メタネーションとは?メリット・デメリットと実用化を進める企業の取り組み事例を解説

カーボンニュートラル実現のための、新たな技術として「メタネーション」が注目されています。
メタネーションとは、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)からメタンをつくる技術です。メタンは天然ガスの代替として利用できるため、既存の設備をそのまま利用できるなどの特徴があります。
本記事では、なぜメタネーションがカーボンニュートラルの実現に役立つのかを、仕組みや国内外の動向とともに解説します。メタネーションの実用化に取り組む国内企業も紹介しているので、参考にしてみてください。
メタネーションとは?
メタネーション(Methanation)とは、「メタン(Methan)」と「生まれること」を意味するラテン語のnatioを由来とする「nation」を組み合わせた造語です。
メタネーションは、CO2と水素を反応させ、メタン(CH4)を合成する技術です。メタンを燃焼するとCO2が発生します。しかし、工場や発電所から回収したCO2と再生可能エネルギーを用いて生成した水素を原料とすれば、CO2の排出量が実質ゼロになります。
メタネーションの基礎となる技術は、1911年にフランス人化学者であるポール・サバティエが発見しました。日本では1995年より、東北大学と日立造船が世界に先駆けてプロトタイプの実証実験を行っています。
メタネーションの原理
メタネーションでは、「サバティエ反応」が代表的な方法として利用されています。
サバティエ反応は、触媒を用いて高温でCO2と水素を反応させて合成メタンを生成する反応です。触媒には一般的にニッケル(Ni)が使われます。化学式は「CO2+4H2→CH4+2H2O」であり、メタンと水が生成されます。サバティエ反応は反応時に熱を発生しますが、熱エネルギーは再利用可能です。
近年は、従来のメタネーションよりも高効率かつ低コストの技術である「革新的メタネーション技術」の開発が進められています。
メタネーションによるメリット
メタネーションへの取り組みには、以下の3つのメリットがあります。
- CO2実質ゼロが期待できる
- 既存のインフラ設備が継続して使用できる
- 配管が地下にあるため災害に強い
CO2実質ゼロが期待できる
メタネーションのメリットは、CO2実質ゼロの効果が期待できることです。
メタネーションは、水素と工場などから回収されたCO2を原料とします。つまり、CO2が循環することになり、大気中のCO2の量は変わりません。水素も再生可能エネルギーを利用してつくられる「グリーン水素」を使うことで、環境負荷を抑えられます。
2021年6月に宣言された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で、メタネーションは「次世代熱エネルギー産業」の分野に記されており、今後の成長が期待されています。
参考:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略|経済産業省
既存のインフラ設備が継続して使用できる
既存のインフラ設備が継続して使用できる点もメリットです。
都市ガスは天然ガスが利用されていますが、天然ガスの主な成分はメタンです。天然ガスと合成メタンに置き換えても、導管などの既存インフラ設備はそのまま利用できます。
インフラ設備を一からつくり変えるには、膨大なコストと時間がかかります。メタネーションの場合はその必要がなく、スムーズな移行が可能です。
配管が地下にあるため災害に強い
ほとんどの都市ガスの導管は、地中に埋められています。台風や豪雨などの災害に強いのが特徴です。
2019年に発生した台風15号の支障件数は電力が93万戸、水道が約14万戸という深刻な被害をもたらしました。しかし、ガスの支障件数は0でした。同年台風19号の支障件数は、電力が約52万戸であるのに対し、ガスは約0.2万戸です。
ただし配管が破損した場合、復旧作業に時間を要したり、長期間の供給停止となったりするリスクもあります。このような事態に備え、国内のガス事業者間で連携しています。
参考:
近年の台風・豪雨災害における対応状況|経済産業省
災害に強い都市ガス、さらなるレジリエンス向上へ|経済産業省
メタネーションによるデメリット・課題
メタネーションには、デメリットや課題もあります。
- 水素の製造コストが高い
- メタネーション設備の拡大が必要
水素の製造コストが高い
一つ目のデメリットは、水素の製造コストが高いことです。
現在、最も多く製造されている水素は、石炭や天然ガスなどの化石燃料がベースの「グレー水素」です。しかし、メタネーションでCO2排出量を実質ゼロにするためには、この水素を「グリーン水素」にする必要があります。
グリーン水素は、再生可能エネルギーを使用して水を電気分解して生産される水素です。グリーン水素は、製造時も使用時もCO2を発生しません。
しかし、グリーン水素は製造時に大量の電気が必要となり、コストが高くなります。再生可能エネルギーは、供給量が安定していない点も課題です。今後、再生可能エネルギーが拡大し、余剰電力が安定的に発生するようになれば、グリーン水素の価格も抑えられる可能性があります。
メタネーション設備の拡大が必要
メタネーション設備の拡大も、課題の一つです。
今後、メタネーションを商用化するには、1時間に1万〜6万N㎥を製造する必要があります。しかし現在、海外での実験では1時間で数十〜数百N㎥の合成メタンしか製造できていません。
私たちの生活の中で合成メタンが使われるようになるには、さらなる技術開発と設備拡大のためのコストが必要です。
技術開発に関する課題に対し、日本政府はグリーンイノベーション基金事業などを立ち上げ、技術開発を促進しています。
参考:ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術|経済産業省
メタネーションに関する国内外の動き
日本をはじめ、世界中でメタネーションの技術開発が進められています。ここでは、日本や海外のメタネーションに関する動向を紹介します。
日本の動向
日本では、メタネーションの実証実験が進められています。
2023年より横浜市と東京ガス、三菱重工業、三菱重工環境・化学エンジニアリングは共同でメタネーションの実証実験を開始しました。焼却施設からCO2を回収し、東京ガスが運営するメタネーション実証施設でメタネーション原料に使用する取り組みです。
大阪万博では、カーボンリサイクルファクトリー内の大阪ガスメタネーション実証設備「化けるLABO」で、メタネーションの実証設備が公開されています。これは、万博会場内で回収された生ごみを発酵させて発生したCO2と、グリーン水素から合成メタンを生成するものです。
天然ガスから合成メタンへの置き換えを進めるにあたり、日本政府は年間導入量と供給コストを定めています。国と企業による技術開発が、今後ますます活発に行われるでしょう。
参考:
ごみ焼却工場の排ガスからのCO2回収とメタネーションへの利用実証の開始|東京ガス
大阪関西万博会場でのメタネーション実証|Daigas Group
次世代熱エネルギー産業|経済産業省
海外の動向
海外では、ヨーロッパを中心にメタネーションへの取り組みが進められています。
フランスでは、電気・ガス事業者である「NaTran(旧GRTgaz)」がメタネーションの産業用実証プロジェクト「Jupiter1000プロジェクト」を開始しました。2022年からは合成メタンの製造実験を行っており、合成メタンをガスグリッドへ注入することを目指しています。
ドイツの自動車メーカー「Audi(アウディ)」は、2013年に合成メタン「アウディe-ガス」の製造設備を本格稼働させています。2014年には、「アウディe-ガス」や天然ガス、ガソリンを燃料とする「新型Audi A3 Sportback g-tron」を発売しました。
現在、メタネーションに関する具体的な規制などはありません。しかし、メタネーションに関するプロジェクトなどへの研究支援や補助金の提供などはさまざまな国が行っています。
参考:
第2回国内メタネーション事業実現タスクフォース|経済産業省
E-methane production|NaTran
世界初:Audi、power-to-gas精製設備が本格稼働|Audi Japan Press Center
Audi A3 Sportback g-tron|Audi Japan Press Cente
メタネーション実用化に取り組む国内企業
世界中でメタネーションに関する取り組みが進められています。ここでは、メタネーションの実用化に向けて取り組む国内企業を紹介します。
- INPEX
- IHI
- 荏原実業
- 横河電機
- 西松建設
INPEX
INPEX(インペックス)は、2021年よりメタネーションシステムの実用化に向けた技術開発に取り組んでいます。
2023年6月に世界最大級であるメタネーション設備の建設を開始しており、現在建設中です。施設では、家庭用約1万戸分の都市ガスが製造できる見込みです。同社は、2025年度中に試運転を、2026年度には実証実験をスタートさせることを目指しています。
また、2025年1月に合成メタンの普及拡大を目指す国際的アライアンス「e-NG Coalition」への加入を発表しました。
参考:
長岡メタネーション実証事業|INPEX
Sustainability Report 2024|INPEX
IHI
IHI(アイ・エイチ・アイ)は、2022年よりメタネーション装置の販売を開始しています。装置はサバティエ方式によるもので、1時間に12.5Nm³を合成可能です。向上や研究所における使用運転を目的としており、一般的な装置よりもコンパクトな仕様です。
2023年にはコミュニティバスへの合成メタン提供を開始しました。福島県相馬市と協力し実施しているもので、市の「おでかけミニバス」に燃料として合成メタンを供給する実証実験です。メタンをバスに充填する装置は、LNG(液化天然ガス)用だったものを再利用しています。
参考:
CO₂と水素から燃料をつくる、メタネーション装置を販売開始|IHI
国内初 メタンバスへ再エネ利用のe-methane(合成メタン)を供給開始~福島県相馬市運用のコミュニティバスでCO₂フリー水素からのe-methaneを活用~|IHI
荏原実業
荏原実業は、環境保全に関する事業を行う企業です。
同社は京都大学と東邦ガスと共同で、「消化ガスを利用したex-situ型バイオメタネーションリアクターによる高濃度メタン生成技術の開発」に取り組んでいます。
消化ガスとは、下水処理の過程で、汚泥が微生物によって分解される際に発生するガスです。メタンとCO2が主成分です。この技術では、消化ガスに含まれるCO2とグリーン水素をex-situ型バイオリアクターという装置で反応させ、メタンを生成します。
同取り組みは、国土交通省の令和6年度下水道応用研究に採択されており、今後実証実験が行われる予定です。
参考:消化ガスを利用したバイオメタネーションのパイロット規模オンサイト実証試験に関するお知らせ-国土交通省の令和6年度下水道応用研究に採択-|PR TIMES
横河電機
工業計器・プロセス制御システムメーカーである横河電機も、メタネーション技術の開発に取り組んでいます。
横河電機が開発を進めるのは、メタン生成菌という微生物を活用した技術です。通常のメタネーション技術では、触媒による反応を進めるために温度とエネルギーが必要になります。しかし、微生物を使用したメタネーション技術であれば、エネルギーを最小限に抑えることが可能です。
同研究は大学と共に行い、各種データの測定には横河電機の技術を活用しています。
参考:真に豊かに生きる循環型社会に向けた未来へのシナリオ|横河電機
西松建設
西松建設は、横浜国立大学と三機工業とともに、バイオメタネーション技術の開発に取り組んでいます。
バイオメタネーションとは、微生物の働きを利用してCO2と水素からメタンをつくり出す技術です。バイオメタネーション槽という装置には、MBfRが適用されています。MBfRを利用することで水素供給時のエネルギーを節約できるだけでなく、設備のスペースも省略できます。バイオメタネーション技術の成果は、第60回環境工学研究フォーラムの環境技術・プロジェクト賞を受賞しました。
今後は、同技術の社会実装を目指すとのことです。
参考:二酸化炭素の回収・利用に適したバイオメタネーション技術の研究開発を推進|西松建設
まとめ
天然ガスと比べてCO2排出量の少ない合成メタンは、ガスの脱炭素化方法の一つとして注目されている新しいエネルギー源です。
メタネーションでつくられた合成メタンは、原料として利用されるCO2と、焼却時に排出されるCO2が相殺されます。CO2排出量は実質ゼロになるとされています。原料となる水素を、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」にすることで、より環境負荷を抑えることが可能です。
メタネーションは日本をはじめ、世界中で技術開発が進められています。コストの高さや水素の製造量などの課題はありますが、今後改善されることが予想されます。
新エネルギーとして期待されるメタネーションの動向に注目してみてはいかがでしょうか。
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