サステナビリティ情報とは?開示する項目や基準、動向を解説

持続可能な社会の実現に向け、世界中でさまざまな取り組みが進められています。
最近では、投資家の中でもESG投資(環境・社会・ガバナンスに配慮した経営を行う企業への投資)に注目が集まるとともに、サステナビリティ情報の開示においても需要が高まっています。
日本では、2023年1月に公布・施行された法令により、有価証券報告書等を提出する企業に対し、サステナビリティの情報開示が義務化されました。
本記事では、サステナビリティ情報の概要や義務化の内容、報告時の注意点などをわかりやすく解説します。ぜひ参考にしてください。
サステナビリティ情報とは?
サステナビリティ情報とは、企業がESG(環境・社会・ガバナンス)の側面から、持続可能な社会の実現に向けた企業の取り組みや成果などをまとめた情報のことです。サステナビリティ情報は「非財務情報」とも呼ばれ、企業の売上や利益を示す「財務情報」の対の言葉になります。
サステナビリティ情報は、大きく分けて「環境」「社会」「ガバナンス」の3つに分類されます。
環境(E:Environment) |
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社会(S:Social) |
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ガバナンス(G:Governance) |
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投資家にとって企業のサステナビリティ情報は、財務情報だけではわからない企業価値や問題解決力を把握する上で重要です。
なぜサステナビリティ情報の開示が求められるのか
環境問題や労働環境・人権などの社会問題への取り組みは、企業の社会的責任であり、ESGに配慮した会社経営が求められています。
また、サステナビリティ情報には、企業が長期的な視点でどのようにリスクに対応しているかが示されています。こうした背景から、投資家などは企業が持続可能な経営を行っているかどうかを判断する情報として、サステナビリティ情報の開示を求める声が広まってきたのです。
サステナビリティ情報の開示が義務に
これまで、サステナビリティ情報の開示は、企業が自主的に行っていました。
しかし、サステナビリティ情報の開示に対する世界的な需要が高まったことを受け、日本では2021年に東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを改訂しました。コーポレートガバナンス・コードとは、上場企業が企業統治を行う際の重要な原則をまとめたガイドラインです。
この改訂により、2022年4月以降、プライム市場に上場している企業(プライム上場企業)は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などのルールに沿った情報開示が義務付けられました。
また、2023年1月には「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正されました。2023年3月期決算から有価証券報告書などに「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が追加され、サステナビリティ情報の開示が義務化されています。
なお、有価証券報告書とは、企業が投資家や株主などに対し、自社の経営状況や財務状況を説明するための資料です。上場企業や条件を満たした非上場企業に提出が義務付けられています。
参考:コーポレートガバナンス・コード|株式会社東京証券取引所
サステナビリティ情報の開示基準
義務化されたサステナビリティ情報の開示は、決められたルールに沿って行われます。
決められたルール、すなわちサステナビリティ情報開示のフレームワークには、主に次の5つが使用されています。
- ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の「IFRS基準」
- SSBJ(サステナビリティ基準委員会)の「SSBJ基準」
- GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)の「GRIスタンダード」
- SASB(サステナビリティ会計基準審議会)の「SASBスタンダード」
- TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の「TCFD提言」
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の「IFRS基準」
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、2021年に開催されたCOP26にて、IFRS財団評議員会により設立された審議会です。ISSBは、これまで枠組みのなかったサステナビリティ情報の開示基準に、国際基準として「IFRSサステナビリティ開示基準(IFRS基準)」を設けました。
IFRS基準では、サステナビリティ情報の開示基準を「一般的なサステナビリティ(IFRS S1)」と「気候変動関連のサステナビリティ(IFRS S2)」の2つに分けています。
「IFRS S1」と「IFRS S2」の違いは、次の表のとおりです。
IFRS S1 (サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般要求事項) |
IFRS S2 (気候関連開示) |
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内容 | ESGに関する企業全体のサステナビリティ情報を開示 | 特に気候変動リスクについて詳しく開示 |
開示項目 |
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「一般的なサステナビリティ(IFRS S1)」は企業全体のサステナビリティ情報を示すルールです。一方、「気候変動関連のサステナビリティ(IFRS S2)」は、その中の気候変動に関する情報に特化したルールです。
SSBJ(サステナビリティ基準委員会)の「SSBJ基準」
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の設立を受け、2022年7月にSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が設立されました。SSBJは、日本国内の企業向けにサステナビリティ情報の開示基準を作成し、さらに国際的なサステナビリティ情報の開示条件の開発にも貢献することを目的としています。
その後、2025年3月5日にSSBJは「SSBJ基準」を発表しました。基本的な考えや構成はIFRS基準と同じですが、日本の実務や制度に合わせて調整を加えられています。
SSBJ基準には3種類の開示基準があります。
- サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」
- サステナビリティ開示テーマ別基準第 1 号「一般開示基準」
- サステナビリティ開示テーマ別基準第 2 号「気候関連開示基準」
ISSBの「IFRS S1」にあたる基準は、サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」とサステナビリティ開示テーマ別基準第 1 号「一般開示基準」の2つに分けて定められています。一方、「IFRS S2」に対応するのがサステナビリティ開示テーマ別基準第 2 号「気候関連開示基準」であり、国内企業向けに調整されているものの、内容はほぼ同じです。
SSBJ基準の3つの基準は同時に提出する必要があるため、基準が分かれていても開示内容には影響しないとされています。
参考:サステナビリティ基準委員会が我が国最初のサステナビリティ開示基準を公表|SSBJ
GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)の「GRIスタンダード」
オランダに本社がある国際的な非営利団体「GRI(Global Reporting Initiative)」は、2016年に「GRIスタンダード」という基準を公表しました。GRIスタンダードは、企業が社会や環境に与える影響(インパクト)を重視しており、ステークホルダー全体を対象としています。
GRIスタンダードは、「共通スタンダード」「セクター別スタンダード」「項目別スタンダード」の3つで構成されています。構成ごとの内容を次の表にまとめました。
共通スタンダード ※全ての組織に適用 |
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GRIセクター別スタンダード ※個別のセクターに適用 |
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GRI項目別スタンダード ※個別の項目に行う内容 |
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GRIスタンダードは定期的に改訂されており、特に2021年には「共通スタンダード」の大幅な改訂が行われました。
SASB(サステナビリティ会計基準審議会)の「SASBスタンダード」
SASB(サステナビリティ会計基準審議会)は、2011年にサンフランシスコを拠点に設立された非営利団体です。現在は、IFRS財団の元でISSBに統合されています。
SASBによって2018年に策定されたフレームワークが「SASBスタンダード」です。SASBスタンダードは、財務に影響するESG課題に焦点をあてており、77の業種ごとに基準を設定しています。
SASB基準では、業種別に以下の5つの局面でトピックを分割しています。
- 環境(温室効果ガス排出量、エネルギー管理、生態系への影響など)
- 社会資本(データセキュリティ、顧客の福祉、製品の品質と安全性など)
- 人的資本(多様性&インクルージョン、従業員エンゲージメントなど)
- ビジネスモデルとイノベーション(製品設計とライフサイクル管理など)
- リーダーシップ(経営理論、法規制環境の管理など)
現在、SASB基準は「ISSB基準(IFRS S1/S2)の参考資料」に位置付けられています。また、IFRS基準における重要なツールの一つとして利用されています。
参考:SASBスタンダード
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の「TCFD提言」
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、2015年に金融安定理事会が発足させたタスクフォースです。タスクフォースとは、組織において緊急性の高い問題や特定の問題を解決するために、一時的に作られる組織です。TCFDの目的は、投資家の適切な投資判断のため、一貫性、比較可能性、信頼性、明確性のある、気候関連財務情報の開示を企業に促すことにあります。
そして2017年6月には、気候変動に関するリスクと機会を報告するガイドラインとして「TCFD提言」を公表しました。
TCFD提言は、以下の4つの要素に分けて情報開示を求めています。
- ガバナンス:気候関連リスクと機会に関する組織のガバナンス
- 戦略:組織の事業・戦略・財務への影響
- リスク管理:気候関連リスクの識別・評価・管理の状況
- 指標と目標:気候関連リスクと機会の評価・管理に用いる指標と目標
出典:【参考資料】気候関連財務情報開示 タスクフォース(TCFD)の概要|環境省
また、TCFD宣言では、気温上昇を2℃以内に抑えることを前提とした世界を想定し、企業の事業や経営にどのような影響が生じるのかを分析・開示することを重視しています。
各評価基準の比較一覧表
これまで紹介した「IFRS基準」「SSBJ基準」「GRIスタンダード」「SASBスタンダード」「TCFD提言」について、それぞれの違いや特徴を表にまとめました。
指標 | 策定団体 | 目的 | 読者の対象 | 特徴 |
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IFRS基準 | IFRS財団 (ISSB) |
財務に重要なサステナビリティ情報の開示 |
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SSBJ基準 | サステナビリティ基準委員会 | IFRS基準を日本企業向けに調整 | ※日本国内
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GRIスタンダード | GRI | 社会・環境への影響の開示 |
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SASBスタンダード | SASB ※ISSBに統合 |
財務に影響するESG課題の開示 |
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TCFD提言 | FSB (金融安定理事会) |
気候関連財務情報の開示 |
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サステナビリティ情報を開示する際、企業は複数の基準を活用できます。ただし、開示する基準は、誰にサステナビリティ情報を開示するのか(投資家・株主・従業員など)を考慮し、企業の方針に合わせて選ぶことが重要です。
サステナビリティ情報の開示についての国内外の動向
サステナビリティ情報の開示については、国内外でさまざまな動きが見られます。日本と海外に分けて、それぞれの動向を説明します。
日本の動向
日本では2023年1月、「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正されました。これにより、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目が新たに追加されています。また、既存の「従業員の状況」の項目にも、女性管理職比率や男性育休取得率、男女間賃金差異の記載が加わりました。
そして、2025年3月にはSSBJ基準が発表されています。これを受け、金融庁はSSBJ基準の適用開始時期を以下のようにする方針を発表しています。
- 株式時価総額3兆円以上の企業→2027年3月期から
- 株式時価総額3兆円未満1兆円以上の企業→2028年3月期から
- 株式時価総額1兆円未満5,000億円以上の企業→2029年3月期から
株式時価総額によって段階的に適用時期を設定し、最終的にはプライム上場企業の全企業にSSBJ基準を適用義務化することが予定されています。
参考:第4回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 事務局説明資料|金融庁
海外の動向
近年、海外ではサステナビリティ情報の開示が「任意」から「義務化」になる動きが見られます。特にEUでは、法規制の整備や国際基準の統一などが行われています。
EUでは、2023年1月に「CSRD(企業サステナビリティ開示命令)」が発令され、2024年から段階的に施行が始まりました。CSRDとは、EU域内の大企業、上場企業(例外あり)、条件を満たしたEU域外の企業において、サステナビリティ情報の開示を義務化するものです。開示基準は欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)で定められており、開示情報は第三者認証が必要となります。
一方、アメリカでは、2024年3月にSEC(米国証券取引委員会)が気候関連情報の開示を義務化する最終規則を公表しました。この規制は上場企業に対して、気候変動関連のリスクやGHG排出量(Scope1・2)の開示を義務付けるものです。しかし現在、トランプ大統領は反ESGの動きを見せており、サステナビリティ情報の開示についても実質的に廃止の状態にあります。
サステナビリティ情報の開示への流れ
日本において義務化が進められるサステナビリティ情報の開示。これから取り組むという企業も多いのではないでしょうか。
最後に、サステナビリティ情報を開示する際の基本的な流れを説明します。
①重要課題の明確化・開示基準の策定
まず取り組むのは、企業にとっての重要な課題を明確化することです。企業は、自社が環境・社会・経済活動にどのような影響を与えるかを想像し、その上で優先順位を設定して取り組みます。優先順位を正しく決めるためには、ステークホルダーが何を重視しているかを把握することが大切です。また、重要課題を選ぶ際は、開示基準を参考にするとスムーズです。
優先順位が決まったら、次にサステナビリティ情報の開示基準を策定します。先に紹介したように、開示基準はさまざまで、それぞれ特徴があります。どの点を重視するのか、誰に向けて開示するのかを考慮しながら適切な開示基準を選びましょう。
②体制構築・情報収集
正確かつ透明性の高いサステナビリティ情報を開示するためには、体制構築が重要です。エネルギー消費量やダイバーシティの体制など、幅広いサステナビリティの情報を収集する必要があります。
正確なデータ収集のためには、会計システムなどの既存システムを活用します。一方で、Excelなどでの手動計算は、ミスや属人性の高さに注意が必要です。
また、データ収集は一度きりではありません。継続できるシステム構築や人員の確保、データの取り扱いなどを考慮した体制構築が重要です。
③サステナビリティ情報の開示
必要なデータが収集できたら、サステナビリティ情報の開示資料を作成し、ウェブサイトへの掲示や報告書の提出を行います。有価証券報告書やCSRレポートなど、目的ごとに報告媒体を使い分けることが大切です。なお、サステナビリティ情報の開示基準は、複数の基準を併用することもできます。
また、第三者保証の実施は、サステナビリティ情報の信憑性を高めてくれます。第三者保証とは、企業が公表する情報の正確性や信頼性を外部機関が確認・評価するプロセスです。
まとめ
サステナビリティ情報の開示は、投資家がESG投資を行う際の重要な情報です。
一方で、膨大なデータの収集や専門的知識が必要になるなど、企業側の心理的ハードルは高いといえます。しかし、サステナビリティ情報の開示は、ステークホルダーからの信頼を高め、結果として企業価値の向上にもつながります。
持続可能な社会の実現と経営の観点から、今後ますますサステナビリティ情報の積極的な開示が求められるでしょう。
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