ISSB総まとめ|概要から日本企業への影響・対応策まで徹底解説!

ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、サステナビリティ情報を開示するための国際基準を作っている機関です。企業が持続的に成長するために、環境や社会などサステナビリティに配慮した経営がますます重要になっています。そこで設立されたのがISSBです。
本記事では、ISSBの概要からIFRS S1・S2の詳細を分かりやすく解説します。さらに2027年開始予定のISSB開示義務化にあたり、日本企業への影響や企業が取るべき対応も言及します。ぜひ参考にしてみてください。
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは
ISSBは「International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称で、サステナビリティ情報開示の国際基準を策定する機関です。
企業がサステナビリティ情報を開示する際の「一貫性」と「比較可能性」の向上を目的に、国際的な基準が必要だとして、ISSBが設立されました。
参考:日本経済団体連合会|ISSBにおける基準設定の現状と展望
ISSB設立の経緯
ISSBはIFRS財団(※1)のもとで、2021年11月に設立されました。設立の経緯は、これまで国ごとに異なるサステナビリティ開示基準が存在しており、投資家が企業の比較や評価を行うことが困難になっていたからです。公平で適切なESG投資(※2)のためには、世界中の企業が同じ基準でサステナビリティ情報を開示する必要があります。
ISSBの設立により、サステナビリティに関する情報を開示する世界的な統一基準が整いました。
IFRS財団(※1):国際会計基準(IFRS)の策定を担う民間の非営利組織。世界の金融市場に長期的な安定をもたらし、公共の利益に貢献することを目的に2001年に設立。
ESG投資(※2):財務情報だけでなく、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)に配慮した企業に投資すること。
2つのIFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)
2023年6月にISSBは、サステナビリティ開示基準を公表しました。ISSBが定めた開示基準はIFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)と呼ばれ、IFRS S1号とIFRS S2号の2種類があります。
IFRS S1号では、サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項を述べています。そのうち気候変動に関する情報に焦点を当て、詳細な開示要項を定めたものがIFRS S2号です。
以下で、それぞれ詳しくご紹介します。
IFRS S1号:サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項
IFRS S1号は企業のサステナビリティに関するあらゆる情報(リスク・機会)を、財務情報と関連づけて開示することを要求しています。理由はESG投資に見られるように、投資家の意思決定には環境・社会・ガバナンスの要素が重要になっているからです。
具体的には、企業の見通し(短期・中期・長期にわたる企業のキャッシュフロー、ファイナンスへのアクセスまたは資本コスト)に影響を与えることが合理的に見込まれる、すべてのサステナビリティ関連のリスクおよび機会を対象としており、広範囲に及ぶことが伺えます。
IFRS S1号では、財務諸表とサステナビリティ情報のつながりを重要視しているのが特徴です。企業は「サステナビリティ情報がどのように財務情報と関連しているか」を説明する必要があります。
参考:IFRS|IFRS S1号:サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項
参考:サステナビリティ基準委員会(SSBJ)事務局|SSBJ解説動画 IFRS S1号の概要
IFRS S2号:気候関連開示
IFRS S2号は気候変動に特化した基準で、気候変動が企業の業績や見通しへ与える影響を定量的かつ定性的に開示するためのものです。IFRS S2号は、IFRS S1号とともに適用する必要があります。
さらにGHG(温室効果ガス)排出量の開示も義務付けられており、Scope1~3までの総量を開示する必要があります。Scope1~3の詳細は、以下のとおりです。
- Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
- Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
- Scope3:Scope1・Scope2以外の間接排出
既存の開示基準/機関とISSBの違いと共通点
世界には、多くのサステナビリティ情報開示の枠組みが存在します。しかし、基準がばらばらで、企業や投資家が比較しにくい課題がありました。
ISSBの設立により、散在する枠組みや基準が統合・統一され、国際的に使える基準の整備が進んでいます。本項では既存の開示基準や機関と、ISSBの違いや共通点を説明します。
TCFDとの相違点と共通点
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)とは、気候関連財務情報開示タスクフォースの略称です。気候変動は⾦融システムの安定を損ない、リーマン・ショック級の脅威となる恐れがあります。
企業によっては気候変動から受けるリスクが非常に大きいため、「気候変動の財務への影響」を公開するように求めているのがTCFDです。TCFDにより投資家は、気候変動に関連した企業価値の判断が可能になりました。
TCFD提言では、サステナビリティ関連情報の開示は「任意」でした。対して、ISSB基準は「義務化」を見据えての開示基準である点が大きな違いといえるでしょう。
ISSB基準はTCFDの枠組みをIFRS S2号に引き継ぎつつも、IFRS S1号に見られるように適用範囲を「サステナビリティ全般」に広げています。
CDSB(気候変動開示基準委員会)とVRF(価値報告財団)はISSBへ統合
ISSBの設立に伴い、独自の非財務情報基準をもっていたCDSB(気候変動開示基準委員会)とVRF(価値報告財団)が統合されました。
CDSBは気候変動や自然資本に関する情報開示、VRFは国際統合報告や産業セクター別の開示基準(SASB基準)を運営しています。複数機関の統合により、報告コストの削減や情報の一貫性向上が実現し、投資家にも比較が容易になりました。
参考:日本公認会計士協会|価値報告財団:Value Reporting Foundation(VRF)が設立されました(IIRCとSASBが合併)
非財務情報開示基準の統一化
ISSBによって非財務情報の開示基準の統一も図られました。非財務情報とは例えば、財務諸表には載らない経営戦略・経営課題、ESGやCSR に関する取り組みなどです。非財務情報開示をめぐっては、作成者である企業や投資家、従業員や顧客、取引先によってその解釈や理解にギャップがあり、共通認識が取れていない状態でした。
ISSBの発足により国際的なサステナビリティ開示基準が作成されたことで、投資家やステークホルダーは情報の解釈や比較が容易になります。同時に、企業はより適切な評価を受けられるでしょう。
参考:経済産業省|サステナビリティ開示と企業価値創造の好循環に向けて
ISSBによる日本企業への影響
ISSBの動きは、日本企業にも直接影響します。2027年3月期から、一部上場企業を対象に開示が順次義務化されます。中小企業も親会社や関連企業から、必要な情報を提供するように求められることが想定されるため、準備が必要です。
日本版サステナビリティ基準委員会「SSBJ」とは
SSBJは「Sustainability Standards Board of Japan」の略称で、日本国内のサステナビリティ情報開示基準を策定する機関です。ISSBの国際基準を踏まえつつ、日本の実情に合ったルールを整えるために設立されました。
SSBJが公表した開示基準の草案には一部追加も見られるものの、ISSB基準にほぼ沿った内容です。ISSBでは先述のとおり、IFRS S1号とIFRS S2号の2つの基準があります。一方、SSBJ基準の草案では3つの基準がありますが、要求事項には国際的な整合性が取れるようになっています。
つまりSSBJ基準に準拠すれば、同時にISSB基準に準拠できるといえるでしょう。
参考:SSBJ|サステナビリティ基準委員会がサステナビリティ開示基準を公表
2027年3月期より順次ISSB開示が義務化
2027年3月期から、東京証券取引所プライム市場上場企業を対象にISSB開示が義務化されます。次いで、翌年の2028年3月期に順次対象を広げていく見込みです。
気候関連のみならず、すべてのサステナビリティ関連の情報に関して開示が求められるため、今から準備を進めておく必要があります。
ISSB開示基準へ向け企業が取るべき具体的な対応策
2027年のISSB開示義務化に向けて、企業はどのような準備を進めれば良いのでしょうか。
まずは自社にとって、何が「サステナビリティ関連のリスクおよび機会」となるか、そして何を「サステナビリティ関連のリスクおよび機会に関する重要な情報」として開示するかを選定しましょう。
次に、バリューチェーンの範囲を決定します。バリューチェーンとは、原材料の調達から製造、製品・サービスの販売といった企業の一連の事業活動が、どのように価値を生み出しているか分析するためのフレームワークです。
上流・自社・下流の大まかな商流の中で、どこにサステナビリティ関連のリスクおよび機会があるかを確認します。
開示すべき情報の選定およびバリューチェーンの範囲が決まったら、これらの情報がすでに社内にあるかどうかを確認しましょう。情報が不足している場合は、関連会社やグループ会社に協力を求めるなど、どのように収集するかを検討します。
最後のステップは、開示までのロードマップ作成です。必要な情報の整理、誰がいつまでに何を対応するのか、不足分の情報を集めるのにかかる工数はどのくらいかなどを踏まえ、優先順位を決めて対応しましょう。開示までの具体的なスケジュールを作成することで、いつから準備を始めるべきかが見える化され、必要な社内体制を整えられます。
SSBJの公式サイトでは「SSBJハンドブック」が公表されています。ISSB関連の用語集にはじまり、報告企業となる場合に収集すべき情報の範囲や参考資料が用意されているので参考にしてみてください。
参考:みずほリサーチ&テクノロジーズ|SSBJ基準に沿った開示準備の”How to” ~ついに始まる法定サステナ関連開示~
まとめ
ISSBの設立により、これまでばらばらだったサステナビリティ情報開示の基準が国際的に統一されました。2027年からISSB開示義務化が始まります。企業規模にかかわらず、今から準備を進めましょう。
忘れてはならないのは、ISSB開示義務化を企業にとってひとつの好機ととらえることです。サステナビリティに対する積極的な取り組みは、企業の大きな強みとなります。自社がサステナビリティ関連のリスクおよび機会に対処できているかの点検を行い、必要施策を講じることは、経営強化にもつながります。
ISSB開示義務化をチャンスととらえ、自社の企業価値をアピールしプレゼンス向上につなげていきましょう。
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