ブルーエコノミー|豊かな海を守るために、今、私たちにできること
ブルーエコノミーという言葉を聞いたことはありますか。
ブルーエコノミーは「海洋経済」と訳され、サステナブルの観点から近年注目を浴びている概念です。
ブルーエコノミーは、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」に深く関わっており、目標達成への貢献に大きな期待が寄せられています。
本記事では、ブルーエコノミーが注目される理由や、混同しやすい言葉との違い、さらにはブルーエコノミーに取り組む企業事例を紹介します。
ブルーエコノミーとは
世界銀行の定義では、ブルーエコノミーは「持続的な海洋資源の利用を通じた経済成長、生活の改善や、海洋生態系の健全な保全がもたらす雇用」と位置づけられています。
つまり、海洋生態系を守り、持続可能な海洋資源を活用することによる雇用の創出や経済成長を指す言葉です。
海洋に流出したプラスチックごみによる海洋汚染や、プラスチックごみの誤食による海洋生物の死、魚の乱獲など、海洋にまつわる問題が深刻化しています。
そうしたなかで生まれた概念が、ブルーエコノミーです。
オーシャン/マリンエコノミーとの違い
ブルーエコノミーと混同される言葉には、オーシャンエコノミーあるいはマリンエコノミーがあります。
これらにはどのような違いがあるのでしょうか。
結論からいえば、ブルーエコノミーと、オーシャン/マリンエコノミーのどちらも海洋経済を意味します。
しかし、価値とみなすものの対象が違います。
総経済的価値(環境経済学で用いられる、天然資源の価値を図るための枠組み)を用いて解説しましょう。
総経済的価値には、利用価値と非利用価値の2種類があります。
総経済的価値 | |
---|---|
利用価値 | 非利用価値 |
直接利用価値: 漁業や観光など、資源を直接利用することで生じる価値 |
存在価値: 資源が存在していることそのものの価値 |
間接利用価値: 生態系の回復など、資源を劣化させずに生じる価値 |
遺贈(いぞう)価値: 将来世代の資源の利用により生じる価値 |
オプション利用価値: 将来の利用のために保持する価値 |
|
オーシャン/マリンエコノミーの概念が含むのは「利用価値」のみ | |
ブルーエコノミーの概念は「利用価値」および「非利用価値」双方を含む |
田中(2023)「図1. 総経済的価値モデルによる Ocean/Marine/Blue Economy の違い」を編集部が修正して作成
オーシャン/マリンエコノミーは、利用価値のみを含む概念です。
一方で、ブルーエコノミーは利用価値に加え、非利用価値も含みます。
ブルーエコノミーでは、今は価値がついていないものや、将来世代によって価値が見いだされるものも価値と捉えている点が大きな特徴です。
ブルーエコノミーが注目される理由
ブルーエコノミーが注目されるようになった背景には、大きく以下の3つの理由があります。
- 海洋汚染による悪影響
- ブルーカーボンへの寄与
- 海洋資源の潜在的価値
1つずつ見てみましょう。
海洋汚染による悪影響
工業排水や油分を含んだ家庭排水が海に流れ込むことによる海洋汚染に加え、プラスチックごみによる海洋汚染が深刻化しています。
プラスチックは、便利さから日本を含む世界中で使用されています。
しかし、自然には分解されない素材のため、海洋汚染の大きな原因です。
なかでも、5mm以下の大きさのプラスチックはマイクロプラスチックと呼ばれます。
マイクロプラスチックは、波や紫外線・風雨によりプラスチックが細かく粉砕されたものです。
魚や亀など海に暮らす生き物がエサと間違って食べてしまい死に至るといった、海洋生態系への悪影響が拡大しています。
海洋汚染の現状と私たちにできる取り組みは、以下の記事で取り上げています。
ブルーエコノミーの理解を深めるためにも、ぜひ併せてご一読ください。
関連記事:SDGs目標14 海の豊かさを守ろう|海洋汚染の現状に目を向けよう!
関連記事:SDGs14「海の豊かさを守ろう」|企業や個人の海を守るための取り組み
ブルーカーボンへの寄与
ブルーカーボンとは、コンブやワカメといった海藻やマングローブ林など、湿地・干潟・海洋に生息する生態系に取り込まれた炭素(カーボン)のことです。
対して、植物など陸上の生態系が取り込む炭素のことはグリーンカーボンと呼ばれます。
地球温暖化の大きな原因である二酸化炭素(CO2)は、水に溶けやすい性質があるため、意外にも海のほうが陸に比べて炭素の吸収量が多いでしょう。
ブルーカーボンは、地球温暖化防止に貢献する新たな炭素吸収源として期待されています。
ブルーカーボンについては、以下の記事でも紹介しています。
デメリットや各企業の取り組み事例も交えながら解説しているので、併せてご覧ください。
関連記事:ブルーカーボンをわかりやすく解説|デメリットや取り組み事例も紹介
海洋資源の潜在的価値
2016年に経済協力開発機構(OECD)が公開した『The Ocean Economy in 2030』のなかでは、海洋産業全体の市場規模は2030年までに3兆ドルに達するとの記述があります。
日本は、世界有数の海洋資源大国です。日本の排他的経済水域と領海を合わせた面積は約447万km2で、世界第6位に該当します。
日本の排他的経済水域や領海・大陸棚では、石油や天然ガス・鉱物資源といった貴重な海洋資源の存在がすでに確認されています。
ブルーエコノミーに取り組むことで、大きな恩恵が期待できるでしょう。
参考:内閣府|海洋の働き
ブルーエコノミーに取り組む企業事例
ここからは、ブルーエコノミーに取り組む企業の事例を3つ紹介します。
1つ目は国の認可を受けて設立したジャパンブルーエコノミー技術研究組合。2つ目と3つ目は水産事業の大手であるニッスイとマルハニチロの取り組みです。
ブルーエコノミーの実現に向け、各企業がどのように創意工夫を凝らしているのか見てみましょう。
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合
ジャパンブルーエコノミーは国土交通省の認可の下、誕生した機関です。
海洋保全・海洋活動のための方法や技術を開発するべく、2020年頃より調査研究を行っています。
ジャパンブルーエコノミーは、カーボンクレジット制度であるJブルークレジットを創設し、認証・発行・管理までを行っています。
カーボンクレジットとは、温室効果ガスの削減に取り組む企業などが、温室効果ガスの削減量や吸収量をクレジットとして発行する仕組みです。
温室効果ガスの削減ができなかった企業などがクレジットを購入することで、排出量の一部を相殺して穴埋めすることが可能になります。
より多くの企業が温室効果ガスの削減に取り組んだり、Jブルークレジットを利用したりして、気候変動へのアクションを実践することが重要です。
参考:ジャパンブルーエコノミー技術研究組合|Jブルークレジット
ニッスイ
古くから水産事業を展開してきたニッスイは業界をリードする存在として、2016年3月にサステナビリティ行動宣言を発表し、海洋保全のための取り組みを積極的に行っています。
例えば、これまで養殖に使われていた発泡スチロール製フロートを、プラスチック流出リスクの低いフロートへ切り替えました。
さらに、解体・分別が困難との理由から埋め立て処分されていた漁網のリサイクル化を実現するなど、海洋プラスチック削減へのさまざまな取り組みを実施しています。
ニッスイの海外グループ会社であるシーロードでは、PSH漁法システムの開発に成功しました。
PSH漁法システムとは新たな漁法で、漁獲時の魚へのダメージや、目的とする魚以外を水揚げしてしまう混獲のリスクを削減できます。
参考:ニッスイ|海洋プラスチック
参考:ニッスイ|天然水産資源の持続的な利用 環境 サステナビリティ
マルハニチロ
ニッスイと同じく大手水産事業企業の1つであるマルハニチロは2022年11月、日本初となるブルーボンドの発行を決定しました。
ブルーボンドとは、海洋保護にかかわる事業に使い道を限定した債券で、発行額は50億円にのぼります。
ブルーボンドで調達した資金は、富山県入善町(にゅうぜんまち)でのサーモンの養殖事業に使用されるとのことです。
現在はほとんどを輸入に頼っている養殖サーモンですが、環境負荷の低い、持続可能な地産地消型ビジネスの発展をサポートします。
国産の養殖サーモンが市場に並ぶ未来も、そう遠くはないかもしれません。
参考:マルハニチロ|サカナクロス流3分でわかるブルーボンド ブルーボンドって?
参考:マルハニチロ|本邦初となる「ブルーボンド」発行に関するお知らせ
まとめ
「海洋を守る」と聞くとスケールが大きく、個人には関係のないことのように感じるかもしれません。
しかし、持続可能なブルーエコノミーの実現のためには、行政や企業だけでなく地域住民の連携と協力が必要不可欠です。
海と共存してきた島国の日本において、海がもたらす恩恵は計り知れません。
豊かな海を守り、後世に残していくためにも、ブルーエコノミーの推進をサポートしていきましょう。
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