【SDGsと林業】森林を守るための取り組みやできることとは?
林業は持続可能な社会の実現において、非常に重要な役割を担っています。
森林保護は地球温暖化対策において必要不可欠ですし、生物多様性の保護にもつながります。
また、木材の生産や加工は地域活性化や雇用の創出にも関わっています。
今回は、そんな林業とSDGsとの関係について解説します。
また、SDGsに取り組む林業の企業の取り組みも併せて紹介しますので、是非参考にしてください。
SDGsとは?
今や毎日のように耳にする言葉となった「SDGs」。
SDGsとは、Sustainable Development Goalsの略称で「持続可能な開発目標」と訳されます。
持続可能な社会の実現のために達成すべき目標を定めたもので、17の目標と169のターゲットで構成されています。
2015年の国連サミットで採択され、当時加盟していた193の国と地域が対象です。
17の目標には、貧困や飢餓、ジェンダー平等をはじめ、環境保護や経済成長、安心・安全なまちづくりなども含まれています。
参考:外務省「SDGsとは?」
林業とは?
林業とは、木の育成・伐採・加工・販売などを行う産業です。
伐採した木は、丸太の状態で販売されることもありますし、粉砕してチップになる場合もあります。
また家具などへの加工や、薪や炭になることも。
伐採した場所には、新たな苗木を植え、木を育てます。
成長とともに間伐や枝打ちも必要です。
森林には数多くの役割があります。
- 木材を作り出す
- 二酸化炭素を吸収し、酸素を排出する
- 雨水をきれいにする
- 水を蓄える
- 土砂崩れや洪水を防ぐ
- 生き物の住処になる
これら森林の役割を支えているのが、林業なのです。
森林・林業と関連の深いSDGsの目標(ゴール)
次に、森林・林業とSDGsの関係性についてみていきましょう。
森林・林業は、17の目標ほぼすべてに関連しているといえますが、中でも以下の3つの目標に深く関わっています。
それぞれを詳しくみていきましょう。
目標13「気候変動に具体的な対策を」
森林や林業と関わりの深い目標、1つ目は目標13「気候変動に具体的な対策を」です。
大型台風や記録的な豪雨、猛暑などが気候変動です。
またその一つに地球温暖化があり、水害の増加や農業、水産業などに影響を及ぼしています。
地球温暖化の原因は、温室効果ガス(主に二酸化炭素)です。
そして森林は、その二酸化炭素を吸収する働きを持ちます。
一本が吸収する二酸化炭素の量は樹木によって異なりますが、適切に管理されている36~40年生のスギ人工林は、1ヘクタール当たり約302トンの二酸化炭素を蓄えるといわれています。
1世帯が1年間に排出する二酸化炭素量は約5,000kg(2017年時点)で、これは36~40年生のスギ人工林約15本分といわれています。
参考:林野庁「森林はどのぐらいの量の二酸化炭素を吸収しているの?」
目標14「海の豊かさをまもろう」
2つ目の関連する目標は、目標14「海の豊かさをまもろう」です。
「魚つき林(うおつきりん)」という言葉があります。
昔から漁業をする人の間では、海近くの森林が魚を引き寄せるといわれてきました。
豊かな海は、魚たちに豊富な栄養分や有機物の供給や、土砂の流出を防ぎ、海や川の水質を保つ効果があると考えられています。
この様に、古くから海と陸はつながっているとされてきました。
また海の豊かさを守るためには、森林を適切に管理する必要があります。
適切に管理されず痩せた木が増えると、深くまで根を張れず土砂の流出に繋がる可能性があります。
林業は、漁業にとって非常に大切なのです。
目標15「陸の豊かさもまもろう」
そして3つ目の目標が、目標15「陸の豊かさもまもろう」です。
この目標では、以下のことが述べられています。
- 陸の生態系と内陸の淡水生態系を守り、再生する
- 適切な森林管理で、砂漠化を防ぐ
- 森林減少の阻止と劣化した森林の回復
- 生物多様性と生態系の保護
地球の陸面積のうち、約3分の1を占める森林。
その森林が1年で約470万ヘクタールのスピードで失われています。
これは東京ドーム約100個分に相当します。
森林減少の原因は、気候変動による干ばつや酸性雨、過剰伐採、都市化などです。
森林が減少すると、動物たちの生息地がなくなり絶滅してしまい、生態系に影響を及ぼします。
絶滅した動物が再び戻ることはありません。
森林を守ることは、動物だけでなく、海の生物を減らすことにもなります。
SDGs達成のために林業ができる5つのこと
林業がSDGsのためにできるのは、どのようなことなのでしょう。
ここでは5つ、林業におけるSDGsの取り組みを紹介します。
- 持続可能な森林経営
- 森林空間の利用
- 木材の生産・加工・流通
- 木材の利用
- きのこ・ジビエ等の利用
①持続可能な森林経営
「持続可能な森林経営」とは、森林の生態系を維持し、その活力を利用し、永続的に人類のさまざまなニーズに対応できるような森林経営形態です。
1992年に行われた地球サミットで「森林原則声明」が採択されたことを踏まえて、「森林と持続可能な開発に関する世界委員会(WCFSD)」が設置されています。
簡単にいうと「木材や森林に関わる製品の価値を落とすことなく、将来も長く森林を使おうとする経営」といえるでしょう。
持続可能な森林経営のためには、適切な森林の管理や生物多様性の保全、海洋環境の保全などがあります。
②森林空間の利用
林業では木の伐採や植林などに注目されがちですが、森林空間の利用も大切な取り組みです。
最近では、メンタルヘルス対策や健康促進の場として森林空間が利用されています。
企業研修やセミナーを森林で行なったり、オフィスを森林内に作る動きもあります。
森林空間を活用することは、人々の心身の健康によい影響を与えるだけではありません。
森林サービス産業によって雇用を産み出したり、都市と地方との交流による地域活性などさまざまなメリットが考えられます。
また森林に触れることで、林業への興味・関心につながり、林業の重要性を再認識する機会になります。
③木材の生産・加工・流通
木の伐採を行うだけでは、適切な森林管理ができていることにはなりません。
林業では、生産・加工・流通の流れが重要です。時間や場所、管理体制などをしっかりと行い、森林環境を守っていかなければなりません。
また林業では、労働力不足が問題となっています。
持続可能な林業のためには、労働環境の整備や女性や外国人の活躍は必要不可欠といえるでしょう。
そこで注目されているのが「スマート林業」です。
スマート林業とは、ICT技術やチリ空間情報などの最新技術を使用し、効率的な業務を行う林業です。
安全性の高さや少人数での対応が可能など、メリットは多いです。
④木材の利用
木は炭素を保有しますが、木材になっても燃やされない限り保有し続けます。
また他の材料に比べ、木材は製造や加工に必要なエネルギーが少ないため、環境負荷が少ないといえるでしょう。
木質バイオマスは、再生可能エネルギーとしてカーボンニュートラルにも貢献します。
温室効果ガスを排出しないため、地球温暖化対策にもなるでしょう。
さらに、工場の残材や住宅の解体後の木材をバイオマスエネルギーとして使用することで、廃棄物を減らすことができます。
また木材の回収や運搬、バイオマスエネルギー施設の運用などで新しい産業を作ったり雇用を生み出すことにもつながります。
⑤きのこ・ジビエ等の利用
林業においては、木だけが資源ではありません。
きのこやジビエなどの活用も、林業の取り組みの一つです。
一般の木材を除き、きのこやジビエ、山菜や木の実、薬用植物などは特用林産物と呼ばれています。
特用林産物は、食料の持続可能な生産や産業における雇用創出につながります。
また、それらを利用した地域活性化も見込まれます。
ただしこれらの資源も適切に管理することが求められます。
取るだけでなく、持続可能な生産を意識した生産や採取、販売が大切です。
SDGsに取り組む林業の企業
では最後に、SDGsに取り組む林業の企業3社の取り組みを見ていきましょう。
- 住友林業
- 北村林業
- 谷地林業
林業においてSDGsを達成するためには、大企業・中小企業関係なく、森林の活用を考える必要があります。
住友林業
住友林業は、創業330年という歴史を持つ企業です。
そんな住友林業では、2024年度をターゲットとした評価指標を設定し、各事業部がSDGsに貢献できる体制を整えています。
住友林業グループでは、ステークホルダーのSDGsの理解を重要視しており、SDGsと事業の関係性を理解するワークショップや研修を実施しています。
また従業員だけでなく「住友林業の家」のオーナーへのSDGs啓発活動も実施。
例えば2021年4月には、オーナー向け情報誌で住友林業のSDGsへの取り組みを特集しました。
SDGsを広く認知してもらうためには、社内だけでなく、企業と関わる一般消費者に向けた取り組みも行うことが重要です。
北村林業
北海道十勝軍で造林や造材を行なっている、北村林業。
男性が働くことが多い林業ですが、北村林業は全従業員22名中女性が5名であり、女性比率の高い企業です(2022年9月現在)。
太陽光パネルを設置した移動式トイレの導入など、現場の女性が働きやすい職場環境を整備しています。
また兼業や副業の許可や、月給制・日給制の選択ができるなど、柔軟な働き方が可能な職場です。
林業での女性比率は、事務職・管理職を含めても14.3%と低い数値にあります。
しかし高性能林業機械の導入などにより、女性労働者の割合は徐々に高まってきていることから、今後女性活躍が期待される分野といえるでしょう。
参考:北村林業
谷地林業
谷地林業は、岩手県で木炭の製造・販売や育造林業などを行う会社です。
「地域に必要とされる企業」を目標とし、森林事業とインフラ整備事業を展開しています。
森林の適切な管理に加え、高性能林業機械やドローンなどを使った省力化や安全性の確保を行うことで、目標12「つくる責任 つかう責任」や目標8「働きがいも経済成長も」に貢献しています。
谷地林業の木炭は農林水産大臣賞を受賞するなど最高品質の木炭です。
近頃は、シラカバの木炭を使用したウォッカの製造や自家製ミネラルウォーターの開発など、木炭が持つ可能性を広げる取り組みを行なっています。
まとめ
林業とSDGsの関連性や企業の取り組みを紹介しました。
森林には木材の産出だけでなく、海洋汚染や生物多様性の保護などさまざまな役割があります。
森林が環境や社会に与える影響を理解し、自分たちの生活と林業の関係性関係があるのか考えてみましょう。
林業は私たちの生活に必要不可欠な産業です。
林業に取り組む人は、SDGsに対しどのような取り組みができるでしょうか。
また、自分の生活に林業がどのように関わっているのかを意識してみるのも良いかもしれませんね。
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