ソーシャルイノベーションを日本・海外の企業事例とあわせて解説
「ソーシャルイノベーション」とは、社会や環境問題を解決するため、製品やサービスなどを作り、社会の仕組みを変えることです。
地球温暖化や貧困、格差、紛争、児童労働など、世界には解決すべきさまざまな問題があります。
より良い社会を実現するため、今「ソーシャルイノベーション」が求められています。
本記事では、ソーシャルイノベーションの概要を日本国内外の企業事例とあわせて解説します。
ソーシャルイノベーションとは?
「ソーシャルイノベーション(social innnovation)」は、日本語で「社会変革」と訳されます。
社会問題の解決や社会的ニーズを満たすため、社会システムやビジネスモデルを変えることを意味します。
簡単にいえば、「社会をより良くすること」といえるでしょう。
具体的な方法としては、製品やサービス、システム、法律、制度を作るなどが挙げられます。
この言葉を生み出したのは、オーストラリアの経営学者であるピーター F.・ドラッカー氏。
「新しいものを生産する、あるいは既存のものを新しい方法で生産すること」と定義される「イノベーション(innovation)」を発展させた概念といわれています。
社会で認識されつつあるソーシャルイノベーションですが、視点や解像度により、さまざまな定義がなされています。
決まった定義はありませんが、「社会を良いものにする」ことは同じです。
「社会起業家」がソーシャルイノベーションを担う
ソーシャルイノベーションに欠かせないのが「社会起業家」の存在です。
社会起業家は、ソーシャルイノベーションを通じて事業を行う人を指します。事業は「社会課題の解決」や「社会へのインパクト」などが中心で、営利目的より社会貢献に重きをおきます。しかし、ボランティアやNPO法人のように非営利に行うのではなく、ビジネスとして取り組むことが特徴です。
起業家になるきっかけとして、社会問題を目の当たりにした経験や、強い問題意識が挙げられます。海外での事業展開を中心としている社会起業家もいます。
ソーシャルイノベーションで取り組む社会課題
ソーシャルイノベーションで取り組まれる社会課題は、国内外のさまざまな問題です。例えば、以下のようなものが挙げられます。
- 気候変動(地球温暖化など)
- 貧困問題
- 人種差別(ジェンダー問題など)
- 教育格差
- 児童労働
- フードロス
- 高齢化問題
- 地域活性化
- 子育て支援
- 生物多様性の保護
取り組む場所や国により、問題の状況やアプローチ方法は異なります。複数の社会課題に対して、包括的に取り組むソーシャルイノベーションもあります。
ソーシャルイノベーションを推進する3つの方法
ソーシャルイノベーションを推進する方法には、以下の3つがあります。
- フィランソロピー型
- トランザクション型
- インテグレーション型
それぞれの方法を解説します。
フィランソロピー型
「フィランソロピー型」は、一般的に企業や組織に対して資金提供を行う形です。
チャリティ活動や社員ボランティアなどが挙げられ、「チャリティ型」と表現されることもあります。
フィランソロピー型は一方的に資金提供を行うため、企業の関与度は低くなります。
しかし、提供される側は直接的な支援を受けられるでしょう。
近年では、投資によって金銭的なリターンと社会問題解決の両方を得るフィランソロピーも主流になりつつあります。
これは、個人財団や企業財団が積極的に投資を行っていることが背景です。
例えば、マイクロソフト創設者のビル・ゲイツ氏が設立したビル&メリンダゲイツ財団は、発展途上国の保健医療課題などに注力しています。
参考:ビル・ゲイツ、財団に2.2兆円寄付 「長者番付からは消えるつもり」 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
トランザクション型
「トランザクション型」は、企業と組織の間で信頼関係があることが特徴の手段です。
トランザクションが「取引」を意味するように、トランザクション型では、一方的な提供ではなく取引が発生します。
製品やサービスを提供する代わりに、金銭などの対価を提供します。
双方が取引条件を守る必要があるため、信頼関係の構築が必要不可欠です。
信頼によって繰り返し取引ができるなどメリットがある一方、トラブルなどが発生すると継続が難しくなる場合があるため、注意が必要です。
トランザクション型では、一般的に双方の価値観は類似している場合が多くなります。
インテグレーション型
「インテグレーション型」では、企業や複数の組織が協力して社会課題に取り組みます。
ビジョンや目標を共有し、それぞれが持つ強みを生かしてイノベーションできるのが特徴です。
一組織では難しい課題でも、他の組織が弱みを補うことで解決することが可能になります。
組織同士の連携が不可欠であるため、密な情報共有や意思疎通が重要になるでしょう。
積極的なコミュニケーションも必要で、組織内のモチベーション維持も大切です。
双方の連携度合いは、フィランソロピー型、トランザクション型、インテグレーション型の順に強くなります。
参考:ソーシャルイノベーションとは?求められる背景を解説【事例あり】 | コラム | 東大IPC−東京大学協創プラットフォーム開発株式会社 (utokyo-ipc.co.jp)
【海外】ソーシャルイノベーションの企業事例
最後に、ソーシャルイノベーションの企業事例を紹介します。まずは海外の事例からです。
- アメリカ:Apeel Sciences
- オランダ:Circularise
アメリカ:Apeel Sciences
アメリカのスタートアップ企業のApeel Sciencesは、フードロス削減に取り組む企業です。
同社は、野菜が持つ自身を保護するためのオイルを抽出し、スプレーを開発。
農作物や生鮮食品にスプレーすると、表面に見えないコーティングが施され、食品の水分が保持されます。
これにより酸化が抑制され、食品によって異なるものの、通常の2〜3倍の期間、保存期間が延びます。
コーティング技術は、アメリカのウォルマートやコストコですでに導入されており、8カ国の小売業者や30社のサプライヤーと協業しているとのこと。
先進国でも課題のフードロスですが、国や地域により原因は異なります。
発展途上国では保存設備の不足などが原因で、食品が腐敗したり、食品の鮮度が保てなかったりする問題があります。
Apeel Sciencesの技術は、そのような場面でも効果的といえるでしょう。
オランダ:Circularise
Circulariseはオランダに拠点を置く、ブロックチェーンを活用したサービスを展開するスタートアップ企業です。
Circulariseのサービスの目的は、サーキュラーエコノミー移行への後押しです。
サーキュラーエコノミーは「循環型経済」と訳され、製品やサービスをリサイクルしながら使い続ける経済システムを指します。
サーキュラーエコノミーを実現するには、どのような素材がどのように加工を施され、誰に使われたのか、などの情報が重要です。
そこでCirculariseは、そのような情報の透明性を確保しつつ、ブロックチェーン技術を活用することで匿名性のあるデジタルプラットフォーム構築に成功。
日本の丸紅やドイツの高級自動車「ポルシェ」などとの提携を行っています。
参考:Circularise
【日本国内】ソーシャルイノベーションの企業事例
次に日本国内のソーシャルイノベーションの企業事例を3つ紹介します。
- ボーダレス・ジャパン
- Social Innovation Japan
- マイファーム
毎年、さまざまなソーシャルイノベーションが登場しています。
ボーダレス・ジャパン
ボーダレス・ジャパンは「社会の課題を、みんなの希望へ変えていく」をコンセプトに掲げる、ソーシャルイノベーション企業です。
2007年3月、社会問題に関する事業しか行わない会社として設立されました。
ボーダレス・ジャパンの事業は、気候変動や貧困、人権、就労支援、ダイバーシティ、動物福祉などさまざま。
現在、13カ国で51の事業を展開しています。
同社の特徴は、経営体制にあります。
それぞれの事業には起業家である社長が存在しており、独立経営の立場をとっています。
新規事業の立ち上げ時は、各社(各事業)が売り上げの1%を拠出し、新規事業の起業家に提供。
収益は、共通の財布に入れ、事業資金として利用できます。
新しい技術や製品ではなく、従来の経営システムを変えていくソーシャルイノベーション企業です。
参考:ボーダレス・ジャパン
Social Innovation Japan
一般社団法人のSocial Innovation Japanは、ソーシャルインパクトやサステナビリティの専門家たちの共創プラットフォームを提供する団体です。
事業運営や企業支援などを行っています。
同団体の代表的なイノベーション事例に「mymizu(マイミズ)」があります。
mymizuは、使い捨てペットボトルの消費量削減を目的とした日本初の給水アプリです。
アプリをダウンロードすれば、世界20万カ所にある給水スポットが調べられて、ユーザーは無料で給水サービスを受けられます。
給水スポットは、レストランやカフェ、ホテル、ショップなどです。
お店側の申請で、給水スポットとして登録されるようになります。
現在、アプリは50カ国以上で使用され、これまでに20万本以上のペットボトル削減に貢献しています。
マイファーム
マイファームは、人と自然の距離が近い「自産自消」のできる社会の実現を目標し、2007年に設立された会社です。
全国の耕作放棄地をリメイクし、近くに畑のない人が気軽に農業を楽しめる「体験農園」や、使わない土地や畑を持つ人と野菜作りをしたい人などをマッチングする次世代プラットフォーム「ハタムスビ」などを運営しています。
他にも、企業と協働した「農業コンサルティング」や自治体と協働した「有機農業・地域農業の促進」にも取り組んでいます。
農林水産省の発表によると、日本の基幹的農業従事者は2015年時点で約175万人でしたが、2020年には約136万人となり、年々減少しています。
農業従事者のうち、70%が65歳以上で、高齢化も問題です。
マイファームのソーシャルイノベーションは、そのような問題の解決にもつながります。
参考:マイファーム
まとめ
社会問題の解決を目的とし、新たなサービスや製品、システムを作り出すソーシャルイノベーション。
その担い手である社会起業家を中心に、取り組む人が増えています。
SNSなどで活動がより気軽に発信できるようになった今、ソーシャルイノベーションはより注目されるようになるでしょう。
「ソーシャルイノベーションへの取り組みは難しそう」と感じるかもしれません。
しかし、ボーダレス・ジャパンのように、起業支援を行う会社や団体も増えています。
社会問題の解決に向けたビジネスアイデアがある人は、そのような支援を使用するのがおすすめです。
より良い社会のために自分ならどのようなことができるかな、と一度考えてみてはいかがでしょうか。
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