格差・貧困・人権

SDGs目標1「貧困をなくそう」のターゲットや取り組みについて

SDGsは、日本語で「持続可能な開発目標」と訳され、世界中の国や企業が未来のために取り組むべき目標のことです。

環境問題への対策が取り上げられることの多いSDGsですが、解決すべき課題として掲げられているのは、それだけではありません。

日本の社会課題として、ひとり親の貧困があります。

全国のひとり親家庭140万世帯のうち、約半数は貧困状態にあるとされています。

近年は、コロナ禍で、よりその課題が浮き彫りになっています。

パートなど非正規雇用のシングルマザーでは、労働時間が減らされ、全体的な収入が減っている方が多くいます。

一方、家で過ごすことが増えれば食費や光熱費も増加するため、外出規制が続くほど生活は苦しくなってしまいます。

金銭面の余裕のなさから精神的にも悪影響を及ぼすなど、負の連鎖が起こっているのです。

今回はSDGsでひとつ目にあげられている目標「貧困をなくそう」について解説していきます。

SDGsの目標1「貧困をなくそう」とは?


「貧困」と聞くと、金銭的に苦しい状況を想像できますが、SDGsが解決を目指す貧困とは、それだけに限りません。

「貧困をなくそう」とは、具体的にはどのような内容をさすのでしょうか。

「あらゆる貧困」を終わらせるための目標

「貧困をなくそう」は、世界中のあらゆる形態の貧困に終止符を打つことを目的に、SDGsの17の目標の中でひとつ目にあげられています。

ターゲットは、以下のように設定されています。

1-1 2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。
1-2 2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子どもの割合を半減させる。
1-3 各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する。
1-4 2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、すべての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。
1-5 2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に暴露や脆弱性を軽減する。
1-a あらゆる次元での貧困を終わらせるための計画や政策を実施するべく、後発開発途上国をはじめとする開発途上国に対して適切かつ予測可能な手段を講じるため、開発協力の強化などを通じて、さまざまな供給源からの相当量の資源の動員を確保する。
1-b 貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する。

引用:「SDGsの目標とターゲット」(農林水産省)

1-1、1-2など数字のターゲットは具体的な達成目標を示し、1-a、1-bなどアルファベットのターゲットは課題の達成を実現するための手段を表しています。

ターゲット1に示されているように、「貧困をなくそう」は極度の貧困、つまり「絶対的貧困」の撲滅を目指しています。

絶対的貧困とは、世界銀行が定義する「国際貧困ライン」(※)を指標とし、1日あたり1.9ドル(約200円)を下回る層を指します。

そのほか、国民一人あたりの等価可処分所得(※)の中央値に満たない「相対的貧困」にも目を向けていく必要があります。

意味 判断基準
絶対的貧困 生きるために必要な最低限の生活水準を満たすことができていない状態 所得が1日1.9ドル(国際貧困ライン)以下
相対的貧困 国内の生活水準と比べて困窮している状態 世帯所得が全世帯における中央値の半額以下

高齢化が進む日本では、この相対的貧困が深刻な状況です。詳しい内容については、記事後半で説明します。

(※)国際貧困ライン…2015年の改定により1日1.25ドルから1.90ドルに変更された。
(※)等価可処分所得…世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割った 数値。広く、生活水準の程度を表す。

「貧困」は多次元的に深刻化している

国際貧困ラインは貧困層を表すひとつの指標ですが、SDGsが解決を目指す「貧困」とは、生活資金の不足だけを指しているわけではありません。

国連開発計画(UNDP)では、貧困を以下のように定義しています。

貧困とは、教育、仕事、食料、保健医療、飲料水、住居、エネルギーなど最も基本的な物・サービスを手に入れられない状態のことです。

引用:「貧困とは」(UNDP)

貧困の解決を考えるには、金銭的な支援だけでなく、人間の生活を構成するサービス・仕組み・インフラ全体に目を向ける必要があります。

また、目標1「貧困をなくそう」で定められているターゲットには、「あらゆる次元での貧困」という言葉が使われています。

「あらゆる次元での貧困」には、以下のようなケースも当てはまります。

  • 親の病気のために家計を支える必要があり、毎日働いている
  • 離婚のために収入が減り、母子ともに充分な食事を摂れていない
  • 親から虐待を受けているが、相談できる人がいない

このような状況は、はっきりと生活水準が低いわけではありません。

周囲が気付きにくい特徴があるうえに、本人が「貧困家庭であることを知られたくない」との思いから支援を受けることを避けるケースもあるようです。

そのような心理状況も、深刻化する貧困の要素のひとつといえるでしょう。

【日本と世界】貧困問題について知ろう

物にあふれている日本で暮らしていると、貧困問題を具体的にイメージすることは難しいのではないでしょうか。

世界が抱えている貧困問題とはどのようなものなのか、詳しい現状を紹介していきます。

【世界】貧困率は減少しているが依然として課題がある

世界規模で貧困率をみたとき、2000年から2015年までに8億210万人が極度の貧困を脱することができています。

出典:「Which countries reduced poverty rates the most?」(世界銀行)

2015年以前は、貧困や飢餓の撲滅を達成目標とするMDGsによって貧困に対するあらゆる取組がなされてきました。

MDGsは、1980年代の開発協力における「構造調整政策」という考え方を改めるかたちで定められた国際開発目標です。

SDGsの前身であり、貧困や飢餓への対策のほか、初等教育の普及やジェンダー平等、乳幼児死亡率の削減など、多くの目標が設定されていました。

2019年の調査によると、世界で電力へアクセスできない人は約7.6億人。

2010年時点では12億人といわれていたため、大幅にインフラが整備されたといえます。

出典:「2021 Tracking SDG7 Chapter 4 Energy Efficiency」(ESMAP)

ただし、世界における貧困は「地域差」が大きな課題となっています。


引用:「貧困が子どもたちから奪うもの /日本ユニセフ協会」(日本ユニセフ協会)

現状、「極度の貧困」に陥っている国の約85%は南アジア地域、サハラ以南・アフリカ地域といわれており、具体的にはインド・ナイジェリア・コンゴ民主共和国・エチオピア・バングラデシュの5ヶ国が挙げられています。

日本ユニセフ協会の調査をもとに、あらゆる指標において深刻な地域とその数値を表したものが以下です。

指標 深刻な地域 数値
子どもの死亡数 西部・中部アフリカ 9.7%
妊産婦死亡リスク 西部・中部アフリカ 1/28人
基礎的な水サービス(農村部) 東部・西部アフリカ 31%
教育機関の未登録率(初等教育) サハラ以南・アフリカ 男:19%、女24%
子どもの栄養不良率(痩身) 南アジア 25%
児童労働率 西部・中部アフリカ 31%

出典:「世界子供白書2019」(日本ユニセフ協会)

これらの地域では、

  • 安全な水が飲めない
  • 十分な教育や医療が受けられない
  • 子どもの健康や発達を妨げるような労働(児童労働)が強いられている

など、貧困にともなう地域的な問題がいくつも残っています。

これらは、社会的保護が不十分でインフォーマル経済(※)の割合が高いことや、人口増加や紛争、干ばつによる影響が考えられるでしょう。

特に、現在の児童労働は1.6億人といわれており、それまで減少傾向にあったものの2021年に840万人が増加したと発表されています。

(※)インフォーマル経済・・・廃品回収、路上での売り子、土木建築労働者(臨時雇い)などの非公式的な経済活動

出典:「児童労働 2020年の世界推計、動向、前途」(ILO)

そのほか、世界における難民の数は2020年で8,240万人。

彼らの出身国はシニア・ベネズエラ・アフガニスタン・南スーダン・ミャンマーに集中しており、そのうち約2割が17歳未満の子どもであることも分かっています。

紛争や迫害もまた、貧困を生む大きな要因となっています。

出典:「数字で見る難民情勢(2020年)」(国連UNHCR協会)

【日本】相対的貧困が深刻化している

日本では、離婚や病気といった要因から、働いても十分な収入が得られない人も多くいます。

この場合、家庭環境が適切でなく、金銭を理由に大学進学を諦めたり、毎日アルバイトで生活費を稼いだり、精神的余裕のなさから虐待が発生したりと、「周りからは見えにくい」ネガティブな要素が発生してしまいます。

このような状況に陥っている相対的貧困率は2018年で15.4%。

およそ6~7人に1人が相対的な貧困状態といえます。

また、近年問題視されているのは、親の貧困が子へと連鎖する問題です。

子どもの貧困率は13.5%となっており、金銭的余裕がなく進学を諦めたり、充分な食事が摂れず栄養不足状態になっていたり、虐待などで施設に入所したりする子どもが少なくありません。

さらに、新型コロナウイルス感染症拡大によって緊急事態宣言が出され、国民は生活や経済における影響を大きく受けました。

短期的な影響として、特に飲食、宿泊、観光業において経済活動が制限されたことが挙げられます。

これらは非正規雇用や女性労働者の割合が高いため、男女格差や非正規・正規雇用との格差、低所得層の拡大がとくに深刻となりました。

生活意識調査の結果では、母子世帯のうち約87%が「やや苦しい・苦しい」と回答し、「ゆとりがある」と答えたのは約13%とわずか1割でした。

全世帯の回答データは「やや苦しい・苦しい」が約54%、「普通~ゆとりがある」と答えたのは約46%となり、生活に対する意識にも大きな違いがあることが分かります。

出典:「2019年 国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省)

SDGsの目標「貧困をなくそう」に対する身近な取り組み

最後に、わたしたちも企業や個人で参加できる、貧困をなくすための身近な取り組みについて紹介します。

フェアトレード

発展途上国の貧困問題に対する取り組みのひとつが、企業によるフェアトレードの実施です。

フェアトレードとは、発展途上国で作られている食品や資材、製品などを正当な価格で購入することを指します。

発展途上国では、先進国で商品を安く販売するために、生産者や労働者に正当な対価が支払われない問題があります。

安価な労働力として児童が雇用される「児童労働」もそのひとつです。

要因はさまざまありますが、安い物を買おうとする私たちの消費意識のしわ寄せもそのひとつです。

フェアトレードは、労働や製品に見合った価格で取引することで、発展途上国の生産者や労働者にきちんとした対価や給料が支払われるようにし、生活改善や自立をうながす仕組みです。

貧困による課題を解決するには、経済的支援のほか、悪循環が起きないようにする仕組みづくりなど、構造的な解決策が求められているのです。

下記記事では身近で購入できるフェアトレード商品を紹介しています。

フェアトレード商品とは?できることや問題点をわかりやすく解説!

【事例】レインフォレスト・アライアンス認証農園産のコーヒー豆を使用(株式会社ローソン)

ローソンでは、店頭販売用のコーヒーにレインフォレスト・アライアンス認証農園産のコーヒー豆を使用しています。

レインフォレスト・アライアンス認証農園とは、労働者の生活向上や環境保全など、さまざまな観点から厳しい審査をクリアした農園です。

人にも環境にも優しい農園からコーヒー豆を買い付けることにより、生産者や労働者への支援を実現しています。

寄付、募金活動

多くの人にとって身近な取り組みが、寄付や募金活動です。

寄付や募金はさまざまな事業や団体が受け付けており、有名なものは赤い羽根共同募金やユニセフがあげられます。

寄付や募金は少額から受け付けているため、誰でも気軽に参加できる支援活動です。

最近はよりこまかく資金の使用目的を知ったうえで寄付できる、クラウドファンディングが利用されるケースも増えつつあります。

【事例】「TASUKEAI 0 PROJECT」(株式会社shoichi)

TASUKEAI 0 PROJECTは、アパレル企業の余剰在庫を買い取り、海外で販売した売上の一部を寄付することで、余剰在庫の廃棄0と海外支援を両立させる取り組みです。

廃棄物を減らしつつ、ボランティアのプロに資金を提供できるという画期的な仕組みです。

子ども食堂

近年、日本で個人や団体が取り組んでいる支援事業のひとつが、子ども食堂の運営です。

貧困によって満足な食事ができない子どもや、親の事情によってひとりで食事をしなければならない子どもに、みんなで食事ができる場所を提供しています。

子ども食堂は、NPO法人や町の飲食店、地域住民のボランティアによって運営されているケースがほとんどです。

個人でできる取り組みは子ども食堂の運営だけではありません。

子ども食堂に食材を寄付することも支援につながります。

【事例】子ども食堂への支援(カルビー株式会社)

カルビー株式会社は、子ども食堂へお菓子の寄付を行っています。

各自治体や団体のフードバンクにも協力しており、子ども食堂に来ることができない層にも支援が届く仕組みづくりをしています。

ボランティア

金銭や物資による支援が難しい方も参加できる取り組みのひとつが、ボランティア活動です。

身近なものでは無料塾や子ども食堂のスタッフなど、地域を問わず参加できるサポートは多くあげられます。

イベントのスタッフなどは、短期ボランティアを募集していることもあるため、興味のある方はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

【事例】トヨタボランティアセンター(トヨタ自動車株式会社)

1993年に設置されたトヨタボランティアセンターは、ボランティアに興味のある従業員へ活動の場を提供する窓口です。

地域のボランティアニーズに応じて活動を啓発しており、たとえば自動車メーカーのノウハウを生かした災害復旧支援を行っています。

人工林や竹林の整備、発展途上国の学校給食支援プログラムへの参加など、活動範囲は環境や福祉にもおよびます。

まとめ

貧困には、絶対的貧困と相対的貧困の2種類があります。

特に日本では、必要最低限の生活水準を満たせていない絶対的貧困だけではなく、社会の中で貧困層とされる相対的貧困も大きな問題です。

貧困問題の解決に取り組むには、構造的な解決策が求められます。

児童労働ひとつをとっても、給与をコスト削減の対象とさせないようにするためには、ビジネスの仕組みそのものや私たちの消費意識に目を向けていく必要があるでしょう。

個人としてできることも多いです。

フェアトレード商品の購入や子ども食堂への寄付など、できることから始めてみませんか。

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