オールジェンダートイレとは?メリット・デメリット、日本の事例を解説
最近は『きのう何食べた? シーズン2』『君には届かない。』など、性の多様性をテーマにしたドラマも放送されるようになりました。(2023年11月時点)
日本でもジェンダーの在り方が柔軟になりつつありますが、改善するべき点は多く存在しています。
性の多様性を認める社会の実現に欠かせないのが、トイレの問題です。
昨今では、誰もが利用できる「オールジェンダートイレ」が注目されています。
この記事では、オールジェンダートイレの意味や、メリット・デメリットなどを解説します。
さらに、日本の学校や企業における取り組みもまとめました。
これからますます多様化が予想される性の在り方について、一緒に考えてみましょう。
オールジェンダートイレとは
オールジェンダートイレとは、性別に関係なく誰もが使えるトイレのことです。
多様性を求める声が高まる中、日本でも設置件数が徐々に増えています。
そもそもオールジェンダーとは、男女だけでなく、性的マイノリティを含めたすべての性別を意味します。
男女という身体的な性別だけではなく、心の性も重要視する考え方です。
身体的な性と心の性が異なる場合、外出先に男女別のトイレしかなければ、どちらも使いづらいという壁に直面します。
しかし、オールジェンダートイレなら、トイレの選択に悩む必要はありません。
身体と心の性別は関係なく誰でも利用できます。
出典:朝日新聞デジタル|誰でもトイレ、必要とするのは? 「トランスジェンダーに限らない」
出典:TOTO|すベての人が安心して使えるパブリックトイレとは
オールジェンダーとLGBTQ+との違い
オールジェンダーと聞くと、「LGBTQ+」を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。
両者は性別の総称としては同じですが、LGBTQ+のほうにより具体的な意味が含まれています。
LGBTQ+とは、以下の言葉の頭文字をとった総称です。
- レズビアン(Lesbian):心の性と恋愛対象が女性
- ゲイ(Gay):心の性と恋愛対象が男性
- バイセクシュアル(Bisexual):心の性にかかわらず恋愛対象は男性と女性両方
- トランスジェンダー(Transgender):身体と心の性が一致しない
- クエスチョニング/クィア(Questioning/Queer):心の性も恋愛対象の性も定まっていない、もしくは未定のまま
- プラスアルファ(+):その他
「オールジェンダー」「LGBTQ+」などの性を表すワードが増えている背景には、性の多様性を認めようとする動きが高まっているといえるでしょう。
オールジェンダートイレが与えるメリット
日本には多機能トイレがありますが、なぜオールジェンダートイレが注目されているのでしょうか。
オールジェンダートイレは社会においてどのようなメリットがあるのかまとめました。
性別に関係なく利用できる
LGBTQ+の人たちの多くは、外出先のトイレ利用でストレスを感じています。
トイレに入るとき、周囲の視線が気になったり、周囲から指摘されたりと、トイレを自由に利用できないことが多くあります。
しかし、誰でも利用できるオールジェンダートイレは、心理的抵抗を取り除けるメリットがあるといえるでしょう。
トイレ介助がやりやすい
オールジェンダートイレを求めているのは、LGBTQ+の人たちだけではありません。
介護や育児をしている人も、異性同士でトイレ介助できる場を求めています。
例えば、父親が娘をトイレに連れて行ったり、男性の介助者が女性の被介助者をトイレに連れて行ったりする場合、男女別のトイレでは利用しにくさを感じることがあります。
このような際にオールジェンダートイレがあれば、気兼ねなく利用できるでしょう。
多様性を受け入れる輪が広がる
これまでは、男女別のトイレだけが当たり前でした。
しかし、オールジェンダートイレについて考えることが、多様性を受け入れるきっかけになります。
オールジェンダーが当たり前になることが、性の多様性を尊重する社会の実現につながるといえるでしょう。
オールジェンダートレイが抱えるデメリット
プライバシーの問題
性の多様性を認める認めないに関係なく、見知らぬ男女がトイレを共有することに不安を感じる人がいます。
2023年4月に東京都新宿区にある複合ビル「東急歌舞伎町タワー」が開業。ビルの2階にオールジェンダートイレが導入されました。
多様性を認めるまちづくりの取り組みとして注目されましたが、「安心して使えない」「男性に待ち伏せされたら怖い」などの抗議が多発。
警備員が巡回する対策を施したものの、やむを得ず廃止が決定しました。
現在は女性専用、男性専用、多目的トイレに分割した空間になっています。
オールジェンダートイレはまだ馴染みがない分、抵抗感を感じる人もが多いと考えられます。
さらに普及させるするためには、LGBTQ+ではない人も安心して利用できる工夫が欠かせないでしょうません。
出典:東京新聞|「ジェンダーレストイレ」わずか4カ月で廃止 新宿・歌舞伎町タワー 「安心して使えない」抗議殺到の末に
性犯罪へのリスク
ルールやモラルを守れば、誰もが安心して利用できるオールジェンダートイレ。
しかし、入口や手洗い部分は男女共用であるため、性犯罪が発生するリスクも懸念されています。
個室の整備やスマートフォンの利用についての規制など、さまざま対策が必要です。
利用者の不便さ
男女別のトイレのよさは、男女の特性にあった環境を整えられることです。
オールジェンダートイレは誰もが利用できるように設計されている反面、使いづらさがあることも指摘されています。
「化粧直しがしにくい」といった声もあり、不安を少しでも解消するためには、利用者の声を生かして改善していくことが重要でしょう。
オールジェンダートイレとSDGsの関係
持続可能な開発目標であるSDGsは、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
性別にかかわらず、誰もが自分らしく暮らせる社会の実現を目指しているのです。
では、17の目標があるなかで、オールジェンダートイレは具体的にどの目標と深く関わっているのでしょうか。
5.ジェンダー平等を実現しよう
目標5のターゲットには、世界中の誰もが性に関係なく健康と権利が守られるようにする内容が記載されています。
どの性別であっても、我慢することなく快適に公共のトイレを利用できる社会の実現も重要です。
3.すべての人に健康と福祉を
2030年までに、誰もがトイレを利用できる社会が求められています。
少数派であるLGBTQ+の人たちがどのようなことを必要としているのかについて、耳を傾けることが大切です。
トイレを我慢することは、膀胱炎や失禁などの排泄障害を引き起こす可能性があります。
そのため、オールジェンダートイレは、目標「3.すべての人に健康と福祉を」にもつながるといえるでしょう。
10.人や国の不平等をなくそう
目標10には、性別にかかわらず、全ての人が社会的に取り残されないようにすることが記載されています。
オールジェンダートイレは、誰もが安心してトイレを利用できる社会に大きく貢献しているといえるでしょう。
こちらの記事も参考にしてください。
【SDGsとLGBTQ+】その関係と国内外の取り組み
出典:外務省|SDGsとは
【学校編】日本の事例
今後、オールジェンダートイレは学校にも普及させる必要があります。
身体の性に応じたトイレを利用することに違和感を感じる子どもがいるからです。
LGBTQ+の方の体験談や思いをもっと知りたい方はこちらをご覧ください。
ドラァグクイーンになったきっかけ|セレスティアグロウンさんインタビューの一部を公開【SDGs×LGBTQ+PHOTOARTPROJECT】
文部科学省が平成26年に実施した「学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査」では、性同一性障害に関する教育相談が全国で606件あったと報告されています。
そのうち、約6割の児童生徒が周りには隠して学校生活を送っています。
誰もが安心して教育を受けるためには、心の性と身体の性の違いを抱える児童・生徒・学生に対して、きめ細やかな対応が欠かせません。
以下に、オールジェンダートイレを設置した事例をまとめました。
鳥取大学
「性別を区別しないトイレ(全個室)が欲しい」の声に応えるため、2020年に鳥取大学はキャンパス内に2つのオールジェンダートイレを設置しました。
これまでの多目的トイレに、性別のバリアフリー要素をプラス。
より抵抗感なく誰でも利用できるよう改善に努めています。
少数派の意見も尊重した成功事例であるといえるでしょう。
出典:鳥取大学|鳥取キャンパス内にオールジェンダートイレを設置しました
大阪大学
大阪大学では、オールジェンダートイレの設置に努めています。
「ALLGENDERトイレ・サイン」を表示し、多様な性別に配慮しています。
一般的にトイレ・サインは、女性はスカートで赤、男性はズボンで青というデザインです。
しかし、大阪大学は新たな提案として、性別表示には英単語を、機能表示には便器や車椅子などの形を模したピクトグラムを用いたマークを採用しました。
愛知県豊川市
愛知県豊川市では、学校現場にオールジェンダートイレを導入することに努めています。
豊川市立長沢小学校では、共通の入口からどこでも好きなトイレに行けるように設計にし、利用者の心理的不安に配慮しています。
豊川市立一宮西部小学校は、2017年にみんなのトイレを設置。
1年後に調査を実施した結果、5年生112名のうち100名が利用していることが分かり、「男女差を気にしないのがよい」という肯定的な声も寄せられました。
学校に設置することは、オールジェンダートイレが生きた教材としても活用でき、LGBTQ+を自然と学ぶ場になるといえます。
出典:学校のトイレ研究会|愛知県トイレ事例
出典:読売新聞|男女共用・個室化・洋式多数…進化する「学校のトイレ」
出典:文部科学省|性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について
【企業や自治体編】日本の事例
海外の影響を受け、日本でもオールジェンダートイレを導入する企業や自治体があります。
成田空港
成田空港では第1ターミナルビル1階の到着ロビーに、オールジェンダートイレを導入。
日本の空の玄関口として、すべてのお客様をおもてなしするために、2016年度から4年かけてリニューアルしました。
トイレ空間はシンプルな動線で安心して利用できる設計にするとともに、利用者の用途に合わせて機能分散を図っています。
国内だけではなく、海外の利用者にも配慮したトイレといえるでしょう。
渋谷ソラスタ
東京都渋谷区にあるオフィスビル渋谷ソラスタ。
最上階に、多機能トイレと女性専用トイレに加えて、オールジェンダートイレを導入しました。
性の多様性に配慮した空間で、利用者が心理的抵抗感なく利用できるよう工夫されています。
出典:TOTO|渋谷ソラスタ
ドン・キホーテ
2017年5月にオープンしたMEGAドン・キホーテ渋谷本店。
渋谷エリアの多種多様なニーズに24時間対応できる『進化型旗艦店舗』として注目されています。
商品の多様化に努めるだけではなく、性の多様性を認める取り組みとして店内にオールジェンダートイレを設置。
ダイバーシティ型のまちづくりに貢献しています。
オールジェンダートイレで誰もが快適な生活を
オールジェンダートイレは、性の多様性を認める施設の一つといえます。
これからも、誰もが安心して利用できるトイレとして欠かせない存在として、公共施設や店舗など不特定多数の人々が利用する場で求められるでしょう。
しかし、さまざまな性別の人と空間を共有するため、ただ設置するのではなく、プライバシー保護や性犯罪などへの十分な対策が求められています。
オールジェンダートイレを普及させるためには、利用者の声をフィードバックしながら改善し続けることが大切といえるでしょう。
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