気候変動・脱炭素

環境負荷の“見える化”ができる「ライフサイクルアセスメント」とは? 

レジ袋の有料化や、大手コーヒーショップにおける紙製ストローの導入など、日本でも環境問題に対する取り組みが進んでいます。

こうした動きのなかで注目されているのが、「ライフサイクルアセスメント」と呼ばれる評価手法です。

聞き慣れない方も多いかもしれませんが、環境問題、特に温室効果ガスの削減を考えるうえで、ライフサイクルアセスメントを理解・実践することはとても重要になってきます。

そこでこの記事では、ライフサイクルアセスメントの言葉の意味、実施するメリット、さらには企業の具体的な取り組み例などをご紹介します。

ライフサイクルアセスメントとは

出典:http://www.ecoleaf-jemai.jp/about/

ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment、LCA)とは、製品やサービスの生産工程において、それらが環境にどのくらいの負荷を与えているのか、定量的に算定・評価する手法のことです。

この生産工程というのは、単に生産・出荷・流通の範囲にとどまりません

資源の採取、製品の廃棄、さらにはリサイクルまでをも含む一連の工程、すなわち「ライフサイクル全体」を指しています。

ライフサイクルアセスメントを実施することで、こうしたライフサイクル全体における環境負荷を定量的に知ることができ、問題の“見える化”ができます。

そしてその結果、環境負荷を減らすことが期待できるのです。

ライフサイクルアセスメントの歴史

ライフサイクルアセスメントが初めて提唱されたのは、1969年にアメリカのコカ・コーラ社が実施した「飲料容器に関する環境影響評価」だといわれています。

自社のリターナブル瓶(消費者が返却し、詰め替えをすることによって、何度も使用できる瓶)と、当時リサイクル不可能だったアルミ缶を対象に、それぞれのライフサイクルにおけるエネルギー消費量を調べたのです。

その後、1995年に「LCA日本フォーラム」が設立されてからは、国内でもライフサイクルアセスメントを取り入れる企業が現れるようになりました。

なぜ、ライフサイクルアセスメントが必要なのか

こうした歴史のなかで、近年ライフサイクルアセスメントがますます重要視されているのは、「脱炭素社会」を2050年までに実現しようとする取り組みが世界各地で加速しているからだといえるでしょう。

脱炭素社会とは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出が全体としてゼロ(※1)となっている社会のことです(この状態のことを「カーボンニュートラル」と呼ぶこともあります)。

脱炭素社会を実現するためには、温室効果ガスの削減が必要不可欠です。そこで重要となってくるのが、ライフサイクルアセスメントなのです。

各企業がライフサイクルアセスメントによって温室効果ガスの排出量を計算し、どの段階でどのくらいCO2を削減すればよいのかを明確にする

その結果、脱炭素社会の達成に近づいていくのです。

※1 温室効果ガスの「排出量」から、植林・森林管理などによる「吸収量」を差し引き、全体として(実質的に)ゼロにすることを意味しています。

参考:脱炭素ポータル

ライフサイクルアセスメントのメリット

ライフサイクルアセスメントを実施することで、環境問題の“見える化”が期待できると述べましたが、ライフサイクルアセスメントにはほかにもさまざまなメリットがあります。

まず、企業は自社の製品やサービス、その生産プロセスを、より環境負荷の少ないものに改善することができます。

また、環境影響に関する情報を公開することで、消費者や取引先から「環境に配慮している企業」という評価を得ることも期待できるでしょう。

一方消費者にとっては、環境に配慮した買い物がしやすくなるというメリットがあります。

その例としてあげられるのが、上記の「エコリーフ環境ラベル」と呼ばれる認証制度です。

エコリーフ環境ラベルに登録されている製品は、ライフサイクルアセスメントを用いて算出された環境情報が、インターネットなどを通じて消費者に情報が公開されています。

消費者はこれらの情報を参照することで、環境に配慮した買い物、いわゆる“グリーン購入”が可能になります。

こうした買い物をする消費者が増えることもまた、環境負荷の少ない社会の実現化に大きく貢献するといえるでしょう。

参照:環境ラベル等データベース

ライフサイクルアセスメントの実施手順

それでは、ライフサイクルアセスメントは具体的にどのような手順で進めるのでしょうか?

ライフサイクルアセスメントは、国際間の取引をスムーズにするために世界共通の基準を定める機関「ISO(国際標準化機構)」によって規格化(標準化)されています。

そしてその規格のなかで、ライフサイクルアセスメントには「目的及び調査範囲の設定」「インベントリ分析」「影響評価」「解釈」という4つのステップが定められています。

ひとつずつ見ていきましょう。

①目的及び調査範囲の設定

ライフサイクルアセスメントを実施するときの最初のステップが「目的及び調査範囲の設定」です。

このステップでは、対象となる製品・サービスは何か、どんな環境問題を対象とするのか、評価結果をどのように使うか、などを明確にします。

②インベントリ分析

「インベントリ分析」では、ライフサイクルの各ステージにおけるインプットデータ(投入される資源やエネルギー消費量)と、アウトプットデータ(製品や排出物の量)を把握し、これらのデータをまとめて「インベントリ表」と呼ばれる明細表をつくります。

インプットデータやアウトプットデータを定量的に把握しなければ、環境負荷の改善に向けた対策を立てることはできません。

そのため、インベントリ分析を正確に行うことは、ライフサイクルアセスメントにおいて最も重要だといっても過言ではないでしょう。

参照:https://the-owner.jp/archives/5043

③影響評価(インパクトアセスメント)

インベントリ分析をもとに、実際の環境負荷を算出・評価するステップです。

各ステージで発生する温室効果ガス(CO2など)や大気汚染ガス(NOX、SOXなど)が、どんな環境問題にどれだけの影響を及ぼすかを、定量的に評価します。

④解釈

以上の手順から得られた結果から、結論を導くステップです。

具体的には、以下の3つの作業を行います。

  1. 環境負荷が特に大きいライフサイクル(=重要項目)を特定する
  2. 実施したライフサイクルアセスメントにミスがなかったかどうか、点検を行う
  3. どのプロレスでどのような改善をしていくべきか、具体的な提言をまとめる

以上のステップによって、ライフサイクルアセスメントは実施されます。

参照:国立環境研究所 環境情報メディア 環境展望台

ライフサイクルアセスメントに対する各企業の取り組み

実際に、各企業はどのようにライフサイクルアセスメントを導入しているのか、取り組みの具体例をいくつかあげてみます。

マツダ

マツダは2009年にライフサイクルアセスメントを採用して以来、自動車生産のライフサイクルの各段階(原料調達、製造、使用、リサイクル、廃棄)における環境負荷を定量的に評価し、カーボンフットプリント(さまざまな温室効果ガスの総排出量をCO2の排出量に換算したもの)の削減を進めています。

また研究活動にも精力的で、研究結果を学会などで発表しています。

2018年度には、ライフサイクルアセスメントを用いて、エンジン車と電気自動車の比較を実施

世界5つの地域において、エンジン車と電気自動車のCO2排出量をそれぞれ評価しました。

その結果、ほとんどの地域では、新車のときは電気自動車の方がCO2排出量が多かったのに対し、走行距離が一定の距離まで増えたときから、エンジン車の方がCO2排出量が多くなる、という結論を導き出しました。

なお、一部の地域ではこの結果が当てはまらず、このことから「地域ごとの電力状況や燃費、生涯走行距離などにより結果は変化する」ということも明らかにしています。

参照:https://www.mazda.com/ja/sustainability/lca/

日本ハム

日本ハムは、自社製品である「森の薫り®」シリーズにおいて、ライフサイクルアセスメントを実施。

生産から消費の中で排出されるCO2量を計算し、そのCO2量を明示する「カーボンフットプリント・マーク」を製品に表示しています。

また、ライフサイクルアセスメントの結果、優先的に削減していくべき対象を「包装材料・段ボール」に定め、これらを優先的に削減する取り組みを進めています。

参照:https://www.nipponham.co.jp/csr/environment/climate/lca.html

オールバーズ(Allbirds)

スニーカーなどを販売するファッションブランド・オールバーズは、2020年4月から製造過程から廃棄に至るまでに排出されるカーボンフットプリント(さまざまな温室効果ガスの総排出量をCO2の排出量に換算したもの)を、すべてのアイテムに表示しています。

さらに、こうした取り組みをファッション業界全体に拡げるため、カーボンフットプリントを算出できるツールを独自に開発し、ウェブ上で公開しています。

参照:https://cehub.jp/news/allbirds-carbon-footprint-tool-lca/

ライフサイクルアセスメントの課題

環境問題への取り組みとして、ライフサイクルアセスメントの実施はとても重要なことですが、データ収集に時間やコストがかかりすぎる、という問題点もあげられます。

デ-タ収集が不十分になることもあるため、計算が大雑把になってしまうことも少なくありません。

今後より正確に環境負荷を計算できるようにすることは、ライフサイクルアセスメントの大きな課題であるといえます。

まとめ

ライフサイクルアセスメントは、自社の製品やサービスにおける環境負荷を把握するために必要不可欠なツールといえるでしょう。

企業が一丸となって取り組むことで、環境問題に対する従業員の意識向上も期待できますし、SDGsの達成にも貢献できます。

また消費者にとっては、企業の環境問題に対する姿勢を知る手がかりとなるため、信頼の獲得にもつながります。

近年はライフサイクルアセスメントに取り組む企業をサポートする動きが国内でも見られ、コンサルティングを受けることも可能です。

「自社の製品を見直し、環境問題の解決へ貢献したい」と考えているのであれば、こうしたサポートも視野に入れながら、ライフサイクルアセスメントの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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