国境炭素税が2026年より本格導入!課税対象と日本企業への影響とは
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記録的猛暑や暖冬、災害級の豪雨など、地球温暖化による気候変動は私たちの生活を脅かしています。
温室効果ガスの排出を削減すべく、世界各国でさまざまな取り組みが施行されていますが、EUが提唱する国境炭素税もその1つです。
今回は国境炭素税導入の背景や、カーボンプライシングなどの関連用語、さらには日本企業に求められる対応について解説します。
なぜEUが国境炭素税の導入を決めたのか、日本経済への影響はあるのかを、一緒に学んでいきましょう。
国境炭素税の仕組み
国境炭素税は、気候変動対策をとる国が、気候変動対策が不十分でない国からの輸入品において、生産の過程で排出された二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの量に応じて炭素課金を行う制度です。
つまり、、炭素税が低い国で作られた製品を輸入する際に、炭素税の差額分を炭素税が低い国の事業者に負担させることです。
例えば、フランスの炭素税がCO2排出量1tにつき1,000円だったとしましょう。
炭素税が500円の日本から物資を輸入した場合、その差額となる500円を、日本が負担するようなイメージです。
国境炭素税は、炭素国境調整措置(Carbon Border Adjustment Measure)とも呼ばれ、英語名の頭文字をとってCBAMと綴られることもあります。炭素税の詳細は次項で解説しています。
カーボンプライシングと炭素税
国境炭素税の関連用語として、カーボンプライシングや炭素税があります。
カーボンプライシングと炭素税とは何なのかを説明しましょう。
カーボンプライシングは、炭素(カーボン)に値段を付ける(プライシング)ことです。
ここでいう炭素は一般的にCO2のことを指します。
CO2の排出に価格がつくことで、「排出量を削減しなくては」との動機づけにつなげることを目的としています。
カーボンプライシングにはいくつかの種類があり、その1つが炭素税です。
炭素税は、CO2の排出量に応じて課税する仕組みのことです。
温室効果ガスの排出削減を目的として、日本では2012年に導入されました。
日本の炭素税は諸外国と比べて低い
炭素税はEU諸国をはじめ、カナダや日本でも導入されています。
多くの炭素税導入国では、年々税率が引き上げられています。
フランス・アイルランドでは2030年にCO2排出量1tあたり12,000円以上、カナダでは約14,000円になる見込みです。
一方で日本の炭素税率は諸外国と比較して極めて低く、CO2排出量1tあたり289円です(環境省「地球温暖化対策のための税の導入」より)。
炭素税が課されていてもあまりに低い金額だと、企業や個人がCO2を排出することに罪悪感を抱かないでしょう。
そのため脱炭素への意識が薄れるデメリットがあります。
炭素税については以下の記事で詳しく解説しています。
国境炭素税の理解を深めるためにも、ぜひ併せてご覧ください。
なぜ国境炭素税が必要なのか
国境炭素税の導入にあたっては、EUが先陣を切って開始し、2023年10月から事業者に対して炭素排出量の報告が義務化されました。
2026年1月から、排出量に応じた課税が始まる予定です。
ではなぜ、EUは国境炭素税の導入に踏み切ったのでしょうか。
その背景を深ぼりしてみましょう。
カーボンリーケージを防ぐため
1つ目の理由は、カーボンリーケージ防止のためです。
EUはカーボンプライシングを積極的に行ってきました。
なかでもフィンランドは、炭素税導入の先駆国でもあります。
EUの炭素税は他国と比較して高く設定されているため、企業はCO2の排出を抑える取り組みを積極的に行うようになりました。
しかし、炭素税が高く設定されているために生産コストが上がってしまう問題があります。
それに比例して、製品の値段も高くなることが予想されます。
すると消費者は炭素税の低い国で作られた、より安価な製品を選択するようになるでしょう。
コストの増加を避けたいと考える企業が、生産拠点をカーボンプライシングの低い国に移転させる懸念も否定できません。
結果として、地球全体で見たときにCO2の排出量が減らない事態が危惧されます。
この状態をカーボンリーケージと呼びます。
参考:脱炭素ポータル|【有識者に聞く】EUによる炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシング
EU企業の競争力を守るため
2つ目の理由は、EU企業の競争力を守るためです。
カーボンリーケージとも関連しますが、カーボンプライシングに積極的に取り組むEU企業の産業や製品は、必然的に価格が高くなる傾向があります。
すると、カーボンプライシングの低い他国の安価な製品と比較した際に、競争に負けてしまいます。
国境炭素税の導入により炭素価格の差額分が調整されるので、結果的にEU企業の国際競争力を守ることができます。
国境炭素税の課税対象
2023年10月より、以下6点が国境炭素税の課税対象となりました。
- セメント(直接排出・間接排出)
- 肥料(直接排出・間接排出)
- 電力(直接排出・間接排出)
- 鉄鋼(直接排出のみ)
- 化学(当面は水素のみ)(直接排出のみ)
- アルミニウム(直接排出のみ)
直接排出とは、製造過程で直接的に生じるCO2の排出量を指し、加熱や冷却によって排出されるものも含みます。
間接排出とは、製造過程で使用する電力などの発電にかかるCO2の排出量を指します。
参考:脱炭素ポータル|【有識者に聞く】EUによる炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシング
国境炭素税導入による日本への影響
今回対象となった国境炭素税の6品目については、日本からの輸出量は比較的少ない傾向にあります。
現時点で日本経済への大きな影響はないといえるでしょう。
ただしEUは2030年を目安に対象品目を拡大するとの見通しを発表しており、今後日本経済が影響を受ける可能性も否定できません。
日本がEUに輸出しているものが対象品目に含まれると、製造コストの肥大化を招くおそれがあります。
製造コストが上がれば製品やサービスそのものの価格が上昇する可能性が高いため、消費者にも影響が出るでしょう。
今後、日本企業に求められる対策とは
国境炭素税の日本経済への影響は、現時点ではさほど大きくないと述べました。
しかし、2030年に予定されている対象品目の拡大に備え、各企業は今後の動向を注視しておくべきです。
対象となりうる自社製品、EUの電子データベース「CBAM移行期登録簿」への登録手順、CO2排出量の算出方法などを把握しておくとよいでしょう。
同時に、CO2排出量の少ない製品をつくるプロセスを構築する必要も出てくるでしょう。
具体的には、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換、オフィスや事業所などの省エネ化、輸送にかかわるエネルギーをクリーンディーゼルや電気自動車など環境負荷の少ないものに変えるなどの対策が考えられます。
参考:JETRO|EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)に備える
該当事業者はCO2排出量の報告が必要
国境炭素税の本格適用は2026年からですが、対象となっている6品目をEUに輸出している事業者はすでに対応に追われています。
該当事業者は2023年10月より、CO2排出量の報告が義務化されたからです。
製品の製造過程で直接的・間接的に排出されるCO2の算出方法を定義し、報告する必要があります。
移行期間は2023年10月~2025年度末までです。
この期間中にプロセスや必要な情報を整理し、2026年からの本格適用に対応できるよう準備しましょう。
まとめ
貿易摩擦への懸念やEUの強行的な姿勢など、ネガティブな部分が取り上げられることも多い国境炭素税ですが、脱炭素に向けたゴールを達成するためには必要不可欠ともいえるでしょう。
昨今企業が関心を寄せているサステナビリティも、カーボンプライシングへの対応なくしては語れません。
国境炭素税の導入は、カーボンプライシングの潮流が広く普及する一助となるはずです。
持続可能な社会の実現に向けて、企業のみならず私たち個人も脱炭素に関心をもち、ともに協力していきましょう。
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