期待される「水素エネルギー」~カーボンニュートラルな世界に向けて~
2020年以降、急速に広がっているカーボンニュートラルに向けた取り組み。
そんな現状を理解すべく、そもそもカーボンニュートラルとは何なのかをご説明します。
そして、カーボンニュートラルな世界を実現するにあたり、期待されている水素エネルギーについても詳しくご紹介します。
これからますます話題になることが増えてくる、カーボンニュートラルについて、いち早く理解を進めましょう。
最近話題のカーボンニュートラルとは?
カーボンニュートラルを一言で説明すると、地球上の温室効果ガスの排出量と、除去量のバランスをとることです。
人間が便利さを求めて温室効果ガスを出し続けた結果、地球は温暖化という深刻な状況に陥ってしまっています。
だからこそ、これからは「出す量」と「減らす量」をイコールにすることで、地球に対する悪影響を食い止めようという考え方のことを指します。
温室効果ガスの「出る量」と「減らす量」を天秤にかけた時に、圧倒的に「出る量」の方が多かったのがこれまでです。
全体のCO₂排出量から、森林などにおける吸収量を差し引いたものをゼロにすることがカーボンニュートラルの目的です。
関連記事:【世界と日本】温室効果ガス削減の取り組みと個人でできること
カーボンニュートラルが求められる理由
世界が一丸となってカーボンニュートラルに向けて取り組まなければいけない理由は、温暖化対策です。
18世紀の産業革命以降、私たちは生活の便利さを求めて開発を進めた結果、恐ろしい量の温室効果ガスを排出するライフスタイルを送ってきました。
化石燃料を燃やし続け、森林伐採を進めたことで、大気中の温室効果ガスの量がどんどん増えました。
その結果、地球の温度は過去1400年でもっとも暖かくなってしまい、ありとあらゆる気候変動を生み出しています。
一刻も早く温暖化を食い止めないことには、ますます作物や生態系への影響はもちろん、干ばつや大雨などによる人間の暮らしへの悪影響が想定されています。
参照:気象庁「地球規模の気候の変化について」
世界におけるカーボンニュートラルへの流れ
カーボンニュートラルという考え方は、2015年の国連気候変動枠組条約締結国会議(COP)にて締結されました。
この国際的な進め方、枠組みのことを一般的に「パリ協定」と呼びます。
パリ協定の中では「21世紀後半には温室効果ガス排出量と吸収量のバランスをとる」という目標が掲げられています。
このパリ協定を受けて、21世紀後半である2050年までにカーボンニュートラルを目指そうと、世界が一丸となって動き始めています。
日本におけるカーボンニュートラルへの流れ
パリ協定での取り決めを受けて、2020年10月の臨時国会において、当時の菅首相が「2050年までのカーボンニュートラルの実現」を宣言したことも、日本国内における取組を加速させることに繋がりました。
「グリーン成長戦略」という国を挙げた戦略をかかげ、エネルギー分野を主としながら全14分野にて取り組みに向けた目標が制定されています。
なぜカーボンニュートラルのカギが水素エネルギーなの?
日本で掲げられているカーボンニュートラルへの戦略である「グリーン成長戦略」の中でも、重要分野として制定されているのが「クリーンエネルギー」のジャンルです。
SDGs目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」でもクリーンエネルギーへのシフトが目標とされています。
その中でも、最近よく話題になる水素エネルギーについてご紹介していきます。
CO2を排出しない次世代エネルギー
環境エネルギー政策研究所の発表によると、2020年に日本で発電された電気の75%以上が、石炭を燃やしたり、LNGガスを燃料として生み出されたものでした。
これらの火力発電の問題は、電気を作り出すときに二酸化炭素(CO2)を排出してしまうという点、加えて、燃やすための資源に限りがあるという点です。
それに対して、もっと活用していこうという機運が高まっているのが「水素」です。
水素は酸素と反応させることで、電気と水を発生させることができるます。
従来の化石燃料を使うのとはことなり、電気を生み出すときに二酸化炭素は出てきません。
この点から、「水素エネルギー」がこれからの社会の要になっていくのではと期待されています。
参照:「2020年の自然エネルギー電力の割合とは」2020年の自然エネルギー電力の割合(暦年速報) | ISEP 環境エネルギー政策研究所
さまざまな資源から作り出せる水素エネルギー
少し科学的で難しい話になりますが、水素は地球上にたくさん存在しています。
現在の日本が依存している化石燃料は埋蔵量に限りがあり、今のペースで使っていくと残り50年程度で枯渇するさえ言われています。
それに比べて、水素は水からも取り出すことができたり、化石燃料や、木材や生ごみから出来ている「バイオマス」からも生み出すことができるといわれています。
わざわざ海外からの輸入に頼ることなく、日本国内で「水素」という資源を調達できるという点もメリットが大きく、研究開発が着々と進められています。
具体的に水素エネルギーは何に使われる?
なんとなく水素エネルギーがクリーンで良さそうだということは分かったけれど、具体的にはどのように使われるのかイメージしにくいというのが正直なところではないでしょうか。
日本は世界のどこよりも早く、燃料電池自動車(FCV)を2014年に発売開始しました。
これは水素と空気中の酸素を掛け合わせて発電させ、モーターを動かすという自動車です。
走行時に二酸化炭素を出さないとあって、発売開始当初から話題になっています。
また、水素エネルギーを使った燃料電池はエネルギー効率が良いため、ロケットなどににも使われています。
これから先は産業車両や船などにも広がっていく見込みで、社会における多くのジャンルで水素エネルギーの活躍が期待されています。
カーボンニュートラル実現に向けた水素エネルギー開発
化石燃料を使ったエネルギーから、水素を始めとするクリーンエネルギーへのシフトが必要であることをご説明してきました。
ただし、まだまだ研究開発が必要という点も忘れてはいけません。
水素といってもすべてが良いわけではない!?
二酸化炭素を発生しないエネルギーとして注目される水素エネルギーですが、水素エネルギーのすべてが二酸化炭素を一切出さないという優良エネルギーというワケではありません。
水素エネルギーは製造方法によって、3つのカテゴリーに分けられます。
- グリーン水素(再生可能エネルギーの電力を使い、水を分解して、水素エネルギーを発生させる方法)
- グレー水素(化石燃料を分解して、水素エネルギーを発生させる。同時に出てくる二酸化炭素は大気に排出する方法)
- ブルー水素(化石燃料を分解し、水素エネルギーを発生させる。同時に出てくる二酸化炭素は、地中に貯蔵する方法)
製造方法を見てみると「あれ?化石燃料って良くないんじゃないの?」と気づいた方は、勘が鋭いと言えるでしょう。
まさに、この点が、これからの水素エネルギーの研究開発においてキーポイントとなる点です。
世界の水素エネルギーの95%はグレー水素
水素エネルギーが着目され、少しずつ世界でも実証実験が進められていますが、現時点では世界における水素エネルギーの約95%が「グレー水素」と呼ばれるタイプの製造方法によって生み出されています。
グレー水素は化石燃料を分解することで、水素エネルギーを作る方法ですが、これには副産物として二酸化炭素が出てきてしまいます。
現時点で、グレー水素が主流となっている理由は、工業的に天然ガスを使うことが作りやすいという点と、値段を抑えられるという点が挙げられます。
これらの点については、これからどのようにほかの方法にシフトしていくのか、研究開発が進められています。
今後成長が期待されるグリーン・ブルー水素
現時点では「グリーン水素」「ブルー水素」は、世界における水素エネルギーのたった5%未満となっています。
水素エネルギーが生まれたばかりということもあり、グレー水素に頼ってしまっている現状がありますが、カーボンニュートラルの実現に向けては、二酸化炭素を出してしまうグレー水素を使い続けることはできません。
- 二酸化炭素をどのように大気中に放出せず貯蔵して「ブルー水素」とするのか?
- そもそも化石燃料を使わずに、再生可能エネルギーだけを使った「グリーン水素」へシフトをしていけないのか?
とくに再生可能エネルギー分野は、カーボンニュートラルの実現に向けて急ピッチで開発が進められています。
水素エネルギーを実用化する企業
実は私たちの暮らす日本では、2014年に制定された「水素・燃料電池戦略ロードマップ」にのっとり、着々と水素エネルギーの実用化が進められています。
自宅の電気を水素化できるエネファーム
テレビCMで耳にしたこともある「エネファーム」は、家庭に設置する燃料電池ですが、これも水素エネルギーを使っています。
水素と空気中の水素を掛け合わせることで、熱を発電する仕組みになっています。
この熱を使ってお湯を作るので、床暖房やお風呂などが温まるという仕組みです。
これによって家庭は省エネになって嬉しいし、発生する二酸化炭素も減らすことができます。
政府主導で普及拡大を進めていることもあり、2021年時点で累計販売台数が40万台を超えたと発表されています。
水素エネルギーを一般家庭に取り込むことに成功していると言えるでしょう。
日本は世界1の水素ステーション設置率
2014年まずは水素エネルギーを利用した自動車が発売されましたが、追って2017年からは東京都を始めとして燃料電池バス(FCバス)の導入も進んでいます。
これに伴い必要となるのが「水素ステーション」、つまり水素エネルギーをチャージする場所です。
国を挙げて取りくんでいることもあり、世界1の設置個所を誇ります。
2022年4月時点では、全国で156か所にて運用されています。
水素ステーションがないことには、水素エネルギー車を安心して走らせることができません。
インフラ整備をしっかりと進めていくことで、水素エネルギー自動車やバスの普及が加速していくことでしょう。
私たちにできることとは?
カーボンニュートラルや水素エネルギーと聞くと、なんだか難しそうな話であり、研究者や政府の方々が話題にしているものというイメージが先行してしまうかもしれません。
しかし、こうやって実証例を見てみると、すでに私たちの生活の身近なところにまで水素エネルギーはやってきています。
自宅のリフォームのタイミングでエネファームの取り付けを検討する、次の車を買い替えるときには水素エネルギー車のパンフレットを取り寄せてみる。
そんなところから、カーボンニュートラルに向けた一歩に、貢献することができます。
カーボンニュートラルに向けて加速する水素エネルギー
カーボンニュートラルという言葉を聞くようになったのは最近のことです。
2015年の「パリ協定」、そして2020年の「2050年までのカーボンニュートラルの実現」宣言を受けて、ニュースなどでも耳にする機会が増えました。
地球温暖化を食い止めるべく、二酸化炭素の「出す量」と「減らす量」とプラスマイナスゼロにすることを意味する「カーボンニュートラル」。
そんな社会の実現に向けた取り組みの中でも「水素エネルギー」は注目を浴びています。
現時点では車や家庭用燃料電池として使われているものが身近ですが、これから先は生活における様々なジャンルにて活用が広がると期待されています。
どのような社会になっていくのか、2050年に向けた取り組みは始まったばかりです。
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