地方創生

MaaSで地域交通をリ・デザインする|仕組み・導入事例・自治体が取り組むべきポイント解説

移動は、わたしたちの暮らしを支えるもっとも重要な基盤の一つです。しかし今、日本の地域交通は未曽有の危機に直面しています。人口減少や少子高齢化、そして深刻な「担い手不足」により、令和5(2023)年度のデータでは、路線バス事業者の約74%、地域鉄道事業者の約83%が赤字収支という厳しい現実にあります。
こうした社会課題を解決し、環境負荷を低減しながら誰もが自由に移動できる社会を再構築(リ・デザイン)するための切り札として注目されているのが、「MaaS(マース)」です。
本記事では、サステナブルな視点からMaaSがもたらす価値と、日本各地での導入事例、そして自治体や企業が取り組むべきポイントを体系的に解説します。

MaaSとは何か:単なる移動手段の統合ではない、新しい価値

MaaS(Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人ひとりの移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを適切に組み合わせ、検索・予約・決済などをワンストップで行うサービスを指します。
従来の移動は、電車、バス、タクシー、シェアサイクルなどの各手段をユーザーが個別に手配する必要がありました。これに対しMaaSは、これらを一つのシームレスなサービスとして統合します。

MaaSの仕組み:データがつなぐ移動のバトン

MaaSを実現する核となるのは、「データ連携」です。交通事業者が持つ時刻表などの「静的データ」や、リアルタイムの運行状況、混雑情報といった「動的データ」が、APIなどを介してプラットフォーム(MaaSプラットフォーム)上で統合されます。この仕組みにより、ユーザーはスマートフォン一つで適切なルートを選び、チケットの購入から支払いまでを完結できるようになります。

サステナブルな視点から見たMaaSのメリット

MaaSは単に「便利になる」だけではありません。持続可能な社会を創る上で、大きな3つの効果が期待されています。

●環境負荷の低減と「交通GX」の推進
自家用車から公共交通やシェアモビリティへの転換(モーダルシフト)を促すことで、温室効果ガスの排出を抑え、渋滞緩和や空間利用の効率化に貢献します。国土交通省が提言する「交通GX(グリーン・トランスフォーメーション)」では、MaaSの導入と併せて車両の電動化や再エネの地産地消を進めることで、脱炭素化を一気に加速させることを目指しています。

●すべての人に移動の自由を(ダイバーシティ&インクルージョン)
高齢者の免許返納が進む中、ラストワンマイル(自宅から最寄り駅・バス停まで)の移動手段の確保は急務です。MaaSは、オンデマンドバスやパーソナルモビリティを統合することで、高齢者や障がい者といった移動困難者の外出機会を創出し、交通安全の向上やQOL(生活の質)の改善に寄与します。

●地域の活性化と経済の循環
MaaSは小売り、飲食、観光、医療といった他分野との連携により、移動自体の付加価値を高めます。例えば、目的地での活動履歴(移動関連データ)を活用して、ニーズに応じた公共交通の再編や、効果的なまちづくり、インフラ整備が可能になり、地域経済の活性化につながります。

日本におけるMaaS導入の先進事例

現在、日本版MaaSの推進に向けた実証実験や社会実装が、全国の自治体や企業の共創によって進んでいます。

●【島根県大田圏域:医療MaaSによる医師の負担軽減】
医師不足が顕著な中山間地域で、オンライン診療設備を備えた「医療MaaS車両」を活用しています。准看護師などの代替者が車両で患者宅を訪問し、病院にいる医師とオンラインでつなぐことで、医師の移動時間を100%削減し、看護師の業務時間を36%削減するなどの効果を上げています。

●【静岡県焼津市:グリーンスローモビリティによる交流の創出】
時速20km未満で走行する電動車「グリーンスローモビリティ(グリスロ)」を導入し、観光と住民の日常移動を融合させています。焼津市LINE公式アカウントから30秒で予約・決済ができる仕組みを構築し、1日平均41.3ライド(2台運行時)の利用を記録。低速ゆえに運転手や乗客同士の交流が生まれやすく、地域活性化の「装置」としての価値も検証されています。

●【長野県塩尻市:自動運転レベル4とMaaSダッシュボード】
AIオンデマンドバスを導入し、乗降データを「MaaSダッシュボード」で可視化・分析することで、実需に基づいた効率的な運行計画を立案しています。さらに、2025年1月にはレベル4自動運転の許可を取得し、塩尻駅から市役所間での運行を実施するなど、人手不足解消に向けた先進的な取り組みを進めています。

●【九州全域:広域MaaSの連携】
九州7県が一体となり、鉄道・バス・船舶などを横断的に利用できるデジタルチケットを「my route」アプリ上で展開しています。官民の負担割合を1対1に設定し、広域でのデータ連携を進めることで、インバウンド観光客や地域住民の利便性を飛躍的に高めています。

自治体・企業がMaaSに取り組むべき体系的ポイント

MaaSは多様な関係者が関わるため、計画的に進めることが成功の鍵です。国土交通省のガイドラインに基づき、5つのレイヤーで整理して取り組むことが推奨されています。

1.戦略・政策層(ビジョンの明確化)
まずは、地域で何を実現したいのかというビジョンと目的を明確にすることが重要です。

  • 地域公共交通の確保・維持
  • 地域全体のデジタル戦略との整合
  • 高齢者や訪日外国人を含むダイバーシティへの配慮

2.ルール層(データ連携と個人情報の保護)
円滑なデータ連携のため、あらかじめ規約を定めます。

  • 協調的データと競争的データの区分:時刻表などの基盤データは「協調的データ」として広く共有し、付加価値の高いデータは契約に基づき共有する考え方です。
  • プライバシー対策:移動履歴は重要な個人情報です。個人情報保護法に基づき、匿名加工や利用者からの同意取得を適切に行う必要があります。

3.組織層(共創体制の構築)
自治体、交通事業者、観光・商業事業者、NPO、大学などが参加する協議会の設置が有効です。特定の事業者が主導するのではなく、地域の多様なプレイヤーが役割を分担し、持続的・自律的に運営できる体制を目指します。

4.ビジネス層(収益モデルの確立)
持続可能な運営のためには、収益と費用のバランスを整理しなければなりません。

  • 収入の多様化:運賃収入だけでなく、送客による手数料や、データ利活用による他業種からの協賛金、広告収入などを検討します。
  • 費用の分担:システム構築費やデータ整備費、個人情報保護対策費などの負担のあり方について、関係者間で合意を得ておきます。

5.機能・データ層(ローカライズと品質維持)
地域のニーズに合わせたユーザーインターフェース(UI)を整えます。

  • 高齢者向けへの配慮:スマホアプリだけでなく、電話予約や分かりやすい専用端末の導入も検討します。
  • データの正確性:正確な運行情報の提供はユーザーの信頼に直結します。交通事業者とプラットフォーム運営者が協力して、データ品質を維持・向上させる取り組みが必要です。

おわりに:みんなで創る「スマートモビリティのある暮らし」

MaaSは単なる便利なツールではなく、地域社会の持続可能性(サステナビリティ)を守るための鍵です。

わたしたち利用者が、自家用車から公共交通やシェアモビリティへと日常の移動をシフトさせることは、環境負荷の低減だけでなく、地域の交通網を支える力強い一歩となります。たとえ設計する立場でなくても、実際にサービスを使い、「もっとこうしてほしい」という声を届けることが、テクノロジーを地域に適切な形へと進化させる原動力になるでしょう。

移動の選択肢が変われば、暮らしの豊かさも変わります。テクノロジーと人のぬくもりが共存する、誰もが取り残されない未来の地図を、わたしたちの小さな選択から描き始めてみませんか。

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