バイオマス発電とは?メリット・デメリットや仕組みを分かりやすく紹介

バイオマス発電は、動植物由来のバイオマス(有機物質)を燃料として発電する方法です。近年、カーボンニュートラルな発電方法として、注目されています。
この記事では、バイオマス発電の仕組みやメリット・デメリットを分かりやすく解説します。また、後半にはバイオマス発電に取り組む国内企業も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
バイオマス発電とは?

バイオマス発電は、バイオマスを燃料として燃やしたりガス化したりして得られるエネルギーを利用して発電する方法です。
バイオマス(biomass)は、生物資源(bio)の量(mass)を意味する概念です。農林水産省では、バイオマスを「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義しています。
バイオマス発電は、木材を燃やして発電する方法として昔から利用されてきましたが、注目されるようになったのは1970年代のオイルショック以降です。石油などの化石燃料に頼らない新たなエネルギー源として、バイオマス発電の研究が進められました。しかし、石油価格が安定するようになり、バイオマス発電は普及するまでに至りませんでした。
その後、地球温暖化などによりクリーンエネルギーの必要性が重視され、再びバイオマス発電への注目が集まっています。
バイオマス発電で使用される燃料
バイオマス発電には、さまざまな燃料が利用されます。燃料は状態によって大きく「乾燥系」「湿潤系」「その他」の3種類に分けられます。
| 乾燥系 | 木質系:林地残材、製材廃材
農業・畜産・水産系:農業残さ、家畜排泄物 建築廃材系:建築廃材 |
| 湿潤系 | 食品産業系:食品加工廃棄物、水産加工残さ
農業・畜産・水産系:家畜排泄物、牛豚ふん尿 生活系:下水汚泥、し尿、厨芥ごみ |
| その他 | 製紙工場系:黒液・廃材、セルロース(古紙)
農業・畜産・水産系:糖・でんぷん、甘藷、菜種、パーム油(やし) 生活系:産業食用油 |
本来は捨てられていたものを資源として活用できるのが、バイオマス発電の特徴です。
バイオマス発電が注目される理由
バイオマス発電が注目されるようになった理由に、カーボンニュートラルがあります。
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引いてゼロ(実質ゼロ)にする状態です。日本は、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目指し、中間目標として2030年度には温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目標としています。
参考:第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組|経済産業省
バイオマス発電に使われる燃料の多くは、生物由来です。燃焼時にはCO2を排出しますが、燃料となる資源が成長する過程でCO2を吸収するため、カーボンニュートラルが実現するとされています。
関連記事:【世界と日本】温室効果ガス削減の取り組みと個人でできること
バイオマス発電の3つの方式と仕組み

バイオマス発電は、バイオマス(燃料)を焼却したりガス化したりすることでタービンを回し、発電する方法です。
またバイオマス発電の仕組みは、3つに分けられます。
直接燃焼方式
熱分解ガス化方式
生物化学的ガス化方式
直接燃焼方式
直接燃焼方式とは、バイオマスをボイラーで直接燃焼させ、タービンを回して発電する方式です。燃焼温度が高く、大量の蒸気を発生させるため、大型のタービンが回しやすくなります。そのため、規模の大きな発電所に適しています。
燃料は、木質系のバイオマスや可燃ゴミ、精製した廃油などです。木質系のバイオマスは、ペレットやチップに加工してから燃焼します。可燃ゴミを燃料とするため、直接燃焼方式では発電所とゴミの処理施設が併設されている場合があります。
熱分解ガス化方式
熱分解ガス化方式は、バイオマスを高温・低酸素で処理することでガス化し、タービンやガスエンジンで発電する方式です。
燃料には、木質系のバイオマスや可燃ゴミなどが使われます。木質系はペレットやチップに加工されてから使用します。
熱分解ガス化方式は、規模の小さい設備でも発電量の確保が可能なのが特徴です。
生物化学的ガス化方式
生物化学的ガス化方式は、バイオマス燃料を発酵させ、発生したバイオガスでタービンを回して発電する方式です。
燃料には、家畜の排泄物やふん尿、下水汚泥などが使われます。生物化学的ガス化方式は水分が多く、直接燃焼方式が難しい廃棄物に用いられます。また、ガスの発熱量が高く、発電効率の高さが特徴です。
さらに、発酵後に残る消化液は、肥料や土壌改良材として活用できます。
バイオマス発電によるメリット

環境に配慮した発電方法として注目されているバイオマス発電には、さまざまなメリットがあります。
ここでは、3つのメリットを紹介します。
カーボンニュートラル
バイオマス発電の一番のメリットは、カーボンニュートラルであることです。地球温暖化対策や持続可能な社会の実現のために、日本を含め世界各国がカーボンニュートラルの達成を目指しています。
バイオマス燃料のほとんどは、生物由来です。原料となる植物やそれらを食べる動物は、成長する過程でCO2を吸収します。発電時にバイオマスは燃焼してCO2が発生しますが、発生したCO2と成長時に吸収するCO2が相殺されるため、CO2の排出量は実質ゼロになります。
今注目されているカーボンニュートラルなエネルギーには、太陽光発電や風力発電などがありますが、バイオマス発電もその一つです。
廃棄物の削減
バイオマス発電には、廃棄物削減というメリットがあります。
例えば、バイオマス発電に使われる木材は、森林の間伐により発生し、本来であれば廃棄されてしまう木材です。近年削減が求められている食品廃棄物もバイオマス燃料となります。廃棄されるものを活用できるため、環境負荷の抑制につながります。
稲や藁、籾殻もバイオマス燃料です。これまで利用されてこなかった部分を資源と捉え、活用できるのもバイオマス発電の特徴です。
安定した発電量の確保
バイオマス発電は、他の再生可能エネルギーよりも安定した発電量を確保できます。
太陽光発電や風力発電は、天候によって発電量が左右されます。また、太陽光パネルや風力タービンなどは、自然災害の被害も受けやすいことが課題です。しかし、バイオマス発電は屋内施設になるため、安定した発電量を確保できるのです。
また、発電量がコントロールしやすく、電力不足や必要以上の発電も防げます。
関連記事:日本企業のカーボンニュートラルへの取り組み|メリットや方法も解説
バイオマス発電によるデメリット

メリットが多いバイオマス発電ですが、デメリットもあります。バイオマス発電のデメリットを見ていきましょう。
発電効率の低さ
バイオマス発電は、他の発電方法と比較して発電効率が低いというデメリットがあります。
発電効率とは、元となるエネルギーをどれだけ電気に変換できたかを表す割合です。発電効率が高いと同じエネルギーから多くの電気を得られ、発電効率が低いとエネルギーロスが多いことを意味します。
例えば、木材を燃料とするバイオマス発電(木質バイオマス発電)の発電効率は25〜40%ほどです。水力発電は約80%、風力発電は約40%なので、バイオマス発電は再生可能エネルギーの中でも発電効率が低いといえます。
参考:太陽光発電の「発電効率」や「変換効率」とは?発電効率が高いメーカーと発電効率を向上させる方法|東京ガス
バイオマス燃料の確保が安定していない
バイオマス燃料の確保が安定していない点も、デメリットの一つです。
木材は森林・林業基本計画によって、利用できる間伐材の量に制限があります。バイオマス発電の普及により、今以上に多くのバイオマス燃料が必要になった場合、国内での発生量では不足することも考えられます。
実際に、木質バイオマス発電で使われる木質ペレットの多くは、輸入されたものです。2012年時点の輸入量は6.6万トンでしたが、2021年には311.1万トンでした。国内での生産も行われていますが、現状の自給率は4.8%とされています。
参考:「木質バイオマス燃料等の安定的・効率的な供給・利用システム構築支援事業」(中間評価)|NEDO
この課題を克服するには、バイオマス燃料の国内生産体制の強化も進める必要があります。
燃料輸送や調達のコストの高さ
バイオマス発電には、木材や食品廃棄物、油などさまざまな種類の燃料が使用できます。廃棄物削減の観点からは利点ですが、燃料となるバイオマスはさまざまな場所に存在しています。そのため、各燃料の回収や運搬、管理にはコストがかかるのが現状です。
また木材や廃油は、バイオマス発電に使うための処理が必要となるため、追加のコストが発生します。
太陽光や風力は自然の力を利用して発電するため、エネルギー源は無料で手に入ります。しかしバイオマス発電の場合、バイオマス自体の輸送費も必要です。
コスト削減のためには、木材産業やゴミ収集業者との連携が重要です。
関連記事:クリーンエネルギー|バイオマス発電のメリット・デメリットとは?
国内におけるバイオマス発電の導入状況

2025年10月、農林水産省がバイオマスの活用に関する報告書を公表しました。
2025年3月末時点では、FIT制度において約611万kWが運転を開始しています。FIT(Feed in Tariff)制度とは、再生可能エネルギーで発電した電力を、電力会社が一定価格・一定期間で購入することを国が保障する制度です。
木質バイオマス発電施設の導入件数は年々増加しており、2025年3月には285件の導入がありました。特に近年は、小規模の発電施設(2,000kW未満の間伐材等由来)の割合が増加しています。
国内のバイオマス活用では、黒液(製紙工程で発生する廃液)や製材工場等の残材、建設発生木材は約90〜100%利用されています。一方で、農作物の非食用部や林地残材は、利用率が40%未満と低いのが現状です。
バイオマス発電をより広く普及させるには、全国各地へのバイオマス発電設備の導入と利用率の低いバイオマスの活用が重要です。
バイオマス発電に取り組む国内企業

最後に、バイオマス発電に取り組む国内企業を紹介します。
- バイオマス・フューエル
- イーレックス
- 東京エネシス
- レノバ
- 紋別バイオマス発電
バイオマス・フューエル
バイオマス・フューエルは、国内外でバイオマス燃料の売買や輸出入、製造などを行う企業です。
国内ではバイオマス燃料である木質チップを製造。収集した間伐材などを破砕し、月約7,800トンもの木質チップを供給しています。
同社の事業には、バイオマス燃料の調達・調査やコンサルティング事業もあります。2010年の群馬県でのバイオマス発電プロジェクトをはじめ、山梨県や岩手県、神奈川県、岐阜県での発電事業設立にも携わり、各事業成立に寄与してきました。
また海外では、マレーシア、インドネシア、ベトナムに拠点を持ち、木製ペレットの製造・供給やPKS(ヤシの実の種の殻)の日本向け輸出事業をしています。ベトナムの第一工場は、2019年にFIT認定を受けた初めてのペレット工場です。
参考:バイオマス・フューエル
イーレックス
イーレックスは、バイオマス燃料の調達事業やバイオマス発電事業に取り組む企業です。
同社は日本で初めて、PKSを主な燃料としたバイオマス発電所の運転を開始した企業です。現在は、国内で6基のバイオマス発電所を運転しています。2020年に運転を開始した豊前バイオマス発電所(福岡県)と大船渡バイオマス発電所(岩手県)は国内最大級のバイオマス発電所です。また、2029年には新潟県に大型バイオマス発電所を建設予定であり、計画が進行中です。
海外では、2025年4月よりベトナムのハウジャンバイオマス発電所にてバイオマス発電の商業運転を開始しました。また、ベトナム国内の18地点へのバイオマス発電所の新設計画も進められています。
木質ペレット工場もベトナムで稼働中です。製造されたペレットは日本などへ輸出しており、アジアを中心に再生可能エネルギー事業に取り組んでいます。
参考:イーレックス
東京エネシス
東京エネシスは再生可能エネルギーをはじめ、火力・原子力・水力などの発電設備の新設や改造、メンテナンスなどを担う企業です。
東京エネシスの100%出資子会社が鳥取県にバイオマス発電所を建設、発電事業を行っています。また宮城県や山口県、愛知県のバイオマス発電所への技術サポートや、O&M(オペレーション&メンテナンス)を実施しています。
2025年6月には、熊本県でメタン発酵バイオガス事業を展開することを発表しました。この発電所は、2029年7月からの営業運転を予定しており、現在計画が進行中です。
また、インドネシアやマレーシアから調達したバイオマス燃料(PKS)を国内に販売する事業を展開しています。
参考:東京エネシス
レノバ
レノバは、バイオマス発電をはじめ、太陽光や風力、地熱などの再生可能エネルギー発電所の開発や運営、GX事業に取り組む企業です。
現在は全国に7カ所(秋田・宮城・静岡・徳島・福岡・佐賀)にバイオマス発電所を設置し、稼働させています。総発電量は年間約3,000GWhとされており、一般家庭の約100万世帯分と同等の電力です。秋田のバイオマス発電所では燃料の約7割を同県内から調達しており、資源の循環や林業の活性化などに貢献しています。
また同社は、環境にも配慮しています。例えば、バイオマス発電所の建設工事中から完成にかけて、油やゴミなどが海に流出しないよう油水分離槽を設置しました。また、環境や林業学習への貢献のため、地元産の木材を使用した施設を建設予定です。
参考:バイオマス発電|レノバ
紋別バイオマス発電
紋別バイオマス発電は、北海道紋別市でバイオマス発電事業を展開する企業です。住友林業と住友共同電力の共同出資による発電事業となります。
同社の発電所は、間伐材や未利用材などの木質燃料と輸入燃料(PKS)、石炭を補助燃料として使用する混焼体制によるバイオマス発電です。冬には、最低気温が−15℃となる紋別バイオマス発電所では、主要設備の寒冷地対策が施され、気温に左右されず、安定した電力供給が可能になっています。
参考:紋別バイオマス発電
まとめ
バイオマス発電は昔からある発電方法ですが、カーボンニュートラルであることや廃棄物の削減が期待できることなどから、近年注目されています。
複数のメリットがある一方、バイオマス燃料の安定供給やコスト高などの課題も多いのが現状です。国内には、1,000カ所以上のバイオマス発電所がありますが、発電所の規模が大きいものほど、バイオマス燃料を輸入に依存しています。バイオマス発電が、より環境負荷の低いエネルギーとなるには、燃料サプライチェーンの構築が重要になるでしょう。
地域と共生できる再生可能エネルギーであるバイオマス発電。これからの発展に、注目してみてはいかがでしょうか。
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