新エネルギーの水素燃料とは?メリット・デメリットや作り方も紹介
水素燃料とは、水素の燃焼や酸化などのエネルギーを利用する燃料です。
利用時に二酸化炭素を排出しないことから、環境負荷の少ない新エネルギーとして知られています。
水素燃料で走る車「燃料電池自動車(FCV)」や家庭用燃料電池「エネファーム」などが広まり、選択肢の一つとして考えている方もいるのではないでしょうか。
しかし「本当に安全なの?」「水素燃料のメリットやデメリットはあるの?」と不安に思う方もいるかもしれません。
今回は、水素燃料の概要を作り方やメリット・デメリットと併せて紹介します。
水素燃料とは?
水素燃料は水素と酸素を反応させ、その過程でエネルギーを発生させています。
中学の理科で、水の電気分解の実験を行なった記憶はありませんか?
水の水素分解では、水に電圧をかけることで水素と酸素を取り出します。
これに対し、水素燃料は水素と酸素を反応させる際の電力を利用します。
- 水の水素分解:水+エネルギー→水素+酸素
- 水素燃料:水素+酸素→エネルギー+水
広く使われている化石燃料は、燃焼時のエネルギーを利用して発電しますが、同時に二酸化炭素を排出します。
一方、水素燃料の反応後は水が残るだけ。廃棄時の環境負荷も少なく済みます。
水素燃料は日本だけでなく海外でも注目されている新エネルギーです。
アメリカのカリフォルニア州では、2030年までに水素ステーションが1,000カ所整備される予定です。
水素燃料の作り方
環境にやさしいエネルギーとして注目が集まる「水素燃料」ですが、どのように作られるのでしょう。
水素燃料の特徴の一つに、さまざまな物質から作れるというものがあります。
水素燃料は水だけでなく化石燃料やバイオマスからも取り出すことが可能。
そして原料や作り方によって、水素燃料は3つに分けられます。
- グレー水素:化石燃料から作られ、二酸化炭素を排出する
- ブルー水素:化石燃料から作られ、二酸化炭素を排出しない(回収・貯蓄・利用される)
- グリーン水素:再生可能エネルギーから作られ、二酸化炭素を排出しない
それぞれの作り方をみていきましょう。
化石燃料から作られ、二酸化炭素を排出する「グレー水素」
グレー水素は、石炭や天然ガスなどの化石燃料から作られる水素です。
最初に、化石燃料を燃焼してガスにします。
そしてガスの中から「改質」と呼ばれる製造方法で水素を作り出します。
「改質」は化学反応によって炭化水素の構造などを変える技術です。
改質法は確立されている技術であり、最も一般的な工業化された水素の作り方です。
この方法を拡大し、安価な原料で水素を作れば、水素燃料の普及に繋がると考えられています。
しかし原料に化石燃料を使用することや、化石燃料の燃料時に二酸化炭素を排出するため、環境への負担が懸念されます。
化石燃料から作られ、二酸化炭素を排出しない「ブルー水素」
グレー水素と同じ化石燃料から作られますが、二酸化炭素を発生しない水素が「ブルー水素」です。
ブルー水素でも、まず化石燃料を燃焼してガスにしますが、二酸化炭素の回収・貯留する技術(CCS)と組み合わせることで、二酸化炭素の排出量を抑制することができます。
このため、カーボンニュートラルに貢献する可能性があると期待されています。
しかし現在のCCS技術では、二酸化炭素の回収効率が85〜95%とされており、二酸化炭素排出量を完全にゼロにはできていません。
2016年から2019年に北海道苫小牧市で行われた実証実験では、CCSの二酸化炭素削減能力が実証されましたが、コストの高さなど課題はあります。
再生可能エネルギーから作られる「グリーン水素」
水を再生可能エネルギーを利用して分解して作られた水素を「グリーン水素」といいます。
グレー水素やブルー水素は原料に化石燃料を使用し、二酸化炭素を排出しますが、グリーン水素は二酸化炭素を排出しません。
そのため、最も環境負荷の少ない水素といえます。
カーボンニュートラルの観点から考えると、グリーン水素を普及させる必要があると思われるかもしれません。
しかしグリーン水素は2019年時点でグレー水素の2〜3倍の価格です。
しかし2015年から2020年にかけて40%のコストダウンが行われていることから、グリーン水素は今後さらに低価格になると考えられるでしょう。
水素燃料の2つのメリット
次に水素燃料のメリットをみていきましょう。水素燃料のメリットは2つあります。
- 二酸化炭素排出量が削減できる
- 製造原料の代替性が高い
二酸化炭素排出量が削減できる
水素燃料は、利用する際に二酸化炭素を発生しません。
ブルー水素は化石燃料の燃焼時の二酸化炭素を回収・貯留するため、二酸化炭素排出量は実質ゼロですし、グリーン燃料に関しては全く出ません。
水素燃料で発電した際に発生するのは、水だけです。
水素燃料で走る燃料電池自動車(FCV)は、随時水を排水しながら走行することができるので、排水時の手間もありません。
製造原料の代替性が高い
また、製造燃料の代替性の高さも、水素燃料のメリットの一つです。
水素燃料の原料には、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料のほか、廃プラスチック、下水汚泥メタノール、エタノールなどがあります。
さまざまな原料から水素を作り出すことができるため、一つの資源に頼ることなく水素を生産できます。
日本は化石燃料のエネルギー源となる資源が少ない国なので、石油や石炭、天然ガスは輸入に頼っています。
そのため、国際情勢の影響を受けやすいというデメリットも。しかし国内生産できる水素燃料は、海外の影響を受ける可能性が低いです。
水素燃料の2つのデメリット
環境負荷が少なく、国内生産が可能であるなどメリットの多い水素燃料ですが、デメリットもあります。
水素燃料のデメリットは主に2つあります。
- 燃料そのものが高価格
- 人為的なミスによる爆発の危険がある
燃料そのものが高価格
1つ目のデメリットは、燃料そのものが高価格であることです。
街中でEV車の充電ステーションを見かけることは増えましたが、水素燃料の充電ステーションはあまり見かけません。この原因の一つが価格です。
水素燃料と同じ新エネルギーとして有名なものに「燃料アンモニア」と呼ばれるものがあります。
燃料電池と燃料アンモニアのコストを比較すると、価格位は2〜4倍ほどの差があります。
出典:https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/3-8-4.html
現時点での価格は高いものの、技術開発などにより水素燃料にかかるコストは下がりつつあります。
人為的なミスによる爆発の危険がある
水素の発火点は570℃と高温です。
そのため、自然発火は少ないですが、爆発の危険性がゼロとはいえません。
実際に2019年には、ノルウェーでは水素ステーションで大規模な爆発が起きています。
この事故は、水素ステーションで使われていたバルブの不良によるものでしたが、一時的に全ての水素ステーションが閉鎖される事態になりました。
同様の事故は韓国でも発生しています。
どちらの事故も人為的なミスが原因だったものの、今後さらなる安全性の確保が求められるでしょう。
水素燃料の利用方法
最後に、水素燃料の利用方法をみていきましょう。
水素燃料は新エネルギーとして注目されていますが、どのような使い方があるのでしょうか。
現在、すでに利用されているものには、以下の2つがあります。
- 燃料電池自動車(FCV)
- 家庭用燃料電池「エネファーム」
自動車(FCV)の燃料として
燃料電池自動車(FCV)とは、水素燃料でモーターを回して走る自動車のこと。
水素ステーションで水素を補給しながら走行します。ガソリン車のガソリンを、水素に置き換えたのと同じです。
走行時には二酸化炭素を排出せず、水蒸気を発生するのみで地球温暖化にも貢献します。
また水素燃料は化学反応によるエネルギーであるため、一般的なガソリン車に比べて騒音が少ないという特徴があります。
さらに現在普及している電気自動車と比較して、短時間での水素充填が可能。
電気自動車ほど時間はかかりません。
充填1回の走行距離は電気自動車が約400kmであるのに対し、FCVは650〜750km走行できます。
FCVの燃費はガソリン車とほぼ変わらず、将来はガソリン車の代替になるのではないかと考えられています。
家庭用燃料電池「エネファーム」に
「エネファーム」は、水素燃料を家庭で利用したものです。
水素燃料は、水素と酸素の化学反応で電気を作りますが、この時発生する熱を利用し、給湯も同時に行います。
エネルギーを無駄にしないので、省エネにもなります。
2009年、世界で先駆けて東京ガスがエネファームの販売を開始。
2009年時点では約5000台ほどの導入でしたが、2023年3月時点には累計販売台数48万台を突破しました。
エネファームで利用される水素は、都市ガスやLPガスから取り出されます。
改質の際に二酸化炭素が発生するものの、従来の火力発電と比較すると大幅に二酸化炭素排出量を削減できるといわれています。
まとめ
今後、さらなる普及が考えられる水素燃料。
さまざまな燃料から水素が作れるのは、エネルギー自給率の低い日本にとっては嬉しいポイントだといえます。
また二酸化炭素排出量も抑えられるため、地球温暖化対策としても期待できます。
グリーン水素なら、二酸化炭素を一切排出せずに発電することが可能です。
このように環境保護の観点から考えるとメリットの多い水素ガスですが、コストの高さや安全性においては課題が残ります。
今後どのような技術が開発されるのか、どれだけ低コスト化が進むのか、注目していきたいですね。
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