格差・貧困・人権

フードセキュリティとは?FAOの定義や日本の問題をわかりやすく解説

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私たちが生きていくために必要不可欠な食料。しかし、気候変動や人口増加、物価上昇などにより安定的な食料供給が受けられないなどの問題が発生しています。そこで重要なのがフードセキュリティです。

「フードセキュリティ(Food Security)」とは、世界中の人々が安全で健康的な食料を、持続的に入手し続けられる状態を指します。

本記事では、フードセキュリティの概念やFAOの定義、日本の課題などを解説します。記事を読んで、食の安全とは何か、フードセキュリティ実現のために何が大切かを考えてみましょう。

フードセキュリティとは?

フードセキュリティとは?

「フードセキュリティ(Food Security)」は「食料安全保障」と訳されます。1950年からのアジアやアフリカ地域での飢餓や、70年代の第一次石油危機などを受け、1974年に開催された世界食料会議で初めて提起されました。

国連食糧農業機関(FAO)は、フードセキュリティを以下のように定義しています。

”すべての人が、いかなる時にも、活動的で健康的な生活を送るために、必要とする食事や食の嗜好を満たす、十分で安全かつ栄養のある食料を、物理的、社会的、経済的に入手できる状況。”
引用:国際連合食糧農業機構(FAO)駐日連絡事務所「FAOについて」

安全で栄養価の高い食料を生産するだけでなく、世界中のすべての人がその食料を持続的に得られる仕組みの構築が大切です。

フードセキュリティを構成する4つの要素

フードセキュリティの実現には、以下の4つの要素が必要とされています。

  • Food Availability:食料が十分な量が存在していること
  • Food Access:食料を入手するための方法や権利があること
  • Utilization:安全かつ栄養価の高い食料を摂取するための環境があること(身体的、衛生的)
  • Stability:十分な食料が安定的に得られること

参考:農林水産省「FAOの定義(Food Security)」

4つの要素が十分に満たされている場合に、食料が保障された状態(Food Security)にあるといえます。

SDGsと「フードセキュリティ」の関係性

持続可能な開発目標(SDGs)には、フードセキュリティと関係する目標があります。

特に目標2「飢餓をゼロに」はフードセキュリティに言及しており、深い関係があるといえるでしょう。

”目標2「飢餓をゼロに」

飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養の改善を実現し、持続可能な農業を促進する”
引用:外務省「持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取り組み」

目標2では、安定的かつ持続可能な農業により、世界中の人々に安全で栄養のある食料を確保し、栄養不足や飢餓を解消することが掲げられています。

「フードセキュリティ」と「フードインセキュリティ」の違い

「フードセキュリティ」と似た言葉に「フードインセキュリティ」があります。

「インセキュリティ(Insecurity)」は不安定や危険な状態を意味し、「フードインセキュリティ」は貧困などの原因で十分な量や質の食料が確保できない状態です。

つまり「フードセキュリティ」と「フードインセキュリティ」は、対義語といえるでしょう。

世界のフードセキュリティの現状

世界のフードセキュリティの現状

まずは世界のフードセキュリティの現状を見ていきましょう。

2023年推定で栄養不足人口は約7.5億人

国連食糧農業機関(FAO)の最新発表によると、2023年推定値で世界の栄養不足人口は7億1,300万〜7億5,700万人とされています。2022年推定値は6億9,400万〜7億6,300万人であり、数値はほぼ横ばいでした。

参考:国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)2024年報告」

この結果の要因には、紛争や異常気象などの増加、燃料輸送費の高騰などが考えられます。新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックによる混乱が、それらの影響により立て直せていない国や地域も多くあります。

先進国を中心とした農業技術の開発・普及

フードセキュリティに向け、先進国を中心に農業技術の開発が進められています。

近年、注目されている農業技術に「スマート農業」があります。スマート農業はロボットやAIなどの技術を活用して行う農業です。スマート農業では、ドローンを使用した農薬散布や生育状態のチェック、GPSとAIを活用した自動トラクターなどがあります。

コスト面などの課題はあるものの、質や量の安定化や労働時間の削減などの面から取り入れる農家が増えています。

日本のフードセキュリティの現状

日本のフードセキュリティの現状

日本のフードセキュリティは、どのような状況なのでしょうか。

現在の状況と政府が行っている対策などを紹介します。

日本の食料安全保障指数は第6位

農業調査会社コルテバ・アグリサイエンス社の支援を受けたイギリスのエコノミスト誌が、2012年より毎年「世界食料安全保障指数」を発表しています。

世界食料安全保障指数とは、食料の「手頃な価格(Affordability)」「入手しやすさ(Availability)」「品質・安全性(Quality and Safety)」「サステナビリティ・適応性(Sustainability and Adaptation)」の4項目で評価されます。

2022年は世界113カ国のうち、日本は第6位でした。特に「入手しやすさ(Availability)」の項目では世界第1位で、農場インフラ(食料の貯蔵設備、農地への給水設備、市場データなどへのアクセスのしやすさ)が高い評価を得ています。

参考:ECONOMIC IMPACT「Global Food Security Index 2022」

食料自給率は2000年からほぼ横ばい

高い食料安全性が評価されている日本ですが、食料自給率は2000年からほぼ横ばいの状態です。

農林水産省の発表によると、2023年度のカロリーベースの食料自給率は38%、生産額ベースの食料自給率は61%でした。1965年のカロリーベースの食料自給率は70%以上ありましたが、米の消費量減少や畜産物や油の消費が増えたことなどにより、徐々に減少していきました。

参考:農林水産省「日本の食料自給率」

一方、2021年におけるオーストラリアはカロリーベースの食料自給率は233%、カナダは204%、アメリカは104%、イギリスは58%、スイスは45%です。これらの国々と比較すると、日本の食料自給率は低い水準であることがわかります。

参考:農林水産省「世界の食料自給率」

さまざまな理由による農家の減少

日本は人口減少や高齢化により、農家は減少しています。

農林水産省の報告によると2020年の農家は約175万戸で、この数値は20年前より約56%の減少です。特に都市部での農家人口の減少が著しいとされています。

参考:農家の数は減っていますか。:農林水産省

また、新規就農者の定着状況も要因の一つとなっています。

2019年に総務省が行った新規就農者に関する調査によると、農の雇用事業に採択された農業法人で新たに研修を受けた人のうち、全体の39.5%の人が調査時点までに離農していることがわかりました。「農の雇用事業」とは、農家・農業法人が新規就農希望者を雇用して技術や経営ノウハウを習得させるプログラムです。離農理由には、自己都合や家庭の事情、病気・けがなどがあります。

参考:総務省「農業労働力の確保に関する行政評価・監視-新規就農の促進対策を中心として- 結果報告書」

フードセキュリティ実現に必要な3つの課題

フードセキュリティ実現に必要な3つの課題

日本の世界食料安全保障指数は高いものの、食料自給率は低く、フードセキュリティが実現できているとはいえない状況です。

では、フードセキュリティの実現にはどのような取り組みが必要なのでしょうか。最後に必要な3つのポイントを紹介します。

  • 食料自給率の維持・向上
  • 気候変動や自然災害への対策
  • 生産資材等の価格高騰に向けた緩和対策

食料自給率の維持・向上

まずは「食料自給率の維持・向上」です。

日本の食料自給率は低く、年間に消費する食料の約60%を海外から輸入しています。特に輸入の割合が多いのが、油脂類と小麦です。油脂類は輸入が96%、小麦類は82%を輸入に頼っている現状です。

参考:農林水産省「令和5年度食料自給率について」

今後、地政学リスクの高まりなどにより食料の輸入が困難になる可能性が考えられます。そのような場合にそなえ、食料自給率は少しでも高めておく必要があります。

一方、離農する人や耕作放棄地の課題もあります。今後この課題が大きくなれば、食料自給率の低下につながるかもしれません。

日本のフードセキュリティを実現するためには、食料自給率を向上させる前に維持するための取り組みが重要です。

気候変動や自然災害への対策

フードセキュリティは「気候変動や自然災害」の影響を大きく受けます。特に農産物は、生育障害や品質低下などにより、生産量の減少につながります。近年、野菜の価格が乱高下している現象にも、気候変動が関係しています。

気候変動や自然災害からの影響を最小限に抑えるためには、以下のような方法が考えられます。

  • 自然災害への耐久性の高い食料保存方法の開発
  • 気候変動に強い品種の改良
  • 農地土壌劣化に対する技術の開発

気候変動や自然災害への対策は、安定的な食料供給において必要不可欠といえるでしょう。

生産資材等の価格高騰に向けた緩和対策

近年は「生産資材等の価格高騰に向けた緩和対策の重要性」も高まっています。生産資材とは、野菜や肉を生産する際に必要な資材で、農機や肥料、飼料などが挙げられます。

日本で使用される生産資材の多くは、海外からの輸入に頼っているのが現状です。そのため、原油価格や政治的要因、為替などの影響を大きく受けます。

この課題は、政府が2022年に策定した「食料安全保障強化政策大網」でも重要な対策とされています。

参考:首相官邸ホームページ「食料安全保障強化政策大網(改訂版)」

生産資材が高騰すると、生産物の価格が高騰するだけでなく、農業経営にも影響を与えます。結果、生産量や生産者が減少してしまうかもしれません。

フードセキュリティ達成のためには地球規模での協力が重要

フードセキュリティ達成のためには地球規模での協力が重要

全人類が健康に過ごすためには、フードセキュリティが不可欠です。

そして、フードセキュリティ達成のためには、国内だけでなく、世界各国の協力が欠かせません。国や地域を越えて連携することで、技術・データの共有や緊急時の支援などが可能になります。

また、政府だけでなく民間企業や農家が協働しなければ、食料安全の課題は解決できません。一人ひとりがフードセキュリティを意識して行動すれば、改善するスピードは加速します。

まずはフードセキュリティの現状や課題を理解し、その上で個人として何ができるのかを考えてみてはいかがでしょうか。

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