環境評価の新常識LCAとは?導入メリットと課題・企業事例を紹介

今注目されているLCA(Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)を知っていますか?LCAは一言でいえば、各製品やサービスが環境に与える負担を評価する方法です。
昨今SDGsの観点から、環境に優しい製品やサービスの開発が求められています。LCAはこうしたモノのライフサイクルにおける環境負荷を可視化し、環境に配慮した製品やサービスを検討するための指標となるものです。
本記事ではLCAの基礎知識や、混同されがちなカーボンフットプリント・サプライチェーン排出量との違いを分かりやすく解説します。
各社の事例も交えながら、LCAを導入するメリットや注意点にも言及しているので、ぜひ導入の際に参考にしてみてください。
LCAの意味と基本概念
LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、製品やサービスを作るにあたって、材料の調達から廃棄・リサイクルまでに生じる環境負荷を数値で評価する方法です。
原材料調達→製造→流通→使用→廃棄/再利用までのすべての段階(ライフサイクル)を対象とします。
LCAを用いることで具体的な環境負荷が可視化されるため、環境により配慮した製品やサービスを選ぶ際の有用な情報となります。
LCAとカーボンフットプリントの違い
LCAと似た用語にカーボンフットプリントがあります。カーボンフットプリントは、温室効果ガスの排出量をCO2排出量に換算した数値のことです。
一方のLCAはCO2排出量のみならず、例えばオゾン層や生態系破壊、酸性化といった環境負荷を総合的に評価するものです。
カーボンフットプリントではCO2排出量に焦点を当てているのに対し、LCAでは多岐に渡る環境負荷を包括的に評価します。
参考:国立研究開発法人産業技術総合研究所|カーボンフットプリントとは?
LCAとサプライチェーン排出量の違い
LCAと混同されやすいもう1つの用語が、サプライチェーン排出量です。サプライチェーン排出量は企業の事業活動で排出されるCO2の量のことで、その範囲により下記のように、Scope1~3に分かれています。
- Scope1:事業者が直接排出する温室効果ガス
- Scope2 : 他社から供給される電気・熱・蒸気の使用により排出される温室効果ガス
- Scope3 : Scope1・2以外に間接的に排出されるすべての温室効果ガス
サプライチェーン排出量では「企業や組織が排出する温室効果ガス」に焦点を当てますが、LCAでは「製品やサービス」を対象として、ライフサイクル全体の環境負荷を包括的に評価します。
参考:一般社団法人日本化学工業協会|ライフサイクルアセスメント(LCA)
LCAの国際規格と実施手順
LCAを「どの国のどの企業でも」正しく実施するためには、世界共通の統一ルールが必要です。そこで用いられるのが国際標準化機構(ISO)です。
LCAはISO14040・ISO14044の2つの国際規格によって標準化されています。
ISO14040はLCAの最初の国際規格で、1997年に発行されました。その後2006年に再編集され、同年、新たにISO14044が発行されました。
ISOに準拠したLCAを実施することで、結果に信頼性がうまれます。
参考:一般社団法人日本化学工業協会|ライフサイクルアセスメント(LCA)
参考:J-Stage|ライフサイクルアセスメントの新規格:ISO14040およびISO14044について
LCA実施の4ステップ
LCAの具体的な実施手順を見てみましょう。LCAには、以下の4つのフローがあります。
- 目的と調査範囲の設定:何を調べるか、どこまで調べるかを決める
- インベントリ分析:エネルギーの使用量やCO2排出量などのデータを集める
- 影響評価:集めたデータをもとに環境への影響を数値で評価する
- 結果の解釈:得られた結果からどこを改善すべきか考える
ISOに準拠した上記の流れを守ることで、世界各国の企業が同じ手順で環境への影響を評価できます。
一般社団法人プラスチック循環利用協会の資料では、レジ袋をLCAの視点で分析した事例が紹介されています。具体的なイメージがわくので、ぜひ参考にしてみてください。
参考:一般社団法人プラスチック循環利用協会|LCAを考える 〜「ライフサイクルアセスメント」考え方と分析事例〜
LCAが注目される理由
ではなぜ今、LCAが注目されているのでしょうか。LCAの注目の背景には、カーボンニュートラルの達成や企業に対する環境経営の期待といった要因が挙げられます。
環境問題が深刻になる中で、環境負荷を評価できるLCAに世界中が注目しています。
まずは、カーボンニュートラルから深堀しましょう。
カーボンニュートラル達成に向けた指標の必要性
カーボンニュートラルとは、CO2に代表される温室効果ガスの排出量と、植林や森林管理などによる吸収量を差し引き、合計を実質ゼロにすることです。
カーボンニュートラル達成のためには、「どこで」「どれだけの」CO2を出しているのかを知る必要があります。そこで活用できるのが、LCAによる環境負荷の見える化です。LCAの実施は環境負荷の原因の特定や改善への判断材料となるため、多くの企業で導入が進んでいます。
生産者に課される責任の拡大
近年では、EPR(拡大生産者責任:Extended Producer Responsibility)の考え方が広がっています。製品やサービスの生産者が、製造段階だけでなく使用後(廃棄やリサイクル)の環境負荷の低減にも一定の責任を負う考え方です。ERPは、2001年施行の循環型社会形成推進基本法の中で明記されています。
例えば、ある製品を購入した消費者がその製品を使用して事故を起こした場合、当事者のみならず生産者にも一定の責任があるとするものです。
参考:国立研究開発法人 国立環境研究所|ライフサイクルアセスメント(LCA)
LCAの導入事例:各企業の取り組み
LCAはすでに多くの企業で導入され始めています。各社がLCAをどのように導入・活用しているのか見てみましょう。
マツダ・ミシュラン
マツダは2009年よりLCAを導入している自動車メーカーです。製造から購入者の使用、廃棄に至るまでの過程で環境負荷を定量化し、自動車のライフサイクル全体で環境負荷低減を目指しています。
マツダは世界で初めて、水素燃料車でのLCAを実施・公表したとして話題になりました。水素燃料車は走行時のCO2排出量は少ないものの、水素自動車特有の部品の使用により、製造時にCO2排出量が多いことが判明しました。そこで同社は、製造時の環境負荷が小さい苛性ソーダ副生水素を燃料に使うことで、CO2排出量の57%低減に成功しています。
タイヤの環境問題に取り組むのが、タイヤメーカーのミシュランです。
タイヤは環境に与える負荷が大きいことが知られています。ゴムの生産段階では森林破壊や化石燃料の消費を招き、加工段階では大量のCO2を排出します。また、リサイクルコストが高い点も問題とされてきました。
タイヤの製造から廃棄までのプロセスで環境負荷が一番大きいのは、タイヤの使用時です。そこで同社は、リグルーブタイヤ・リトレッドタイヤ(※)の使用を推奨しています。
摩耗により本来廃棄されてしまうところ、リグルーブやリトレッドをタイヤに施すことで再利用が可能です。ミシュランの高い技術を用いたリグルーブタイヤ・リトレッドタイヤの使用により、タイヤのトータルコストを削減できるのはもちろん、廃棄物の削減や資源の節約、CO2排出量削減に貢献できます。
リグルーブタイヤ(※):タイヤの既存のゴム層から溝切りをして、トレッドパターンの深さを復元したタイヤ
リトレッドタイヤ(※):摩耗しているタイヤのトレッドを新しいトレッドに交換し、再利用したタイヤ
参考:ミシュラン|ミシュランタイヤのサステナブル・環境問題・LCA 100%持続可能なタイヤへ
Allbirds
Allbirdsは、サステナブルに特化したシューズを扱うアメリカ発祥のアパレルメーカーです。同社は独自のLCAツールを開発し、素材調達から廃棄の各段階で排出されたCO2を算出しました。2020年よりAllbirdsの全製品に、CO2排出量が記載されたラベルを貼付しています。
Allbirdsの取り組みで脱帽なのが、カーボンフットプリントの算出と公開の取り組みをアパレル業界に広めようと尽力している点でしょう。カーボンフットプリントの算出に使えるエクセル表とスタードガイド、公開時のラベルデザイン例などをWeb上に公開したことで大きな反響を呼んでいます。
Allbirdsのサステナブルな取り組みは、以下の記事でも取り上げています。ぜひ併せてご覧ください。
関連記事:Allbirds(オールバーズ)の靴が大ヒットした4つの理由!国内での展開も解説
参考:Allbirds|製品のカーボンフットプリントの測定方法について
日立製作所・旭化成
日立製作所は、製品単位のCO2排出量を実態に沿って算定できる「EcoAssist-Pro/LCA」を開発しました。本ツールは日立グループ製造拠点内での使用のみならず外販化されたことで、製品単位のCO2排出量を把握したい企業が利用できるようになりました。
企業に対する温室効果ガスの排出量可視化がより一層求められる中、本ツールの外部提供開始は大きな追い風となったことでしょう。
旭化成は自社製品の環境貢献内容の妥当性を外部有識者とともに評価する、「LCAレビューパネル」を定期開催しています。こうした透明性の高いLCA結果を公表することで、社内外の信頼性確保を図っています。
旭化成は古くからCSRやサステナビリティに着目してきた企業でした。1991年に初めて「環境報告書」を発行、2006年以降は「CSRレポート」として充実させ、2019年からは「サステナビリティレポート」に改名、同グループのサステナビリティの考え方や持続可能な社会の実現への貢献を開示しています。
参考:HITACHI|製品別のCO2排出量を算出・可視化する自社取り組みを外販化
大日本印刷
大日本印刷(DNP)は、製品の原材料調達から製造・輸送・廃棄までのライフサイクル全体でCO2排出量を算定できる、「DNPライフサイクルCO2認証システム」を開発しました。
本システムは、一般社団法人サステナブル経営推進機構により認証された算定システムを活用しているため、第三者認証のもとで公平性・信頼性を担保した結果が得られます。算出はDNPが行うため、サービス利用にあたって専門知識やツール導入も必要ありません。
こうした取り組みが高く評価され、同社はLCA日本フォーラム主催の「第19回LCA日本フォーラム表彰」で2022年に会長賞を受賞しました。
同社は環境専門チーム「DNP GREEN PARTNER」を結成し、脱炭素やサステナブルな社会の実現に向けた取り組みの実施、コラム記事の公開を積極的に行っています。
参考:DNP|DNPライフサイクルCO₂認証システム CO2算定サービス
企業がLCAを導入するメリット
LCAの重要性や各社の取り組みが分かったところで、企業がLCAを導入するメリットを考えてみましょう。
まず、LCAを取り入れることで、自社の製品やサービスが環境に与える負担を見える化できます。さらにグリーンウォッシュの回避や、企業ブランドイメージの向上にもつながるでしょう。
環境負荷の見える化により改善ポイントを特定
LCAを実施することで、原料調達から廃棄/リサイクルまでのどの段階で、CO2の排出やエネルギー使用が多いかを把握できます。
例えば、使用容器や梱包時の環境負荷が大きいと分かれば、容器の軽量化・梱包のコンパクト化を図るなど、LCAにより改善ポイントが明確になるでしょう。
グリーンウォッシュの回避に有効
グリーンウォッシュとは実態が伴わないにもかかわらず、あたかも環境に配慮したかのように見せかける行動や表現のことです。
LCAの実践により環境負荷を数値でダイレクトに証明できるので、グリーンウォッシュの回避はもちろん、消費者や利用者からの信頼を得ることにもつながります。
環境経営や企業のイメージアップに貢献
LCAを活用することで、消費者や投資家から選ばれる企業になれるでしょう。
LCAを取り入れて具体的な環境負荷を特定し改善に取り組むことで、環境に配慮する企業であることを証明できます。
企業のブランドイメージの向上に直結するだけでなく、ESG投資(※)でも評価されやすくなります。
ESG投資(※):財務情報だけでなく、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)に配慮した企業に投資すること
LCA導入時の課題や注意点
前項では、LCAのメリットを述べました。これらメリットを踏まえると、「LCAを自社でも取り入れたい」と感じるご担当者様もいることでしょう。
しかし、LCAを実際に取り入れるには、いくつかの課題や注意点があります。多くのデータを集める必要があったり、専門的な知識が必要になったりする点です。次項で詳しく解説します。
データ収集の難しさや専門知識の不足
LCAの実施にあたっては、膨大なデータが必要です。具体的には、自社のみならず材料の仕入れ先や運送会社、小売業者、廃棄/リサイクル業者など、サプライチェーンの上流から下流までの企業に協力してもらう必要があります。取引先の協力をうまく得られないこともあるでしょう。
正しく評価するには、専門知識も必要です。自社での対応が難しいと感じたら、専門家に相談しましょう。その際は、次の条件を満たすライフサイクル専門家を探してみてください。
- ISO14040/14044シリーズに精通しており、準拠できる専門家
- 中心となる4つのLCAの柱を説明できる専門家
参考:一般社団法人日本化学工業協会|ライフサイクルアセスメント(LCA)
人材・コスト・時間の確保が必要
LCAを実施するためには、担当者の選出や教育、データ収集、ツールの導入など、さまざまな準備が必要です。準備にあたってはコストや時間がかかるうえに、専門家に依頼するとなるとさらにコストがかさみます。
特にスタートアップや中小企業では、リソース不足が導入の大きな障壁となるでしょう。
評価範囲・精度の設定による結果のバラつき
LCAでは目的と範囲、つまり「なんのためにどこからどこまでを調べるのか」をしっかり決めておくことが重要です。範囲や用いるデータを途中で変えてしまうと、結果にバラつきが出てしまいます。後々データを比較するためにも、条件をあらかじめそろえておくことが大切です。
入力するデータに不備・不足があれば、信頼のおける結果は得られません。事前に高品質のデータを準備することで、信頼性の高い結果が得られます。
参考:一般社団法人日本化学工業協会|ライフサイクルアセスメント(LCA)
まとめ
LCAは、製品やサービスの原料調達から、廃棄/リサイクルまでの全過程で環境に与える影響を調べる方法です。環境負荷を見える化できる指標として世界中で注目されており、日本の企業でも導入が進んでいます。
膨大なデータが必要になるほか、専門知識が必要な点やコスト面が導入の際の大きなハードルになるでしょう。一方で、導入こそ容易ではないものの、環境経営やESG投資の観点からも今後ますます重要になってきます。私たちの地球を守るため、LCAは今こそ取り組むべき「環境評価の新たなスタンダード」といえるでしょう。
『GREEN NOTE(グリーンノート)』は環境・社会課題をわかりやすく伝え、もっと身近に、そしてアクションに繋げていくメディアです。SDGs・サステナブル・ESG・エシカルなどについての情報や私たちにできるアクションを発信していきます!