バイオエコノミーとは?戦略や課題を解説

バイオエコノミーと聞いて、「定義が難しそう」「自社にどう関係するのか分からない」と感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、バイオエコノミーの定義、日本のバイオエコノミー戦略、産業別の事例や市場動向、課題までを分かりやすく解説します。
読むことで、自社の事業機会を見つけるヒントが得られ、次世代市場に向けた第一歩を踏み出せます。
バイオエコノミーの定義と基本概念

バイオエコノミー(Bioeconomy)とは、バイオテクノロジーとバイオマスなどの再生可能な生物資源を活用した、持続再生可能な経済活動のことです。再生可能な生物資源の例としては、農作物や森林、海洋資源、微生物などがあげられます。
バイオエコノミーは、環境問題の解決と循環型社会の経済的成長を目指しています。
バイオテクノロジーやバイオマスと聞くと、難しく考えてしまうかもしれません。しかし、日本人になじみのあるみそや納豆、お酒を作る際の発酵や醸造のような伝統的な技術もその一つです。
近年は、培養やゲノム編集といった合成生物学の普及やAI技術の進化に伴い、応用範囲が広がりました。植物由来の原料と微生物の力を用いて高機能素材を開発したり、動物細胞を培養して培養肉を生産したりするなど、バイオテクノロジーの研究が進んでいます。
バイオエコノミーは、自然由来のものを活用して社会課題を解決する仕組みといえます。
注目される背景

バイオエコノミーは、環境・食料・健康などの地球規模のさまざまな課題の解決と、サーキュラーエコノミーの持続可能な経済成長を同時に可能にするものとして期待されています。
循環型経済とも呼ばれるサーキュラーエコノミーとは、資源を使い捨てにするのではなく、繰り返し循環させることを目指した、経済モデルです。従来の「資源を取る→作る→使う→捨てる」という直線的な経済から脱却し、すでにある資源を大切に扱うとともに、廃棄物を資源として再利用することを重要視しています。
バイオエコノミーが世界的に注目される背景には、大きくわけて3つの理由があります。
1つ目は、温室効果ガスを減らす必要があることです。化石燃料の使用は温室効果ガスを発生させ、異常気象や大規模な自然災害など、さまざまな気候変動をもたらします。バイオ由来の素材や燃料を使えば、二酸化炭素の排出の削減が可能です。
バイオエコノミーは、脱炭素に貢献する分野として注目されています。
2つ目は、安定した供給を保障するためです。感染症の流行や世界的な人口増加、国際情勢などを背景に、食料、エネルギー、医薬品などを安定的に確保することが世界共通の課題となっています。
バイオエコノミーには、各国が輸入に頼ることなく国内生産を増加させ、サプライチェーンを安定化させることが期待されています。
3つ目は、バイオテクノロジーが劇的に進歩したことです。AIの進化に伴い、合成生物学やゲノム編集技術、DNA合成技術などが追い風となっています。幅広い分野での活用が期待されています。
バイオエコノミーは、環境を守りながら新しい産業を生み出す仕組みとして、多くの国や企業に欠かせないテーマです。
バイオエコノミーの市場規模と課題

ここでは、バイオエコノミーのメリットとデメリットに触れながら、市場規模と課題を解説します。
国際的な市場規模予測
バイオエコノミーの大きな強みは、環境への負担を減らしながら経済成長につなげられる点です。社会課題の解決と経済成長を同時に実現する「第五次産業革命」の中核の一つと位置付けられています。
マッキンゼーの分析によると、細胞内分子や細胞、臓器を活用するバイオエコノミーの世界市場は、2030〜2040年にかけて200兆円から400兆円の規模に成長すると予測されています。バイオものづくりの分野では、今後の大幅な市場規模の拡大を見越した巨額の投資が見込まれるため、バイオエコノミーの進出は企業にとっては新たなビジネスチャンスです。
アメリカは2022年に、「持続可能で安全・安心な米国バイオエコノミーのためのバイオテクノロジーとバイオものづくりイノベーション推進に関する大統領令」に署名しました。今後10年以内に世界の製造業の3分の1をバイオものづくりへ置き換えられ、その市場規模が最大で30兆ドル(約4,000兆円)に拡大すると分析しています。
バイオエコノミーは、大規模な新市場を生み出す原動力として期待されています。
解決すべき課題
バイオエコノミーの実現には、解決すべき課題も多く存在します。最大の壁はコストです。
生物資源を使った素材や燃料は生産コストが高く、価格競争力が低いことが課題です。
技術が実験室レベルから商用化に移る際には、スケールアップの難しさが立ちはだかります。新規の設備投資が高いにもかかわらず、生産性が低いため投資対効果が見合わないと懸念されています。
さらに、規制や制度の整備が不十分なことも課題です。ゲノム編集や合成生物学を活用する技術には倫理的な問題や地球環境リスク、安全性への懸念があります。定義や制度の見直しは慎重に進める必要がありますが、最先端のバイオ技術や製品に適合させるために柔軟な対応も必要です。
参考:経団連|バイオトランスフォーメーション(BX)実現のための重要施策
日本のバイオエコノミー戦略2024

日本政府は、2024年6月3日に開催された統合イノベーション戦略推進会議で、2019年に策定した「バイオ戦略」の名称を改定し「バイオエコノミー戦略」を決定しました。バイオエコノミー戦略では、現在60兆円の市場規模を、2030年までに国内外で100兆円規模の市場を生み出すことを目標としています。
持続的な経済成長と社会課題の解決を実現するため、バイオエコノミー市場として次の5つの重点分野が設定されています。
- バイオものづくり・バイオ由来製品
- 農林水産業を持続させるシステム
- 木材を活用した大型建築やスマート林業
- バイオ医薬品・再生医療・遺伝子治療
- 生活習慣改善のためのヘルスケア・デジタル医療
日本政府は、戦略の推進にあたり、市場間の横断的な関わりや相乗効果を意識しつつ、技術開発の加速化、市場環境の整備、事業環境の整備などを、推進する意向を示しています。
具体的な応用分野

ここでは、バイオエコノミー市場として期待される分野とは、具体的にどのようなものなのかを解説します。
化学・素材分野
石油の代わりに植物や微生物を活用する取り組みが進んでいます。バイオプラスチックや高機能素材は、医薬品、自動車産業、化粧品など、さまざまな産業分野で利用される技術です。
食品加工分野
代替肉や培養肉の開発が代表例です。植物性タンパク質や細胞培養技術を用いた肉は、畜産による温室効果ガス排出を抑える手段として世界的に開発が進んでいます。
ゲノム編集を活用し、高収量や病虫害抵抗性、気候変動に対応した作物の品種改良なども期待されています。
農業分野
農業や食品の分野では、持続可能な食料供給と環境保全の両立を目指して、バイオ技術が導入されています。
代表的な例が、ロボット、AI、IoTなどの先端技術を活用するスマート農業です。人手不足を補いながら、環境への負担を減らして生産効率を高める方法を確立することを目指しています。
さらにスマート農業について知りたい方は、下記の記事をお読みください。
関連記事:スマート農業とは?注目される背景からメリット・取り組む企業を紹介
木材活用大型建築・林業分野
建築物への木材利用は、気候変動対策の重要な取り組みの一つです。木材は、鉄やコンクリートの建築資材より比較すると、製造や加工時のエネルギー消費や二酸化炭素の排出量が少ないといわれています。
AIやICTなどのデジタル技術の活用によって、森林境界の明確化、林業機械の自動化、林業の生産性や安全性の向上などが期待されています。
医療・健康分野
従来治療が難しかった病気にも対応できるように、バイオ医薬品や再生医療の開発が進められています。
デジタルヘルスと組み合わせることで、個人ごとの予防医療や健康管理が可能になりつつあります。
海外・日本の企業事例

バイオエコノミーの分野では、海外のベンチャー企業が先行して事業を拡大し、世界市場をリードしています。日本企業でも、環境問題の解決と新しいビジネスを両立させようとバイオエコノミーへの挑戦を進めている事例があります。
ここでは、国内外の企業事例をまとめました。
アメリカ「Beyond Meat(ビヨンドミート)」
アメリカのビヨンドミートは、植物性タンパク質を使った代替肉を開発しました。ハムやソーセージなどの加工品、ファストフードやレストランの食材として活用されています。
植物由来のタンパク質を原料としているため、牛や豚などの動物飼育に必要な大量の水資源や土地を使う必要がなく、環境負荷の低減に寄与しています。
参考:BEYOND MEAT
アメリカ「Eat Just(イート・ジャスト)」
アメリカのイート・ジャストは、培養肉の開発に取り組んでいます。動物の細胞に直接アミノ酸やグルコースなどの栄養を与えて培養することにより代替肉を生産することに成功しました。
2024年5月に、子会社であるシンガポールの小売店「GOOD Meat(グッドミート)」で培養肉「GOOD Meat3」の販売を開始しました。
参考:ジェトロ(日本貿易振興機構)|米イート・ジャスト、シンガポールで培養肉入り代替鶏肉の常時販売を開始
参考:GOOD Meat|GOOD Meat Begins the World’s First Retail Salesof Cultivated Chicken
日本「Spiber(スパイバー)」
山形県鶴岡市にあるベンチャー企業のスパイバーは、微生物発酵を活用してクモの糸に似た繊維を開発しました。化石資源を使用しないため、環境負荷の少ない次世代素材として注目されています。
ゴールドウインと4年以上に渡って研究開発した末、2019年12月にMOON PARKAを発売し、初めてBrewed Protein™ファイバーを使用した製品の商品化に成功しました。
参考:Spiber
日本「カネカ」
カネカは、植物油などを原料に微生物を発酵させるプロセスによって「カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet®」を開発しました。ポリマーは、微生物によって分解され、最終的に二酸化炭素と水になるため、海洋プラスチック問題の解決に寄与すると期待されています。
スターバックスのテイクアウト用カトラリーや東急ホテルズ&リゾーツが運営するホテルのアメニティなど、さまざま製品に加工され、実用化にも成功しています。
参考:カネカ|カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet®でなぜ世界が健康になるの?
日本「ユーグレナ」
ユーグレナは、ミドリムシの食用屋外大量培養を世界で初めて実現しました。ミドリムシは食品や化粧品などに加工され、販売されています。
ユーグレナが開発したミドリムシは培養方法によって、体内により多くの良質な油を生産できるため、ミドリムシからバイオ燃料を製造することも可能です。循環型社会を構築する役割が期待できます。
日本「ホクサン」
医薬分野では、ホクサンと産業技術総合研究所が共同で、イチゴ由来の成分からイヌの歯周病治療薬「インターベリーα®」を開発しました。遺伝子組換え植物の果実そのものを有効成分として用いた、世界で初めての医薬品です。
イチゴの栽培から収穫、薬への加工や包装まで、完全に密閉された植物工場で実施しています。これは、原料となるイチゴが外部へ漏出することを防ぐと同時に、医療品としての品質を保障することを目的としています。
参考:ホクサン株式会社|「インターベリーαⓇ」猫の歯肉炎に対する適応症拡大のお知らせ
循環型社会をけん引するバイオエコノミー

バイオエコノミーの活用は、単なる環境対策ではなく、新しい成長戦略です。積極的に取り組むことで、企業は持続可能な社会づくりに貢献しつつ、次世代市場での競争力を高められます。
最後に、バイオエコノミーに関する要点を確認しましょう。
- バイオエコノミーは、生物資源を活用して環境と経済を両立させる仕組みである
- 世界市場は急成長しており、日本も2030年に100兆円規模の市場創出を目指している
- 化学・農業・医療・デジタルなど多分野で応用が広がっている
- 課題はコスト、規制、供給の安定化である
- 海外ベンチャーや日本企業の成功事例は、事業化の可能性を示している
未来を見据えた企業は、環境配慮と収益性を両立させながら、社会に信頼される存在へと進化します。バイオエコノミーを次の事業戦略に組み込み、持続可能な未来を切り拓いていきましょう。
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