ネットゼロとカーボンニュートラルの違いとは?目標や企業の取り組み事例
現在、日本をはじめ、世界各国で、2050年までにネットゼロを目指す取り組みが活発化しています。
本記事では、「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」のそれぞれの定義や違いなどについて解説していきます。
また、具体的な取り組み事例として、国内外の企業のネットゼロ・エミッションに関する目標などについてもまとめて紹介していきます。
「ネットゼロ」と「カーボンニュートラル」の違い
結論からいうと、「ネットゼロ」と「カーボンニュートラル」に明確な違いはなく、ほとんど同じ意味として使われています。
経済産業省・資源エネルギー庁が「カーボンニュートラル」について解説しているWebページにも以下の記載があり、両者の言葉はほとんど同義として使われていることがわかります。
→「排出を全体としてゼロにする」とは、排出量から吸収量を差し引いた、合計がゼロとなる(ネットゼロ、実質ゼロと同じ)
引用:『日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」3.環境』(資源エネルギー庁)
なお、英語では「ネットゼロ」が使われることが多く、企業や団体の目標などでも「ネットゼロ」という言葉がよく使われる傾向があります。
「ネットゼロ」について解説
ネットゼロとは、「温室効果ガスの排出が正味ゼロ」という意味です。ネットゼロの「ネット」とは、「正味」という意味を表しています。
2020年以降の気候変動問題(地球温暖化対策)の国際的な枠組みである「パリ協定」では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標が掲げられています。
日本では、2020年10月に行われた所信表明演説において、菅義偉首相が以下のように、2050ネットゼロについて表明しました。
「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」
上記の宣言で注目すべき点は、「温室効果ガス」という言葉が使われている点です。日本では、CO2だけでなく、メタン、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスを含めた「温室効果ガス」を対象に大幅な排出量の削減を目指しています。具体的には、吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする(差し引きゼロの状態)を目指す、ということになります。
世界では、120カ国以上の国で、2050年までにネットゼロを目指す宣言がされています。中国、インド、インドネシアなどの一部の国では、2060年、または2070年までにネットゼロを達成するとして、それぞれの目標が定められています。
参照:『気候変動「日本の排出削減目標」』(外務省)より
ネットゼロを達成するためには、国民一人ひとりの協力が不可欠です。自治体や企業でも、ネットゼロを実現するための取り組みが広がっています。
例えば、株式会社商船三井では、2050年までにネットゼロ・エミッションの達成を目指し、サスティナブルな社会を実現するための目標として、以下の「商船三井グループ環境ビジョン2.1」を策定したことを表明しています。
<中長期目標>
2020年代中にネットゼロ・エミッション外航船の運航を開始します
2035年までに輸送におけるGHG排出原単位を約45%削減します(2019年比※)
2050年までにグループ全体でのネットゼロ・エミッション達成を目指します
参照:『– 2050年ネットゼロ・エミッションを目指して – 「商船三井グループ 環境ビジョン2.1」を策定』(株式会社商船三井)より
「カーボンニュートラル」について解説
「カーボンニュートラル」とは、全体のCO₂排出量から、森林などにおける吸収量を差し引いたものをゼロにすることを指します。
厳密に言うと、カーボンニュートラルは、CO2排出量とCO2吸収量が中立している状態(ニュートラルな状態)を表します。
ネットゼロがCO2排出量が正味ゼロ(実質ゼロ)という意味なので、若干のニュアンスの違いがあります。しかし、結果的に意味することはほとんど同じです。
ネットゼロを達成するには脱炭素化・エネルギー転換が必要
ネットゼロを実現するためには、温室効果ガスの大幅な削減が必須です。
日本の温室効果ガス排出量の割合のほとんどを占めるのは、「エネルギー起源CO2」です。エネルギー起源CO2は、化石燃料の燃焼などによって排出されるものです。2018年のデータによると、全体の約85%を占めることがわかります。
出典:『日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」3.環境』(資源エネルギー庁)より
では、エネルギー起源CO2を削減するには、具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか。
経済産業省・資源エネルギー庁によると、以下の方法が提言されています。
- 省エネルギー・エネルギー効率の向上
- CO2排出原単位の低減
- 非電力部門の電化
- ネガティブエミッション
参照:『「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?』(経済産業省・資源エネルギー庁)より
①省エネルギー・エネルギー効率の向上
省エネへの取り組みは、私たちの生活で身近なところからできることのひとつです。節電などで、エネルギーをできるだけ節約するのはもちろん、エネルギー効率の高い電化製品に買い換えることも有効です。
②CO2排出原単位の低減
CO2排出原単位の低減とは、一定量のエネルギーをつくるときのCO2排出量を減らすことです。そもそものCO2排出原単位を少なくすることで、CO2の総排出量の削減につなげることができると考えられています。
例えば、電力をつくる際のさらなる省エネのほか、カーボンリサイクルを併用した火力発電や、原子力発電などを行うことで、電源の脱炭素化を進めることが急務となっています。
③非電力部門の電化
非電力分野では、燃料の低炭素化や、水素やバイオマス、合成燃料などへの転換が有効とされています。
また、非電力分野では、脱炭素化が技術的に難しく、電力部門と比べると、CO2排出原単位を下げることが難しいとされています。したがって、排出原単位の小さい電力を使用することで、CO2排出量を減らす狙いがあります。
④ネガティブエミッション
ネガティブエミッションとは、大気中の二酸化炭素を回収して、CO2を減少させる技術のことです。これは、技術的な問題やコストの面で、どうしても脱炭素化が難しい部門や、非エネルギー起源の温室効果ガスの排出に対して、有効な取り組みとされています。
例えば、植林を進めて、大気中のCO2の吸収量を増加させることも重要です。
そのほか、ネガティブエミッション技術として、「BECCS」といわれる、バイオマス燃料の使用時に排出されたCO2を回収して地中に貯留する技術や、「DACCS」といわれる、大気中に存在するCO2を直接回収して貯留する技術などが注目されています。
ネットゼロを実現するためには、上記の様々な取り組みや、あらゆるテクノロジーをバランスよくミックスして、総合的な解決策を見つけ出していくことが必要です。
カーボンネガティブの実現を目指す企業の例
「カーボンネガティブ」とは、排出される二酸化炭素よりも、森林などが吸収する二酸化炭素の量の方が多い状態のことを指します。
これは、脱炭素社会を世界的にリードしているマイクロソフト社が2020年1月に「2030年までにカーボンネガティブを目指す」と宣言したことがきっかけで、世界的に広く知られるようになりました。
「カーボンネガティブ」は、排出量から吸収量を差し引いた合計がゼロとなる「ネットゼロ」よりも、さらにハードルが高い目標です。しかし、日本国内のほか、世界中で同様の目標を掲げている企業が増えてきている傾向があります。
例えば、メルセデスベンツでは、2019年に「2039年から販売する乗用車を二酸化炭素の排出を実質ゼロにするカーボン・ニュートラルなものに切り替える」と発表しました。そのほか、Appleやユニリーバのほか、日系企業では花王などで、カーボンネガティブの目標をそれぞれ掲げています。
また、ユニリーバをはじめ、いくつかの企業では、「カーボンポジティブ」という言葉で、上記の目標(カーボンネガティブ)を表現しています。
そのほか、日本独自の用語として、「ビヨンド・ゼロ」という言葉も、カーボンネガティブと同じような意味で使われています。ビヨンド・ゼロには、ネットゼロの目標にとどまることなく、その先を見据えて行動していこう、という意味が込められています。
(参考)「Apple、2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束」|Apple
(参考)「新たな「脱炭素」目標を策定 2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブをめざす」|花王
(参考)「自然エネルギーへの取り組み」|ユニリーバ
まとめ
本記事では、「ネットゼロ」と「カーボンニュートラル」のそれぞれの言葉の意味や違いについて、具体的に掲げられている目標や取り組み事例などとあわせて解説しました。
ネットゼロの実現は、私たち一人ひとりが地球温暖化問題に直面して、現状を正しく把握することから始まります。個人でできることは、日々の節電を意識する、エネルギー効率を重視して商品を選ぶなどが挙げられます。
一人ひとりが、「地球のために、今、このときからできることは何か」を考えながら、少しずつ、日々の行動を変えていきましょう。
それでは、最後に本記事のポイントをおさらいしておきましょう。
「ネットゼロ」と「カーボンニュートラル」のポイント
- 「ネットゼロ」と「カーボンニュートラル」の言葉には明確な違いはなく、基本的には同じ意味として使われている。
- 「ネットゼロ」とは、温室効果ガスの排出が正味ゼロという意味。
- 「カーボンニュートラル」とは、CO2排出量とCO2吸収量が中立している状態(ニュートラルな状態)のことを表す。
- ネットゼロを達成するためには、脱炭素化やエネルギー転換が必須で、電力分野・非電力分野のそれぞれの特性にあわせたテクノロジーミックスが必要
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