地方創生

オーバーツーリズムはなぜ問題?持続可能な観光業発展のために必要なアクションとは

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特定の地域や特定の時期に観光客が集中するオーバーツーリズムが、世界中で問題となっています。

観光客が増えれば一定の経済効果も見込めるため、一見すると良いことのように見えますが、何が問題なのでしょうか。

今回は、オーバーツーリズムが問題視されている理由をはじめ、各国の対策事例やSDGsとの関係性を取り上げます。

日本でも深刻化するオーバーツーリズムの現状を知り、持続可能な観光業の実現に向け、理解を深めていきましょう。

オーバーツーリズムの定義

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JTB総合研究所の観光用語集によると、オーバーツーリズムは次のように定義されています。

「特定の観光地において、訪問客の著しい増加等が、地域住民の生活や自然環境、景観等に対して受忍限度を超える負の影響をもたらしたり、観光客の満足度を著しく低下させるような状況」
引用:JTB総合研究所|観光用語集 オーバーツーリズム

こうした背景から、オーバーツーリズムは「観光公害」ともいわれています。

参考:JTB総合研究所|観光用語集 オーバーツーリズム

オーバーツーリズムと観光公害の違い

並列されることの多いオーバーツーリズムと観光公害ですが、両者に違いはあるのでしょうか。

オーバーツーリズムは「容量や限界などを超える」という意味をもつ「オーバー(over)」と、観光を意味する「ツーリズム(tourism)」が合わさった言葉です。

つまり(限界値などを)超えてしまった観光といえます。

一方の観光公害は、JTB総合研究所の用語解説によると以下のように説明されています。

「観光公害とは、観光客や観光客を受け入れるための開発などが地域や住民にもたらす弊害を公害にたとえた表現のこと。英語ではOver tourism(オーバーツーリズム)が用いられることが多い。」
引用:JTB総合研究所|観光用語集 観光公害

観光公害の英訳がオーバーツーリズムになります。

しかし観光公害で焦点が当たっているのは、単に観光客がキャパオーバーになっている点ではありません。

観光客や観光客を受け入れるための開発などが、地域や住民にもたらす弊害の部分に、よりフォーカスされた表現だといえるでしょう。

参考:JTB総合研究所|観光用語集 観光公害

オーバーツーリズムがもたらす問題

 

昨今の訪日外国人旅行者数の増加に伴い、観光業が潤うのは喜ばしいことでしょう。

その反面、オーバーツーリズムは問題です。

日本でのオーバーツーリズムと聞くと、まず思い浮かぶ観光地は京都ではないでしょうか。

2022年に京都市で「オーバーツーリズム」のアンケート調査を行ったところ、「ほどほどに外国人観光客に来てほしい」と回答した回答者が約半数を占めました。

外国人観光客に対する歓迎度は年代により異なる結果となり、20 代は外国人観光客に対する歓迎度が高い一方で、50代は低い結果となりました。

この結果を踏まえたうえで、オーバーツーリズムによる負の影響を見てみましょう。

参考:J-STAGE|住民の歓迎度からみるオーバーツーリズムに関する一考察 ~京都市でのアンケート調査の結果より~

観光地に居住する住民への負荷

観光地であろうと、その地に住んでいる住民はもちろんいます。

観光客の増加や迷惑行為が、地元住民に与える負荷は計り知れません。

具体的には、以下のような影響があります。

  • マナー違反・文化の違いによる不快な経験
  • ごみのポイ捨てによる悪臭の発生や掃除の手間
  • 夜間まで響く騒音
  • 観光客が多く公共交通機関に乗車できない、道路の渋滞などで日常生活に支障が出る
  • 私有地へ立ち入っての写真撮影
  • 私有地への落書きや物の破損

その土地に住む人たちに敬意を払い、生活水準が損なわれないように配慮する必要があるでしょう。

観光客の満足度の低下

オーバーツーリズムが与える悪影響は、その土地に暮らす人々に対してだけではありません。

観光客そのものの満足度にもかかわってきます。

ごみだらけの観光地では、写真を撮るのも躊躇してしまいます。

渋滞がひどく、目的地に予定通りたどりつけなければ、楽しみにしていたアクティビティに参加できなくなることもあるでしょう。

行ってみたかったレストランや観光スポットも、混雑しすぎて諦めなければならないかもしれません。

観光客の迷惑行為にうんざりした地元住民がホスピタリティを欠いた言動を取れば、その国や地域に対する満足度も下がってしまうかもしれません。

観光ビジネスの衰退

観光客の増加は観光業を推進すると思われがちですが、実は長期的な目線で見ると観光ビジネスの衰退をもたらしかねません。

具体的には、以下のような影響があります。

  • ごみのポイ捨てによる景観の悪化
  • 重要文化財への落書きや損傷
  • 自然環境の破壊・生態系の変容
  • 観光客向けの商業施設や宿泊施設の建設による景観の悪化

観光客の増加により景観や自然環境が悪化することで、観光地自体の魅力が低下する懸念もあるのです。

オーバーツーリズムとSDGsとの関係

オーバーツーリズムとSDGsとの関係性を考えてみましょう。

2019年10月に行われたG20観光大臣会合において、観光政策の重心をこれまでの「成長」から「持続可能性」に転換することが合意されました。

「旅行者、観光関連産業、自然環境、地域社会の需要を満たしつつも、経済面・社会面・環境面への影響も十分考慮した観光」が持続可能な観光の定義といえます。

SDGs目標の8番目「働きがいも経済成長も」は、オーバーツーリズムと関連が深いといえます。

詳しく掘り下げてみましょう。

SDGs目標8ターゲット8.9

SDGs目標8「働きがいも経済成長も」の中にはいくつかのターゲットがあります。

その9番目の項目である8.9「2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する」が、オーバーツーリズムと大きく関係しています。

観光業は、宿泊・飲食・アクティビティなど、多くの分野で雇用を創出します。

外国人観光客には日本語が通じないことがほとんどなので、英語など語学の活用や、ITツールを活用するシーンも多いでしょう。

すると、スキルや働きがいが向上します。

持続可能な観光業の促進にあたっては、先に述べたようなオーバーツーリズムの問題に向き合い、適切な対処を講じることが必要です。

観光客の集中による混雑やマナー違反への対応はもちろんのこと、都市部だけでなく、地方の魅力をアピールし観光客を誘致するといった対策が観光庁により打ち出されています。

参考:国土交通省 観光庁|オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ

コロナ前後における訪日外国人旅行者数の推移

ここ数年間に日本を訪れた外国人旅行客の推移を見てみましょう。

2020年に発生した新型コロナの影響により、訪日外国人旅行者数は大幅に落ち込みました。

しかし2022年10月に水際措置が緩和されてからは回復の兆しを見せ、2023年の訪日外国人旅行者数は約2,507万人に達しました。

この2,507万人という数値は、3,188万人を記録した2019年の79%まで回復したことになります。

2023年の訪日外国人旅行消費額は5兆3,065億円にも上り、過去最高を記録しました。

訪日外国人旅行消費額の政府目標である、年間5兆円を早くも達成したことになります。

今後も訪日外国人旅行者数の増加が見込まれるでしょう。

そのため、オーバーツーリズムにならないように適切な対策を取らなければいけません。

オーバーツーリズムへの対策事例

それではオーバーツーリズムの対策としてはどのようなものがあるのでしょうか。

日本(京都)、オーストラリア(ケアンズ)、イタリア(ベネチア)の事例を紹介します。

日本:京都

オーバーツーリズムが問題となっている京都市では、八坂神社の鈴が乱暴に扱われることで鈴が落ちたり、お座敷に向かう舞鼓さんがパパラッチに取り囲まれたりするなどの問題が恒常化しています。

そこで、これまでは24時間鳴らすことができた八坂神社の鈴を、17時ごろ〜翌朝6時ごろまで鳴らせないよう対策が取られました。

私道である小袖小路の通行禁止(侵入した場合、罰金1万円)にも踏み切り、舞妓や地元住民のみが通れるようにしました。

桜の時期(春)と、紅葉の時期(秋)にオーバーツーリズムが顕著となる京都市では、「時期」「時間」「場所」の3つの軸で分散化に向けた施策を実施しています。

閑散期である夏と冬の京都を注力してPRするほか、早朝や夜に観光できるおすすめスポットやイベント情報の発信、有名観光地以外の「とっておきの場所」を紹介することで、分散化を図っています。

さらに、トイレの使用方法やバス乗車時の注意点を多言語でまとめたり、マナー啓発用のリーフレットを作成したりするなど、ルールの周知やマナー啓発を積極的に行っています。

参考:【独自】京都・八坂神社で外国人観光客が「鈴緒」振り回す…後をたたない迷惑行為に“夜の鈴鳴らし禁止”の苦渋の決断|FNNプライムオンライン

参考:祇園の私道に「進入禁止」の看板 罰金1万円の表記も 観光客急増で [京都府]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

オーストラリア:ケアンズ

ケアンズで人気の観光スポットである「グレートバリアリーフ」。

中でも「フランクランド島」は、グレートバリアリーフの中にある手付かずの自然が残る無人島です。

ケアンズ州では、グレートバリアリーフで観光利用できるエリアを全体の7%に設定し、さらにフランクランド島への上陸は1日100名までに制限するなど、徹底的に管理しています。

先住民族アボリジニが守る世界遺産の森「モスマン渓谷」においては、観光客の増加に伴い駐車車両が増える問題が起きていました。

そこで2012年6月より、一般車両の進入を禁止。

ビジターセンターを設置し、シャトルバスを利用したルート以外では「モスマン渓谷」にアクセスできないようにしています。

参考:PR TIMES ケアンズ観光局|オーバーツーリズムに悩まされない「未来を育む観光のカタチ」

イタリア:ベネチア

イタリアのベネチアでは、2024年より入市料の徴収を試験的に開始しました。

市内に入る観光客から1人5ユーロ(約800円)の手数料を徴収する制度で、世界初の取り組みとなりました。

入市料は、市内の宿泊施設に宿泊すれば免除されます。

日帰りの観光客は、事前にオンラインで5ユーロの入市料を支払って登録する必要があります。

監査官が抜き打ちで検査を行っており、登録していないことが発覚すると最大で300ユーロの罰金が科されます。

観光シーズンのピークを中心に、計29日間実施予定です。

参考:訪日ラボ|オーバーツーリズムの具体的な対策事例17選 課題やケース別に徹底解説!【連載:オーバーツーリズムを考える 〜真の観光立国への道のり〜 第四回】

まとめ

観光業の発展は雇用の創出をもたらし、地域経済にも大きなインパクトを与えます。

一方で、オーバーツーリズムにより脅かされる地域住民の生活や、歴史的建造物・自然環境への悪影響もしっかりと理解しなければなりません。

安易に観光客を規制するような対策ばかりを講じるのではなく、「分散」させることが重要です。

分散化することで、経済効果を保ったままオーバーツーリズムを回避できます。

オーバーツーリズムの解消には観光客、行政、地域住民のそれぞれが協力し、理解しあうことが求められるでしょう。

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