SIP/BRIDGEフォーラム開催!「Society 5.0」実現に向けた挑戦
2024年11月27日、東京都日本橋の室町三井ホール&カンファレンスにて「SIP/BRIDGEフォーラム」が開催されました。
本フォーラムには、現地参加者約180名、オンライン参加者約380名の計550名以上が参加し、内閣府が推進する「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」と「BRIDGE(研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム)」による取り組みが紹介されました。
持続可能な未来社会を構築する「Society 5.0」の実現を目指し、多くの企業担当者や大学関係者、専門家が一堂に会する場となった本イベント。
この記事では、フォーラムで語られた「Society 5.0」に向けた挑戦の一部をご紹介します。
SIPとは:未来社会を切り開く研究開発プログラム
「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」は、内閣府主導の下、科学技術の力で社会課題の解決を目指す研究開発プログラムです。
2014年にスタートし、現在第3期が進行中です。
第3期では、「サーキュラーエコノミーシステムの構築」や「豊かな食が提供される持続可能なフードチェーンの構築」など14の課題に取り組み、社会実装をより意識した活動が展開されています。
BRIDGEとは:技術と社会をつなぐ架け橋
「BRIDGE(研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム)」は、各省庁の研究開発プログラムで生まれた技術を社会実装や新規事業創出へとつなげる取り組みです。
旧称「PRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)」としてスタートし、現在は「環境負荷の低減」や「生物多様性の保全」、「感染症対策」など、多様な課題に対応することで、研究成果が実社会で価値を発揮するよう支援しています。
Society 5.0とは:デジタル革新と創造力を基盤とした未来社会像
Society 5.0は、日本政府が提唱する未来社会のビジョンであり、第5の社会形態として位置づけられています。
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会に(Society 4.0)続く形で、創造社会(Society 5.0)とも言われています。
デジタル革新と多様な人々の創造力を融合させ、人々の暮らしをより豊かにすることを目指しています。
例えば、AIやIoTを活用することで、都市部と地方の格差解消や高齢化社会への対応、環境問題の解決を実現しようとするものです。
今回のフォーラムでは、このSociety 5.0を軸とした技術開発と社会実装がどのように進められているのか、多角的に議論されました。
プログラムディレクターに聞く:「Society 5.0」を推進する具体的な取り組み
「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」の第3期では14の課題が選定され、具体的なイノベーション推進がおこなわれています。
ここでは、私たちの生活に近しい2つのトピックをご紹介します。
ほかのプログラムについては、以下URL先をご参照ください。
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期(令和5年~)課題一覧
サーキュラーエコノミーシステムの構築
東京大学特別教授の伊藤耕三氏が担当する本プロジェクトは、資源の効率的利用と廃棄物削減を目指しています。
特に、自動車産業におけるサーキュラーエコノミーの実現に向けた取り組みが進められています。
その背景には、2030年以降に欧州で販売される車両のプラスチック部品に、25%の再生材使用が義務化されることがあります。
そのため、業界全体でリサイクル素材の活用が国際競争力を維持するために急務となっています。
しかし、現在の再生プラスチック供給量では目標達成が難しいため、消費者が廃棄するプラスチック容器や家庭ゴミを収集し、自動車部品に活用する技術開発や枠組みの設計が進行中です。
このプロジェクトでは、リサイクルプラスチックの品質向上や、車両用に適した加工プロセスの実証実験が行われており、日本発の成功モデルとして世界展開を目指しています。
リサイクルプラスチックの活用には、一般廃棄物からの素材収集だけでなく、品質や用途に応じた選別と調整が不可欠です。
特に、自動車部品に使用するための品質基準に合う素材を確保するには、消費者・自治体・メーカーが連携する仕組みづくりが求められます。
また、日本の強みである高い廃棄物分別文化を活かしつつ、消費者の再生品に対する価値観を変える取り組みが鍵となります。
このプロジェクトは、住民参加型の回収活動や地域コミュニティの活性化を通じて、単なる技術開発を超えた社会的な変革を目指している点が特徴です。
伊藤教授のお話の中で印象的だったのは、実証実験の中で消費者からプラスチックを回収する際、高齢者の方が外に出るきっかけを作って、コミュニティの活性化にも寄与したというお話でした。
サーキュラーエコノミーを成功させるためには、環境面だけを意識するのではなく、消費者が無理なく続けられる仕組みや動機作りも大切です。
豊かな食が提供される持続可能なフードチェーンの構築
株式会社J-オイルミルズの取締役常務執行役員、松本英三さんなどが推進する本プロジェクトは、食の安全保障や環境負荷の低減、健康の促進を目指して実施されています。
会場では、JA全農耕種総合対策部テクニカルアドバイザーの大西茂志さんと博報堂テーマビジネスデザイン局ビジネスプロデューサーの南部哲宏さんにお話を聞くことができました。
編集部:
国産大豆の自給率向上に向けた取り組みについて教えてください。
大西茂志さん:国産大豆の自給率を高めるために、いくつかのアプローチを実施しています。
まず、新しい品種の開発に注力しており、ゲノム編集技術を活用して短期間で品種改良を行う一方で、従来の栽培方法の見直しも進めています。
また、土壌の健康度を高める取り組みにも力を入れており、炭素を土壌に貯留することで環境負荷を軽減しつつ、持続可能な栽培方法の確立を目指しています。
さらに、国内で生産された肥料の利用を推進することで、輸入依存から脱却し、食料安全保障の向上を図っています。
これらの取り組みによって、日本国内の農業基盤を強化し、消費者の皆様が安心して国産農産物を選べる環境を整えることを目標としています。
また、農業サプライチェーン全体の効率化にも注力し、持続可能な未来を見据えた施策を実行しています。
編集部:
持続可能なフードチェーンの構築において、どのような課題に取り組まれているのでしょうか?
南部哲宏さん:持続可能なフードチェーンを構築するうえで、まず消費者の意識改革が重要だと考えています。
特に、ゲノム編集技術については、安全性に対する正しい理解を広める必要があります。
この技術に対して誤解が多いため、情報発信に力を入れ、消費者の認識を改善することが重要です。
また、ICTやデータの活用を通じて農業生産の効率化を図るべきだと考えており、栽培技術や流通管理を最適化する仕組み作りをしています。
さらに、食と健康に関するデータを活用して、消費者に適切な栄養バランスや食生活を提案できるデジタルプラットフォームの構築にも取り組んでいます。
こうした施策を通じて、フードチェーン全体の持続可能性を高め、食文化と環境保全が両立する社会の実現を目指しています。
「豊かな食が提供される持続可能なフードチェーンの構築」のプロジェクトでは、大豆のほかにブリの沖合養殖技術の開発も進められています。
沿岸における養殖に適した場所はすでに埋まっており、養殖での漁獲量を上げるためには沖合での展開が必要不可欠とのことです。
このプロジェクトは、ICT・AIなどのデジタル技術を駆使して、魚の健康管理や給餌を最適化・自動化することが進められており、私たちの食卓に密接に関わっています。
「Society 5.0」に向けたSIP/BRIDGEの意義と成果、今後の展望
フォーラムでは、これまでのSIP/BRIDGEの成果として、持続可能な社会に向けたイノベーション創出に関するプロジェクトの進展が報告されました。
内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局の川上大輔審議官に、本取り組みの意義や成果、そして今後の展望についてお話を伺いました。
川上審議官:SIPとBRIDGEの取り組みの一番の特徴は、科学技術の研究成果を社会実装することに力を入れている点です。
具体的には、防災やリサイクル、カーボンニュートラルといった社会課題に対し、14のプロジェクトを厳選して進めています。
たとえば、線状降水帯の予測技術や、CO2を排出しないアンモニア燃焼技術などが成果として上がっており、これらはすでに私たちの生活や社会に役立っています。
第3期の残りの期間である3年半の間に、こうした研究成果をしっかりと社会や企業に引き継ぎ、実際に現実社会で幅広く活用される形にすることを目指しています。
その取り組みを通じて、SIPとBRIDGEはSociety 5.0の実現に向けた重要な基盤づくりに寄与していければと考えています。
「科学・技術」という言葉だけを聞くと、どこか専門的で難しいものに感じられますが、実は私たち一般消費者の生活に深く関係していることが分かります。
線状降水帯の予測技術は、天気予報で見かけることが多くなりましたが、SIP/BRIDGEの成果ということを知り、プロジェクトを身近に感じることができたのではないでしょうか。
未来を創る挑戦は続く
Society 5.0は、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させ、経済発展と社会課題の解決を同時に実現する未来社会のビジョンです。
この実現には、技術革新と社会システムの変革が不可欠であり、企業や研究機関の積極的な挑戦が求められます。
SIP/BRIDGEフォーラムは、そうした「Society 5.0」というビジョンを共有し、その実現に向けた具体的な道筋を示す貴重な場となりました。
今後もよりいっそう、SIP/BRIDGEの社会実装と成果に期待が高まります。
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