気候変動・脱炭素

洋上風力発電とは?メリット・デメリットと課題、日本・海外の取り組みを解説

洋上風力発電とは?メリット・デメリットと課題、日本・海外の取り組みを解説

洋上風力発電とは、海や湖の上に風車を設置して電気を作る、風力発電の一種です。

再生可能エネルギーの中でも、安定して効率よく発電できることから、注目が集まっています。特に、海に囲まれている日本には設置場所が多く存在することから、国内での取り組みも進められています。

本記事では、洋上風力発電の仕組みや種類、メリット・デメリットを解説します。また洋上風力発電の課題や原因も詳しく紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

洋上風力発電とは

洋上風力発電とは


洋上風力発電とは、海の上に風車(タービン)を設置し、風力を利用して電気を作る発電方法です。

発電時にCO2を排出する化石燃料を使った発電とは違い、洋上風力発電は自然の力を利用しているためCO2を排出しません。日本では「2050年カーボンニュートラル」の目標を掲げており、達成するためには洋上風力発電などの再生可能エネルギーの普及拡大が重要です。

現在、日本国内では「陸上風力発電」が多く設置されていますが、2019年に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が施行されてから、洋上風力発電のプロジェクトも進められるようになりました。

1990年代からある洋上風力発電

再生可能エネルギーの中でも比較的新しいイメージのある洋上風力発電ですが、実は30年以上前からプロジェクトは始まっています。

世界初の洋上風力発電は、1991年にデンマークのVindeby(ヴィネビュー)に建てられました。デンマークの電力会社DONG Energy(現Orsted)が運営し、洋上風力発電が新たな再生可能エネルギーとしての可能性を実証し、世界各国に洋上風力発電開発を広めるきっかけとなりました。

この発電所は2017年に廃止されたものの、その功績は大きく評価されています。

参考:The world’s first offshore wind farm is retiring|Orsted

「陸上風力発電」との違い

風力発電には「洋上風力発電」「陸上風力発電」の2種類があります。

陸上風力発電は、陸地の沿岸部や山間部に設置する発電方法です。陸上風力発電には、洋上風力発電よりも建設や維持にかかるコストが低いというメリットがあります。

一方、洋上風力発電は船を使用することで大型設備の輸送が可能なため、発電量をより増やせます。

洋上風力発電 陸上風力発電
海上 設置場所 沿岸部や山間部
建設・維持コスト
多い(8メガワットが多い) 発電量 少ない(2メガワットが多い)

日本国内の風力発電の導入量は、2023年12月末時点で洋上風力発電が0.15ギガワット、陸上風力発電が5.5ギガワットであり、陸上風力発電のほうが広く普及しています。

参考:再生可能エネルギーの導入状況|資源エネルギー庁

洋上風力発電の種類とは

洋上風力発電は、風車を支える基礎の違いによって2種類に分けられます。

  • 着床式洋上風力発電
  • 浮体式洋上風力発電

海底に埋める「着床式洋上風力発電」

「着床式洋上風力発電」とは、風車の土台を海底に打ち込んだり、設置したりして固定するタイプの洋上風力発電です。
水深50mまでの海域に設置できるため、大型の風車にも対応しやすいという特徴があります。

欧米では、遠浅の海が多いことから、着床式洋上風力発電が主流です。日本でも技術的な理由により、着床式が多く設置されています。

また、送電設備や建設時のコストが、ほかの方式と比べて着床式洋上風力発電のほうが低いというメリットもあります。

海上に浮かぶ「浮体式洋上風力発電」

「浮体式洋上風力発電」は、風車を海面に浮かべて行う発電方法です。風車が流されないようシンカー(錘)を使ってしっかりと固定します。

発電機の大きさなどに制限があるものの、設置できる水深には制限がありません。そのため、深い海でも設置でき、場所をあまり選ばずに洋上風力発電を広い範囲で行えるのが大きな特徴です。特に
日本近海には水深が深い水域が多いため、近年、国内で浮体式洋上風力発電が注目されています。

ただし浮体式洋上風力発電は、まだ技術が確立されていないのが現状です。コスト面や安定性などの課題が残るものの、さまざまな企業や国が研究開発を進めており、今後の発展が期待されています。

【国内外】洋上風力発電の動向とは

世界中で、洋上風力発電に関するさまざまなプロジェクトが進められています。ここでは、日本や海外の洋上風力発電の動向について見ていきます。

【日本】洋上風力発電の現状

日本政府が公表している「2040年度エネルギーミックス」では、風力発電の割合は全体の4〜8%です。また、2023年度時点で風力発電による発電量は全体の1.1%にとどまっています。

2020年に発表された「洋上風力産業ビジョン」では、2030年までに風力発電の導入量を10ギガワット、2040年までに30〜45ギガワットに増やすという政府目標が示されました。2024年12月末時点では、5.1ギガワット分の案件が進行中です。

さらに、2026年1月には長崎県五島市沖で、国内初となる大規模な浮体式洋上風力発電の稼働が始まります。

一方で、2025年8月には、三菱商事が大型洋上風力発電からの撤退を発表し、大きな話題となりました。この撤退は、三菱商事が2021年に落札した3つの海域(秋田・千葉)での洋上風力発電事業を中止するもので、資材価格や建設費の高騰が主な理由とされています。

参考:2025年、日本の洋上風力発電~今どうなってる?これからどうなる?~|経済産業省
参考:長崎・五島の「浮体式」洋上風力、国内初の稼働へ 観光需要も期待|日本経済新聞
参考:三菱商事連合の洋上風力事業撤退は制度改革の必要性を示している|自然エネルギー財団

【海外】洋上風力発電の現状

海外でも、洋上風力発電の開発・建設は積極的に行われています。

自然エネルギー財団が取りまとめた「洋上風力発電の動向2025」によると、世界全体の洋上風力発電の累計導入量は2024年時点で83.2ギガワットでした。2008年には1.2ギガワットだったため、平均して毎年9ギガワットずつ増えてきたことになります。

欧州では、各国が高い導入目標を設定しています。日本が「2030年までに10ギガワット」としているのに対し、イギリスは43〜50ギガワット、ドイツは30ギガワット、オランダは22.2ギガワットという目標です。

また、2024年の新規設備導入量の約半分を中国が占める結果となりました。今後は、欧州と中国を筆頭に、洋上風力発電の導入が加速すると考えられます。

参考:洋上風力発電の動向2025|自然エネルギー財団

関連記事:日本における風力発電|加速するクリーンエネルギーのメリット・デメリット

洋上風力発電のメリット

国内外で注目されている洋上風力発電には、主に2つのメリットがあります。

  • 安定的かつ効率的な発電ができる
  • 騒音や景観などへの影響が小さい

安定的かつ効率的な発電ができる

1つ目のメリットは「安定的かつ効率的な発電ができる」点です。

風力発電で使う風車の羽根は、風の強さや風向きによって最適な形や大きさ、向きに調整されています。発電効率を高めるためには、同じ方向から一定の強さの風が吹くことが重要です。陸上では地形によって風の強さや方向が変化しますが、海上では同じ方向から一定の強さの風が吹いています。

そのため、洋上風力発電は陸上風力発電よりも安定した発電が可能です。

騒音や景観などへの影響が小さい

「騒音や景観などへの影響が小さい」こともメリットの一つです。

風力発電は、風車の回転時に発生する騒音が問題となることがあります。そのため、住宅地から一定の距離を確保する必要があります。また、風車は大きく目立つため、周囲の景観への影響を考慮しなければなりません。

一方、洋上風力発電は生活圏外である洋上へ設置されるため、騒音や景観への影響を抑えられます。

また、海上輸送により大型設備の導入が可能になる点も、洋上風力発電ならではのメリットです。

洋上風力発電のデメリット

洋上風力発電のデメリット

メリットの多い洋上風力発電ですが、デメリットもあります。

  • 生態系に影響を与える可能性がある
  • 漁業や航路との調整が必要

生態系に影響を与える可能性がある

洋上風力発電は人間の生活への影響は少ないものの、海洋生物の生態系に影響を与える可能性があります。

また、海底に敷設される送電ケーブルにより、周囲の電磁場が変化するという報告もあります。

建設前の調査や建設時の掘削作業、騒音、稼働時の振動などが、生態系にどのような影響を与えるのかを考慮することが重要です。

参考:洋上風力発電が海洋生態系におよぼす影響|風間 健太郎

 

漁業や航路との調整が必要

また「漁業や航路との調整が必要」である点も、デメリットの一つです。

漁船や貨物船の主要航路を避ける必要があります。そのため、事前調査やシミュレーションを行った上で、安全な場所に建設することが重要です。また、海底にはケーブルやパイプラインが敷設されている場合もあります。

洋上風力発電では、漁業者などの利害関係者からの理解や関係性構築も欠かせません。

日本で洋上風力発電を普及させるための課題

日本で洋上風力発電を普及させるための課題

日本政府は、洋上風力発電の促進に取り組んでいます。しかし、今後さらに国内で普及させるためには、解決しなければならない課題がいくつかあります。

  • サプライチェーンが未整備
  • 台風などの自然災害が多い
  • コストの高さ

サプライチェーンが未整備

「サプライチェーンの構築」は、洋上風力発電の安定供給や産業競争力強化のために必要不可欠です。しかし日本では現在、洋上風力発電のサプライチェーンが十分に整っていません。

洋上風力発電は、主に欧州を中心に導入が進んだため、風力発電のメインパーツである風車の製造産業は欧州に集中しています。製造に取り組む国内企業も増えていますが、部品の多くを海外からの輸入に頼っているのが現状です。

政府は、洋上風力発電の事業開発に携わる人材の育成に注力しており、カリキュラム作成やトレーニング設備への支援を実施しています。

参考:洋上風力の政策的位置付けと今後の検討の視座|経済産業省

 

台風などの自然災害が多い

また「台風などの自然災害への対策」も課題です。

一定の強さの風により安定的な発電が可能となる洋上風力発電ですが、台風などの強すぎる風を受けると、設備が故障する可能性があります。また、台風や地震によって津波が発生したり、地震によって地盤が変化したりするリスクもあります。

欧州と比較して日本は自然災害が多く、強靭な設備設計や災害時のガイドライン策定などが課題です

コストの高さ

「コストの高さ」は、洋上風力発電における最大の課題といえるでしょう。

日本では、サプライチェーンの未整備や人材不足、輸送コストの高騰などから、洋上風力発電の建設コストが高くなる傾向です。その結果、発電コスト自体も割高になります。加えて、近年は為替の影響もあり、さらに建設コストが高騰しています。

このような状況を踏まえ、政府は「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた企業支援として「グリーンイノベーション基金」を設けました。その一プロジェクトとして「洋上風力発電の低コスト化」に取り組んでいます。

参考:洋上風力発電の低コスト化|グリーンイノベーション基金事業

 

洋上風力発電に取り組む国内企業

洋上風力発電に取り組む国内企業

最後に、洋上風力発電に取り組む国内企業を3社紹介します。

  • 秋田洋上風力発電
  • Skyborn Renewables Japan
  • アルバトロス・テクノロジー

秋田洋上風力発電

秋田洋上風力発電は、日本初の商業ベースによる大型洋上風力発電に取り組む企業です。秋田県内企業7社を含む13社の株主で構成されており、2016年に設立しました。

商業運転は2022年12月より開始し、着床式洋上風力発電の4.2メガワット風車を秋田港に13基、能代港に20基設置し、合計約140メガワットの電力を発電しています。発電した電力は今後20年間、東北電力ネットワークに売電されます。

同発電所では、2022年12月から2025年10月までの風力発電によるCO2削減量は42.7万トンです。これは秋田県の森林が1年間に吸収するCO2量の8.3%に相当します。

参考:秋田洋上風力発電

 

Skyborn Renewables Japan

Skyborn Renewables Japan(スカイボーン・リニューアブル・ジャパン)は、2018年に設立されたドイツ大手の洋上風力発電企業「Skyborn Renewables」の日本法人です。

東京を拠点とし、日本での洋上風力発電における開発、建設、運営を行うことを目的としています。

また、Skyborn Renewablesは、日本以外に韓国と台湾にも拠点を置いています。特に台湾では、2025年1月より商業運転を開始した「雲林洋上風力発電所」において、他数社と共同で運営しています。

参考:Skyborn Renewables Japan|Skyborn Renewables
参考:台湾の雲林洋上風力発電所が商業運転開始|双日

アルバトロス・テクノロジー

アルバトロス・テクノロジーは、2022年設立の洋上風力発電におけるスタートアップ企業です。浮体式洋上風車をはじめとして、潮流・海流タービン、波力タービンの実用化にも取り組んでいます。

同社の開発した浮遊軸型風車「FAWT」は、軽量かつ低重心の垂直軸型風車です。風の向きに左右されず、どの方向の風でもエネルギーにできる特殊な設計になっており、発電効率を大きく高めています。

参考:アルバトロス・テクノロジー

まとめ

風力発電は、風の力を利用して電気を作る再生可能エネルギーです。特に洋上風力発電は、風力と風量が一定である海上に建設されるため、安定かつ効率的な発電方法として注目されています。日本政府も洋上風力発電の導入目標量を発表するなど、導入促進に積極的な姿勢を見せています。

一方で、国内では洋上風力発電のサプライチェーンが未整備であったり、建設・維持コストの高騰していたりするなどの課題があるのも現状です。しかし、日本は四方を海で囲まれているため、洋上風力発電のポテンシャルは高く、研究開発への支援も行われています。

洋上風力発電は、日本のカーボンニュートラル実現を後押しする新しいエネルギー源かもしれません。洋上風力発電の今後に注目してみてはいかがでしょうか。

GREEN NOTE
GREEN NOTE編集部

『GREEN NOTE(グリーンノート)』は環境・社会課題をわかりやすく伝え、もっと身近に、そしてアクションに繋げていくメディアです。SDGs・サステナブル・ESG・エシカルなどについての情報や私たちにできるアクションを発信していきます!

みんなで紡ぐサステナブル

一人ひとりの小さなアクションの積み重ねで
サステナブルを実現していく。
まずはたくさんの人に知ってもらうことから一緒に始めてみませんか?

SNSでシェアする
クリップボードにコピーしました

知ってほしい「GREEN NOTE」の
大切にしていること

サステナビリティとSDGsが
すぐわかるニュースメディア
  • 分かりやすく
    伝える
  • もっと
    身近に
  • アクション
    に繋げる
GREEN NOTE
(グリーンノート)アプリ

GREEN NOTEスマホアプリでエシカル・サステナブルをアクションに変えていきませんか?

  • ◎サステナビリティ/ SDGsに関する国内・海外の最新動向および話題のニュース情報を厳選して毎日お届け!
  • ◎あなたの声を企業に届けよう!大手企業との共創プロジェクトに参加できる!
  • ◎プロジェクトへの参加でポイントをGET!貯まったポイントをサステナブルな特典に交換しよう!
スマホ版のGREEN NOTEアプリの画像
GREEN NOTE APP
Contact
  • 記事掲載についての
    お問い合わせ

    GREEN NOTEへの記事掲載をご検討の方は
    こちらよりご連絡ください。

  • 消費者リサーチ
    についてのお問い合わせ

    「エシカル・サステナブル関心層への消費者リサーチ」について
    のお問い合わせはこちらよりご連絡ください。