リジェネラティブとは?サステナブルとの違いやビジネス事例を紹介
近年、「サステナブル」という言葉の代わりに「リジェネラティブ」という言葉が使われていることをご存じでしょうか。
リジェネラティブの日本語訳は「再生させる」。
農業分野を中心に、地球環境を再生させる意味で使われることが多い言葉です。
最近ではリジェネラティブ農業だけでなく、建築やファッション業界にも、リジェネラティブの考え方が広まっています。
そこで今回は、リジェネラティブの意味や注目されている産業のリジェネラティブを企業事例とともに紹介します。
「再生型」を意味するリジェネラティブ
リジェネラティブ(regenerative)という言葉は、日本語で「再生させる」と訳されます。
また「ある段階で当初の役割を果たしたものが、別のところで再び何らかの役に立つ」という意味も持っていることから、環境を現状よりも良い状態に再生させるという考え方ともいえます。
リジェネラティブが注目される背景には、近年の都市化や工業化による環境破壊などによって引き起こされている、異常気象や地球温暖化などの環境問題が関係しています。
破壊された生態系や水質汚染などを再生させる取り組みとして、リジェネラティブが重視されているのです。
リジェネラティブとサステナブルの違い
リジェネラティブと似た言葉に「サステナブル(sustainable)」があります。
サステナブルは「持続可能であること」を意味し、人や社会、地球環境が発展し続けられる状態をさします。
持続可能な社会の実現は、今後も人間や動物たちが暮らしていくために必要です。
そして、そのような社会を実現するための目標が「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」です。
サステナブルは「問題の悪化を防ぐこと」に重きを置きますが、リジェネラティブは「問題の悪化を防ぎ、再生させる」ことを重視しています。
リジェネラティブ農業が注目されている
リジェネラティブという言葉が最も多く使われているのが、農業分野です。
「リジェネラティブ農業(環境再生農業)」は、農地を健康的に保ちながら、土壌を改善していく農業です。
土壌を修復することで自然環境の回復を目指すことを目的とし、より良い自然環境の実現に取り組みます。
リジェネラティブ農業には、主に以下の方法があります。
- 不耕起栽培:土を耕さずに行う栽培方法。
生物多様性の保全などにつながる。 - 被覆作物の利用:作物を栽培しない期間、農地を覆うように別の作物を栽培する方法。
土壌侵食を防ぎ、土壌の品質向上が期待できる。 - 輸作:数種類の作物を同じ農地で、計画的に栽培すること。
土壌の栄養や微生物の生態系が偏るのを防ぐ。 - 化学肥料・農薬の不使用:作物の栄養価を高めるだけでなく、微生物の豊富な土壌にする。
リジェネラティブ農業は、土壌を再生できるだけではありません。
健康な土壌は多くの炭素を吸収するため、地球温暖化などにも効果があるとされています。
SDGsと農業の関係性は、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
農業だけじゃない、広まり続けるリジェネラティブ×〇〇
リジェネラティブという言葉は、農業を中心に使われてきました。
しかし、近年は農業以外の分野でも「リジェネラティブ」という言葉を耳にするようになりました。
- リジェネラティブ×デザイン
- リジェネラティブ×ツーリズム
- リジェネラティブ×ファッション
- リジェネラティブ×水産業
それぞれの分野を解説します。
リジェネラティブ×デザイン
リジェネラティブ・デザインは、自然の生態系に合わせ、自然環境がより良くなるようなデザインです。
リジェネラティブ・デザインによって建てられた建築物を「リジェネラティブ建築」と呼ぶこともあります。
人間の住みやすさだけを重視したデザインではなく、CO2排出量削減や人と自然に無害な素材であること、再利用が可能でライフスタイルの長い設計デザインなどを取り入れることがリジェネラティブ・デザインでは重要です。
日本では、徳島県上勝町にある「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」などが有名です。
素材は廃棄予定のものが利用されるなど、環境負荷を抑えたデザインとなっています。
リジェネラティブ×ツーリズム
「リジェネラティブ・ツーリズム(Regenerative Tourism)」は、日本語で「再生型観光」と訳されます。
「リジェネラティブ・トラベル」と呼ばれる場合もあります。
リジェネラティブ・ツーリズムの目的は、旅行先に到着したときよりも、良い状態で去ることです。
旅行を楽しむだけでなく、旅行先の文化や地元住民の生活を豊かにする旅行「サステナブル・ツーリズム」が発展したものと考えられます。
海外では、地元の農産物を食べ、野生動物の保護活動や植林などに参加するプログラムを提供する旅行会社などが増えています。
今後、日本でもリジェネラティブ・ツーリズムに注目した旅行プランなどが登場するかもしれません。
リジェネラティブ×ファッション
ファッション業界でも、リジェネラティブへの取り組みが始まっています。
生産工程で起きる水質汚染や環境汚染、大量廃棄による環境破壊が問題となっているファッション業界。
綿花などの栽培時には大量の化学肥料や農薬が使用されています。
そのようなファッション業界では、リジェネラティブ農業を取り入れるブランドが増えています。
具体的には、リジェネラティブ農業で栽培されたコットンなどを使った商品の販売や生分解性素材の開発などです。
衣類の大量生産・大量廃棄を減らすだけでなく、使用する素材そのものをリジェネラティブなものにしようというアプローチが行われています。
リジェネラティブ×水産業
持続可能な水産業を実現するため、リジェネラティブな水産業への取り組みが行われています。
日本を含め、世界中の海で「磯焼け」が問題となっています。
磯焼けとは、沿岸部で海藻が著しく減少したり、繁殖しなくなったりする状況のことです。
磯焼けの原因は、特定されていません。
しかし、藻を食べる生物による食害や水温の上昇なども要因の1つです。
磯焼けが発生すると生態系が崩れ、沿岸漁業に大きな影響を与えるといわれています。
リジェネラティブな水産業には、企業や漁業だけでなく、自治体などの取り組みが重要です。
海外では保護が必要な場所を、海洋保護区に指定する動きもあります。
リジェネラティブビジネスの3つの事例
最後に、リジェネラティブをビジネスに取り入れている3つの企業を紹介します。
- patagonia(パタゴニア)
- Nestle(ネスレ)
- Unilever(ユニリーバ)
事例①:patagonia(パタゴニア)
アウトドアブランドのpatagonia(パタゴニア)は、土壌修復や生物保護、農家の生活向上を目的に、リジェネラティブ・オーガニック農業に取り組んでいます。
1996年には、パタゴニア製品にオーガニックコットンのみを使用することを発表。
この取り組みにより、パタゴニア製品には合成殺虫剤や除草剤、GMO(遺伝子組み換え作物)の種子は使用されていません。
「リジェネラティブ農業には土壌や気候の健康を修復させる可能性がある」と信じる、パタゴニアの思いが込められています。
参考:patagonia「なぜ、リジェネラティブ・オーガニックなのか?」
事例②:Nestle(ネスレ)
食品・飲料メーカーのNestle(ネスレ)も、リジェネラティブ農業に取り組む企業の1つです。
ネスレは、2025年までに主要原料の20%を、2030年までに50%をリジェネラティブ農業により調達することを目標に掲げています。
2021年には、リジェネラティブ農業の促進のため、今後5年間で約1,400億円を投資することを発表しました。
参考:Nestle「Nestlé unveils plans to support the transition to a regenerative food system」
リジェネラティブ農業への移行には、農家の協力が不可欠です。
しかし、コストや労力が必要となります。
ネスレではバリューチェーンに関わる農家に対し、経済的なプログラムを導入するとしています。
参考:Nestle「再生農業」
事例③:Unilever(ユニリーバ)
日用品を中心に製造・販売するUnilever(ユニリーバ)は2020年6月、リジェネラティブ農業の推進に関わる目標を発表しました。
リジェネラティブ農業に移行するサプライヤー農家に対し、土地所有権の確保、土壌修復費用、資金調達などを支援するとしています。
また、ユニリーバの農業規範を基に、リジェネラティブ農業規範を策定。サプライヤーがリジェネラティブ農業に移行しやすい仕組みを作っています。
参考:Unilever「ユニリーバ、気候変動対策、自然環境の保全・再生および次世代への資源の引き継ぎを目的とした新たな取り組みを開始」
まとめ
地球環境を維持するだけでなく、より良いものへと再生させる意味を持つリジェネラティブ。
今後、さまざまな場面で耳にする機会が増えるでしょう。
リジェネラティブは、明確な基準や定義がないことや導入事例が少ないことなど、課題も多いのが現状です。
しかし、社会全体の環境意識が高まる今、企業はリジェネラティブをビジネスに活用することで他社との差別化につなげられるでしょう。
企業担当者は、ぜひ一度、検討してみてはいかがでしょうか。
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