ブレンデッドファイナンスの基礎知識|SDGs資金不足解決の糸口

持続可能な社会の実現には多くの資金が必要ですが、公的資金だけではとても賄いきれません。そこで近年注目されているのが「ブレンデッドファイナンス」です。
ブレンデッドファイナンスは、公的資金と民間資金を組み合わせて行う資金調達の手法です。公的資金が民間投資のリスクを減らす役割を果たすことで、より多くの民間資金の導入が期待できます。
本記事では、ブレンデッドファイナンスの基本や仕組み、課題を分かりやすく説明します。企業の資金調達に新たな可能性をもたらすブレンデッドファイナンス。その活用事例も紹介していますので、ぜひこの機会に理解を深めておきましょう。
ブレンデッドファイナンスとは
ブレンデッドファイナンスとは、公的資金と民間資金を組み合わせて資金調達を行う手法です。従来は、投資家が自らリスクとリターンを負担していたため、積極的な投融資が躊躇されていました。
ブレンデッドファイナンスは公的資金と民間資金を組み合わせることで、投資家が負うリスクを軽減できる点が特徴です。従来は十分な資金が集まりにくかった発展途上国・新興国のインフラ整備や、再生可能エネルギー分野など幅広い領域で活用が進んでいます。
参考:日本経済研究所|ブレンデッド・ファイナンス~SDGsの達成に向けて~
ブレンデッドファイナンスが注目される背景と必要性
ブレンデッドファイナンスは、持続可能な開発に不可欠な仕組みとして、国外・国内で注目を集めています。ブレンデッドファイナンスの特徴を踏まえながら、注目される背景や期待される効果を深堀しましょう。
SDGs・気候変動対策における資金不足
国際エネルギー機関(IEA)の分析によると、2050年までにネット・ゼロ達成を軌道に乗せるためには、2030年までに年間約4.5兆ドルのクリーン・エネルギー関連投資が必要とされています。
さらに国連貿易開発会議(UNCTAD)は、発展途上国がSDGs達成のために必要な年間投資額は3.9兆ドルに上るとしています。一方、実際の投資額は1.4兆ドルにとどまっており、毎年2.5兆ドルものギャップが生じているのが実情です。
これほど多額の資金を公的資金だけで賄うのは不可能なため、民間資金を呼び込むための仕組みが必要です。特に発展途上国のインフラ整備や、気候変動の分野では資金不足が深刻化しています。ブレンデッドファイナンスを活用することで、資金調達のスピードと規模を同時に拡大できます。
参考:ニッセイ基礎研究所|新たな金融手法「ブレンデッド・ファイナンス」-気候変動対策への活用
参考:日本経済研究所|ブレンデッド・ファイナンス~SDGsの達成に向けて~
参考:野村資本市場研究所|サステナブル・ファイナンスへの活用が期待されるブレンデッド・ファイナンス
民間投資を呼び込む「呼び水効果」とは何か
ブレンデッドファイナンスでは、民間セクターが取り切れないリスクを公的セクターが肩代わりし、投融資のハードルを下げます。つまり、公的資金が「呼び水」となり、民間投資を促進する効果が期待できるのです。
実際に、公的資金が関与して動員された民間資金は年々増加傾向にあります。ブレンデッドファイナンスにより、限られた公的資金でも大きな投資を実現できるのが特徴です。
参考:日本総合研究所|GXに向けたブレンデッドファイナンスの始動
参考:国際通貨研究所|開発援助拡大のための新たな民間資金動員手法の課題と展望
ブレンデッドファイナンスの仕組み
ブレンデッドファイナンスには、投資リスクを引き下げたり、リスク・リターンのバランスを改善したりするための仕組みが存在します。
ブレンデッドファイナンスは、複数のアプローチによって成り立っています。具体的には、①譲許的資本 ②保証・リスク保険 ③技術援助 ④助成金の4つです。詳しく見てみましょう。
ブレンデッドファイナンスの4つのアプローチ
ブレンデッドファイナンスには、主に次の4つのアプローチがあります。
- 譲許的資本:資本コストの低下、または民間セクターの投資家に追加の保護層を提供するため、市場より有利な条件(無利子の公的資金や寄付金など)で資金を提供
- 保証・リスク保険:公的機関や慈善団体がプロジェクトに対して保証や保険を提供し、信用を補完
- 技術援助:公的機関や慈善団体が補助金などを提供し、プロジェクトに関わるさまざまな活動を支援
- 設計段階の助成金:プロジェクトの立ち上げ・設計段階で提供される助成金
このうち最も多く利用されているのは、1番目の「譲許的資本」を活用したアプローチで、全体の7割以上を占めています。
参考:野村資本市場研究所|サステナブル・ファイナンスへの活用が期待されるブレンデッド・ファイナンス
参考:ニッセイ基礎研究所|新たな金融手法「ブレンデッド・ファイナンス」-気候変動対策への活用
ブレンデッドファイナンスのメリットと課題
ブレンデッドファイナンスには、これまで見てきたように、資金調達の効率化やリスク軽減といったメリットがあります。具体的には、以下のようなメリットが挙げられます。
- 公的資金が民間投資の呼び水となることで、投資規模が拡大できる
- 気候変動やインフラ整備など、投資リスクが高い分野にも民間資金を動員できる
- SDGsや脱炭素経営を進める企業にとって、新たな資金調達手段となり得る
一方で、解決すべき課題も存在します。次項で詳しく説明します。
ブレンデッドファイナンスの普及に向けて
ブレンデッドファイナンスには、以下のような課題もあります。
- 譲許的資金の出し手の不足
- 金融の専門知識やノウハウの不足
- データの透明性の確保が難しい
- 開発成果を適切に評価するための測定ツールがない
ブレンデッドファイナンスの普及にあたっては、国際機関や地方自治体、公的金融機関はもちろん、非政府組織や慈善団体、企業などさまざまな主体と連携することが重要です。民間による譲許的資金の拠出を増やし、実績を積み上げながら知見やデータを蓄積してノウハウ化していく必要があるでしょう。
参考:国際通貨研究所|開発援助拡大のための新たな民間資金動員手法の課題と展望
参考:西村あさひ法律事務所|ブレンデッド・ファイナンスの普及に向けた法的論点の整理
参考:ニッセイ基礎研究所|新たな金融手法「ブレンデッド・ファイナンス」-気候変動対策への活用
ブレンデッドファイナンスの活用事例
ブレンデッドファイナンスは世界各国で取り入れられ、成果を上げています。日本ではまだ事例は少ないものの、新たな資金調達の手法として注目されており、実際に活用する企業も出てきました。
次項で、JICA・三菱地所・イギリスでの活用事例を紹介します。
JICAによる海外投融資
JICA(国際協力機構)は発展途上国におけるSDGs達成に向けたプロジェクトに対して、ブレンデッドファイナンスを活用しています。
一例として、ラオスで初となる風力発電所の建設が、ブレンデッドファイナンス活用の下で進行中です。ADB(アジア開発銀行)やタイ輸出入銀行、ラオス・タイ・シンガポールの民間企業に加え、三井住友銀行・三菱商事など日本企業との協調融資により実施されます。
ラオスはもちろん、売電先となるベトナムの温室効果ガス削減にも寄与するとして、大きな期待が寄せられています。
参考:JICA|開発途上国での事業への民間資金動員と開発インパクトの創出
参考:JICA|ラオス「モンスーン風力発電事業」に対する融資契約の調印(海外投融資):ラオス初の風力発電、東南アジア最大600MWの再生可能エネルギー事業で気候変動対策に貢献
三菱地所:サステナビリティ・リンク・ローンの活用
三菱地所は不動産業界で初めて、サステナビリティ・リンク・ローンを締結しました。
サステナビリティ・リンク・ローンとは、借り手である企業が設定した「サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)」の達成状況に応じて、金利が変動するローンのことです。ブレンデッドファイナンスの手法の一部として位置づけられます。
同社は「2025年度に再生可能エネルギー由来の電力比率100%を達成」をSPTsに設定しています。2020年に農林中央金庫とサステナビリティ・リンク・ローンを締結し、以降も同金庫からの資金提供を受けながら、計4回・総額600億円を超える融資を実現しました。2023年には三菱UFJ銀行ともサステナビリティ・リンク・ローンを締結しています。
イギリスの休眠預金制度
ブレンデッドファイナンスは主に発展途上国の開発に利用されていますが、先進国であるイギリスでも活用された事例があります。
長期間使われていない銀行預金を国が回収し、公的資金の一部としてブレンデッドファイナンスに組み込みました。2022年末までに1億4,000万ポンドを超える休眠資金(※)が活用されました。
休眠預金は日本でも深刻な問題となっています。日本では年間1,400億円ほどの休眠預金が発生するものの、そのうち活用されているのは360億円程度にとどまっています。イギリスの成功例から学べる部分もあるでしょう。
休眠預金(※):10年、ないし15年以上入出金等の取引がない預金
参考:野村資本市場研究所|サステナブル・ファイナンスへの活用が期待されるブレンデッド・ファイナンス
まとめ
ブレンデッドファイナンスは、SDGsや気候変動対策に必要な資金を調達できる画期的な選択肢です。公的資金がリスクを引き受けることで民間投資を動かす呼び水となり、資金不足の分野へ投資を促します。
普及に向けては依然として課題が残っていますが、ブレンデッドファイナンスを効果的に活用すれば、サステナビリティ経営と資金調達の両立を実現できます。SDGsを推し進めたい企業にとっても、新たな資金調達の手段となっていくでしょう。
『GREEN NOTE(グリーンノート)』は環境・社会課題をわかりやすく伝え、もっと身近に、そしてアクションに繋げていくメディアです。SDGs・サステナブル・ESG・エシカルなどについての情報や私たちにできるアクションを発信していきます!