日本企業のカーボンニュートラルへの取り組み|メリットや方法も解説
今、国内外の多くの企業が「カーボンニュートラル」に取り組んでいます。
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを指します。
そして地球温暖化対策には、カーボンニュートラルの達成が欠かせません。
この記事では、日本企業が行っているカーボンニュートラルへの取り組みをご紹介します。
あわせて取り組むメリットや方法も解説するので、これからカーボンニュートラルに取り組もうと考えている方は、参考にしてください。
カーボンニュートラルとは?
カーボンニュートラルとは、「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ことです。
全体としてゼロにする、というのは「温室効果ガスの排出を完全にゼロにする」という訳ではありません。
「経済活動や生活において、温室効果ガスを全く出さないのは難しい。
だから排出してしまった分は吸収したり除去したりすることで±ゼロ(プラスマイナスゼロ)を目指そう」ということなのです。
温室効果ガスには二酸化炭素やメタンガス、一酸化窒素が含まれますが、日本においては全体の90%以上を二酸化炭素が占めています。
そのため国や企業は、主に二酸化炭素の排出量に注目しています。
菅元総理が2020年に行った「2050年カーボンニュートラル宣言」
2020年10月、菅元総理は所信表明演説で以下の宣言を行いました。
「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。」
地球温暖化の緩和策として、国をあげて地球温暖化対策を行うことを表明したのです。
2050年カーボンニュートラル宣言を行ったのは、日本だけではありません。
2021年11月時点では、140カ国以上が「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」と表明しています。
140カ国というのは、全世界の約3分の2の国にあたり、多くの国がカーボンニュートラル達成に向けて取り組んでいます。
参考:経済産業省 資源エネルギー庁「「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」
2021年には「地球温暖化対策の推進に関する法律」改正
1997年の国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)にて、京都議定書が採択されたことをきっかけに、日本政府は1998年10月に「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)を制定。
地球温暖化対策についての基本方針が定められました。
その後、2002年に京都議定書の締結とともに、温室効果ガスの抑制策などを盛り込んだ最初の改正が行われます。
そして2021年5月、菅元首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けて7度目となる温対法改正となりました。
2021年の改正では、以下の3つが大きく変わりました。
- パリ協定の目標や「2050年カーボンニュートラル宣言」を基本理念とする
- 地方における再生可能エネルギー導入の促進
- 企業の温室効果ガス排出報告書をデジタル化
カーボンニュートラルを法律の基本方針とすることで、企業は事業計画を立てやすくなりますし、投資することができます。
これは大きな意味を持つと言えるでしょう。
企業がカーボンニュートラルに取り組むことへのメリット
カーボンニュートラルへの取り組みの必要性を紹介しましたが、企業には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?
ここでは、カーボンニュートラルに取り組む企業が受けられるメリットを3つご紹介します。
- 取引先の拡大
- 光熱費などのコスト削減
- ESG投資を受けやすくなる
取引先の拡大
カーボンニュートラルへの取り組みがもたらすメリットの一つが、取引先の拡大です。
グローバル企業の多くは、カーボンニュートラルを宣言しており、日本の取引先にも同様の対応を求めるようになりつつあります。
例えばアメリカのAppleは、2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラルを達成すると公表しています。
サプライチェーンとは製品の原材料の調達から販売までの一連の流れのこと。つまり、取引先企業にもカーボンニュートラルを求めるということになります。
カーボンニュートラルを宣言する企業は日本国内にも増えていることから、カーボンニュートラルへの取り組みは必要不可欠になるでしょう。
逆に、カーボンニュートラルに取り組んでいない企業はサプライチェーンから外されてしまうかもしれません。
光熱費などのコスト削減
カーボンニュートラルを目指すためには、省エネへの見直しが必要です。結果として、光熱費を削減することにつながります。
まずはサプライチェーンにおける温室効果ガスの排出量を見直しましょう。
新たな技術導入を行ったり、設備の更新を行えば、温室効果ガスの排出量を大幅に削減できます。
また太陽光パネルを工場やビルの上に設置するのもおすすめです。
国は、カーボンニュートラル促進のために省エネ補助金やものづくり補助金など、さまざまな補助金制度を設けています。
また中小企業基盤整備機構では、中小企業・小規模事業者向けの「カーボンニュートラルオンライン相談窓口」を設置。カーボンニュートラルに取り組む企業を応援しています。
ESG投資を受けやすくなる
企業がカーボンニュートラルに取り組むメリットとして、ESG投資が受けやすくなることもあげられます。
ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の観点からも考慮して投資先を決めることです。
従来は、財務などの経営に関する情報が重視されてきました。しかしESG投資では、在受情報に加えて温室効果ガスの排出量や女性管理職比率などが重視されます。
カーボンニュートラルに取り組んでいる企業は、ESGの中の特にE(環境)に力を入れていると評価されます。
カーボンニュートラルだけでなく、社会やガバナンスなどの問題にも取り組めば、より高い評価を受けることができます。
欧米を中心に、ESG投資が当たり前になりつつあります。日本でもいずれ、常識となるでしょう。
企業がカーボンニュートラルに取り組む方法
では、具体的に企業がカーボンニュートラルに取り組む方法を紹介します。
カーボンニュートラルへの取り組み方はさまざまですが、多くの企業が取り組んでいるのは以下の3つです。
- 温室効果ガス排出量の可視化
- 省エネ&再生可能エネルギーの導入
- 廃棄物の削減
温室効果ガス排出量の可視化
温室効果ガス、特に二酸化炭素の排出量を可視化することで、どれだけ排出量が削減できたかが分かります。
二酸化炭素排出量は、投資家や取引先、国・地方自治体、金融機関などから開示が求められます。
2021年6月にコーポレート・ガバナンスコード(企業統治指針)が改定され、二酸化炭素排出量の開示が求められるようになりました。
現在は主要企業だけですが、今後は中小企業でも二酸化炭素排出量の開示が必要となるかもしれません。
二酸化炭素の排出量は、自分で計算して出すこともできますが、企業規模が大きいほど難しくなります。
そのような時には、二酸化炭素の算定・可視化サービスの利用がおすすめです。
省エネ&再生可能エネルギーの導入
カーボンニュートラルに取り組むなら、省エネは欠かせません。
照明をLED電球に変えたり、空調の温度を季節に合わせて変えたり、OA機器の省エネモードを活用するなど小さなことでも省エネは可能です。
設備の導入は、初期費用や維持費がかかるものの、大きな省エネ効果を発揮します。
再生可能エネルギーの導入も、カーボンニュートラルの代表的な取り組み方法です。
再生可能エネルギーとは太陽光発電をはじめ、風力発電、水力発電、地熱発電などの自然エネルギーを活用した電力源です。
石油や石炭を使用する火力発電とは異なり、発電時に温室効果ガスを発生しません。
再生可能エネルギーの導入方法には、電力会社を切り替えたり、太陽光パネルを工場やビルの屋上などに設置する方法があります。
関連記事:世界・日本の取り組み事例|SDGs目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」
廃棄物の削減
廃棄物の焼却処分や輸送時に、多くの二酸化炭素を排出します。
2018年の廃棄物分野での二酸化炭素排出量は、全体の排出量の約3.0%でした。
全体に占める割合は少ないものの、捨てるものを減らす、というのは手軽にできる方法です。
また、カーボンリサイクルという考えも徐々に広がりつつあります。
カーボンリサイクルとは、二酸化炭素を資源と捕らえて、素材や燃料としてリサイクルすることで大気中への二酸化炭素排出量を削減しようとするもの。
二酸化炭素は化学品(合酸素化合物など)や燃料(微細藻類バイオ燃料など)、鉱物、ネガティブ・エミッションなどに利用されます。
日本企業によるカーボンニュートラルへの取り組み事例
では最後に、日本企業によるカーボンニュートラルへの取り組み事例を紹介します。
- 阪急電鉄株式会社
- イオングループ
- ナブテスコ株式会社
- KDDIグループ
- アサヒ飲料株式会社
- 花王株式会社
- EV(電気自動車)業界
阪急電鉄株式会社
阪急電鉄株式会社は、2010年3月に大阪府摂津市に「摂津市駅」を開業しました。
この駅は、駅に起因する二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル・ステーション」。
この試みは日本初となります。
摂津市駅で行われている取り組みの一部をご紹介します。
- 太陽光発電:駅の空調・照明・駅務機器などへの供給を行う
- 雨水利用:ホームの屋根に貯まった雨水をトイレ洗浄水や緑地散水に使う
- ヒートポンプ式電気給湯器:駅務室などの給湯器に、ヒートポンプ式省エネ型機器を設置
省エネへの取り組みで二酸化炭素排出量を削減し、削減が難しい排出に関しては排出枠購入等により相殺しています。
これにより、二酸化炭素排出量の実質ゼロが実現しました。
イオングループ
イオングループは、2018年に「脱炭素ビジョン2050」を発表しました。これは、2040年までに店舗から排出される二酸化炭素量を総量でゼロにする、というもの。
また中間目標として「店舗使用電力の50%を再生可能エネルギーに切り替える」ことも掲げています。店舗屋上に太陽光パネルを設置したり、卒FIT電力の買取強化、各地域で再生可能エネルギーの直接買取を行うとのこと。イオンモールは2025年度まで、イオンタウンやイオン、イオンスタイルは2030年度までという目標です。
イオンでは、再エネの地産地消にも取り組んでいます。2022年度からは、太陽光発電設備とEVの両方を持つ家庭の余剰再エネを活用するサービスを開始。自宅で発電した電力を自身のEV車に充電し、イオンモール内のV2Hを使って電力を放出すると、電力量に合わせたポイントがもらえる仕組みです。
参考:イオン「脱炭素ビジョン」
ナブテスコ株式会社
ナブテスコ株式会社は、東京都に本社を置く日本の機械メーカーです。
ナブテスコでは、2021年7月に「2050年におけるカーボンフリー実現」を宣言。
2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指します。
この目標は、SBT(Science Based Targets:科学的根拠に基づいた排出削減目標)認定を受けており、信頼性の高いものとなっています。
現在は各工場に太陽光発電システムを導入し、すべて自家消費しているとのこと。
また工事設備を省エネ効率の高いものに更新したり、最新の環境技術を使った工場の新築、建て替えなど、環境に配慮した取り組みも積極的に行っています。
KDDIグループ
KDDIとauエネルギー&ライフは、2023年5月30日から、CO2排出量実質ゼロの「サステナブル基地局」の運用を始めました。
「サステナブル基地局」とは太陽光パネルを設置した基地局で、晴天の日中なら、1局の基地局運用に必要なすべての電力を供給できるといいます。
夜間の時間帯や悪天候の日の場合は、CO2排出量実質ゼロを特徴とした、auエネルギー&ライフの「カーボンフリープラン」による電力供給に自動的に切り替わる仕組みとなっており、これによって、24時間365日、CO2排出量実質ゼロでの運用が実現します。
KDDIでは、主に電力に関するエネルギー消費によって、年間約100万トンのCO2を排出しているといい、そのうちの98%は、携帯電話基地局やデータセンターなどで使用する電気に起因するといいます。
今後も、5Gの普及や通信量の増大によって、さらなる電力消費が想定されるため、今回の「サステナブル基地局」の運用・拡大を起爆剤として、カーボンニュートラルの取り組みをさらに加速させていく方針です。
引用:「24時間365日CO2排出量実質ゼロの「サステナブル基地局」を運用開始|KDDI株式会社」
アサヒ飲料株式会社
アサヒ飲料株式会社では、2023年6月から、自動販売機を活用したCO2の資源循環モデルの実証実験を開始しました。
本実験は、大気中のCO2を吸収できる新しい自動販売機を設置し、吸収したCO2を肥料やコンクリートなどの工業原料に活用することで、脱炭素社会の実現に貢献するという、国内初の取り組みとなります。
この新しい「CO2を食べる自販機」は、庫内にCO2を吸収する特殊材を搭載しています。
自動販売機は周辺から吸い込んだ空気を使って、商品を冷やしたり温めたりする仕組みになっていますが、同機は庫内に搭載した特殊材が、大気中のCO2のみを吸収する仕組みとなっています。
なお、CO2を吸収しても自動販売機の稼働に影響はなく、1台当たりのCO2吸収量は、稼働電力由来のCO2排出量の最大20%を見込んでおり、スギ(林齢56〜60年)に置き換えると約20本分の年間吸収量に相当するといいます。
今回の実験では関東・関西エリアを中心に、CO2濃度が高いとされる屋内・屋外など、さまざまな場所に約30台を設置し、それぞれのCO2吸収量や吸収スピードなどを比較・検証した上で、2024年からの本格展開を予定しています。
さらに並行して、CO2吸収能力の高い素材の開発も進めることで、将来的には、CO2排出量と吸収量が同等となるカーボンニュートラルを実現する自動販売機の展開を目指しています。
引用:「国内初、大気中のCO2を吸収する自動販売機を活用したCO2の資源循環モデルの実証実験を6月から開始|アサヒ飲料」
花王株式会社
花王株式会社では、2019年4月にESG戦略として「Kirei Lifestyle Plan」(キレイライフスタイルプラン)を策定。
「脱炭素」に貢献するための活動として、19の重点取り組みテーマを設定しています。
CO2の「リデュースイノベーション」と「リサイクルイノベーション」を中心に取り組むことで、事業活動によって排出されるCO2を、2040年までにゼロ、2050年までにネガティブにすることを目標としています。
ライフサイクルの各段階(原材料調達・製造・輸送・使用・廃棄)における、CO2排出量の割合については、「原材料調達」と「使用」が大きいため、その段階での取り組みを特に推進しています。
2022年の主な実績として、「原材料調達」では、原材料削減や再生プラスチックの利用、「使用」では、水の使用によってCO2の排出を抑える節水製品の展開、そして「廃棄・リサイクル」では、植物由来などの天然原料の利用や、包装容器のプラスチック使用量の削減などに取り組んでいます。
「使用」カテゴリにおける、節水によってCO2削減を実現する商品の具体例は、以下の通りです。
- すすぎが1回ですむ衣料用濃縮液体洗剤「アタック ZERO(ゼロ)」
- すすぎ時にすばやく泡切れする食器用洗剤「キュキュット」
- 手洗いをすることで水使用量を減らすことができる全身洗浄料「ビオレu ザ ボディ 泡タイプ」
また花王は、競合企業であるライオン株式会社と、2020年9月に「プラスチック包装容器資源循環型社会」の実現に向けた連携を発表し、フィルム容器(つめかえパック)のリサイクルに取り組んでいます。
2023年5月には、両社それぞれの洗濯洗剤の詰め替え品において、リサイクルした材料を使用したつめかえパックをはじめて製品化し、数量限定で発売しました。
引用:「2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブ実現への活動を加速|花王株式会社」
EV(電気自動車)業界
EV業界では、多方面にわたる企業同士の協業が注目されています。
日本自動車工業会(自工会)は、2023年5月に開催された「G7広島サミット(主要国首脳会議)」に際して、隣接する「ひろしまゲートパークプラザ」で、日本のカーボンニュートラル達成に向けた自動車業界の取組みを世界にアピールしました。
イベントでは、日本のゼロエミッション車両であるFCEV(水素を燃料とした電池自動車)やBEV(バッテリー式電気自動車)などが展示され、乗用、商用、軽、二輪を含めた合計35台がお披露目されました。
FCEVの商用車では、CJPT(トヨタ・いすゞ・ダイハツ・スズキの合弁会社)が開発を進める、いすゞ自動車の「エルフ」をベースとしたFC小型トラックのほか、トヨタ自動車と日野自動車が開発した「プロフィア」ベースのFC大型トラックが展示されました。
一方、BEVの商用車は、三菱ふそうのEV小型トラック「eキャンター」や、いすゞの「エルフEV」が展示されたほか、スズキ、ダイハツ、トヨタの3社が共同開発したBEV商用軽バン(プロトタイプ)が初公開されました。
このBEV商用軽バンは、2023年度内にスズキ、ダイハツ、トヨタでそれぞれ導入予定だといい、フル充電時の航続距離は200km程度を目指しているといいます。
EV事業では、自動車業界同士の企業提携だけでなく、ソニーやコマツ、ヤマハ発動機、DeNAなど、異業種企業との協業関係も注目されています。
EV車の国内普及については、車両の価格や充電インフラ不足などの課題が話題になりますが、自動車業界各社ではさまざまなコスト低減策を模索しているほか、異業種を含めた多方面との協業によって、今後さらに本格的な普及が進むことが期待されます。
引用:G7広島サミットでカーボンニュートラル車の多様な選択肢を披露! EV商用軽バンのプロトタイプから最新FCVまで日本の取り組みを開陳!
まとめ
持続可能な社会を実現するため、企業がカーボンニュートラルに取り組むことは必要です。
さらに今後は「カーボンニュートラルに取り組んで当たり前」という認識に変わってくるでしょう。
カーボンニュートラルへの取り組みはコスト削減をはじめ、ESG投資を受けやすくなるなど、さまざまなメリットがあります。
また、カーボンニュートラルを実現するために、企業間における、競合企業との連携や、異業種企業との協業関係を実施・検討する企業も増えてきているのも事実です。
「カーボンニュートラルに取り組みたい」と感じたら、まずは現状を把握するところからはじめましょう。
そしてできるところから、少しずつカーボンニュートラルに取り組んでみませんか。
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