気候変動・脱炭素

日本は水不足ってホント?限りある水資源を大切にしよう

2022年3月、高知県室戸市で水不足による給水制限が発生しました。

およそ1200世帯にまで影響するほどの大規模なものです。

水不足の原因は、降雨量が非常に少なかったことにあります。

整備された水道水や昔ながらの井戸、豊富な河川のイメージから、日本は水不足とは無縁の国だと考えている方も多いでしょう。

しかし実際は、このように日本の各地が水不足に悩まされることも珍しくありません。

今回は、日本の水不足における実態や、私たちができることについて解説します。

日本は水不足なの?現状を知ろう!

水道技術の発達により、各世帯で自由に水を利用できる日本ですが、実は水不足を多く経験しています。

過去に本州、九州、四国など各地で渇水(※)を何度も経験しており、1994年には全国的な水不足が発生しています。

当時は噴水の停止やプールの使用中止なども含め、60日間の給水制限が行われました。

水不足は多くの世帯で生活に影響をおよぼしただけではなく、農作物の大々的な損害にもつながりました。

今後、過去と似たような渇水および水不足が発生する可能性はおおいにあります。

日本における水不足の現状を詳しく見ていきましょう。

※渇水…降雨量が少ないために河川の水が干上がり、通常どおりダムに貯水できない状態のこと

降雨量は多いものの実際に使える水は少ない!

日本には梅雨があり、比較的降水量の多い国です。

世界平均と比べると、日本の年間平均降雨量は約1.6倍におよびます。

一方で、日本の河川の多くが急勾配になっており、短時間で海に流れ出てしまうため、水の確保量は少ない現状があります。

生活で実際に使用できる水の量は、人口一人あたり世界平均のおよそ45%程度しかありません。

生活用水や工業用水の使用量が多い

生活用水や工業用水の使用量は、1960年代半ばから2000年までの間に約3倍に増加しました。

近年は再生利用技術の発展や生活様式の変化もあり、緩やかに減少しつつありますが、水不足のリスクは拭えません。

日本人は、生活用水だけで1日に一人あたり300L近くの水を使用しています。

ここに毎日食べる食品の生産に使用した水の量を加えれば、さらに膨大な数値になります。

たとえば、1合分の米を作るには370Lもの水が必要です。

肉はさらに多く、牛肉は100gあたり2060リットルもの水を使用しています。

私たちが1日に食べている水の量は、3000Lにもおよぶといわれています。

出典:「令和3年版 日本の水資源の現況について」(国土交通省)
出典:「バーチャルウォーター(VW)量 一覧表」(環境省)

日本は水資源を大量に輸入している

食糧や工業製品を生産するためには、給水や洗浄、冷却などのために大量の水資源が欠かせません。

日本は食糧や工業製品の多くを海外からの輸入に頼っている、輸入大国です。

つまり、日本は輸入によって他国の水資源に頼っていることになります。

このように間接的に使用する水資源のことを、「仮想水(バーチャルウォーター)」といいます。

仮想水は、輸入した食糧や工業製品の生産にかかった水資源を、自国で生産した場合に必要となる量を想定したものです。

日本は多くの輸入に頼っていることから、「世界最大の仮想水輸入国」ともいわれています。

日本におけるミネラルウォーターの一人あたり年間消費量は、2005年には14.4Lであったものの、2021年には35.4Lと2倍以上に増加しています。

また、2021年のミネラルウォーターの輸入量はおよそ2億2876万Lです。

日本の水道水は安全性が高く、直接コップに注いで飲むこともできます。

自国で安全な水を使用できるにもかかわらず、他国の水資源を消費している現状を問題視する声も少なくありません。

出典:「統計資料」(一般社団法人日本ミネラルウォーター協会)

水不足が起きる原因とは

水不足が起きる原因は、日本のように河川の急勾配にもあれば、その他の事情が絡んでいることもあります。

世界的な原因として、次の3つがあげられます。

気候変動の影響

地球温暖化などの気候変動は、水不足の間接的な原因にもなっています。

干ばつや洪水の発生は、水資源に大きな影響を与えるためです。

洪水は水資源の増加につながるように考えられますが、実は地下水の塩水化、水質の悪化など、被害に遭った地域の水は使用できなくなるケースがほとんどです。

気候変動によって水資源の減少が引き起こされることで、世界的な水不足のリスクが高まります。

世界で起こる水不足の影響は、日本にもおよびます。日本では食料の多くを輸入に頼っています。

今後、水不足によって世界の食糧生産量が落ち込んでしまえば、日本で食糧危機が起きるかもしれません。

世界人口の増加

世界各地で人口が増加すれば、必要な生活用水の量も増えます。

国連によると世界の人口(年央推計)は2015年時点で73億人ですが、2050年には97億人に増加すると予測されています。

このまま人口増加が続けば、2050年までに少なくとも4人に1人は慢性的な水不足が起きている国で暮らすことになるとの指摘もあります。

出典:「人口と開発」(国際連合広報センター)
出典:「目標6 すべての人々に水と衛生へのアクセスを確保する」(国際連合広報センター)

水需要で見ると、現在よりも20~30%増加する見込みです。

一人あたりの生活用水はもちろん、衣食住にかかる工業用水も、現在よりもさらに多くの量が必要となります。

経済の発展と都市開発

経済の発展および都市開発は、多くの水資源を必要とします。

たとえば科学技術の発展による生活水準の向上は、これまでとは異なる用途や分野での水資源が求められるでしょう。

都市開発は、建材などの生産に使用される工業用水の増加だけではなく、森林伐採による水源破壊も起こります。

アメリカのオガララ帯水層は、総面積約45万平方キロメートルにもおよぶ巨大な地下水層です。

しかし、開発によって過剰な地下水利用が続き、井戸の推移は平均約4.3m低下しました。地下水層の南部では、2050年から2070年の間に枯渇するおそれがあるといわれています。

参考:「第4章 水の星地球-美しい水を将来へ-」(環境省)

水不足を解消する!日本の取り組みについて

水不足の問題に対して、日本は国内外でさまざまな取り組みを行っています。

ここでは、日本の取り組みについて、国内と国外に分けて紹介します。

国内での取り組み

日本では、水不足の問題を受けて2014年7月に「水循環基本法」が施行されました。

水循環基本法とは、健全な水環境を維持・回復させるための理念に基づいた施策を行うためのものです。

具体的には、再生水利用を促進したり、河川の整備を行ったりと、各地でさまざまな取り組みが行われています。

たとえばダム建設における水源地域対策として行われている取り組みは、以下のとおりです。

  • 周辺公共施設の整備:道路整備や公共施設の建設など
  • 水没者の生活再建対策:まちづくり支援や相談員の設置など
  • 周辺環境の整備事業:福祉施設や産業基盤の整備など
  • 自然環境の保全活動:希少動植物の移動やモニタリング調査

ダム建設によって周辺住民が受ける影響を緩和するために、道路や公共施設などの整備、さまざまな支援を行っています。

水没地域の元住民に対しても、生活再建のために金銭面の配慮や相談員の設置を行うなど、実施されている支援はさまざまです。

また、水源を維持するためにはダム建設だけではなく、森林保護も欠かせません。

健康的な森林は水源涵養機能(※)や土砂流出防止機能、水の浄化作用と、多くのはたらきがあります。

森林保護によって水が適度に流出したり貯えられたり、浄化されたりすることで、水不足や水害リスクの軽減につながります。

そのため、水源林の保護活動など森林の水源涵養機能や土砂流出防止機能、水の浄化作用を守る取り組みも行われています。

ダム建設は生態系にも影響をおよぼすおそれがあるため、動植物への影響をできる限り回避・低減する取り組みも必要です。

生育している動植物の移植や移動、工事後の調査も行われています。

※水源涵養(かん養)機能…大雨が降ったときに水を貯えることで流れる量を抑えたり、降雨量が少ない時期に水を貯えたりすること

海外への支援

日本の技術は、世界各地で安全な水を得るための支援に活用されています。

日本が海外に行っている支援は、たとえば以下の事業があげられます。

途上国への水道分野に関する技術支援・給水施設の整備支援

発展途上国へ日本の専門家を派遣し、日本の技術を世界に伝えることで、水道分野の支援をしています。

JICAのカンボジアへの支援では、1993年からプノンペン市水道公社の施設拡張、技術・経営能力の強化を進め、2004年には蛇口から飲める水質を達成するなど、世界的にも高い評価を受けました。

参考:「生命と生活を支える水の供給 全ての人々に安全な水を」(独立行政法人国際協力機構)

日本への研修員の受け入れ・教育

JICAでは、途上国の人々が自分たちの力で安全な水を確保できるように、日本へ研究員の受け入れを行い、水道事業に関するノウハウを伝えています。

2015年には、バングラデシュやカンボジアなど10ヶ国から合計13名の水道分野の研究員を受け入れ、「水道管理行政及び水道事業経営」を実施しました。

参考:「水道行政・経営を途上国のパートナーとともに考える〜課題別研修「水道管理行政及び水道事業経営」〜」(独立行政法人国際協力機構)

水不足を解消するために私たちができること

水不足は、現代の日本においても起こり得る問題です。

地球温暖化の影響も含めると、将来的に水不足のリスクが高まることも考えられるでしょう。

水不足を解消するためには、私たち一人ひとりの行動が重要です。

最後に、誰もが実践できる水不足対策を紹介します。

水の使用量を減らす

日常生活の中で使用する水の量を、意識して減らすことが大切です。

1回あたりがわずかな量であっても、毎日毎回の積み重ねが、多くの水を節約することにつながります。

たとえば以下の行動は、誰もができる水不足対策です。

  • 水を出しっぱなしにしない(こまめに止める)
  • トイレで流す水の量を大と小で使い分ける
  • 風呂の残り湯を活用する
  • 節水シャワーヘッドや節電リングを使用する
  • アルミ保温シートを使用する

歯磨きやシャワー、洗い物のときに水を出しっぱなしにせず、こまめに止めましょう。

節水シャワーヘッドや節水リングで水の出る量を抑えたり、アルミ保温シートで風呂の温度を保ったりする対策もあげられます。

流す水の量を調節できるトイレでは、大と小を使い分け、必要以上に流さないことも大切です。

風呂の残り湯も洗濯に使ったり花壇の水やりに使ったりと、可能な限り活用しましょう。

生活排水をできるだけきれいにする

近年は河川の汚れの原因として、生活排水が大きな問題となっています。

河川が汚れる原因の7割が、生活排水によるものです。

きれいな川を守るためには、生活排水をできる限りきれいな状態で流したり、排水量を減らしたりしましょう。

私たちの生活でできる対策は、以下のふたつです。

  • 皿や調理器具の油汚れは拭き取ってから洗う
  • 洗剤やシャンプーは使いすぎない

皿や調理器具についた油は、新聞紙などで吸い取ったり拭き取ったりしてから洗うと、排水に混ざる油を減らすことができます。

洗剤やシャンプーも、適量を意識して使いましょう。

関連記事:水質汚染の影響は?その原因と私たちができること

地球温暖化対策を実践する

地球温暖化対策も、将来の水不足対策につながります。

対策としては二酸化炭素の発生を抑えたり、電気や石油などのエネルギーや資源の使用量を減らしたりすることが大切です。

身近なところで実践できることは、たとえば以下の方法があげられます。

  • 冷暖房の設定温度を調節する
  • 炊飯器の保温機能を長時間使用しない
  • エコバッグを活用する
  • アイドリングストップをする

冷暖房の設定温度を1~2℃わずかに調節するだけでも、発生する二酸化炭素量を減らすことができます。

炊飯器は保温機能を切った後もしばらくは温かい状態が続くため、長時間使用することは避けましょう。

電気以外にも、エコバッグの使用やアイドリングストップが石油など資源の使用量を減らすことにつながります。

関連記事:SDGsを学ぼう!目標 13「気候変動に具体的な対策を」について

まとめ

日本の降雨量は世界的に見ても多いほうですが、河川の形状の影響もあり、過去に何度も渇水が発生しました。

一見すると手軽に利用できている生活用水も、将来再び供給が中断されるリスクはおおいにあります。

日々の生活で使用する水の量を抑えるだけではなく、今後は生活排水にも気を配るなど、より一層の対策を考えていきましょう。

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