パリ協定の概要とは|温室効果ガス削減目標とその背景
ニュースなどで「パリ協定」という言葉を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。
何かを取り決めたものであることはわかっているものの、具体的にその概要までを把握する機会は少ないかもしれません。
今回は、「パリ協定」の概要やその背景、そして私たちはどのように関わっているのかを解説していきます。
パリ協定の基本知識
はじめに、「パリ協定」がどのような背景から採択されるに至ったのか、そして何が決められているのかといった基本知識から確認していきましょう。
なぜ必要だったの?
1985年にオーストラリアのフィラハで開催された地球温暖化に関する初めての世界会議(フィラハ会議)が契機となり、それ以降二酸化炭素による地球温暖化が問題視されるようになりました。
その後1992年には、世界的に地球温暖化対策に取り組むことを合意した「気候変動に関する国際連合枠組条約」が採択され、それ以降、地球温暖化の原因のひとつと考えられる温室効果ガスの排出量を削減すべきだという議論が展開されてきました。
地球温暖化が進むと、地球規模の水不足や農作物の減少、干ばつや海面の上昇などあらゆる深刻な影響が予測されることから、具体的な対策が求められています。
そこで国際社会全体で温暖化対策を進めていくための礎として、世界各国の同意を得た目標を定める取り決めとして2015年に採択されたのがパリ協定なのです。
どんなことが決められているの?
ここで、パリ協定で具体的に何が取り決められているのかをまとめてご説明します。
まずパリ協定の基本目的は、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ことです。
この目的を実現するために世界共通の長期目標として、「できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる」ことを掲げています。
この目標のもと、主要排出国が排出削減達成に向け、各国が自主的に具体的な削減・抑制目標を5年ごとに策定し世界と共有する仕組みが採用されており、これは「京都議定書」などこれまでの協定とは異なり、実効性を担保する工夫が盛り込まれています。
ここで、パリ協定との比較として頻出する「京都議定書」についてもその概要を把握しておきましょう。
京都議定書は、1997年に開催された3回目となる「国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP3)」で採択され、2020年までの温暖化対策の目標を掲げ、先進国に限り設定した目標に対して法的拘束力がありました。
途上国に削減義務が課せられていないことから、不公平感が問題視されることもあり、採択時に最大内の排出国であったアメリカが脱退するなど、温暖化防止を世界的に推進する上で新たな動きが求められていました。
守らないとどうなるの?
加入している国は先進国であれ途上国であれ、自国で削減目標を設定し、5年ごとに更新して提出し、世界共通の評価基準によって第三者が評価を行います。
パリ協定には法的拘束力はあるものの、京都議定書とは異なり、提出した目標に対して成果が出ていなかったとしても罰則が与えられることはありません。
あくまで世界全体で連携し、各国が取り組みを強化できるような情報交換を続けることで、確実に世界全体での長期目標を達成することを重視する仕組みが採用されています。
世界そして日本が目指す目標
パリ協定に加入すると、各国は温室効果ガス削減目標を設定し提出することが求められます。
ここでは、改めて世界共通の目標を再確認するとともに、世界各国そして日本が掲げる目標について知識を深めていきましょう。
世界共通の目標
パリ協定は、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ために、「できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる」ことを世界共通の全体目標と掲げています。
地球温暖化問題の対策のため、途上国に資金援助や技術移転を実施するなど、世界全体として問題解決に取り組むという考え方がパリ協定の基盤にあります。
世界各国が掲げる目標
2015年11月に採択され、2016年に国連本部で過去最多の175ヵ国・地域が署名し発効したパリ協定に基づき、2020年以降全ての加入国が温室効果ガス削減に向けた取り組みをスタートさせています。
2021年10月にイギリス・グラスゴーで開催された「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」にて、2022年末までに更新した各国削減目標(INDC)を提出することが明示されました。
ここでは、2021年11月に更新された最新目標をご紹介します。(参照)
国名 | 目標数値 |
EU | 2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比55%減 |
イギリス | 2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比68%減 |
アメリカ | 2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比50〜52%減 |
ロシア | 2050年までに森林などによる吸収量を差し引いた温室効果ガス実質排出量を2019年比約60%減 |
中国 | 2030年までにGDPあたりのCO2排出を2005年比60〜65%減 |
日本 | 2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比18%減 |
各国が自国の状況を踏まえて、具体的な数値目標を出していることが、一覧としてみると理解できます。
日本が掲げる目標
日本でも他の加入国と同じく、削減目標を提出しています。
まずパリ協定の枠組みを受けて、「2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比18%減」という目標を設定しました。
他国と比較すると目標が低いように見えますが、基準年度や指標も各国が自主的に定めていることを考えると、削減率の数字だけで判断することはできません。
また最新の目標として、「2030年度において温室効果ガス排出量を2013年比46%減、さらに50%の高みに向け、挑戦を続けていく」と掲げ、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロとする「ネットゼロ」実現に向けて取り組むことを世界に向けて宣言しています。
目標を達成するために私たちにできること
世界共通の喫緊の課題のひとつである地球温暖化は、日本でもあらゆる場面で意識されるようになってきています。
「日本が世界に向けて掲げる目標を達成するには、国民である私たち一人一人の行動が不可欠です。
ここでは、パリ協定を受けて日本が掲げる目標を達成し、そして地球温暖化を食い止めるために、私たちにできることを考えてみましょう。
日本の今を知ろう
地球温暖化対策として何ができるかを考えるときに、不可欠といえるのが「現状を知る」という行動です。
そこでまず地球温暖化という観点で、日本の今を知ることから始めましょう。
日本が世界人口に占める割合は1.6%しかないものの、温室効果ガスの排出量では世界で5番目です。
温室効果ガス排出を増加させる原因として、家庭用機器の大型化や多様化等によるエネルギー消費量が増加し、火力発電電力所の設備容量が大幅に増加したことが挙げられます。
パリ協定で削減目標を掲げている一方で、日本における温室効果ガスの総排出量は全体としては増加傾向にあり、目標達成のために、燃料の転換や再生可能エネルギーの普及といった日本における都市・地域構造の抜本的な変革が求められています。
毎日の生活にちょっとした変化を取り入れよう
地球温暖化とエネルギー消費は密接に関連しているということは、省エネルギーの積み重ねにより、温室効果ガスの排出量を削減することにつながるということです。
「省エネルギー」な取り組みは、私たちの毎日の生活にも簡単に取り入れることができます。
次のような「ちょっとした変化」が、省エネルギーになります。
- エアコンの設定温度を、夏は28℃、冬は20℃にする
- 部屋の電気やテレビのつけっぱなしをやめる
- 水道水の出しっぱなしをやめる
- 自動車の使用を控える
- マイバッグを活用する
- 植物を育てる
電気や水道は使用し続けるとその分エネルギーを必要とし、自動車を動かす時と同じように、温室効果ガスを排出し続けることになります。
必要なエネルギーを大切に使う、という意識をもつだけでも、確実に省エネルギーそして温室効果ガス排出量削減の一助になっていくのです。
家族や友達、周囲の人に共有しよう
日々の生活にちょっとした変化を取り入れ、それを継続させていく上で大切なこととして挙げられるのが、周囲との共有です。
省エネルギーのための行動は、その理由を理解すると当然のことだと捉えられるものの、理由なしに突然「水道の出しっぱなしはダメだよ」と家族や友達に言うと、押し付けがましいものに聞こえかねません。
そこで、「なぜ水道の出しっぱなしをやめることが地球温暖化対策になるのか」を身近な人や周囲の人に伝えてみましょう。
何気ない行動がどんな結果につながるのかを知ることは、興味深いことでもあり、波及力をもつことです。
「知る」を広げる行動も、今日から始められることのひとつになります。
まとめ
パリ協定は、私たちが生活する地球を守るため、世界が一緒になって取り組むべき課題を明確にし、具体的な行動を促しています。
理想的な未来を描くだけではなく、実際に掲げた目標を達成するために何が必要なのかを深堀りする仕組みをもつという意味でも、パリ協定で決められたことに、世界全体が今関心をもつべきだともいえます。
日本そして世界が目指す未来の地球の姿を知り、今日の行動を見直すところから始めてみてはいかがでしょうか。
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