持続可能な社会の実現を阻む課題ってなに?
最近、メディアなどで「持続可能(サステナブル)な社会」という言葉を耳にする機会が多くなってきました。
デジタル大辞泉によると、「持続可能な社会」とは、『地球環境や自然環境が適切に保全され、将来の世代が必要とするものを損なうことなく、現在の世代の要求を満たすような開発が行われている社会』と解説されています。
これを読むと「環境問題に関する話かな?」と思われる方が多いかもしれませんが、もちろんそれだけに限った話ではありません。
今回は「持続可能な社会の実現」とそれを阻む課題について解説していきます。
持続可能な社会とは?
「持続可能な社会」を実現するには、貧困や格差の問題をはじめとして、児童労働、ジェンダーなど、社会に横たわる課題も解決していく必要があります。
実はこれら全ての問題が、私たちの日々の消費や行動に密接に関係しています。
私たちが豊かな暮らしを享受している背景には、たくさんの環境問題・社会課題があるのです。
気候変動
例えば、気候変動の問題があります。
スウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥーンベリ氏の国連気候変動サミットにおけるスピーチによって、その存在は世界に広く知られることになりました。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、温室効果ガス排出量が最も少ないシナリオでも、2040年までに約1.5度の気温上昇が起こると発表しました。
2000年に入ってから、豪雨、台風、干ばつ、熱波といった異常気象現象が世界中で頻発し、各地で甚大な被害が発生していることは記憶に新しいところです。
これらの異常気象は気候変動によって引き起こされているといわれています。
人権問題
労働者の人権問題にも目を背けることはできません。
アメリカでは2021年12月に「ウイグル強制労働防止法案」が可決され、新疆ウイグル自治区での強制労働によって生産された製品を中国から米国内へ輸入することを禁じました。
新疆ウイグル自治区では少数民族ウイグル族が無差別に収容され、強制的に労働させられていたといいます。
安くて高品質であることが人気となっているファストファッションは、私達にとって身近な存在です。
しかしその生産の過程ではウイグル族への強制労働が行われているという疑いがあり、フランスの司法当局も捜査に動くなど世界的に注目が集まっています。
これらの環境問題や社会課題を全て解決し、地球も、私達人間も、誰一人取り残されることなく皆が幸せに暮らすことのできる社会が、「持続可能な社会」の姿といえるでしょう。
さて、このようにたくさんの問題があることは従来から知られていながらも、実際には何十年もの間これらの問題は解決されず放置されてきました。
それはいったいなぜでしょうか?
”安さ”は正義?悪?
今の社会は、未来永劫、経済成長が続くことが前提となっている資本主義の社会です。
そして、その成長を支えているのは「大量生産・大量消費」のモデルとなっています。
経済活動を担う登場人物は、商品やサービスを作って提供する「企業」と、それらを消費する私たち「消費者」です。
企業は消費者に買ってもらえるように、消費者が喜ぶものを作って提供します。
消費者の好みは様々なのでアプローチは1つではありませんが、多くの消費者にとっては「価格が安い」ことが魅力になります。
それゆえに、多くの企業は「いかに安価に商品を作るか」ということに注力することになります。
安価な商品を実現するために、企業はより安い原材料に切り替えたり、大量に生産することでひと商品あたりのコストを下げたり、あるいは人権費の安い国に生産拠点を移したりと、コストを抑えるための努力をします。
こうして作られた安価な商品を、私たち消費者が購入します。
安価であることで、これまで1つしか買えなかったものが2つ、3つと買えるようになります。
このようにして「大量生産・大量消費」のサイクルが完成します。
健全な範囲でのコスト改善と、消費者が安価なものを好むこと自体は否定するべきものではありません。しかし、企業努力という名のもとで行き過ぎたコストダウンを行うことは、必ずどこかで新たな歪みを生み出します。
実現困難な安さを実現するには、原材料を出来るだけ安く仕入れて、安く作る必要があります。
乾いた雑巾を絞るようなコストダウンの先で、地球環境や労働者の人権は切り取るべきコストとみなされ、資源の過開発や、労働力の搾取が生まれるのです。
このような「大量生産・大量消費」モデルが変わらない限りは、この裏に潜む環境問題・社会課題は根本的に解決されないのかもしれません。
しかし消費者である私たち一人ひとりが、購買行動を通して、その流れに一石を投じることはできるのではないでしょうか。
“サステナブルな消費者”になるために心がけたい3つのポイント
「大量生産・大量消費」のサイクルから脱することは、持続可能な社会を作るための第一歩です。
企業は、消費者が買いたいものを作るように行動します。
言い換えれば、消費者は購買行動を通じて企業に意思表示をすることができます。
サステナブルな消費者になるために、以下の3つのポイントを心がけてみましょう。
1.必要なものを、必要な量だけ買う
たくさん作れば消費者が買ってくれる!と企業が認識してしまうと、企業が生産する量はおのずと多くなります。
「安いからとりあえず買って、気に入らなかったら買い替えよう」という消費者マインドが、大量生産を加速させているともいえます。
格安〇〇や、バーゲンセールの文字が消費者の購買欲を湧き立てることは否めない事実です。
しかし買う前に「それ、本当に要るの?」と自分に問いかけることで、不要なものを買わずに済むかもしれません。
過剰に供給された商品の末路は悲惨なものです。
大量廃棄社会~アパレル業界の不都合な事実~によれば、国内アパレルでは新品の服が1年間で約10億枚廃棄されているそうです。
食品ロスも天文学的な数字にのぼります。
政府広報の発表によると、日本の食品ロス量は年間570万トン。
毎日、大型トラック(10トン車)約1,560台分の食品を廃棄している計算になります。
- 買うものは必要最低限にする。
- 要らないものは買わない。
という行動を私たち消費者が取れば、この暴走した大量生産・大量消費サイクルを止めることができるかもしれません。
2.認証ラベル付きの商品を選ぶ
消費者がサステナブルな商品やサービスを見極めて買うことが出来れば望ましいですが、なかなかそう簡単にはいかないものです。
そこで判断の材料にしたいのが各種の認証マーク。
例えば「フェアトレード認証ラベル」が有名です。
出典:https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/intl_license.php
フェアトレードジャパンによると、これは国際的な認証機関「国際フェアトレードラベル機構」が認証した証だということです。
フェアトレード認証製品を購入することは、開発途上国の生産者をサポートすることに繋がります。
しかし、日本ではまだまだその流通量は多いとはいえません。
特定非営利活動法人フェアトレード・ラベル・ジャパンによれば、ドイツと日本のフェアトレード市場規模を比較すると、ドイツは2374億円と、日本の約18倍です。
スイスと年間購入額を比較すると、スイスは11,267円と日本の約108倍になっています。
ここから読み取れるのは、日本はまだまだサステナブルな消費行動に切り替えていく余地があるということです。
消費者がサステナブルな認証がついた商品を優先的に購入するようになれば、企業はそのトレンドを無視することはできないでしょう。
3.”安すぎる”を疑ってみる
すべての商品は作るために必要なコストが存在し、それを下回る価格で売ることはできません。
企業は利益をあげるために、原価を上回る価格設定を行っています。
この原理原則を理解したうえで、驚くほど安いものを見たことないでしょうか?
例えばファストファッションの出現で、機能性が高くオシャレな衣料が格安で手に入るようになりました。
でも中にはこんなに多くの布を使って、染めて、裁断・縫製し、はるばる海外から輸送して、日本の店頭でたったの500円!?といった商品もあります。
辿れば綿花の栽培から、店先に並ぶまで全ての工程で人の手が介在しています。
過剰に安価な商品を実現するには、これに介在する誰かがいくらかの犠牲を払っている可能性があります。
一般的な消費者の感覚で、「こんなに安くてなぜ儲かるの?」と直感的にピンときたときは、持続可能でない何かが潜んでいるのかもしれません。
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