気候変動・脱炭素

プラネタリーバウンダリーとは?9つの項目をもとに環境への影響や現状について解説

プラネタリーバウンダリーとは、現在地球環境がどれほどの危機的状況にあるのかを9つに分類し、限界点をわかりやすく表記した概念です。

9つの分類は、人々が持続的に生存していくために超えてはならない基準を示しています。

現在、地球環境はどれほどの深刻な状況に陥っているのでしょうか。

今回は、プラネタリーバウンダリーの概要や示している危機、プラネタリーバウンダリーを意識した取り組みについて解説します。

プラネタリーバウンダリーとは

 

プラネタリーバウンダリーとは、人々が地球で安全に活動できる範囲を科学的要素で定義し、9つの項目において限界点を示したものです。

スウェーデンにあるストックホルム・レジリエンス・センターの所長だったヨハン・ロックストローム博士らが、2009年に発表した論文の中で「プラネタリーバウンダリー」と呼んだのが始まりです。

プラネタリーバウンダリーの概要

地球の限界を知ることは、持続可能な社会を実現するうえで極めて重要です。

プラネタリーバウンダリーは分類された9つの項目ごとに値が決められており、その値を超えてはいけない、または下回ってはいけないと定義されています。

もしも限界値を超えた場合、地球温暖化や異常気象といった環境問題が生じるとされています。

分類されたプラネタリーバウンダリーの項目は以下の9つです。

  • 気候変動:大気中の二酸化炭素濃度
  • 新規物質の導入:プラスチックなどの化合物による汚染
  • 成層圏のオゾンの破壊:成層圏のオゾン濃度
  • 大気エアロゾルの負荷:大気汚染物質の量
  • 海洋の酸性化:海の炭酸イオン濃度
  • 生物地球化学的な流れ:化学肥料として人工的に作られた窒素とリンにおける海洋や土壌への放出量
  • 淡水利用:人々が利用する淡水や、植物が取り込む水分の量
  • 土地システムの変化:森林面積の大きさ
  • 生物圏の完全性の変化 :生態系機能が維持されている度合いや生物種が絶滅する速度

プラネタリーバウンダリーは、2015年に国連によって提唱された持続可能な開発目標であるSDGsとも深い関係があります。

SDGsにおける水や食料、資源や環境に関連する目標もプラネタリーバウンダリーの考え方と共通しています。

参考:国立環境研究所「地球の限界 “プラネタリーバウンダリー” & 循環型社会 ~世界と日本の取り組みからみんなでできることを考える~」

プラネタリーバウンダリーが注目されている理由

プラネタリーバウンダリーが注目されている理由は、地球環境が安定した状態を保てる限界点をさまざまな要因をもとに科学的に分析し、一つの図に集約してわかりやすく示しているからです。

地球環境の悪化と表現しても、原因や状況はさまざまあり、人によって捉え方が異なります。

例えば人間の場合、身体の状態を知るための方法に健康診断がありますが、いろいろな検査項目ごとに「数値がこれ以上になったら危ない」という境界線が身体の状態を教えてくれます。

プラネタリーバウンダリーは、その地球版と捉えるとわかりやすいでしょう。

参考:株式会社 日立製作所「地球環境の限界を示す「プラネタリーバウンダリー」が注目されている理由」

プラネタリーバウンダリーにおけるの9つの項目

プラネタリーバウンダリーに設定されている9つの項目について解説します。

なお、「海洋の酸性化」「成層圏のオゾンの破壊」「大気エアロゾルの負荷」以外の6項目では現在、すでに限界を超えている状態です。

(1)地球全体に影響を与えるもの

地球全体に影響を与える要因には以下の3つがあります。

  • 気候変動
  • 成層圏のオゾン層の破壊
  • 海洋の酸性化

これら3つは、回復不可能な状態になると地球全体に壊滅的な影響を与えるため「ビッグ・スリー」と呼ばれている項目です。

気候変動

気候変動は、地球温暖化を防ぐために、大気中のCO2濃度の限界値を定めた項目です。

1800年代以降は主に人間活動が気候変動を引き起こしており、主な原因は化石燃料(石炭、石油、ガスなど)の燃焼です。

現在の地球は1800年代後半と比べて1.1℃上昇し、2011~2020年では観測史上最も気温が高い10年間となりました。

気候変動の要因には、自然の要因と人為的な要因があります。

自然の要因は以下の4つがあります。

  • 大気そのもの
  • 海洋の変動
  • 火山の噴火によるエアロゾル(大気中の微粒子)の増加
  • 太陽活動の変化

一方、人為的な要因には以下があります。

  • 人間活動に伴う二酸化炭素などの温室効果ガスの増加
  • エアロゾルの増加
  • 森林破壊

CO2濃度の限界値は大気中のCO2濃度が350ppm(※)でしたが、現状は420ppm近くと、限界値を超えている状況です。

※1ppm=0.0001%

参考:国際連合情報センター「気候変動とは?」
参考:国土交通省気象庁「気候変動」

成層圏のオゾン層の破壊

成層圏オゾン層の破壊における項目は、成層圏オゾンを回復させるために、オゾン量の限界値を定めたものを指します。

オゾン層とは、地上から約10〜50キロメートル上空の成層圏にある、オゾンが多く存在する層です。

太陽光に含まれている有害な紫外線のほとんどを吸収することで地球上の生物を守っています。

しかし、冷蔵庫やエアコンなどに用いられる冷媒からフロンなどの化学物質が発生し、オゾン層を破壊します。

オゾン層の破壊が生物に悪影響を与えるのです。

近年の南極上空では、毎年9月から11月頃にかけて成層圏のオゾン量が著しく減少する「オゾンホール」と呼ばれる現象が表れています。

この現象は、オゾン層が破壊されている一つの事例です。

参考:独立行政法人 環境再生保全機構「オゾン層の破壊」

海洋の酸性化

CO2が海水に溶け込んで酸性化を防ぐために設けられた海洋の酸性化における項目は、海水の炭酸化の限界値を定めたものを指します。

海は大気中から大量のCO2を吸収していますが、その量は、世界全体で排出される量の約4分の1に相当するといわれています。

海洋酸性化」は、大気中のCO2が大量に海水に溶け込むことで炭酸を生成し、もともとアルカリ性である海の水質が酸性に近づく現象です。

その影響により、貝類や甲殻類など炭酸カルシウムを利用する生物に深刻な影響を与える恐れがあります。

さらに、生き物たちの成長や繁殖を妨げ、寿命にも影響を及ぼすと危惧されています。

限界値は、炭酸カルシウムの利用しやすさを示す「アラゴナイト飽和度(Ωara)」という数値が基準です。

現在アラゴナイト飽和度は限界値に達していないものの、徐々に近づきつつある状況です。

参考:日本財団ジャーナル「海の生き物たちの命をおびやかす「海洋酸性化」。日本と世界の実態、いまできること」

(2)局所的に影響を与えるもの

局所的に影響を与えるものとして、以下の4つがあります。

  • 生物圏の完全性の変化
  • 生物地球化学的な流れ
  • 淡水利用
  • 土地システムの変化

これら4つは農業などの人間活動により、徐々に進行しており、地球環境に強い影響を与える項目です。

生物圏の完全性の変化

生物圏の完全性における項目は、生物圏の多様性や働きを健全に保つために、絶滅速度と生産物の利用率を定めたものを指します。

生物圏の完全性は、人間活動による破壊や劣化によって徐々に失われているのが現状です。

生物圏の完全性における限界値は、生物多様性の喪失を示す種の絶滅速度と人間による生産物の利用率で設定されていますが、現状はどちらも大きく上回っています。

生物多様性の指針として、IUCN(国際自然保護連合)が作成した絶滅が危惧される野生生物のリストが「レッドリストと呼ばれるものです。

レッドリストに記載されている野生生物は絶滅のリスクが高いとされています。

関連記事「レッドリストとは?絶滅の危機にある生物たちを守る指標」

参考:環境省「生物多様性と生態系サービス」
参考:環境省「レッドリスト・レッドデータブック」

生物地球化学的な流れ

生物地球化学的な流れにおける項目は、大気や水質・土壌の清浄さを守るために、窒素やリンの限界値を定めたものを指します。

生物地球化学的な流れとは、炭素や水などの物質が地球の生物圏・大気圏・水圏・岩石圏などを経由して移動することです。

人間活動で使用する窒素やリンが生物地球化学的な流れをとおして流れ出ると、大気や水質、土壌に深刻な汚染をもたらします。

特に、農地における肥料の過剰な使用が問題視されており、食料生産のために限界値を大きく上回る量の肥料が使われている状況です。

参考:環境展望台「地球の生物地球化学循環に変調」

淡水利用

淡水利用における項目は、枯渇の危機に瀕している地下水や湖沼などを守るために、淡水資源の変化幅に限界値を定めたものを指します。

現在、農地や耕地への給水や生活用水、工業用水に大量の淡水が利用されているため、水資源の枯渇が深刻化しています。

地球上にある淡水は、わずか2.5%程度に過ぎません。

また、淡水の大部分は南極や北極地域などの氷や氷河として存在しており、地下水や河川・湖沼などに存在する淡水の量は地球全体の水の約0.8%と非常に少ない状況です。

参考:国土交通省「水資源」

土地システムの変化

土地システムの変化における項目は、自然の生態系と回復力を保護するために、森林面積の限界値を定めたものを指します。

その値は、産業革命前の森林面積を基準とし、どれだけ残っているかで限界値を設定しています。

これまで、森林などの自然環境を切り開いて宅地や都市開発を展開してきたため、現在は広大な自然の生態系が失われてしまい回復できない状態です。

(3)人間の健康と地球全体に影響を与えるもの

人間の健康と地球全体に影響を与えるものとして、以下の2つがあります。

  • 新規物質の導入
  • 大気エアロゾルの負荷

これら2つは主に工業活動によって新たに生じた項目です。

一つずつ解説します。

新規物質の導入

人間が人工的に作り出した新規物質は、近年環境へ悪影響を及ぼすとして認識されてきました。

新規物質とは主にマイクロプラスチックを指しますが、新規物質は以前まで大気や陸・海での動きや生物への作用が不明なものが多く、正しく評価するのは難しいとされてきました。

しかし、マイクロプラスチックなどの新規物質も地球に悪影響を及ぼすことがわかり、リスクが高い項目と捉えられています。

大気エアロゾルの負荷

大気エアロゾルの負荷は、人間の健康被害を防ぐために、大気へのエアロゾル放出量の限界値を定めた項目です。

エアロゾル粒子は生成過程の違いから粉じんやミストなどとも呼ばれ、気象学的には、霧やスモッグ・もやなどと呼ばれる場合もあります。

エアロゾルは、医学・薬学・農学・工学・理学など幅広い分野に関連しています。

工業活動などによって大気に放出されるエアロゾルは、大気汚染物質として人間の健康だけでなく、地球の気候にも影響を及ぼしています。

参考:エアロゾルとは|日本エアロゾル学会

プラネタリーバウンダリーの現状

プラネタリーバウンダリーの現状では「窒素・リンの生物地球化学的な流れ」と「新規物質の導入」、絶滅の速度からみた「生物圏の完全性の変化」などの項目で、すでに限界値を超えています。

もし実測値が限界値を超えてしまうと、元には戻せない変化が地球に生じると予測されています。

経済活動においては、常にプラネタリーバウンダリーの限界内にとどめる努力が大切です。

参考:社会イノベーション日立「地球環境の限界を示す「プラネタリーバウンダリー」が注目されている理由」

アース・オーバーシュート・デーとは

アース・オーバーシュート・デーとは、地球を維持するために本来1年かけて使うべき資源量を、それより早く使い切ってしまった日付を指します。

アース・オーバーシュート・デーは毎年変わり、国際環境シンクタンクである「Global Footprint Network(GFN)グローバル・フットプリント・ネットワーク」から毎年発表されています。

2023年の世界のアース・オーバーシュート・デーは8月2日でしたが、日本は5月6日で、年々早まっています。

本来その年に使える資源を3倍早いスピードで使用している計算です。

日本は、最も資源を消費する国の一つといえます。

参考:Global Footprint Network「アース・オーバーシュート・デー」

プラネタリーバウンダリーを意識した取り組み

プラネタリーバウンダリーを超えないための取り組みは、私たちが将来にわたり持続的に生活していくうえで不可欠です。

最後に、さまざまな対策や取り組みについて紹介します。

気候変動の緩和

気候変動の影響の深刻化をうけ、国連は2015年のパリ協定で「世界共通の長期目標として2℃目標の設定、1.5℃に抑える努力を追求すること」に合意しました。

「2℃目標」とは「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つこと」であり、その中で「1.5℃に抑える努力を追求すること」も示しています。

温暖化につながる二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出量を削減して「世界の平均気温の上昇を1.5 ℃に抑える」という目標が明確になっていますが、適応するための世界共通の明確な目標は定められていません。

なぜなら、気候変動の影響が地域の地理的・経済的・社会的な条件などによってさまざまな形で顕在化していることから、取るべき対策も国ごとに異なるからです。

2021年、日本は「地球温暖化対策の推進に関する法律」を改訂し、国際社会と足並みをそろえて脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しました。

2050年までに温室効果ガスの排出量を正味でゼロにする必要があり、日本でも緩和と適応の両輪で気候変動の課題に社会全体での取り組みが求められています。

参考:国立研究開発法人 国立環境研究所「2℃目標、1.5℃目標の実現のために」
参考:国立研究開発法人 国立環境研究所「気候変動と適応」

生物多様性の保全

生物多様性の保全のためには、生物種の絶滅を抑える取り組みが重要です。

そのためには、生物多様性についてよく知る必要があります。

どこに、どのような生物種が、どのくらい生きているのかを知るのは、生物多様性を守るうえで欠かせません。

たとえば、生物のための保護区を設立し、人々の利用や開発などを制限するのは、有効な手段です。

特に多様な生物が多く生息する場所が明らかになれば、その場所を優先的に保護区の対象に設定でき、生物多様性を効率的に守れます。

また、開発計画を立てる際も、開発の候補地にどのような生物種がいるのかが分かれば、重要な生息地や希少な種が生息する地域を避けることが可能です。

まずは生物多様性をよく知り、極力その保全に努めることが求められています。

参考:WWFジャパン「生物多様性とは?その重要性と保全について」

まとめ

本記事では、プラネタリーバウンダリーについて紹介しました。

プラネタリーバウンダリーは、人々が地球で安全に活動できる範囲を科学的要素で定義し、地球環境が安定した状態を保てる9つの指標を示したものです。

9つの指標のうち、一部の項目では限界値をすでに超えています。

近年、世界的に発生している高温や豪雨災害も、プラネタリ―バウンダリーの限界値を越えたことが原因で起きているとも考えられています。

スケールが大きい話ですが、今後日本がどのようにプラネタリーバウンダリーに向き合っていくのかも注目しながら、一人ひとりができることを模索していきましょう。

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