気候変動・脱炭素

中江産業に聞く森林吸収系J-クレジット事業を始めた背景と生物多様性に向けた「ナカエの森」での取り組みについて

地球温暖化対策として、日本政府は2026年に本格導入する排出量取引制度の設計に向けて、現在議論を始めています。

具体的には、一定のCO2(二酸化炭素)を排出する大企業に対して参加を義務化したり、削減未達成の企業に課徴金を課したりといった内容の調整に入っています(2024年9月現在)。

そのため、今まで以上にカーボン・オフセットの手段としてJ-クレジット制度を活用する企業が増えていくことが予想されます。

J-クレジットには、再生可能エネルギー由来や省エネルギー由来などさまざまな種類がありますが、本記事では、その中でも森林吸収系クレジットに注目し、大量のクレジットを保有する中江産業株式会社について紹介します。

中江産業は、森林事業を通じて地球温暖化や生物多様性の課題に真摯に向き合っている企業です。

今回、その想いについてインタビューしましたので、中江産業が所有する「ナカエの森」のストーリーと共にお届けします。

また、J-クレジットや関連する国内外の動きについても、簡単に解説します。

提供:中江産業株式会社

大規模な森林を所有する中江産業。森林吸収系クレジットの直接供給も可能

日本は、国土の約7割が森林に覆われた世界有数の森林大国です。

その中で、中江産業は国土のおよそ6,000分の1(合計6,458ha)の森林面積を持つ企業として、1898年(明治31年)の植林事業開始以来、約130年間にわたり、計画的な施業による堅実で安定した林業経営を続けてきました。

森林は、CO2の吸収源として、地球温暖化防止のために欠かせない貴重な資源の1つ。

中江産業は、木材の生産者としてだけではなく、森林が果たす生物多様性の保護、国土保全、水源涵養(すいげんかんよう)、炭素貯蔵、物質生産、レクリエーションといった多様な機能などへの貢献も視野に入れて活動しています。

最近の報道では、土砂流出や崩壊防止及び水源涵養の価値を「自然資本」として見える化を進める動きもあります。

中江産業は所有する山林を「自然資本」として価値を高めると共に、その広大な森林資源を活かして、森林のCO2吸収量をJ-クレジットとして販売しています。

中江産業の強みは、様々なニーズに対応して大量のJ-クレジットを迅速かつ直接供給も可能な点です。

さらに、国土のおよそ6,000分の1の広大な森林からCO2の吸収源である森林吸収系クレジットを1トンから供給でき、10,000トン以上という大口の供給※1にも対応しています。

このように、中江産業は、カーボン・オフセット※2の手段を提供することを通じて、日本の美しい森林を守り、SDGsの達成にも貢献しているのです。

※1 引き合いの時点で別途確認が必要です。

※2 カーボン・オフセットとは
日常生活や経済活動において排出されるCO2等の温室効果ガスについて、削減努力を行っても削減しきれない全部又は一部の排出量について、他の場所で実現した排出削減・森林吸収クレジットを購入することで、排出量を相殺し、削減と同様の効果を持たせるという考え方です。
(引用:以下中江産業提供資料PDF)

J-クレジットとは何か?クレジットの種類と注目されている森林吸収系について

ここで改めて、J-クレジット制度と森林吸収系クレジットの重要性について簡単に説明します。

J-クレジット制度とは、省エネルギー設備の導入・再生可能エネルギーの利用によるCO2などの排出削減量や適切な森林管理によるCO2などの吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。

クレジットの種類は複数あり、森林の適切な管理によって吸収されたCO2の量をクレジットとして認証するものが森林吸収系クレジットです。(別名、森林吸収由来クレジット、森林クレジットともいう。)

昨今、森林吸収系クレジットが注目されている背景として、単にCO2などの温室効果ガスの削減効果によるカーボンニュートラル達成という点に留まりません。

水資源の提供や木材・食料の供給といった森林が持つさまざまな機能が、私たちの暮らしに恩恵をもたらしています。

特に生物多様性の観点からも重要です。

人間による森林破壊や気候変動などの影響で、多くの動植物が絶滅の危機にさらされており、希少な動植物を守り、生態系を維持するのは喫緊の課題です。

そのため、森林吸収系クレジットは国際的にも注目され、他の削減方法と異なる独自の環境価値が評価されています。

中江産業も「ナカエの森」に生息する多種多様な野生動植物を守ることを強く意識し、事業を行っています。

参考:J-クレジット制度について
参考:林野庁「森林はどのぐらいの量の二酸化炭素を吸収しているの?」
参考:林野庁「森林と脱炭素をめぐる情勢について」

TCFDとTNFDについて

続いて、森林吸収系クレジットが今後企業にとって注目すべき理由について、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)とTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)の観点から紹介します。

TCFDは、各企業の気候変動への取り組みについての情報開示を促進する国際組織で、2015年にG20からの要請で設立されました。

日本においては、2022年の東証プライム市場上場企業におけるTCFD提言に基づく情報開示の義務化が開始されています。

一方、TNFDは、各企業の自然関連の財務情報開示を推進する国際組織で、2021年6月に設立されました。2024年6月時点で、約400社以上の組織や企業等、そして50を超える国や地域が参加しています。

TNFDは、TCFDの自然資本版ともいわれ、生物多様性への影響を評価して情報開示をする枠組みの構築を目指しています。2023年9月にはTNFD最終提言v1.0が公開されました。

現在、TNFDはまだ義務化はされていませんが、すでに世界では320社、日本では80社がTNFDの枠組みに沿った開示を表明しています(2024年2月時点)。

近い将来、生物多様性の保全や生態系回復のために、TCFDと同様に開示が義務化される可能性があります。

その際、企業の生物多様性への対応として、森林吸収系クレジットの購入は重要な選択肢です。

今まで多くの企業は、自然からの恩恵を無償で受けてきましたが、これからは自然に対する負荷やリスク、機会を想定した事業展開が求められます。

そのため、森林吸収系クレジットを提供する中江産業の存在意義は、さらに大きくなっていくでしょう。

参考:マネーフォワードクラウド「TCFDとは何かわかりやすく解説!開示項目や賛同方法・日本企業の事例も」
参考:日本経済新聞「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」
参考:環境省「生物多様性とはなにか」

担当者インタビュー:「ナカエの森」とは?生物多様性への想い

森林事業本部課長石田佳範様

中江産業のご担当者に、「ナカエの森」の森林事業や生物多様性への想い、森林吸収系クレジットの活用、並びにTNFD義務化に向けてのお考えについて、さらに詳しくお話を伺いました。

森林事業は国家100年の大計

編集部:貴社が保有する森林「ナカエの森」について教えてください。

中江産業:当社は元々銅鉱山の開発・運営事業を以って1885年(明治18年)に創業しました。

森林事業は創業から13年後の1898年(明治31年)に開始し、所有する森林を「ナカエの森」と命名して約130年間活動を続けています。

現在、日本の森林事業では、木を伐採した後の再造林率は約30%ですが、当社は木を皆伐(かいばつ: 森林を構成する林木の一定のまとまりを一度に全部伐採する方法)の後、100% の再造林を行っています。

しかし、日本の山は、欧米と異なり傾斜が急で険しく危険でもあり、森林事業の運営・維持が難しいのが実情です。

費用や手間がかかる植林ですが、当社では森林が織りなす生物多様性の向上や災害防止・保水能力の観点からも100%の植林は不可欠だと考えて取り組んでいます。

編集部:森林事業ですが、どのような経緯でこの事業を始め、またカーボン・オフセットクレジット事業へ参入されたのでしょうか。

中江産業:創業時は、鉱山の開発・運営事業を行っていましたが、「国家100年の大計あり」という言葉があるように、将来を見据えて森林事業に舵を切ったのです。

第二次世界大戦後は、住宅建築の増加により木材の需要が高まりましたが、木材輸入自由化や木造建築の減少により需要は減少しました。その結果、原木単価は最盛期の5分の1まで下降しました。

そこで、色々と実現可能な新規事業を検討したところ、J-クレジットの前身であるJ-VER制度を利用できないかと考え、クレジット販売に参入したのです。

まだまだ日本におけるクレジットの購入者は少ないですが、世界の主要国が2050年にカーボンニュートラルを目指す国際的な脱炭素の潮流の中、長期的に見れば温暖化対策や脱炭素・生物多様性に絡む商品やサービスの提供はきわめて有望だと考えています。

また、市場予測では、クレジット事業の成長が見込まれており、生物多様性の観点からも森林吸収系クレジットへの注目が高まることを期待しています。

環境問題における生物多様性の観点からも森林は大切な資源

編集部:森林吸収系クレジットが、生物多様性の観点からも注目されていくとお考えになる理由について教えてください。

中江産業:日本は資源に乏しい国です。そのような環境の下、森林は唯一再生可能な資源であるため、当社の所有林は地球温暖化対策に活用できると考えています。

しかし、残念ながら、国産材は長期にわたり低価格を強いられており、従来型の森林事業だけでは利益を出すのが難しい状況です。

一方で、環境問題における生物多様性の観点からも森林は大切な資源です。

この貴重な資源を最大限に活用するためには、森林吸収系クレジットを効果的に利用し、地球温暖化対策や生物多様性に貢献したいと思っています。

編集部:森林という貴重な資源において、1本の木が育つのにどれくらいの期間が必要なのでしょうか。

中江産業:当社では、約70年かけて木を育てた後、皆伐しています。

一般的に植林するのは杉・桧(ひのき)で、これらは広葉樹と比較して、より量的に多くCO2を吸収するのが特徴です。

70年以上経った高齢木になると、CO2の吸収量が減ってしまうため、皆伐して植林する森林サイクルを実現しています。

植林後の70年間木を育て続けるためには管理・維持にも費用がかかります。

そのため、木が吸収してくれるCO2の吸収量をクレジットという形で販売し、その収益を「ナカエの森」の管理・維持費用の一部に充て、森を次世代に繋いでいきたいという想いがあります。

参考:Jクレジット事務局「J-クレジット制度吸収系(森林管理)プロジェクト概要」

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)義務化の可能性に着目。森林系クレジットの認知拡大に向けた取り組み

画像引用:中江産業公式X

編集部:貴社において、TNFD義務化の可能性とJ-クレジット事業との関連についてどのようにお考えですか。

中江産業:2023年11月に開催されたCOP28(第28回気候変動枠組条約締約国会議)では、新しいセクターガイダンスの草案が発表され、気候変動に次いで生物多様性の開示が重要視されるようになりました。

これを受けて、すでに開示が義務化されているTCFD同様、TNFDに関しても開示が義務化されるのではと推察します。

CO2削減には「CO2の排出を削減する方法」と「排出されたCO2を吸収する方法」があります。

前者の削減は多数派ですが後者の吸収系は少数派です。

認知度が低い吸収系クレジットですが、TNFDが義務化される前提で準備を進めています。

編集部:義務化が予想される中で、具体的にどのような準備を進めていますか。

中江産業:GXリーグや脱炭素エキスポへの参加に加え、「生物多様性のための30by30(サーティ・バイ・サーティ)アライアンス」に登録しています。

30by30とは「2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標」です。

大手企業も参画している取り組みで、2021年6月に開催されたG7サミットでは、G7各国は自国の30by30目標に取り組むことが約束されました。

2024年の秋には、当社が所有する林地について30by30自然共生サイト※3に登録する予定です。

他にも、当社のディスクロージャーを増やしていく観点からも、あらゆる機会を通じて情報を収集したり、団体や勉強会に参加したりするなどの準備を進めています。

編集部:TNFDの義務化が予想される中、先手を打たれていると思います。なぜでしょうか。

中江産業:地球温暖化の問題では、省エネ系や再エネ系と比べると森林吸収系はまだまだ認知度が低く、環境問題を扱う記事においても新聞の片隅に書いてあるような状況です。

しかしながら、脱炭素とネイチャーポジティブ、生物多様性の保全においては森林吸収系クレジットの活用が効果的だと思っています。

そのため、より多くの方に森林吸収系クレジットを知ってほしいと切に願っており、認知度向上や普及に努めています。

編集部:TNFDが義務化された場合、どのような良い変化があると思いますか。

中江産業:義務化された場合、企業活動がより環境分野にフォーカスされるのではないでしょうか。

さらに、当社の30by30における自然共生サイト※3や、山林と一般企業とのコラボレーションが実現し、森林吸収系クレジットに興味を持つ方々が増えることを期待しています。

何より地球温暖化や生物多様性の観点からも、TNFDの義務化は非常に重要であると考えます。

※3 自然共生サイト
「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を国が認定する区域のこと。(引用:30by30

クレジットの資金の活用方法と今後の展望

画像引用:中江産業公式X

編集部:森林吸収系クレジットで得た資金の活用方法や今後の展望について教えてください。

中江産業:J-クレジット制度の背景には、森林吸収系クレジットで得た資金を森林整備の加速化に充てるという意図があります。

森林整備が進むと、新たにCO2の吸収量が増えるとされており、そのため林業の活性化に資金を利用することが求められています。

ただ、日本の山々は欧米と比較して急峻であるため、森林事業の運営・維持は容易ではなく、オートメーション化も難しいのが実情です。

現在、ドローンを使用した苗木の運搬や、高性能林業機械を使った木の運び出しなどが始まっています。

しかし、依然として人による維持・管理が不可欠な分野であるため、コスト削減が難しい部分にJ-クレジットで得られた資金を充てる予定です。

編集部:貴社で販売する森林吸収系クレジットに賛同してくださる方にメッセージをお願いします。

中江産業:企業の方はもちろん、一般の方々もこのクレジットの購入を通じて、日本の林業や環境保全、国土保全、水源涵養への貢献に対する想いが広がることを期待しています。

世の中には、環境保全の情報が溢れていますが、具体的に環境に良いことをしたいと思っていても、その手段がわからない人が多いのではないでしょうか。

個人の方でも、森林吸収系クレジットを購入することによってCO2削減にも貢献でき、生物多様性や地球環境への保全に寄与することができます。

近年、全国的に集中豪雨や土砂崩れなどの自然災害が多発していますが、森林の整備は災害防止にも繋がります。

たった1トンのクレジット購入でも、災害防止に一人ひとりが貢献することが可能です。

その手段として、森林事業を行っている中江産業から直接森林吸収系クレジットを購入できることを知っていただければと思います。

このようなクレジットの購入を通じて、CO2削減や生物多様性の保全、災害防止に貢献できる点が大きな魅力だと考えています。

J-クレジットの取得プロセス

画像引用:中江産業公式X

この記事を読んで、実際にJ-クレジット購入に興味が湧いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

中江産業の森林吸収系クレジットは、以下の手順で購入できます(本記事公開時点での情報です)。

  1. 電話またはホームページより問い合わせ
  2. 数量や単価など打ち合わせ(1トンから購入可能)
  3. 契約書の締結
  4. 契約金額の支払い
  5. 移転や無効化の手続きを実施
  6. CO2吸収量証明書や無効化通知書の写しを送付

詳しくは、お問い合わせフォームより中江産業へご連絡ください。
https://www.nakae-sangyo.com/forest/sp/contact.html

森林吸収系クレジットで未来へ貢献しよう

中江産業の「ナカエの森」を通じて、生物多様性の重要性やJ-クレジットの森林吸収系クレジット、TNFDの動向について紹介してきました。

日本では、温暖化対策として脱炭素や再生可能エネルギーへの取り組みが広がってきています。

しかし、森林でのCO2吸収による効果については、まだ広く知られていないのが現状です。

中江産業は、日本国土のおよそ6,000分の1(約6,458ha)もの広さのある「ナカエの森」での森林吸収系クレジットの販売を通じて、地球温暖化対策や生物多様性に繋げたいと考えています。

企業におけるカーボン・オフセットでの利用はもちろん、個人の方においても1トンのクレジットの購入で、CO2の削減や災害予防に貢献できます。

ぜひ、この機会に森林吸収系クレジットへの理解を深め、一人ひとりができる身近な取り組みを始めてみましょう。

提供:中江産業株式会社

 

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