地方創生

地方創生で自治体注目の地域通貨とは?商店街の活性化にも使える

地方創生・地域経済の活性化を目指して、ここ数年で「地域通貨」の導入が進んでいます。

「地域通貨」には、商品券やクーポンのような紙幣タイプのものもあれば、カードやアプリで使うデジタル通貨・ポイントなどさまざまなタイプがあります。

「地域通貨」は国が発行する法定通貨とはまったく異なり、特定の地域・コミュニティのみで利用できるのが特徴。

では、「地域通貨」の導入がどのように地方創生や地域経済に影響を与えるのでしょうか。

今回は「地域通貨」の仕組みや役割、期待できる効果をわかりやすく解説します。

地域通貨とはどんな通貨?

地域通貨という言葉は最近登場したイメージがありますが、実は、その歴史は思った以上に古いものです。

まずは、地域通貨の歴史を振り返りながら、この通貨がどのようなものなのかを見ていきましょう。

地域通貨の始まりと歴史

日本で地域通貨が始まったのは1999年頃で、千葉市の「ピーナッツ」、滋賀県草津市の「おうみ」が先駆けだと言われています。

地域振興のために、「ピーナッツ」は1ピーナッツ1円、「おうみ」は1おうみ100円で考案され、地域通貨という概念が生まれました。

同時期に、高田馬場・早稲田(東京)でも「鉄腕アトム」にちなんだ「アトム通貨」が誕生するなど、2000年代の初めに地域通貨が一時的なブームとなりました。

なお、「アトム通貨」については後ほど詳しくご紹介します。

アトム通貨

海外で最初の地域通貨は、スイスの経済協同組合が1934年に発行した「WIR」という通貨です。

チケット・クーポンタイプの通貨は、運営コストや偽造問題からいったん衰退しました。

しかし、近年になってウォレットやポイント、ブロックチェーンなどのデジタル技術が発達したこともあり、地方創生の一環として、再び脚光を浴びるようになったのです。

参照:地域通貨の将来像 – 財政金融課/国立国会図書館

誰が地域通貨を発行するのか

地域通貨を発行するのは、地方自治体(市区町村)、商店街、ローカル企業、NPO法人などさまざまです。

法定通貨ではないので、クーポンや割引券のように誰でも発行できます。

複数の団体・組織が共同で発行する場合もあります。

例えば、アトム通貨は、手塚プロダクションと早稲田大学周辺商店会連合、高田馬場西商店振興組合、さらに早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターの共同発行です。

参照:地域通貨のすすめ – 商工会地域広報振興対策推進事業
参照:「鉄腕アトム」で商店街を活性化 – 事業構想

地域通貨の仕組みと役割

次に、地域通貨の入手方法や使い方などの仕組みを見ていきます。

地域通貨の入手方法
地域通貨の入手方法は、通貨の種類によって異なります。

主な入手方法は以下のとおりです。

  • 現金(またはクレジットカード)で購入する
  • モノやサービスと交換する
  • ボランティアやリサイクル活動に参加する
  • 寄付する
  • 特定の商品を購入する
  • 特定のサービスを利用する

地域通貨を利用するイメージ

地域通貨の使用方法

地域通貨は、発行元の商店街や加盟店で通常の通貨のように利用できます。

よくある地域通貨の使用方法の例を見てみましょう。

  • 発行元の商店街(飲食店、衣服店、理美容店、雑貨店など)
  • ボランティアへの謝礼、業務への報酬
  • 公共料金の支払い
  • 会員が開催するイベント
  • 地域特産品の購入
  • 特定の商品やサービス

発行元によって入手方法や使用方法がさまざまです。

それぞれの目的に応じて、通貨の流通方法を考案することができます。

地域通貨の利用者が増えると、特定の地域内で資金が循環するようになります。

これにより、オンライン通販や都市部のショッピングモールなど、地域外への資金流出が抑制され、地産地消を促進する効果があると言われているのです。

地域通貨は、地方創生の取り組みの一つとして、一極集中型から多極分散型への転換を支援する役割が期待されています。

参照:日本における地域通貨の実態と類型 – 千葉大学院/千葉大学(研究論文)

経済効果だけではない!地域通貨の役割とSDGsとの関係

地域通貨の役割は経済効果だけではありません。

地域通貨が普及することで、過疎化対策や雇用創出、高齢者支援といったSDGs効果も期待できます。

ここでは、地域通貨の果たす役割とSDGsへの効果を見ていきます。

人口減少・過疎化を食い止める

少子高齢化や一極集中型による人口減少の波は、じわじわと地方を中心に拡大。

過疎地では生活関連サービスや雇用機会の停滞、社会インフラの老朽化などで、ますます暮らしにくい地域へと悪循環を引き起こしています。

参照:人口減少が地方のまち・生活に与える影響 – 国土交通省

人口減少の悪循環のイメージ図

国土交通省の調査では、高齢化率は令和47年には38.4%まで上昇するとの予測があり、とくに地方における経済の衰退や地方自治体の財政ひっ迫が危惧されています。

そこで、地域通貨は一極集中型から特定の地域での消費を促し、地域経済を活性化させる一助となり、雇用機会の創出にもつながります。

雇用機会が増えれば、さらに安定した労働市場の実現と過疎化を食い止める効果が期待できるでしょう。

●関連性が高いSDGs:目標8「地方の賃金向上」、目標9「地域産業のイノベーション」

人口減少と地方創生・SDGsへの自治体の取り組みについては、下記の記事で詳しく解説しています。

併せてご参照ください。

関連記事:【地方創生×SDGs】自治体や企業の取り組みを知ろう

参照:国土交通省:人口減少が地方のまち・生活に与える影響

高齢者支援で若者が活躍できる

地域通貨が普及した理由のもう1つに、高齢者支援が挙げられます。

このタイプの地域通貨は「ボランティア型地域通貨」「ボランティアポイント」とも呼ばれ、高齢者がボランティアの対価として地域通貨を支払う仕組み(NPO法人や自治体が仲介する場合もある)になっています。

買い物代行、ハウスクリーニング、食事づくり、花の水やり、病院への送迎など高齢者の困りごとを支援するためのプロジェクトです。

ボランティア型の地域通貨は、「ちょっと困った」という高齢者に安心して暮らせる環境を提供し、「もっと社会に貢献したい」という若者にアルバイト感覚で活躍の場を与えます。

支払われた地域通貨を商店街の買い物に使えば、経済効果も高まります。

●関連性が高いSDGs:目標3「福祉の促進」、目標11「住み続けられるまちづくり」

参照:地域通貨を介した在宅高齢者への生活支援 – J・Stage

地域のコミュニケーションを強化する

老若男女を問わず幅広い層が(子供はのぞく)関わり合いながら使えるのも、法定通貨や決済サービスでは味わえない地域通貨のメリットです。

世代を超えたコミュニケーションが期待できます。

地域の特産品製造を体験する企画や地域通貨で売買できるフリーマーケット、会員同士の食事会や田んぼづくりなどのイベントや教室、講演会を開催する地域もあります。

地域通貨を介して、より強固なコミュニティの形成が図れるでしょう。

●関連性が高いSDGs:目標5「ジェンダー平等の実現」、目標11「住み続けられるまちづくり」

参照:鳥取県智頭町、多世代のつながり促進にコミュニティ通貨 – PR TIMES
参照:日本における地域通貨の実態と類型 – J Stage

関係人口・移住者の増加につながる

地域の特産物やイベント、美しい自然や街並み、観光名所などを地域通貨のキャンペーンで紹介する方法もあります。

現状での定住人口は少なくとも、関係人口や移住者を増やすことが可能です。

魅力あるイベントが紹介できれば、観光客が定期的に訪れてくれることが期待できます。

また、テレワークやサテライトオフィスなど、勤務地に拘束されない業務形態が増えることで、地方移住の数は増加傾向にあります。

移住者に対して地域通貨で支援金を支給するケースもあり、人口増加対策にも地域通貨が役に立つのです。

●関連性が高いSDGs:目標9「地域産業のイノベーション」、目標11「住み続けられるまちづくり」

定住人口・関係人口について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

関連記事:住み続けられるまちづくりを!関係人口がつなぐ地方創生の希望

参照:第2回地域通貨サミット – 日経BP
参照:増える地方移住 「年間1万人」実現するのか 専門家に聞いた | 毎日新聞 (mainichi.jp)
参照:支援制度 – 飛騨市公式ウェブサイト (city.hida.gifu.jp)

自然環境やごみ削減にも貢献

自然環境保全に貢献できる点も、地域通貨の素晴らしい点です。

脱炭素の動きにともない、CO2削減につながる行為をするとポイントが貯まる地域通貨も登場しています。

マイバッグやマイカップの利用にポイントを付与するなど、ごみ削減にもつながります。

海岸の漂着ゴミ(ガラスくず)から地域通貨を作る動きもあり、間伐材の買取に地域通貨が使われることも。

アイデア次第で自然環境保全に大きく寄与できます。

●関連性が高いSDGs:目標13「カーボンゼロの実現」、目標15「自然環境の保全」

参照:市民による環境負荷削減の可能性 – 環境省
参照:三菱総合研究所、CO2削減につながる実証実験を支援 | 株式会社三菱総合研究所のプレスリリース (prtimes.jp)
参照:ビーチのガラス「地域通貨」に フリマで手芸品にも再生 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
参照:間伐材を買い取り 秩父市など、8月から地域通貨で – 日本経済新聞 (nikkei.com)

地方創生に地域通貨を!商店街・自治体の事例

最後に、商店街や自治体の成功事例をいくつかご紹介しましょう。

地域通貨を活用する方法を具体的に示します。

福岡県八女市「ロマン」

緑茶ブランド「八女茶」を特産品とする福岡県八女市では、大自然・歴史・伝統をテーマに「ロマン」という地域通貨を発行しています。

この「ロマン」は、地域通貨発行業者「まちのコイン」を介して発行されています。

八女市は、日本を代表する八女茶の玉露をはじめ、和紙や提灯などの伝統工芸が盛んです。

地域の魅力を最大限に引き出すために、地域通貨と伝統工芸を紐づけた多様な加盟店ネットワークを展開しています。

また、歴史的建造物が多いことを活かして、旧校舎を改修した文化館や古民家カフェ、ボランティア施設、個人商店を紹介することで、地域の魅力をさらにアピールしています。

杣(そま)のふるさと文化館

八女市は、日本初のコミュニティライブラリー併設の「つながるバス停」で、地域通貨が利用できることでも話題を呼びました。

また、地域通貨の名称にも使われている八女の地方創生プロジェクト「ロマン」のWebサイトでは、住宅取得支援や家賃支援などを紹介し、八女市への移住促進を打ち出しています。

参照:八女のロマン 公式サイト
参照:八女スポットリスト – まちのコイン

高田馬場・早稲田「アトム通貨」

冒頭でも軽くご紹介した鉄腕アトム提携の「アトム通貨」は、東京・早稲田大学を中心にNPO・商店街・自治体が共同で発行している地域通貨です。

「アトム通貨」で注目したいのは、リサイクルを促進する数々のプロジェクトです。

以下のようなプロジェクトが開催されています。

  • お茶の量り売りプロジェクト → 缶を持参で20馬力
  • マイカッププロジェクト → マイカップ持参で10馬力
  • 再生プラスチックファイルプロジェクト → 再生マークの購入で10馬力
  • マイハシプロジェクト → 箸を持参で10馬力
  • マイバッグプロジェクト → マイバック持参で10馬力
  • 急須でエコプロジェクト → ペットボトルや缶の削減で50~500馬力

「アトム通貨」のプロジェクト一覧はこちらから

マイハシプロジェクトでお店に持参されている箸

アトム通貨の魅力は、バラエティに富んだ多彩なプロジェクトです。

例えば、自転車教室を警察署と一緒に開催するなど、自治体や公共団体を巻き込んだイベントもその一環です。

現在は高田馬場周辺だけでなく、女川町(宮城県)や札幌市など、東京圏外にも支部があります。

地域通貨で大きな成果を上げ、全国展開している異例のケースです。

参照:アトム通貨 公式サイト
参照:アトムと早稲田の関係って? – 早稲田ウィークリー

みやのかわ商店街「和同開珎コイン」

埼玉県秩父市みやのかわ商店街の「和同開珎コイン」は、小規模ながら高齢者支援に成功しています。

「和同開珎」は、もともと西暦708年に秩父郡で銅が発見されたことを記念して発行された法定通貨でした。

みやのかわ商店街振興組合の商品券として新たに模造品をリバイバルさせ、高齢者支援の取り組みを展開しています。

和同開珎コイン

「和同開珎コイン」の原資は、高齢者や支援を必要とする方々がボランティアに支払う「おたすけチケット」です。

このチケットを受け取ったボランティアは、コイン型商品券の「和同開珎コイン」と交換できます。

また、加盟店では、20円割引となる1000円の和同開珎コインの購入も可能です。

秩父市は、人口11万人のうち3万人が高齢者です。

この地域通貨は、ボランティアと消費を結びつけたものであり、高齢者だけでなく障害者や子育て中の方々も「おたすけチケット」を利用しています。

とくに好評なのは、地域通貨で買い物できる「出張商店街楽々屋」です。

週に3回、商店が少ない地域で開催されています。

このイベントでは、高齢者に必要なのは「買い物代行」ではなく「買い物する場所」だという発想の転換から、新たな事業を生み出しています。

なお、ボランティアとは「無償」で働く人という意味合いが強いですが、国内・海外を問わず、状況によって報酬が発生するケースもあります。

参照:みやのかわ商店街振興組合 – 全国商店街支援センター
参照:みやのかわ商店街振興組合 公式サイト

まとめ

これからの地域経済の行く末について懸念する方は、決して少なくないでしょう。

とくに地方の自治体や商店街にとって地域通貨は、SDGsや地方創生へのステップとして大いに活用できるツールです。

最近では、デジタル通貨による地域通貨導入が相次いでいます。

ただし、財政が危惧されている地域では、高齢者が多いこともあり、高齢者にも使いやすい通貨であるかを考慮する必要があります。

SDGsの理念である「誰ひとり取り残さない」という観点から、高齢者や障害者でもすべての人が気軽に参加できるようなユニークな地域通貨を考案していくことが、普及拡大の鍵となるでしょう。

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