すべての人のための社会を築こう!ダイバーシティとインクルージョンの基礎知識
2021年に開催された東京オリンピック2020の大会ビジョンの基本コンセプトとして「多様性と調和」という言葉が掲げられているのを目にした方もいらっしゃるかもしれません。
あらゆる場面で取り上げられる「多様性」は、その意味をもつ英単語「ダイバーシティ」としても認知されるようになりました。
今回は、「ダイバーシティ」と「インクルージョン」という言葉が意味すること、そして私たちの社会にどのような関連をもっているのかをご紹介していきます。
ダイバーシティとは?
まず、「ダイバーシティ」という言葉の意味、そして世界的に広く意識されるようになった背景について確認していきましょう。
基本的な意味
「ダイバーシティ(diversity)」とは、英語で「多様性」を意味します。
「diversity」という言葉は、「diverse(さまざまな)」という形容詞を名詞化したもので、「さまざまであること」という意味合いが含まれます。
性別や年齢、国籍、外見などの目に見える違い、学歴や育った環境など目に見えない違い、そして価値観やライフスタイルなど思考や心理傾向の違いなど、あらゆる違いを受け入れるという考え方のもと「ダイバーシティ」という言葉が使われています。
ダイバーシティが広がった背景
ダイバーシティは、アメリカで1960年代に推進され始めた考え方で、当時黒人が人種差別の撤廃と権利と自由を求めて起こした公民権運動や女性運動などが活発化した時期でした。
1980年代以降、ダイバーシティの考え方が企業の社会的責任として捉えられ、多くの企業がダイバーシティを推進されるようになりました
「Workforce2000」という21世紀のアメリカの労働力人口構成予測に関するレポートをアメリカ労働省が発表したことで、人材のダイバーシティを取り入れることが必須という意識定着につながりました。
日本では、男女の雇用差別が問題になっていた1980年代から1990年代にかけて、ダイバーシティの考え方が認識されるようになりました。
1985年に制定された「男女雇用機会均等法」や1999年に制定された「男女共同参画社会基本法」により、企業における男女の待遇の平等が義務化されることになり、徐々にダイバーシティを人事や経営の考え方に取り入れる姿勢が広がりました。
そして 2000年代以降、少子高齢化問題も相まって、ダイバーシティ推進が進みました。
日本と海外におけるダイバーシティへの意識の違い
ダイバーシティが広がった背景からもわかるように、日本と海外ではダイバーシティへの意識に若干の違いがあります。
アメリカやヨーロッパ諸国のように、さまざまな人種の人が生活している国では、ダイバーシティそのものの意味するところが幅広く、「多様であること」への基本的意識が、日本に比べてより身近になっているといえます。
一方、日本におけるダイバーシティは、性別と年齢に関するところが大きく、かつ具体的なダイバーシティの考え方を取り入れた制度等の整備は、他の先進国に比べてかなり遅れをとっています。
インクルージョンとは?
近年ダイバーシティと組み合わせて耳にするようになってきているのが、「インクルージョン」という言葉です。
「ダイバーシティ&インクルージョン」というひとつのフレーズとして使われることも多く、これからあらゆる場面において基本思想として扱われるようになるかもしれません。
ここでは、「インクルージョン」という言葉の意味から、ダイバーシティとの違いまで説明していきます。
基本的な意味
「インクルージョン(inclusion)」とは、英語の「包括」「包含」を意味する言葉です。
「include」という「含む」を意味する英語の動詞を名詞化したものと考えると、よりシンプルにイメージができるかもしれません。
ここで「何を」包括するのかというかというと、その対象は人の「属性」です。
つまり、性別や国籍、障がいの有無、性的指向など、一個人がもつあらゆる属性を排除することなく一体として考えることを、「インクルージョン」といいます。
インクルージョンが登場した背景
インクルージョンは、1980年代にヨーロッパで起こった政策理念「ソーシャル・インクルージョン(社会的包括)」から始まった考え方とされています。
もともとは「ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)」の対立概念として用いられており、1970年代のフランスで発生した長期失業による貧困状態を指すソーシャルエクスクルージョンを解決するための対策として使われるようになったのが、「ソーシャル・インクルージョン」でした。
1980年代にアメリカにおける障がい児教育の分野でインクルージョンの考え方が注目されるようになり、障がいの有無を分けて考えるのではなく、生徒一人一人に合った教育を行うという概念がインクルージョンという言葉とともに普及しました。
日本でも、まずは教育界で「インクルーシブ教育」という概念が広がったことから、インクルージョンという言葉が広がりを見せるようになりました。
ダイバーシティとの違い
ダイバーシティもインクルージョンも共に、違いを受け入れるという点では同じと言えますが、その目的に違いがあります。
「ダイバーシティ」:さまざまな異なる属性の人がいることそのものを、つまり人材の多様性を認めること。
「インクルージョン」:異なる属性をもつ個々が集まりそれぞれを活かすことを意味している。
多様な人材がそこにいる状態である「ダイバーシティ」を、ひとつの集合体つまり社会がそこに集まる個々を活かしていこうとするのが「インクルージョン」ということで、全く別の意味をもっているのです。
ダイバーシティとインクルージョンが変えるこれからの職場
ダイバーシティという考え方だけでは、多様な人材は集まったものの集合体としては機能しないという問題点が生じる可能性があるということから、近年では「ダイバーシティとインクルージョン」とセットで人事の現場などで取り入れられるようになりました。
ここでは、企業の人事の現場で実際に導入されている「ダイバーシティとインクルージョン」の考え方についてご紹介していきます。
組織人事で浸透するダイバーシティとインクルージョン
日本では少子高齢化による労働人口減少が深刻な課題となっており、その対策として多くの企業がダイバーシティとインクルージョンを取り入れた組織人事を進めるようになりました。
また、経済産業省でも政策のひとつとして「ダイバーシティ経営の推進」が掲げられており 、 多様な人材が組織内で個々の特性を活かすことで「イノベーションを生み出し、祖価値創造につなげている経営」を実現し、生産性向上と競争力の強化につながるとしています。
企業の組織人事を戦略的に実践する上で、ダイバーシティとインクルージョンの考え方は基礎となりつつあります。
企業の具体的な導入例
ここでは、日本でダイバーシティとインクルージョンの考え方を具体的に導入している企業とその施策をみてみましょう。
野村證券株式会社
野村證券では、多様性を受容し強みに変える、という目的のもと、「倫理規定」の改定、社員ネットワーク活動、ダイバーシティ&インクルージョンに関する研修といった施策を行い、理解を深めつつ具体的な取り組みを実践しています。
株式会社ローソン
ローソンは、ダイバーシティ推進に積極的に取り組んでおり、小売業では初めて、女性活躍推進に優れた上場企業である「なでしこ銘柄」に選出されています。
男性の育児休暇取得促進として、男性社員向けに「短期間育児休暇制度」の啓蒙を目的としたキャンペーンを実施するなどして、社員が自発的な活動を展開できる風土を持続しています。
このように、外国人や女性、シニア層など多様な属性の人材がそれぞれの能力を最大限に活かせるような企業風土を作るための取り組みを実践する企業が増えてきています。
ダイバーシティとインクルージョンの課題
ダイバーシティとインクルージョンに対する理解が深まり、取り組みが進む一方で、課題も残っています。
最大の課題ともいえるのが、日本における「ダイバーシティとインクルージョン」が「女性の活躍」と同じ意味として認識している企業が多いことです。
多様性そのものへの理解が乏しいことに起因しているとも考えられますが、男女が分業することが当然となっている社会において、まずは多様性そのものを知ることから徹底する必要があると考えられます。
まとめ
「ダイバーシティとインクルージョン」というフレーズが多用されるようになったことは、大きな前進といえるものの、それぞれの言葉が意味することや普及した背景を知らないままでは、一元的な見方しかできず、「多様性」とは対極の状態に陥る可能性があります。
互いの違いを受け入れ、違いのある人材が共存し成長できる社会にするために、まずは多様な属性の存在を偏見なく知ることが、現代の日本で生活する私たちに求められているのではないでしょうか。
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