デメリットもあります。
- 燃焼時に窒素酸化物が発生する
- アンモニアの生産量を確保しなければならない
- アンモニア燃料の価格が高くなる可能性がある
燃焼時に窒素酸化物が発生する
アンモニア燃料は燃焼してもCO2は発生しませんが、NOx(窒素酸化物)を排出します。NOxとは、NO(一酸化窒素)やNO2(二酸化窒素)など窒素酸化物の総称です。NOxは、高温で燃やした際に空気中のN(窒素)とO2(酸素)と結びついて発生します。NO2は温室効果ガスの一つであり、削減対象です。酸性雨の原因ともいわれています。
この課題について、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」は2014〜2018年に技術開発を実施。これまでの実証試験では、アンモニアを20%混焼しても、石炭だけを燃やした場合と同じ量のNOx排出量に制御できることが分かっています。
参考:アンモニアが“燃料”になる?!(後編)~カーボンフリーのアンモニア火力発電|経済産業省
アンモニアの生産量を確保しなければならない
アンモニアの生産量の確保も課題です。
世界の原料用アンモニアの生産量は、2019年時点で年間2億トンです。そのうち貿易量は1割で、生産されたアンモニアのほとんどが国内で消費されています。アンモニアの市場はあるものの、市場規模は小さいのが現状です。
仮にアンモニアを20%混焼する場合、石炭火力発電1基につき年間50万トンのアンモニアが必要になります。2019年の国内の生産量は84.6万トンであり、日本国内の石炭火力発電に対応するには不足しています。
参考:
アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先|経済産業省
第2節 燃料アンモニアの導入拡大に向けた取組|経済産業省
アンモニア燃料を普及させるには、燃料用アンモニアの供給体制や市場の形成が重要です。
アンモニア燃料の価格が高くなる可能性がある
アンモニアは昔から肥料として使われており、農業で必要不可欠な存在です。しかし、アンモニア燃料が普及すると、需要と供給のバランスが崩れ、原料であるアンモニアの価格が高騰する可能性があります。
コストを抑えてアンモニアを安定的に供給するためには、サプライチェーンを整備し、十分な量のアンモニアを製造・補完できるよう、さらなる技術開発が必要です。
アンモニア燃料を扱う日本企業
最後にアンモニア燃料を扱う日本企業を紹介します。
- レゾナック
- つばめBHB
- IHI原動機
- ジャパンエンジンコーポレーション
- 中外炉工業
これらの企業は、アンモニアの生産技術、アンモニア燃料エンジンの開発などに取り組んでいます。
レゾナック
化学メーカーであるレゾナックは2023年12月、JERAと日本郵船とともに、船舶へのアンモニア燃料の供給に取り組むことを発表しました。
使用されたアンモニア燃料は、家庭や企業から回収された使用済みプラスチックをケミカルリサイクルして製造されています。レゾナックでは、1931年に日本初の国産技術によるアンモニア製造に成功してから、90年以上アンモニアを安定的に供給しています。
参考:
燃料アンモニアの船舶への供給についてJERA、レゾナックと共同検討を開始|PR TIMES
世界初、使用済みプラスチックをリサイクルしたアンモニアを燃料用途で供給|レゾナック
つばめBHB
つばめBHBは、東京科学大学(旧:東京工業大学)発のアンモニア生産システムを開発・提供する会社です。
つばめBHBは、東京工業大学で開発された技術を元に、アンモニア合成技術の課題であった高温高圧反応をクリアし、低音・低圧での製造を実現。これにより大量一極集中の製造スタイルから、必要な分を必要な時に生産できる「オンデマンド供給」を可能にしました。
IHI原動機
IHI原動機は、原動機や発電プラントの開発・製造・販売を行う企業です。同社は船舶エンジン用アンモニア燃料技術の開発に取り組んでいます。
2024年8月には、日本郵船とともに開発した世界初の商用利用を目的にしたアンモニア燃料タグボードの実証航海を実施。二番船として外航船のアンモニア輸送船の開発に取り組んでおり、2026年11月に完成予定です。
参考:世界初のアンモニア燃料船を創る海技者の視点、安全対策に活かす|日本郵船
ジャパンエンジンコーポレーション
発動機メーカーのジャパンエンジンコーポレーションは、アンモニア燃料エンジンの技術開発に取り組んでいます。
2025年9月には、アンモニア燃料の純国産エンジンを搭載した商用機を完成させます。エンジンの試運転時には、100%の出力、アンモニア混燃率95%で、温室効果ガスの排出量を90%以上削減できたと発表しました。2025年中に、アンモニア燃料アンモニア輸送船に搭載され、2026年11月に就航を予定しています。
参考:アンモニアを燃料とする純国産エンジンの商用機を世界に先駆けて完成しました|ジャパンエンジンコーポレーション
中外炉工業
中外炉工業は、工業炉や工業炉用バーナーの開発・製造を行うメーカーです。同社は、2019年より鉄鋼用の工業炉用アンモニアバーナーを開発しています。
アンモニア燃料の燃えにくい特性やNOx排出の課題には、バーナーの形状を工夫するなどして対応しています。NOx排出は、実験路ベースであるものの、都市ガスと同水準までの制御に成功しました。
2025年の秋頃には、実際の工業炉に近いサイズの大型試験炉で、アンモニアの実証実験を始めるとしています。
参考:
(新聞掲載記事) 中外炉工業、脱炭素へ大型試験炉 アンモニア燃料活用 新型バーナーの開発費倍(2025年4月8日付 日本経済新聞)|中外炉工業
まとめ
アンモニア燃料は、燃焼時にCO2を排出しない点や水素よりも製造コストが低い点などから、今注目されている新エネルギーです。アンモニアは、すでに世界中で大量生産されているため、サプライチェーンが確立していることもメリットとされています。
一方、現在生産されているアンモニアのほとんどが肥料として使われているため、燃料とするためには生産量の拡大や輸送ルートの確立などの課題もあります。
アンモニア燃料には政府も注目しているため、今後さらに技術開発が進むでしょう。アンモニアの生産、燃料化、燃焼設備などさまざまな観点から、最新の動向に注目です。
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