【地方創生と起業】新風を巻き起こすローカルベンチャーの取り組みをご紹介!
少子高齢化や過疎化への対策として、地方創生への動きが強まる中、にわかにローカルベンチャーの役割が注目されています。
ローカルベンチャーとは最近使われるようになった言葉ですが、通常のベンチャーとは何が違うのでしょうか。
そこで今回は、ローカルベンチャーの役割や地方での取り組みを紹介しましょう。
ローカルベンチャーとは
ローカルベンチャーは、文字通りベンチャーのローカル版です。
ベンチャーとは独自の発想とアイデアで、これまでとは違う新しいタイプのビジネスを展開する新興企業のことを指します。
最先端の技術や革新的なビジネスモデルで、新しい価値を創出するのがベンチャーの特徴です。
ベンチャーの中でも、とりわけ地方創生の一環として事業に取り組む企業をローカルベンチャーといいます。
地域経済の発展や地域の課題解決など、ローカルベンチャーの役割が、昨今話題になっています。
ローカルベンチャーが地域社会で果たす役割
では、ローカルベンチャーは具体的にどのように地域社会に貢献できるのか、いくつか例を紹介します。
①ローカルイノベーションの創出
まず、ローカルベンチャーに期待されている役割として大きいのは、ローカルイノベーション(地域の新たな価値)を創出することです。
人口減少や過疎化が進む地域では、地域の美しい自然や産物・資源、歴史ある建造物などが見過ごされているケースが少なくありません。
ローカルベンチャーは、そうした地域で眠っている価値を発掘し、これまで誰も試したことがない方法で、地域の利点を生かした商品やサービスの開発に挑みます。
②エコシステムの形成
ローカルベンチャーが1つの地域に複数集まると、エコシステムと呼ばれる循環型・組織型の経済が形成しやすくなるといわれています。
エコシステムとは、複数の企業が商品やサービスを通じて連携プレーのように協働していく事業形態のことです。
企業だけでなく、自治体や地域住民が参画することもあります。
近隣の地域と連携するケースも見られています。
単なる一企業の活動ではなく、エコシステムによる大々的なプロモーションの構築が可能です。
③地方創生と自立・集積型経済
ローカルベンチャーと自治体によるエコシステムが拡大することで、地域での支援促進や人材紹介・情報提供などが行えるインキュベーション・システムが整備されていきます。
そのような状況から、さらに人・企業が集まりやくなり、雇用機会や地域経済の活性化をもたらします。
地方の小規模な地域であっても、地産地消の自立型・集積型経済の実現につながるのです。
参考:ベンチャーが切り開く地域の未来 – METI Journal
④SDGsの課題解決
ここまで見てきたように、SDGsの課題解決においても、ローカルベンチャーが果たす役割は非常に大きいいえるでしょう。
主に以下のような課題解決が期待できます。
- 目標8:働きがいも経済成長も
- 目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう
- 目標11:住み続けられるまちづくりを
- 目標12:パートナーシップで目標を達成しよう
ローカルベンチャーの取り組みによって、SDGsのその他の目標達成につながるケースも多くなっています。
なお、地方創生とSDGsの関係は以下の記事からもご覧いただけます。
併せて参考にしてみてください。
関連記事:【地方創生×SDGs】自治体や企業の取り組みを知ろう
⑤ローカルベンチャーの課題
さまざまな効果が期待されているローカルベンチャーですが、一方では課題も抱えています。
ローカルベンチャーの課題として、まず事業アイデアを提案したとしても、周囲から理解が得られないことがあります。
そもそも前例がないアイデアのため、理解を得るまでに時間がかかることが多いようです。
また、起業資金や運営維持費をどのように確保していくかも課題です。
行政の支援金やクラウドファンディングなど、支援者の存在が欠かせないでしょう。
地方創生に取り組むローカルベンチャーの事例
それでは、地方創生に取り組むローカルベンチャーの事例を3つ選んでみました。
- 西粟倉村の「森の学校」・・・・ローカルベンチャーという概念を創出
- 福井県の「TSUGI」・・・・伝統工芸や地場産業を新しいスタイリッシュなアイデアで創出
- ブロックチェーン技術の「OPEN TOWN」・・・・ITテクノロジーを使った新しい資金調達
以上のように、全く異なるアプローチにて活躍している3社を厳選してご紹介します。
奇跡の村とも呼ばれる西粟倉村の「森の学校」
最初にご紹介するのは、人口わずか約1,400人の岡山県西粟倉村(にしあわくらむら)にある「西粟倉森の学校」です。
「西粟倉森の学校」は、2009年に牧大介氏が西粟倉村の林業の再生を目指し設立した木材加工のワークショップです。
西粟倉村の面積95%を占める森林を活用し、DIY向けの床材・家具、雑貨・キッチン用品などを製造・販売しています。
「森の学校」で製造される木製品の素材はほとんどが、従来は無価値だとされてきた間伐材です。
筋や節が多い間伐材は低品質なものではない、という理念でスギやヒノキの間伐材を価値あるものとしてイノベーションを起こしました。
賃貸でも貼り付けが簡単な、タイル式の床材「ユカハリ・タイル」や、自分で削ってつくる木製スプーンやフォークは人気商品として成功をおさめ、2017年度の売上高は3億3,500万円を記録しています。
牧 大介氏がローカルベンチャーの概念を確立した
牧氏は同時進行で移住・起業支援事業も自治体との協働で取り組み、2016年に「エーゼロ株式会社」を設立。
移住者向け住宅と起業支援金を整え、移住者を募るプロジェクトも進めていて、まさに「ローカルベンチャー」としてのビジネスモデルを形成したのでした。
2023年時点での売上規模は10億円にまで拡大しています。
当時は「ローカルベンチャー」という言葉はまだ使われていませんでした。
「ローカルベンチャー」という発想が生まれたのは、牧氏が、地域経済に貢献するベンチャーを「ローカルベンチャー」と名付けたことがきっかけでした。
ローカルベンチャーが集積していくためには、まずローカルベンチャーがその地域にあることが条件だと牧氏は自身の体験から語っています。
実際に事業の存在を知り、「こういうのもアリなんだ!」と思ってもらうことが大切だとしています。
現在は奇跡の村とも呼ばれている西粟倉村
2021年の西粟倉村の人口は2014年の1,535人から1,419人に減少しました。
しかし、西粟倉村では、これまでで50社を超えるローカルベンチャーが誕生。
多様なベンチャー事業の創出で地域全体は活気に満ち、人口が増えた年もありました。
移住者数は2017年には25名だったところ、2022年には村の人口15%を占める200人に増えました。
2024年4月時点で250人の移住者が生活しています。
移住・起業を決意した理由はさまざまで、「都会での就職がイメージできなかったから」、との声も聞かれています。
「生きることを楽しむ」という西粟倉村の田舎の暮らしに魅力を感じる人は少なくないようです。
牧氏いわく、次のテーマは「生物多様性」だとし、西粟倉村の森林を未来の里山と呼べるような場所づくりとサービスの形成に取り組んでいます。
現在は、地域のベンチャー17社と東京で合同説明会の開催を予定しているとのこと。
「森の学校」や「エーゼロ」はローカルベンチャーの代名詞として語られることが多く、西粟倉村は「奇跡の村」とも呼ばれています。
参考:西粟倉森の学校
参考:A0Group公式サイト
海外進出も視野に 福井県のデザインベンチャー「TSUGI」
福井県鯖江市では、「TSUGI」というローカルベンチャーがデザイン・クリエイティブの分野で地域に密接した事業を展開しています。
海外進出を視野に入れた製品のブランド化、デザイン制作、自社ブランドの開発・販売、が主な事業です。
「TSUGI」は、もともと鯖江市の移住者たちのサークル活動として2013年に結成。
「創造的な産地をつくる」ことをビジョンとし2015年に法人化されました。
鯖江市は、眼鏡・繊維・漆器の三大産業が盛んな地域です。
地場産業を独自の視点から価値を加え、再生・創出しています。
例えば「TOOWN」は、「TSUGI」の自社ブランドの1つで、1,500年の歴史を持つ越前漆器の漆の可能性を追求したジュエリーブランドです。
樹液から採取された天然塗料が不思議な色合いを演出し、伝統工芸の新たな道を切り開いています。
他にも「TSUGI」のデザイン制作では、地域の代表的な眼鏡メーカー「北陸ベンディング」の「さばえルーペ」に、見事なデザインで洗練された価値を与えています。
研磨された伝統職人技と、グローバルでスタイリッシュなロゴが融和。
「さばえルーペ」の品質を数段高めているかのようです。
メンバーのほとんどが移住者である「TSUGI」は、移住や起業を促進するイベントも開催しながら、地域経済の活性化に向けて着々と事業を拡大させています。
代表・クリエイティブディレクターの新山直広氏は、2023年に越前鯖江デザイン経営スクールの講師に就任。
同氏とデザイン担当の森一貫氏は、2024年4月に鯖江市の政策デザインアドバイザーに選出されました。
最先端のブロックチェーン技術を活用する「Open Town」
クラウドファンディング「Open Town」は、株式会社「奇兵隊」が運営するプロジェクトで、ブロックチェーン技術を活用した資金調達と地方創生を提案しています。
もともと「Open Town」は、2022年2月よりウガンダのカルング村など海外の小さな村を中心に展開していました。
2022年11月頃に国内初のプロジェクトを埼玉県横瀬町と提携で開始しました。
ローカルベンチャーにとって課題となりがちな資金面の解決につながるといわれています。
「Open Town」が通常のクラウドファンディングと異なる点は、NFT※(デジタル暗号資産)を基盤に資金を収集するところ。
支援者は、ローカルベンチャーやプロジェクトへの出資を、「NFT購入=企業や商品の価値を購入」して行う流れです。
NFTは、企業やプロジェクトの成長とともに価値が向上する仕組みになっています。
分かりやすくいうと、企業の株を購入するような感覚で、支援へのモチベーションを高める効果があります。
NFTの保有者が増えることで、企業は資金を運用に使えるわけです。
「Open Town」は、自治体の資金収集方法としても注目され始めています。
奇兵隊のCEO阿部遼介氏は、2023年2月に開催されたローカルベンチャー協議会のLV(ローカルベンチャー)オープン戦略会議のゲストとしても登場しました。
2024年4月には、大都市を巻き込んだ地域創生プロジェクト「ふるさとメンバーNFT」を立ち上げ、人口減少問題の解決を目指しています。
※NFTとは、Non-Fungible Tokenと呼ばれるデジタル暗号資産のことです。
直訳すると「代替え不可能なトークン」という意味。
不動産や自動車、絵画などの特定の価値を数値にしたもので、ブロックチェーン技術で管理されています。
まとめ
ベンチャーだからこそ、資本関係やステークホルダーなどのしがらみに拘束されることなく、新しい発想で自由に展開していける強みがあります。
地方創生分野においては、ローカルベンチャーがこれから頭角を現すかもしれません。
高齢化に人口減少、後継者不足、空き家問題など地方では数々の問題を抱えています。
しかし、熱意とアイデアに満ちたローカルベンチャーによって、地域経済の未来は希望に満ちているといえるでしょう。
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