【ソーシャルキャピタル】とは?3つの構成要素を事例とともに解説
ソーシャルキャピタルとは、「社会関係資本」と訳され、「社会や地域における、人々との繋がりや信頼関係」を指します。
ソーシャルキャピタルは、より良い社会を構築していくために欠かせない重要な考え方で、今注目されている概念です。
ソーシャルキャピタルが意識された社会では、健康や治安、幸福度などに良い影響があり、活動効率が高まるとされています。
この記事では、ソーシャルキャピタルがなぜ重要視されているのか、ベースとなる3つの構成要素や組み事例とともに詳しく解説します。
ソーシャルキャピタル(社会関係資本)とは?
ソーシャルキャピタル(社会関係資本)は、「社会や地域における人々との信頼関係や結びつき」を表します。
明確な定義がないため人々の解釈には違いがありますが、アメリカの政治学者ロバート・パットナムによる定義が有名です。
ロバート・パットナムによる定義は、以下のとおりです。
- 人々の協調性のある行動を活発にすることにより、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会での効率を向上させる
- 物的資本(フィジカルキャピタル)や人的資本(ヒューマンキャピタル)などと並ぶ新しい概念である
地域や企業など特定の社会に属する人々が、付き合いや助け合いなどの協調行動を取る頻度が多くなれば、新たなネットワークや活動が生まれます。
人々とネットワークを通して繋がることで、情報やリソースがシェアしやすくなり、組織やコミュニティの繋がりが強化されていくのです。
ソーシャルキャピタルは社会の発展に寄与し、持続可能な関係の構築にも重要な役割を果たすものとして、注目されている考え方です。
参考:内閣府「Ⅱ「ソーシャル・キャピタル」という新しい概念」
参考:厚生労働省「ソーシャル・キャピタル」
ヒューマンキャピタル(人的資本)との違い
ソーシャルキャピタル(社会関係資本)と似たものとして、ヒューマンキャピタル(人的資本)がありますが、これらは異なる概念です。
ヒューマンキャピタルは、「個人の知識やスキル」をベースとしたもので、教育や経験を通じて獲得されていきます。
一方、ソーシャルキャピタルは「社会における人々との繋がり」をベースとしたもので、ネットワークや信頼関係を積み重ねていくことで形成されていきます。
なぜソーシャルキャピタルが重要視されるのか?
なぜ、ソーシャルキャピタルが注目を集め、重要視されているのでしょうか。
その理由はいくつかあり、以下のとおりです。
- ソーシャルキャピタルを利用すると、信頼性が高まる
- ソーシャルキャピタルは、活発な情報共有を推進させる
- ソーシャルキャピタルが形成されると、問題解決や協力が容易になる
ソーシャルキャピタルを持ちながら信頼関係を築いていくと、取引先や顧客からの信頼が強くなり、長期的な事業の発展に寄与します。
また、信頼できるネットワーク内では情報がスムーズになるため、市場の変化やチャンスを迅速につかめます。
さらに困難な状況に直面した場合でも、信頼のおける人々との連携により、解決策を素早く見つけ出すこともできるでしょう。
これらの理由から、今ソーシャルキャピタルが重要視されています。
ソーシャルキャピタルの3つの構成要素
アメリカの政治学者ロバート・パットナムは、ソーシャルキャピタルが以下の3つの要素から成り立っていると理論づけました。
- 信頼
- 規範
- ネットワーク
それぞれを解説します。
信頼
信頼は、すべての取引や関係性において非常に重要です。
互いに信頼があれば、品質や安全性、納期などさまざまな取引において安心感が得られます。
「納期に間に合うか」「品質は保たれているか」など、事前に情報を集める手間が省けるため、時間や労力を費やす必要がありません。
また、信頼があると、ネットワーク間でより長期的な関係を築く意欲が高まります。
その結果、積極的な協力を得られるでしょう。
そのため、信頼に基づく関係は、企業に継続的な利益をもたらします。
規範
規範は社会的なルールや価値観であり、社会の安定化と発展に欠かせないものです。
ソーシャルキャピタルが形成されたネットワーク間で共有される規範は、行動の基盤となり、協力や融和を促進させます。
人々が共有するルールや価値観に基づいて行動することで、社会的な関係性が高まり、お互いの信頼関係も強まります。
例えば、「言葉や行動を調和させる」や「同じ目標に向かって協力し合う」などの規範は、お互いが理解し合い尊重することを促し、協力や融和を生み出すことにも繋がっていくでしょう。
ネットワーク
ネットワークとは、人々や組織がお互いに関係を持ち、情報や資源を共有することを指します。
ネットワークは企業だけのものと捉えがちですが、個人の活動においても非常に重要です。
強いネットワークが形成されると、情報の収集や問題の解決の速度が向上します。
例えば、仕事の場面でネットワークを活用すると、新しいパートナーや顧客を獲得する機会が生まれるかもしれません。
また、ネットワークを活用して情報やアイデアをシェアしていくと、自身の知識やスキルを向上させることもできるでしょう。
ネットワークを活用すると新しい仕事の機会が得られ、専門知識を持つ人々との繋がりも築けます。
ソーシャルキャピタルを取り入れるメリット
現在、ソーシャルキャピタルに注目し、取り入れる企業が増えています。
ソーシャルキャピタルへの意識が高い企業ほど、事業を円滑に進めやすいとされているからです。
ここでは、ソーシャルキャピタルを取り入れるメリットについて紹介します。
事業や運営が円滑になる
ソーシャルキャピタルへの意識が高い企業は、コミュニケーションが円滑になり、問題解決の速度が加速します。
問題解決の速度が向上すると、企業経営がスムーズに進行し、競争力が高まります。
さらに、ネットワーク内で信頼関係が築かれると、情報共有や意思決定が迅速に行われるため、事業の運営が容易になるのです。
社員の定着化や離職率の低下に繋がる
ソーシャルキャピタルが高い組織では、社員に安心感を与えることができ、それが長期間の雇用に結びつきます。
長期間の雇用によって、社員は企業に忠誠心を持つようになり、仕事へのモチベーションも高まります。
また、チーム内での協力や情報共有も活発化し、生産性の向上に貢献するでしょう。
さらに、社員同士の信頼関係が築かれると、コミュニケーションも円滑になります。
その結果、離職率の低下や企業の安定性向上が期待され、組織全体の成果も向上します。
心理的安全性が高まる
ソーシャルキャピタルの高い組織では、職場の心理的安全性が向上します。
心理的安全性とは、社員が意見やアイデアを出す際にリスクや恐れを感じることなく、自由に意見交換やフィードバックができる環境を指します。
心理的な安全が増すと、社員はミスや失敗を恐れることなく自分自身を開示できるようになり、コミュニケーションや協力を得やすくなるのです。
ソーシャルキャピタルを取り入れるデメリット
ソーシャルキャピタルを取り入れた際のデメリットについて紹介します。
排他の危険性
ソーシャルキャピタルを取り入れた場合、他のコミュニティや社員との対立が生じる可能性があります。
強力なソーシャルキャピタルには、排他性の危険が内在していると指摘されることもあります。
例えば、カルテル(不当な取引制限)や人種差別活動をするグループが現れると、その活動に異議を唱えるコミュニティが形成されるケースも少なくありません。
これにより、経済的なパフォーマンスが悪化したり、社会参画の遮断や個人の特性を損なったりすると指摘されているのです。
ソーシャルキャピタルには、コミュニティが対立する危険性があることを認識しておきましょう。
悪用される恐れ
ソーシャルキャピタルを取り入れた場合、悪意のある個人や組織によって悪用される可能性があります。
ソーシャルキャピタルは、人々の関係性や信頼に基づいて形成されており、情報やネットワークは貴重な資源です。
この情報やネットワークは、より良い社会や組織を作る目的に利用してこそメリットがあるのです。
しかし、悪意を持った個人や組織は、ソーシャルキャピタルを利用して貴重な情報や資金・人材を集めようとします。
そのような悪意を持った個人や組織には、不正行為や個人情報の漏洩などのリスクをはらんでいるため、注意しなくてはいけません。
ソーシャルキャピタルを高める方法
ソーシャルキャピタルは、事業の円滑化や関係性の改善に重要な役割を果たします。
ここでは、企業におけるソーシャルキャピタルの活用方法について解説します。
働き方や環境の整備
ソーシャルキャピタルを高めるためには、部署にしばられず個人が働く場所を自由に選べることが重要です。
そのためには、コミュニケーションが取りやすい環境を提供するのも大切です。
柔軟な働き方を促進するためには、リモートワークやフレックスタイム制の導入も良いとされています。
働き方や環境の整備は、個々のライフスタイルや仕事に合わせた働き方を可能にし、ワークライフバランスの向上にも繋がります。
ジョブローテーションの実施
ジョブローテーションとは、組織内の社員が異なる部署やプロジェクトを経験する機会を与える制度です。
ジョブローテーションにより、社員はスキルや知識が広がるだけでなく、社内のネットワークが強化されるため、幅広い視点を持つ社員が育ちます。
ジョブローテーションは、社員の成長だけでなく、組織の発展においても重要な役割を果たします。
グループインセンティブの充実
グループインセンティブとは、部署やチームなどの単位で業績に応じて報酬がもらえる制度です。
部署やチームの協力や連帯意識の形成に有効な手段とされています。
チームが一丸となって取り組んだ成果を評価し報酬を与えることで、ソーシャルキャピタルが高まっていきます。
企業における社員同士の協力やサポートの奨励が、チームワークと結束力を強化させるのです。
ただし、グループインセンティブはグループに対して報酬を与えるため、個々の貢献度が見えにくくなるというデメリットもあります。
結果に見合った適切な評価やフィードバックが重要です。
メンター制度
メンター制度とは、経験豊富な先輩社員が新入社員や若手社員をサポートする制度です。
サポートされるメンティーにとっては、自身の成長やキャリア形成が促進されるというメリットがあります。
また、メンターにとっては、今まで得てきた知識や経験を共有することで、リーダーシップの発揮やコミュニケーション能力の向上に繋がる機会が得られます。
メンター制度は、メンターとメンティー間の知識の継承だけではなく、信頼関係の構築にも働きかけると評価されている制度です。
メンター制度を導入すると、組織全体の能力やパフォーマンスの向上・離職率の低下など、さまざまな側面で組織に寄与していくでしょう。
大手企業におけるソーシャルキャピタルを活用した事例
社員のモチベーションや生産性を向上させる手段として、ソーシャルキャピタルの向上に取り組む企業が増えてきました。
ここでは、ソーシャルキャピタルを活用した事例を2つ紹介します。
1つ目は、世界的企業のGoogleです。
Googleは、社員の幸福度や生産性の向上を目的とし、ソーシャルキャピタルの重要性に注目している企業として有名です。
例えば、社員同士の交流やパートナーシップを促進するために、オフィスのレイアウトや食堂のデザインを工夫し、魅力的な空間を提供しています。
また、Googleでは、社員がお互いに学び合えるプラットフォームを提供し、スキルアップを支援しています。
Google社内のコミュニティやクラブ活動も活発で、各自のスキルアップだけではなく、仲間とともに成長できる機会も豊富です。
このような独自の取り組みによって、Googleでは世界を牽引するイノベーションや競争力の源泉が育まれているといえます。
参考:Google「イノベーションが生まれる職場環境をつくる」
積水化学グループ
2つ目は、日本の代表企業である積水化学グループです。
積水化学グループは、顧客が満足し継続的に選択できる製品・サービスの提供に重点をおいています。
人・モノ・仕組みの品質を高め、「指名され続ける品質の実現」こそが、社会やステークホルダー(利害関係者)との関係強化には不可欠です。
ほかにも、「環境」「次世代」「地域コミュニティ」の3つの分野で、積水化学グループは社員の社会貢献活動への支援を積極的に行っています。
例えば、森林保全や生物多様性の保全、緑地化活動への参加を推奨しています。
これらの取り組みを通じて、積水化学グループはソーシャルキャピタルを向上させ、ステークホルダーとの信頼関係を築きながら、持続可能なビジネスを推進しているのです。
参考:積水化学グループ「社会・関係資本」
ソーシャルキャピタルを高める新しい取り組み事例
企業の事例を交えてソーシャルキャピタルについて解説してきましたが、そのソーシャルキャピタルをビジネスで増加させる新しい取り組みも始まっています。
ここでは、人と人とのつながりや共感を価値に変える「非営利株式会社eumo(ユーモ)」における取り組みを紹介します。
共感コミュニティ通貨eumo(ユーモ)とは
「共感コミュニティ通貨eumo(ユーモ)」は、「持続的幸福」を意味するギリシャ語「Eudaimonia(ユーダイモニア)」に由来する電子マネーです。
非営利株式会社eumoによって生み出されたこの通貨は、「共感」をベースに、人々や経済に新たな幸福をもたらす「共感資本社会」という理念に基づいています。
具体的には、「共感」を価値の基準とし、目に見えないものを紙幣価値として表現するという発想から生まれました。
一般的な電子マネーと異なる点は、共感した気持ちをプラスして支払うことができることと、使用期限が3ヶ月であることです。
期限があることで独占を防ぎ、通貨を循環させているのです。
「持続的幸福」をもとに、共感を大切にすることで人と人の繋がりを育みたいという思いに賛同した加盟店やコミュニティが、eumoを利用しています。
その共感が、eumoを通じて仲間意識を育て、ソーシャルキャピタルを向上させるといえるでしょう。
参考:「共感コミュニティ通貨eumo」
まとめ
この記事では、ソーシャルキャピタルについて解説しました。
ソーシャルキャピタルは、組織や個人の成功において重要な要素であり、「信頼」「規範」「ネットワーク」の構築を通じて成果を上げることができます。
ソーシャルキャピタルを高める方法として、「働き方や環境の整備」「ジョブローテーションの実施」「グループインセンティブの充実」「メンター制度」などの導入が有名です。
また、「共感資本社会」という新たな価値観も生まれ、「共感コミュニティ通貨eumo」という電子マネーも登場しました。
多くの資本がある中で、人との繋がりを求める風潮は、ますます重要視されていくでしょう。
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