GX-ETSとは?制度の概要・対象企業・企業に求められる対応と取り組み事例

GX-ETSは、カーボンニュートラルな社会の実現に向け、政府が導入した「排出量取引制度」です。
2023年度からの3年間は企業の自主参加でしたが、2026年4月1日からは本格始動し、条件に当てはまる企業は参加が義務化されます。
本記事では、GX-ETSの概要や対象企業、企業に求められる対応をわかりやすく解説します。また、企業によるGX-ETSへの取り組み事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
GX-ETS(排出量取引制度)とは?

GX-ETS(排出量取引制度)とは、一定のCO2を排出する企業を対象に排出量を割り当て、その排出量の過不足を取引市場にて企業間で売買する制度です。
2023年度から企業の自主参加として導入され、3年後の2026年度(2026年4月)からは、対象企業にとって参加は義務となります。
経済産業省による「成長志向型カーボンプライシング構想」
経済産業省では、脱炭素成長型経済への移行促進として「GX経済移行債」を活用した先行投資支援とカーボンプライシングを組み合わせた「成長志向型カーボンプライシング構想」を推進しています。
カーボンプライシングとは、企業が排出するCO2に値段をつけて経済的な負担を課し、CO2排出量の削減を促進する政策手法です。カーボンプライシングの手法の一つに、排出量取引制度があります。
GX-ETSは、この「成長志向型カーボンプライシング構想」の柱の一つとして行われています。
政府が排出枠を割り当てる「GX-ETS(排出量取引制度)」
GX-ETSは「Green Transformation – Emissions Trading System」の頭文字を取った名前で、「排出量取引制度」と呼ばれています。GX(グリーン・トランスフォーメーション)は、化石燃料中心の社会構造をクリーンエネルギー中心に転換していく取り組みです。
GX-ETSでは、政府が毎年の基準に基づき、対象事業者に排出量を割り当てます。各企業は、毎年度に割り当てられた排出量と同じ分の排出枠を翌年度の1月31日まで保有しなければなりません。排出枠の過不足に応じて、企業間で排出枠を取引する仕組みです。
この制度により、カーボンニュートラルの実現と経済成長の両立を目指します。
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GXリーグとは
GXリーグとは、2050年カーボンニュートラルの実現とともに、世界で活躍する企業がGXを牽引する仕組みとして、経済産業省が2023年4月から始動させました。新市場やルール創造も目指しています。
GXリーグは、カーボンニュートラルに向けて取り組む企業や国・地方自治体、大学・研究機関が協働するプラットフォームであり、そこで行われているのがGX-ETSです。
GX-ETS全体の段階的なスケジュール

2023年度から開始されたGX-ETSは、大きく分けて3つの段階で進められる予定です。各段階の特徴を、以下の表にまとめました。
| フェーズ | 期間 | 特徴 |
| 第1フェーズ(試行) | 2023〜2025年度 | GXリーグ参画企業による自主的な取り組み。未達成でも罰則はなし。 |
| 第2フェーズ(本格稼働) | 2026〜2032年度 | 排出量10万トン以上の企業への義務化。第三者認証も導入される。 |
| 第3フェーズ(更なる発展) | 2033年度〜 | 発電部門の対策強化。取引市場では段階的に有償オークションを導入。 |
本記事では「第1フェーズ(試行)」と「第2フェーズ(本格稼働)」を詳しく解説します。
これまで進められてきた「第1フェーズ」の概要

2023年度から3年間実施されてきた「第1フェーズ」は、GXリーグ参画企業による自主的な取り組みです。参画企業には、以下の4ステップが求められます。
- プレッジ(GXダッシュボードにおける開示)
- 実績報告
- 取引の実施
- レビュー
各ステップを説明します。
ステップ①プレッジ
「プレッジ(GXダッシュボードにおける開示)」では「2030年度排出削減目標」「2025年度の排出削減目標」「第1フェーズ(2023年度〜2025年度)の排出削減量総計の目標」について、国内の直接および間接排出量を設定します。目標値は、参画企業が自ら決められます。
基準年度は原則として2013年度です。
ただし、例外として2014〜2021年度のいずれかを基準年度にできますが、基準排出量は基準年度を含む3カ年の平均値となります。一方、2013年度を基準年度にした場合は、2013年度の排出量がそのまま基準値となります。
ステップ②実績報告
「実績報告」は、国内での直接・間接排出量の実績を算定・報告するステップです。
2021年度の直接排出量が10万トン以下の企業は、超過削減枠を創出している場合は「合理的保証」、創出なしの場合は「限定的保証」となります。「超過削減枠の創出」とは、GXリーグで企業が自ら掲げた削減目標以上にCO2を削減した際、削減分を売買可能なカーボン・クレジットとして発行することを指します。
また、2021年度の直接排出量が10万トンを超える場合、超過削減枠は創出できません。この場合の第三者検証は任意です。
ステップ③取引の実施
直近の年度から直接・間接排出量の総量が減少しており、かつ直接排出量がNDC水準を下回る場合、NDC水準を下回った分の削減価値を「超過削減枠」として売却できます。
NDC水準とは、基準年度の排出量から2050年のネットゼロ達成までの、直線的な排出量の推移を示したものです。なお、日本のNDCは2030年度46%削減(2013年度比)であり、2013年度を基準年度とすると、平均で29.7%の削減を目指します。
目標を達成できなかった場合、超過削減枠やカーボン・クレジットを調達するか、未達理由の説明が必要です。
ステップ④レビュー
「レビュー」は、目標の達成状況と取引状況を、情報開示プラットフォーム「GXダッシュボード」上で公表するステップです。GXダッシュボードには企業ごとにページが作られ、排出削減の推移やサプライチェーンでの取り組みなどが掲載されます。
2026年度から始まる「第2フェーズ」の概要
2026年度(2026年4月)から始まるのが「第2フェーズ」です。第1フェーズへの参加は企業の自主的なものでしたが、第2フェーズからは義務となります。
ここからは、第2フェーズの概要を説明します。
GX-ETSの対象企業となる基準
GX-ETSの対象となるのは、直近3カ年平均のCO2直接排出量が年間10万トン以上の企業です。
対象企業数は、国内の主要企業約300〜400社となる見込みで、発電・鉄鋼・化学・セメント・石油・自動車・航空・物流など、大量の熱・エネルギーを必要とする業種が中心です。
第2フェーズ全体の流れ
第2フェーズは、以下の流れで行われる予定です。
- 義務対象者の確定
- 排出枠の算定・割当
- 排出量の報告と第三者による検証
- 排出枠の取引
- 義務履行状況の確認・ペナルティの適用
2025年度中に施行されるルールに従い、企業は割当を申請します。ただし、2026年4月時点では、排出枠を算定するためのデータが不十分であるとし、2026年度は割当申請の基礎となる自社の排出量等を算定する期間になります。そのため、初回の割当は2027年度に実施される予定です。これにともない、取引市場も2027年度に開設予定です。
参考:GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)|内閣官房GX実行推進室
ペナルティ
第1フェーズではペナルティはありませんでした。しかし、義務化となる第2フェーズでは、負担金が課される場合はペナルティが発生します。
期限までに割り当てられた分の排出枠をすべて償却できなかった場合、未償却相当負担金を支払う必要があります。一方、余剰分は翌年度に持ち越すことも可能です。
参考:GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)|内閣官房GX実行推進室
「第2フェーズ」排出枠の割当量
排出枠は政府が算出し、無償で企業に割り当てられます。エネルギーを大量消費する分野は「ベンチマーク方式」が採用され、ベンチマークの策定が困難な分野では「グランドファザリング方式」が用いられます。
参考:GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)|内閣官房GX実行推進室
ベンチマーク方式
ベンチマーク方式とは、業界上位の排出量をベンチマークとし、基準活動量(2023〜2025年度の生産量等の平均)にベンチマークを掛けて割当量を算出する方式です。計算式は「割当量=ベンチマーク×基準活動量」となります。
技術的な改善などにより、CO2排出量を削減した企業が有利になるのが特徴です。
グランドファザリング方式
グランドファザリング方式とは、企業のこれまでの平均排出実績(ベースライン)に基づいて割当量を決める方式です。年次削減率を設定し、段階的に割当量を減らします。計算式は「割当量=基準排出量×(1-目指すべき削減率×基準からの経過年数)」です。
企業は急激な負担を軽減できるため、柔軟性が高いというメリットがあります。
割当量の緩和措置
ベンチマーク方式やグランドファザリング方式によって割当量が決まりますが、調整・勘定措置の適用も検討されています。具体的には、以下のものがあります。
| 早期削減 | グランドファザリングの割当対象の排出源において、起点となる過去の年度実績から基準年度までに基準相当以上に削減した量は割当量に反映させる。 |
| リーケージリスク | 主な事業がカーボンリーケージ業種であり、収益に占める排出枠調達コストが基準を超える場合、不足分のうちの一定割合を割当量に追加する。 |
| 研究開発投資の状況 | 前年度に実施したGX関連の研究開発に対する投資額に応じて、排出枠不足分の範囲で割当量を追加する。 |
| 活動量の変動等 | 事業所の新設や廃止、生産量の大幅な増減があった場合に割当量を調整する。 |
なお、カーボンリーケージとは、CO2排出に関する規制のある国や地域から、より規制の緩い国・地域に生産拠点を移転させる現象です。
また、企業同士の事業譲渡や合併、災害時、法令対応等による稼働低下時の対応も定められています。
参考:産業構造審議会 排出量取引制度小委員会 中間整理~排出枠の割当ての実施指針等に関する事項~|経済産業省
GX-ETS本格稼働に向けて企業が準備しておくべきこと

2026年度からのGX-ETS本格稼働に向けて、企業が準備しておくべきことは5つです。
- 排出量の正確な把握・管理
- 排出削減計画の策定
- 省エネ・脱炭素設備への投資
- 排出量取引への対応準備
- 社内ガバナンスや人材育成
それぞれを詳しく説明します。
排出量の正確な把握・管理
企業がまず行うべきことは「排出量の正確な把握・管理」です。具体的には、CO2排出量の測定、排出量データの管理体制の構築、制度への報告体制です。
CO2排出量については「Scope1(直接排出)」を正確に測定する必要があります。
第三者認証に向け、データ管理や報告体制を整えておくことが重要です。
排出削減計画の策定
第2フェーズでは、企業ごとの排出削減目標への対応が重要です。排出量削減計画の策定は、社会的評価にもつながります。中長期の排出削減目標に加え、設備更新の計画や再生可能エネルギーの導入も検討が必要です。
既存の計画があっても、国の目標やベンチマークに応じて、定期的に見直しましょう。脱炭素戦略は、経営計画に組み込む必要があります。
省エネ・脱炭素設備への投資
排出量の削減には、設備投資も重要です。例えば、省エネ設備や再生可能エネルギーの導入、水素・アンモニアの利用などがあります。
早期の設備投資で、将来かかる排出枠購入コストを削減できます。
排出量取引への対応準備
企業における排出量取引では、取引戦略が重要です。いつどのタイミングで売買するのか、価格の見通し(カーボンプライス)など具体的な戦略をあらかじめ立てておく必要があります。
また、カーボン価格の分析も不可欠です。CO2価格の今後を予測し、最適な意思決定が求められます。特に、GX-ETSでは排出枠が売買されるため、分析次第でコストが大きく変わります。
社内ガバナンスや人材育成
GX-ETSへの対応には、専門知識を持つ人材が必要です。義務化により長期的な対応が考えられるだけでなく、GX-ETSは企業利益に直結します。そのため、担当部署の設置や社員教育が重要です。GXの担当部署だけでなく、財務・経理部門との連携も求められます。
また、炭素会計(カーボンアカウンティング)の導入なども進めましょう。炭素会計とは、CO2などの温室効果ガスの排出量と削減量を数値化するプロセスです。炭素会計の導入は、排出量の開示や削減目標の報告などに役立ちます。
GX-ETSがもたらす企業への影響

GX-ETSが企業にもたらす影響には、次のものが挙げられます。
- コスト構造の変化
- 脱炭素への投資拡大
- 経営戦略の変化
- サプライチェーンへの影響
コスト構造の変化
GX-ETSでは、CO2の排出量が多いほど追加コストが発生します。例えば、排出枠を超えた場合は不足分の排出枠を購入する必要があり、排出量が多ければ経営コストが増加します。
GX-ETSの本格稼働により、これまで企業コストに含まれなかったCO2の排出が、経営コストになるのです。
脱炭素への投資拡大
CO2の大量排出は、ESGの観点だけでなく財務コストも生じるため、企業にとってリスクとなります。そのため、今後さまざまな企業が脱炭素に向けた投資を拡大していくと予想されます。
具体的には、再生可能エネルギーの導入や省エネ設備の設置、CO2回収技術の活用、電化・水素化などです。
経営戦略の変化
GX-ETSは、企業による単なる環境問題への取り組みではなく、経営戦略にも深く関わります。カーボンニュートラルの実現に向けて社会が動き出している今、環境政策はやらなければならないものへと変わりつつあります。
持続可能な経営のためには、企業はCO2排出量の管理や脱炭素ロードマップの作成、サプライチェーンの見直し、ESG戦略などの検討が必要です。
サプライチェーンへの影響
GX-ETSの義務化の対象は、直近3カ年平均でCO2直接排出量が年間10万トン以上の企業であり、その多くが大企業だと予想されます。
大企業がCO2排出量削減を求めることで、取引企業や中小企業にも影響が広がるでしょう。結果として、サプライチェーン全体で脱炭素の動きが加速する可能性があります。
国による政策支援策
GX-ETSを円滑に進めるため、日本政府はさまざまな政策支援策を設けています。
- GX経済移行債による資金支援
- 脱炭素技術の設備・研究開発支援
- 排出量取引市場の整備
GX経済移行債による資金支援
GX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)は、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」に基づいて発行される、20兆円規模の国債です。
調達資金は、再生可能エネルギーの主力電源化や原子力の活用、脱炭素設備投資などに使用されます。
また、GX経済移行債の活用で、企業による脱炭素設備への投資の促進が期待されています。
参考:GX経済移行債を活用した投資促進策について|経済産業省
脱炭素技術の設備・研究開発支援
日本政府は、新たな脱炭素技術の開発や設備導入を支援しています。
例えば、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)による「グリーンイノベーション基金」は、2050年カーボンニュートラルの実現に取り組む企業を対象に、研究から社会実装まで最長10年間支援する制度です。
また、経済産業省が実施する「先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金」は、省エネ性能の高い機器や設備の導入にかかる費用を一部補助するものです。
参考:グリーンイノベーション基金事業概要|NEDO
参考:省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金|関東経済産業局
排出量取引市場の整備
排出枠取引市場の設置・運営は、GX推進機構によって進められています。
円滑な取引環境整備のため、市場参加者の要件や公正な取引のためのルール整備などを進めています。2027年度秋頃の市場開設に向け、2026年度には具体的な検討が行われる予定です。
取引市場では、民間企業同士の取引が行われます。2033年度以降の第3フェーズでは、主に政府が売り手となる有償オークションも導入される見込みです。
参考:産業構造審議会 排出量取引制度小委員会 中間整理(案)~排出枠の割当ての実施指針等に関する事項~ |経済産業省
GX-ETSに関する企業の取り組み事例

最後に、GX-ETSへの企業の取り組み事例を紹介します。
川崎重工業
川崎重工業は、水素発電を主とする取り組みにより、2030年までに国内でカーボンニュートラルの達成を目指す企業です。2040年にはバリューチェーン全体でCO2実質ゼロとする「Zero-Carbon Ready」を掲げ、脱炭素ソリューションを提供できる体制にすることも宣言しています。
さらに、GXリーグでは、適格カーボン・クレジットWGへの参画を実施し、ネガティブエミッション技術の社会実装に向けたカーボン・クレジット方法論の提言などを行っています。
YKK AP
YKK APは、カーボンニュートラル達成の時期を2050年から2040年に前倒しすることを目指し、事業活動の全工程においてCO2排出量の削減や気候変動対策に取り組んでいます。2021年6月には「カーボンニュートラルプロジェクト」を発足し、カーボンニュートラル技術のロードマップも策定しました。
また、GXリーグへの参画は2022年11月からで、2023〜2024年度には「GX経営促進WG」にも参加しています。
中部電力
中部電力は、2050年までに事業全体のカーボンニュートラルを目指す「ゼロエミチャレンジ2050」を定めています。脱炭素と安全・安定・効率性の達成に向け、原子力発電所の再稼働や再生可能エネルギーの拡大、水素・アンモニアサプライチェーンの構築などに取り組んでいます。
また、GXリーグには2022年3月に参画しました。「適格カーボン・クレジットWG」や「GX経営促進WG」などにも加わり、日本のGX推進に向けたルールメイキングにも取り組んでいます。
まとめ
GX-ETS(排出量取引制度)は、GXリーグの枠組みのもと、企業間でCO2の排出枠を取引する制度です。CO2排出量の多い企業は、CO2排出量削減に取り組んだり、排出量の少ない企業から排出枠を購入したりすることで、カーボンニュートラルの実現と経済成長の両立を目指します。
2023年度から始まった「第1フェーズ」では、企業による自主的な取引でした。しかし、2026年度からの「第2フェーズ」では義務となります。対象企業は、CO2排出量データの管理体制の整備や、排出削減計画の策定などを進めておきましょう。
現在、GX-ETSは本格稼働に向かっていますが、取引市場に関してはまだ検討段階であり、公表されている情報も少ないのが現状です。今後の動向をチェックしつつ、本格稼働に向けて備えましょう。
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