【企業事例5選】マミートラックとは?育児と仕事を両立できない問題を解説
2000年代に入り、短時間勤務制度や育休制度、企業内保育所など企業による子育て支援が進み、日本でも育児と仕事を両立する女性が増えています。
しかし、産休や育休から復職した女性の多くが「マミートラック」を経験していると問題視されるようになりました。
今回は、マミートラックの意味や問題点、対策について詳しく解説します。また、女性が活躍する企業事例もまとめました。
育児中の女性が自分らしく社会で活躍できるよう、解決方法を一緒に考えましょう。
マミートラックとは
マミートラックとは、産休や育休から復職した女性が、自分の意向に反して重要な仕事を任されず、思うようにキャリア形成できない状態のことです。
「母親になってもやりがいのある仕事をしたい」「スキルアップして活躍したい」と思っているにもかかわらず、部署を変更されたり、単純作業ばかりを任されたりすることで、活躍の機会を奪われて悩む女性がいます。
近年、この状況が問題視されています。
育児と仕事を両立する女性の現状
育休取得率や女性の就業率が増加する中、なぜマミートラックが問題視されるのか疑問に思うかもしれません。
しかし、第一子出産後に復帰した女性のうち、半数近くがマミートラックを経験しているといわれています。
注目すべき点は「働いているかどうか」ではなく、「どのように働いているか」です。
産後の正社員として働く女性は3割
厚生労働省の「令和4年国民生活基礎調査の概況」によると、18歳未満の子どもがいる世帯のうち、母親が働いている割合は75.7%でした。
育休制度や短時間勤務制度など、さまざまな支援が整備されたことで、産後の女性就業率は増加しています。
産休育休について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
しかし、産後も正社員として働く女性はたったの30.4%です。
育児中に正規雇用で働くのは難しいと考えられます。
参考:厚生労働省|2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況
女性管理職は2割以下
厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」によると、管理職(課長相当以上)に占める女性の割合は12.7 %です。
この数値からも、女性が出世コースに乗る機会が少ないのがわかります。
女性への無意識なバイアスが残る職場環境
ジェンダー平等の考えが浸透しつつある一方で、女性に対する無意識なバイアスが依然として残っているのが現状です。
内閣府男女共同参画局の「令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」によると「育児期間中の⼥性は重要な仕事を担当すべきでない」と回答した人が、男女ともに30%以上いました。
このような社会全体に残る無意識な思い込みも、マミートラックを生む原因といえるでしょう。
企業にもデメリットあり!マミートラックの問題点
マミートラックは経営にも大きく影響するため、企業にとっても解決すべき課題です。
以下に、企業にとってのデメリットをまとめました。
女性社員の人材確保が難しくなる
責任のある仕事を任せてもらえなかったり、短時間勤務制度で評価が下がったりすると、「会社や周囲からの期待が低い」と感じるようになり、会社で働く意欲が低下します。
また、女性社員の退職が増えれば、優秀な女性社員の人材確保も難しくなるでしょう。
参考:栃木産業保健総合支援センター|出産後に復職した女性の離職要因
社会的信頼や企業イメージを失う
育休復帰後の女性退職率が増加すると、「女性社員への配慮が足りない」「ダイバーシティが遅れている」と評価され、社会的信頼を失うリスクがあります。
企業イメージの低下は、資金調達や求職者などへの影響も考えられます。
日本では、2015年に「女性活躍推進法」が成立し、女性の社会的活躍に向けた情報の公表が事業主に義務付けられました。
内閣府の「機関投資家が評価する企業の女性活躍推進と情報開示」によると、7割近くの機関投資家が女性の活躍が企業の業績に長期的に影響すると考えています。
産後の女性がやりがいを感じられる職場づくりが、企業の成長につながるでしょう。
参考:内閣府|機関投資家が評価する企業の女性活躍推進と情報開示
女性管理職が増えない
産後の女性のキャリアアップを支援しなければ、女性社員の管理職登用が進みません。
日本政府は「指導的地位に女性が占める割合を30%程度とすること」という目標を掲げています。
持続可能な経営のために、マミートラックの解消は早急に解決すべき課題といえます。
マミートラックは仕方ない?企業がすべき対策
マミートラックは、女性のわがままでも仕方がないことでもありません。
個人だけではなく、社会全体で取り組む必要があります。
では、企業がすべき対策にはどのようなものがあるのでしょうか。
丁寧なヒアリング
多くのマミートラックは、企業と女性社員の認識のズレから生まれます。
例えば、「保育園のお迎えがあるから、早く帰れる部署の方がいいだろう」「育児が大変だろうから、残業が少ない単純作業を任せよう」などと企業は考えがちです。
しかし、社員自身は、責任ある仕事に挑戦したいと意欲的な場合があります。
産後も理想のキャリア形成ができるよう、個人の意向を丁寧に聞き取り、互いのズレを埋めていくことが大切です。
産休前だけではなく、育休復帰後も定期的に実施することが有効でしょう。
フレキシブルな勤務形態
柔軟な働き方は、育児と仕事の両立を後押しします。
短時間勤務制度だけではなく、フレックス勤務制度や中抜けもマミートラックの防止につながります。
テレワークを導入する場合、業務の効率化やデジタル化を検討することも重要です。
女性のニーズを把握しながら、勤務形態の選択肢を広げましょう。
評価の見直し
「勤務時間が長いからやる気がある」「休暇が少ないから社内への貢献度が高い」とは一概には言い切れません。
生産性やプロジェクトの成果を重視した評価体制が大切です。
女性が活躍する企業事例5選
マミートラックは避けられないものではなく、防止できる課題です。
育児と仕事の両立を支援する企業事例を紹介します。
①資生堂
資生堂は、2024年版「女性が活躍する会社BEST100」で、総合ランキング1位を獲得しました。3年連続の受賞です。
国内資生堂グループでは女性管理職比率が40%を超え、日本政府の目標を10%も上回りました。
多くの女性が活躍する背景には、女性社員の人材育成の強化が挙げられます。
2017年には女性リーダー育成塾を開講し、2023年からは「Shiseido Future University」で次世代を担う経営リーダーを育成しています。
さらに、職場復帰後の定着率は94.1%です。
出産後に復職する社員に対して、「ウェルカムバックセミナー」を実施したり、女性役員と女性社員が直接対話するメンタリングプログラム「Speak Jam」を導入したりして、マミートラックの防止に努めています。
また、2020年からは、新しい生活様式に対応した働き方「資生堂ハイブリッドワークスタイル」を開始しました。
リモートワークとオフィスワークを柔軟に組み合わせることで、育児と仕事への両立の負担を軽減し、生産性のアップを実現しました。
②りそなホールディングス
りそなホールディングスは、2023年度の女性ライン管理職比率は34.5%に達しました。
この数字は12年連続で上昇しています。
「わたしのチカラプロジェクト」では、女性従業員が中核となり、女性のニーズに応える商品やサービスの企画・展開を行っています。
また、女性社員の声を反映させるために、女性従業員で構成した経営直轄の諮問機関「りそなWomen’s Council」を設けました。
さらに、マミートラックを解消するために、子どもが3歳まで利用できる短時間勤務制度や、子どもが3歳〜小学校3年生まで活用できる「職種間転換制度」を導入しています。
小学生の子どもを持つ世帯への支援は、小1の壁への対策としても評価できるでしょう。
「小1の壁」について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
関連記事:【企業事例5選】小1の壁とは?問題点や対策を解説
③メルカリ
メルカリでは、子どもの看病が必要な際に利用できるサポートが充実しています。
子どもの看護で休暇を取得する場合は、5日間の特別有給休暇があり、最大で10日間まで休暇取得が可能です。
また、子どもが病気になった場合、臨時で保育施設やベビーシッターの利用料金を時間制限なく支給しています。
多くの母親が抱える悩みに寄り添ったサポート体制といえるでしょう。
参考:メルカリ|ベネフィット
④三越伊勢丹
三越伊勢丹の従業員は約7割が女性です。ライフステージの変化に寄り添った支援制度を拡充しています。
性別にかかわらず活躍できる環境づくりを提供した結果、子どもを持つ女性が管理職になるケースが増加している状況です。
全体の女性管理職比率は着実に上昇しており、女性の平均勤務年数も年々長くなっています。
「産後は重要な仕事を与えてもらえない」という問題を解消したことで、女性管理職の増加や人材確保に成功した事例といえるでしょう。
参考:三越伊勢丹|働きやすさ~多様な”個”の活躍とライフワークバランス~
⑤日本航空
「産後も自分の能力をもっと伸ばしたい」という意欲に応えるため、育児支援や女性社員の人材育成に努めています。
これまで残業が多い職場や身体的負荷が高い仕事には、女性社員があまり配置されていませんでした。
しかし、業務の見直しを行い、働き方を改善したことで、育児中でも自分の意向に合った経験が積めるようになりました。
また、海外派遣などキャリアアップのサポートも行っています。
こうした取り組みは、「母親だからできない」というバイアスをなくすことで生まれた事例といえるでしょう。
女性のわがままではない!マミートラックは社会で取り組むべき課題
マミートラックとは、産休や育休から復職した女性が、自分の意向に反して重要かつやりがいのある仕事を任されず、キャリアアップができない状況です。
育休制度や短時間勤務制度などで産後も働く女性は増加しましたが、働き方の改善が課題として残っています。
「母親になっても自分らしく働きたい」「育児中でもキャリアアップしたい」など、社会で活躍したいと願う女性の思いは、わがままではありません。
働きたい人がやりがいを持って働けるように、社会全体で取り組むべきでしょう。
マミートラックを解消するためには、丁寧なヒアリングやフレキシブルな勤務形態、評価の見直しが大切です。
女性が活躍する職場づくりは、投資家や求職者にとっても魅力的であり、経営においてもメリットが大きいといえます。
「母親だから」「女性だから」というバイアスをなくし、個々の能力を発揮できる組織づくりが重要です。
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