ESGとSDGsの違いをわかりやすく解説!企業が考えるべき「価値」とは
SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて世界中でさまざまな取り組みが行われている中で、企業と資本市場、投資家等においては「ESG経営」や「ESG投資」にも注目が集まっています。
今回は、ESGとはなにか、SDGsとの関係性や違い、ESGの重要性や企業価値を判断する基準にESGの考え方を活用する方法について解説します。
SDGsとESGの関係
SDGsとESGには、どのような関係性があるのでしょうか。
まずは、SDGsとESGそれぞれの概要や、異なるポイントについて解説します。
SDGs:持続可能な開発目標
SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略称であり「持続可能な開発目標」のことを指します。
2015年9月に開催された国連サミットで「2030年までに持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現する」ために国際目標として定められたものです。
「誰ひとり取り残さない」を原則として、世界中にあるさまざまな課題解決に向けて多様な取り組みが行われています。
地球や社会の環境を将来にわたって維持し、すべての人が恩恵を平等に享受できるような仕組みを構築するために、SDGsの達成が必要不可欠です。
SDGsの達成に向けて取り組むことは、企業にとっても多くのメリットがあります。
たとえば、環境への配慮を打ち出した商品に対して、共感するユーザーが意識的に購入するようになれば、企業利益にも還元されるでしょう。
このような考え方は「SDGs経営」とも呼ばれており、SDGsは国家間で取り決められた目標としてとらえるのではなく、経営戦略のひとつとしても注目が集まっています。
ESG:Environment(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治)
ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を取った言葉です。
2006年に当時国連事務総長であったコフィ・アナン氏が機関投資家に対して、『新たな評価基準』としてESGの視点を呼びかけたことが始まりです。
近年の日本でもESGに準じた「ESG投資」や「ESG経営」という言葉が浸透しつつあります。
- ESG投資…従来の投資では、評価基準は財務情報がほとんどでしたが、昨今ではESGを重要視する企業に積極的に投資する「ESG投資」が注目を集めている。
- ESG経営…企業がESGを経営の中心に位置づけ、社会問題に貢献できる事業に参入したりなどをして、長期的な利益を出し続ける経営戦略のこと。
企業のサステナビリティ(持続可能性)経営を評価する指標のひとつであり、SDGsとあわせて企業経営にかかわります。
SDGsとESGの違いは「対象」
SDGsとESGの大きな違いは「対象」となるものが異なる点にあります。
SDGsが企業や一個人も含めた世界のあらゆる課題を問題視する視点である一方で、ESGは企業を評価する投資家目線の考え方です。
経営の領域では、SDGs経営とESG経営は自社の事業を通じて、社会課題を解決に導くことに大きな違いはありませんが、ビジネスで解決を目指す「社会課題の対象」に違いがあります。
SDGs経営は2015年の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットが対象です。
一方、ESG経営は「環境汚染」「社会的規範」「コーポレートガバナンス」の遵守に重点を置いた経営になります。
SDGsとESGに違いはありますが、SDGsの目標として設定されているものはESGと重なるところも多く、SDGs達成に向けた企業の取り組みはESGにおける評価にも影響します。
なぜESGは重要視されているのか
2020年における世界のESG投資額は35.3兆ドルでした。
2018年の投資額と比べると15%増加し、日本でも過去2年で32%増加しています。
また、運用資産全体のうちESG投資の割合は以下のようになっています。
カナダ:61.8%
米国:33.2%
日本:24.3%
欧州:41.6%
出典:「Global Sustainable Investment Review」(GSIR) より
SDGsを意識した企業経営も投資の評価対象となるESGですが、なぜ重要視されているのでしょうか。
ここからは、ESGが重要視されている背景や、ESG投資で得られる効果について解説します。
「責任投資原則(PRI)」で推進されているため
投資を行う際には、ESGを考慮した企業評価を含む「責任投資原則(PRI)」を考慮することが機関投資家に求められています。
PRIは6つの原則からなり、2021年現在、世界の約4000 もの機関が署名、日本では年金積立金行政法人(GPIF)など96 の機関が署名しているものです。
日本でESG投資の概念が広く知られるようになったのは、世界最大の資産運用組織ともいわれる日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、2015年になってPRIに署名したことが影響しているといわれています。
PRIの責任投資原則は、以下の6つがあります。
原則1:ESG問題を投資分析および意思決定プロセスに組み込みます。
原則2:私たちは積極的な所有者となり、ESGの問題を所有権の方針と慣行に組み込みます。
原則3:投資先の事業体によるESG問題の適切な開示を求めます。
原則4:投資業界における原則の受け入れと実施を促進します。
原則5:私たちは、原則を実施する上での有効性を高めるために協力します。
原則6:私たちは、原則の実施に向けた私たちの活動と進捗状況についてそれぞれ報告します。
出典:「What are the six Principles for Responsible Investment?」(PRI)より
PRIの6つの原則に、ESGの考え方を重視する評価視点が推進されているのも、企業がESG経営やSDGs経営を重視する理由のひとつです。
利益の追求が社会課題につながることを防ぐため
企業が成長し、経営を安定的に継続させていくためには、利益の追求が必要になります。
しかし、事業活動によって環境問題や社会課題があることも事実です。
例えば、1970年頃まで日本の経済は高度成長を続けていました。
実際に1960年後半の実質経済成長率は年率11.1%です(2021年度は2.7%)。
しかし、経済成長と引き換えに環境汚染による公害問題が発生することに。
工場から排出された有害化学物質が引き金となり、イタイイタイ病やぜんそくが流行しました。
このように事業は経済成長を促進する可能性を秘めていますが、一方で環境を脅かす一面もあります。
そのため、ESGを重視した経営を行っている企業の成長を投資対象として資金面で支援することで、環境・社会課題の改善につなげる狙いがあります。
ESGを投資対象として評価することが企業のサステナビリティ経営につながり、結果的にSDGs達成にも貢献する流れができるのです。
新型コロナウイルスの影響により重要性が高まっているため
新型コロナウイルスの影響を受け、多くの企業で株価下落の影響を受けています。
しかし、ESGファンドはそれ以外のファンドと比較して減少幅が狭いことがレポートによって明らかになりました。
出典:「Graphic: ‘Sustainable’ funds a safer harbour in coronavirus market meltdown」(REUTERS)より
また、欧州の機関投資家などが公表した「コロナウイルス対策に関する投資家声明(ICCR)」や「責任投資家のコロナ危機への対処方法(PRI)」によっても、ESG経営の重要性が指摘されています。
これらは、企業活動や収益の制約を受けるなかで、企業が存続し続けるために必要な項目を示したものです。
具体的には、以下のような内容の重要性が示されました。
- 有給休暇を提供する
- 健康と安全の優先順位をつける
- サプライヤーと顧客の関係を維持する
- 財務の健全性を維持する
- 気候変動や生物多様性に配慮する
このように、新型コロナウイルスによる影響からも、ESG投資の重要性が高まっていることが分かります。
ESGの視点で考える企業価値
投資家の視点に立って投資先を検討する場合、安定した収益の確保や企業成長につながる取り組みを評価することになります。
では、ESGの視点から企業の価値を考える場合、どのようなポイントに着目して評価すれば良いのでしょうか。
ここからは、企業価値を判断する際のESGの考え方や、着目すべき基準について解説します。
Environment(環境)
ESGのE(Environment)を基準に企業価値を判断する場合、自然への配慮は行われているか、生物多様性の維持に貢献できる取り組みがされているかを見極める必要があります。
具体的には、温室効果ガス削減や水質汚濁の防止などの環境負荷対策、生態系を守る取り組み、資源の廃棄削減や再利用などへの取り組みが挙げられます。
Social(社会)
ESGのS(Social)は、企業の社会に対する貢献や取り組みを評価する判断基準です。
サプライチェーン上の人権への配慮がされているか、ジェンダー平等を重視した取り組みがされているか、消費者の安全、安心に配慮できているかなどが挙げられます。
また、企業で働く社員に対して、労働環境の改善に関する取り組みがされているかという観点からも評価することが可能です。
Governance(企業統治)
ESGのG(Governance)を評価する基準は、企業のコンプライアンス遵守に対する取り組みなどが挙げられます。
事業経営の公正性や積極的な情報開示を行っているかなど、投資対象としてクリアな情報源が提示されているかを評価するポイントです。
また、役員会の独立性が担保されているかなど、企業の公正性を維持するうえで必要となる社内制度なども判断基準になります。
ESGへの取り組みがSDGs達成につながる
SDGsを達成する企業の取り組みには、ESGの観点が必要になります。
ESG経営が、投資家や企業でも重要視されるようになったことで、評価を受けるためにさらにESG経営を重視する流れにつながるためです。
ESG経営を重視した取り組みが推進されれば、結果的にSDGsの達成にもつながるでしょう。
また、ESGを軸として、投資家や企業、消費者のすべてがSDGsで掲げられている目標や、背景にある世界的な課題について考えることが大切です。
ESG経営の評価は、なにも投資家に限定されるものではありません。
たとえば、ESGを重視した経営を行っている企業の商品を購入する形で、私たち消費者も企業支援を行うことができます。
投資家だけでなく消費者目線でも、ESG経営を行っている企業の取り組みは、SDGs達成に貢献していることを評価する判断基準になるでしょう。
まとめ
SDGsの達成に向けた取り組みは、国や自治体だけでなく、企業によるESG経営も重要な役割を担っています。
しかし、企業は安定的な経営を維持するために利益を生み出さなければなりません。
そのため、投資家や私たち消費者が企業のESG経営を評価し、資金面で支援していく流れをつくることで、SDGs達成に向けてサポートしていくことが重要です。
ESG経営を行っている企業の取り組みを知り、共感できる企業の商品やサービスを購入することで、私たち消費者も間接的に、SDGs達成に貢献することができます。
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