ダイバーシティ

「異彩を、放て。」|ヘラルボニーが描く、障害とアートで切り拓く新しい未来

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知的障害のある人々の表現を「欠落」ではなく「異彩」と捉え、社会に広めよう。その挑戦を続けているのが、岩手県発のライフスタイルブランド「ヘラルボニー」です。

創業者は双子の松田崇弥氏・文登氏。自閉症で重度の知的障害がある兄への想いをきっかけに、福祉の枠を超え、アートとビジネスを融合させる取り組みを始めました。ファッションや空間デザイン、企業とのコラボレーションなど、活動は現在、多方面に広がっています。

「異彩を、放て。」を合言葉に、社会の固定観念を揺さぶり、新たな文化の創造を目指す―。今回は、その歩みと事業を展開する「ヘラルボニー」を紹介します。

ヘラルボニーとは

ヘラルボニーとは

ヘラルボニーは、知的障害のあるアーティストの作品を「異彩」として捉え、福祉の枠を超えて社会に広め、アートとビジネスを融合させた岩手県発のライフスタイルブランドです。

ヘラルボニーの創業の経緯は、双子の兄弟である松田崇弥(たかや)氏と文登(ふみと)氏が、自閉症で重度の知的障害のある4歳年上の兄・翔太さんへの想いから始まりました。幼い頃、兄が周囲から冷たい視線を受け、社会の理解が十分に得られない現状を目の当たりにしたことが背景にあります。

ある日、崇弥氏は岩手県花巻市の「るんびにい美術館」で知的障害のある作家のアート作品に触れ、その素晴らしさに強く感銘を受けました。障害を「異彩」と捉え、障害のある人の個性や才能を社会に広めたいと強く願うようになったのです。

松田兄弟は、当初副業で「MUKU(むく)」というブランドを始めましたが、その後2018年に「ヘラルボニー」を創業。社名は、4歳年上の兄が子どもの頃に自由帳に書き残した謎の言葉「ヘラルボニー」に由来しています。彼らは「支援・福祉」としてではなく、ビジネスとして障害のあるアーティストの作品をIP(知的財産)を活用したライセンス管理や商品展開を行い、社会の障害に対する固定観念を変えていく挑戦を始めました。

「100年先の文化をつくる」というビジョンのもと、知的障害のある人々の「異彩」を解き放ち、先入観や常識の壁を超えて、社会を変革していくことを目指しています。

参考:ヘラルボニー「ヘラルボニー100年史」

参考:R100TOKYO「『異彩を、放て。』―福祉を起点に新たな文化を創出する「ヘラルボニー」の挑戦」

参考:METIJournalONLINE「『福祉×アート×ビジネス』で世界を変える。ヘラルボニーって何!?」

参考:SHANON「『異彩を、放て。』ヘラルボニーが目指す福祉領域と思想の拡張とは」

「異彩を、放て。」に込められた想い

「異彩を、放て。」に込められた想い

ヘラルボニーのミッションである「異彩を、放て。」には、障害のある人の持つ個性や才能を「異彩」と定義し、それに対するネガティブなイメージをポジティブなものへと変え、社会に広めたいという強い願いが込められています。このフレーズは、崇弥氏が前職でお世話になった企業の代表でありコピーライターでもある人が、独立を祝って考えてくれたものです。

「異彩」とは、障害があることによって生まれる独特で強烈なこだわりや表現力を指しており、それを日本全国から世界へと発信していくことで、障害に対する概念やイメージそのものを変化させていきたいという想いが込められています。従来の「障害=欠落や支援されるもの」という捉え方を変え、障害を「個性」として受け止め、社会の常識や先入観という壁を超えていこうとする挑戦を、この言葉で表現しています。

参考:R100TOKYO「『異彩を、放て。』―福祉を起点に新たな文化を創出する「ヘラルボニー」の挑戦」

参考:SHANON「『異彩を、放て。』ヘラルボニーが目指す福祉領域と思想の拡張とは」

参考:ヘラルボニー「ヘラルボニー100年史」

ヘラルボニーの主な事業内容

ヘラルボニーの主な事業内容

障害のある人の個性や才能を「異彩」と定義し、躍進を続ける「ヘラルボニー」。主な事業内容は以下のとおりです。

  • ライフスタイルブランド「HERALBONY」の運営
  • アートライセンス事業
  • 企業や自治体とのコラボレーション
  • 空間デザインや公共プロジェクトへの参画

ライフスタイルブランド「HERALBONY」の運営

ヘラルボニーが運営するライフスタイルブランド「HERALBONY」は、知的障害のある作家のアートを軸に、ファッションやインテリアなどさまざまなプロダクトを通じて人々の生活を彩り、福祉と生活の垣根をなくし、これまでにない新たな文化の創出を目指しています。

当初ブランドは、障害のある作家のアートをネクタイで再現するプロジェクトからスタートしました。その後、ハンカチや財布、ブラウス、エコバッグ、傘、クレジットカードなど多岐にわたる商品展開へと拡大しています。

2023年のキービジュアルテーマは「クリーンアンドモダン」で、多様性を認め合う社会への願いと、年齢・ジェンダーにとらわれない、クリーンな美意識を表現しました。契約アーティストの作品をモチーフにしたファッションアイテムも発表しています。

参考:ヘラルボニー公式サイト

参考:PRTIMES「ファッションブランド『HERALBONY』、衣・食・住を彩るライフスタイルブランドへ拡張」

参考:PRTIMES「アートライフスタイルブランド『HERALBONY』2023キービジュアルを発表」

アートライセンス事業

ヘラルボニーのアートライセンス事業では、主に知的障害のあるアーティストとライセンス契約を結び、それぞれの作品を高解像度でデータ化して管理しています。現在、日本全国の30以上の福祉施設や、約150名の知的障害のある作家と契約しており、保有するデータは2,000点以上にのぼります。さまざまなモノ・コト・場所で活用・展開できるビジネスモデルが特徴です。

作品の著作権を管理し、ライセンス料をアーティストや所属施設に還元する仕組みを通じて、障害のある作家の経済的自立や収入アップを支援しています。

参考:未来共創イニシアチブ「#14『異彩を、放て。』障害のある方も含め、誰もが、ありのままで生きていける社会をつくりたいとの想いから、福祉の枠をこえたビジネスを展開する(株式会社ヘラルボニー)」

参考:@Living「知的障害のある人が“アートで活躍する”世界へ。『ヘラルボニー』が切り開く福祉から始まる新たなカルチャー」

参考:taliki.org「障害は、欠落ではない。障害のある作家のアート作品をライセンスや商品として展開し、社会に接続する事業とは」

企業や自治体とのコラボレーション

ヘラルボニーは多くの企業や自治体と積極的にコラボレーションし、障害のある作家のアートを活用した多彩なプロジェクトを展開しています。

ヘラルボニーとのコラボレーションで特に有名なものの一つが、株式会社LIXILとの「エコカラット」シリーズです。ヘラルボニーが契約している、主に知的障害のある6名のアーティストのアート作品が、LIXILの内装機能タイル「エコカラット」のデザインに採用されました。

これらの作品は「アール・ブリュット(障害のあるアーティストによって描かれた作品)」と呼ばれる、専門的な美術教育を受けていないアーティストによる独自のデザイン表現を引用。多様性を尊重する社会のメッセージが商品に込められています。商品は2022年10月3日より全国で発売され、一部はLIXIL公式通販ストアでも販売されています。

参考:PRTIMES「ヘラルボニーが契約する6名の異彩作家のアートがLIXILのタイル製品エコカラットに起用」

参考:LIXIL「障害のあるアーティストの作品をエコカラットに起用したアール・ブリュットデザインを新発売」

空間デザインや公共プロジェクトへの参画

ヘラルボニーは空間デザインや公共プロジェクトへも幅広く参画しています。代表的なものとして、東京・銀座にある「ハイアットセントリック銀座 東京」では、ヘラルボニーとコラボレーションし、「HERALBONY ART ROOM」というコンセプトルームを設置。知的障害のあるアーティストの作品がインテリアとして彩りを添えています。

2025年8月からは、法人向けにインクルーシブな空間デザイン支援サービスを本格展開。企業や自治体の施設に対して、障害を超えた「ちがい」を価値として生かす設計や体験づくりを支援しています。単なるバリアフリーにとどまらず、多様性・公平性を取り入れた空間プロデュースが特徴です。

参考:NOMURA「乃村工藝社のソーシャルグッド活動:ハイアットセントリック銀座東京HERALBONYARTROOMの事例アートと空間デザインの共鳴で社会を変える」

参考:PRTIMES「ヘラルボニーとハイアットセントリック銀座東京の初コラボレーション」

参考:PRTIMES「ヘラルボニー、法人向けにインクルーシブなデザイン支援サービスの提供を開始」

SDGsの達成に向けたヘラルボニーの取り組み

SDGsの達成に向けたヘラルボニーの取り組み

ヘラルボニーは、障害がある人々が紡ぐアートやデザインなどを通じて、SDGs達成に向けたさまざまな取り組みも行っています。主な活動内容は以下のとおりです。

  • ダイバーシティ&インクルージョンの推進
  • 経済的自立の支援
  • サステナブルな文化創出と社会啓発

ダイバーシティ&インクルージョンの推進

ヘラルボニーはSDGs達成に向けて、特にダイバーシティ&インクルージョンの推進に力を入れています。ヘラルボニーの基本理念として象徴的なのが「異彩を、放て。」という言葉です。障害のある人だけでなく、ジェンダーやその他のマイノリティを含むすべての多様な個性を尊重し、社会に新しい価値を生み出すことを目指している姿勢を示しています。

アートを通じて、「障害」に対する見方を少しずつ変えていくために、障害の有無にかかわらず多様な人々が互いに理解し、受け入れ合える社会の実現を目指しています。

参考:MUGENLABOmagazin「アートの力で『障害』の概念を変えたいーヘラルボニーCOOが語る、グローバル展開とソーシャルイノベーション」

経済的自立の支援

国内外の約240名の知的障害のある作家と契約を結び、2,000点以上のアート作品をデジタル管理し、これをライセンスビジネスや商品開発に活用。作品の使用料やコラボレーション商品の売上の一部は、作家へのロイヤリティとして還元される仕組みを構築しています。

一般的な障害者就労施設の工賃は月額1万6,000円前後とされており、生活の自立が難しい状況です。しかし、ヘラルボニーと契約している作家の中には、ライセンス収入により年収が数百万円に達する作家もいます。単なる福祉支援という枠を越えて、ビジネスとしてアートを正当に評価し、公平に収益分配する仕組みを追求しているためです。

障害のある作家が社会で活躍し、認知度を高めることで、社会全体の障害に対するイメージや偏見の解消にも貢献しています。

参考:FRAU「『障害のある作家と社会に接点を』”障害とアート”の概念を変えるヘラルボニーの挑戦」

参考:未来共創イニシアチブ「#14『異彩を、放て。』障害のある方も含め、誰もが、ありのままで生きていける社会をつくりたいとの想いから、福祉の枠をこえたビジネスを展開する(株式会社ヘラルボニー)」

サステナブルな文化創出と社会啓発

丸井グループとの連携で展開する「ヘラルボニーカード」は、利用金額の一部が障害のある作家や福祉団体に還元される仕組みとなっています。日常の消費行動が社会貢献につながる、新しい社会参加モデルとして注目されました。

また、東日本大震災被災者である知的障害のアーティストや家族の声を反映し、災害時の孤立防止や共生社会の推進に寄与。建設現場の仮囲いをアートミュージアムのように活用するなど、まちづくりに貢献する革新的なアートプロジェクトも展開しています。

参考:MARUIGROUP「『使うたび、社会を前進させる』ヘラルボニーカード」

参考:HatenaBlog「日本から世界に伝えたいSDGs③『”普通”じゃないことは可能性 異彩作家が描くアートの輝き』」

まとめ

「異彩を、放て。」|ヘラルボニーが描く、障害とアートで切り拓く新しい未来のまとめ

ヘラルボニーが掲げる「異彩を、放て。」という言葉には、単に障害のある人を支援するという枠を超え、個性そのものを社会の価値として広めていこうという強い意志が込められています。そこには、障害を「欠落」ではなく「可能性」と捉え直す視点があり、私たちが普段当たり前と思っている見方に新たな気づきを促してくれるはずです。

アートライセンス事業やライフスタイルブランドの展開を通じて、知的障害のあるアーティストたちは作品を発信し、収入を得ることで経済的な自立にもつながっています。その歩みは、社会の中で埋もれていた才能を光の当たる場所へと導くだけでなく、新しい文化や経済の在り方を生み出す挑戦でもあります。

多様な取り組みの中で「障害=福祉」という固定観念を打ち破り、多くの人が自然に障害と向き合いながら、共に暮らす未来を描いているのではないでしょうか。

アートが社会を変える力を持つことを示し続けるヘラルボニー。これからも、固定観念を超えて新しい文化を切り拓いていく「ヘラルボニー」の挑戦に、私たちもぜひ注目していきましょう。

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