格差・貧困・人権

独身女性、シングルマザーの貧困はなぜ深刻に?その理由と支援内容

「貧困」と聞くと遠い国の話のように感じる方もいるでしょう。

しかし日本でも貧困が深刻化しています。

特に問題なのが独身女性の貧困です。

政府が行ったある調査では、勤労世代の独身女性の3人に1人が貧困という結果になりました。

独身女性の貧困とはどのようなものなのでしょうか?

また女性が貧困状態に陥る原因にはどのようなものがあるのでしょうか?

この記事では独身女性の貧困の特徴と原因を解説します。

2種類の貧困「絶対的貧困」「相対的貧困」

「貧困」には2種類あると言われています。

貧困の定義はさまざまですが、貧困は主に以下2つに分けられます。

  • 絶対的貧困
  • 相対的貧困

それぞれの意味や違いをみてみましょう。

途上国に多い絶対的貧困

「絶対的貧困」とは食べ物や水、住む家がないなど最低限の生活ができない状態の貧困を指します。

世界銀行は一日1.9ドル(OECDレートで約190円)以下を貧困ラインとしています。

絶対的貧困はアフリカや南アジアなどの途上国に多くみられます。

教育水準の低さや乳幼児死亡率が高いなどの問題があり、支援が必要です。

しかし絶対的貧困の多い地域は紛争なども複雑に絡んでいるため、すぐに解決できない問題でもあります。

関連記事:【世界の10人に1人】貧困問題を抱えている現状とは?

日本に多いのは相対的貧困

「相対的貧困」は、国や地域の水準と比べた時に貧しい状態の貧困を指します。

世帯所得が、その国の等価可処分所得の中央値の半分に達していない状態です。

国により中央値は異なります。

相対的貧困は、途上国だけでなく先進国でも問題になっています。

そして日本の貧困問題のほとんどが相対的貧困によるものです。

2018年における日本の等価可処分所得の中央値は254万円だったため、この場合は世帯所得が127万円未満だと相対的貧困になります。

関連記事:日本の貧困問題の現状|私たちにできる取り組みは?

日本では独身女性の貧困が増えている?

日本の女性、特に独身女性の貧困化が進んでいます。

ここでの「独身」とは未婚の女性だけでなく、離別した女性も含まれます。

なぜ貧困に苦しむ独身女性が増えているのでしょうか。

ここでは現状とその原因を解説します。

独身女性の貧困が社会問題に

日本では独身女性の3人に1人が貧困とされています。

さらに65歳以上の独身女性は2人に1人で、貧困率はさらに高いです。

参考:せかいしそう「中年・高齢女性の貧困が問題にされないワケ」

現代は考えの多様化がすすみ、結婚は絶対ではなく一つの選択肢になりつつあります。

しかしいまだに多くの企業では「男性は家庭を支えるもの」という認識があり、女性よりも男性の方がキャリアアップや昇給しやすい状況です。

また非正規雇用のシングルマザーが貧困に陥るケースもあります。

子育てや家事をすべて一人でこなす必要があるため、就労時間が限られてしまいます。

また親と同居するシングルマザーは少なく、周りに頼る人がいない状態も貧困化する原因の一つです。

独身女性の貧困化は社会的男女格差が原因

日本は、健康や教育分野における男女格差が少ない国の一つです。

しかし経済や政治に関しては男女格差が大きく、世界的にみても低い水準にあります。

国税庁が行った「令和2年分民間給与実態統計調査」では以下のような結果になりました。

平均給与 うち正規 うち非正規
令和元年
(2019)
男性 539万7,000円 561万4,000円 225万6,000円
女性 299万5,000円 388万9,000円 152万2,000円
令和2年
(2020)
男性 532万2,000円 550万1,000円 227万6,000円
女性 292万6,000円 383万7,000円 153万2,000円

参考:国税庁「令和2年分民間給与実態統計調査」より作成

平均給与は男女の間には240万円もの差があります。

また正規雇用、非正規雇用どちらも女性の方が低い傾向にあります。

女性の社会進出は進んでいるといわれていますが、女性に対して差別的な扱いは残っています。

内閣府 男女共同参画局の調査によると2021年の常用労働者100人以上の企業における女性役職者の割合は、係長級21.3%、課長級が11.5%、部長級8.5%でした。

上場企業の役員の割合6.2%で、どの役職も年々増加しているものの未だ数値は低い状態です。

【世代別】貧困の特徴と原因、その割合

では次に世代別の貧困の特徴や原因、その割合をみていきましょう。

世代によって社会環境や考え方などは変化します。

そのため貧困に陥る原因も世代によって異なります。

【20代】女性の貧困

2018年時点の相対的貧困率を以下にまとめました。

女性 男性
20〜24歳 17.9% 17.2%
24〜29歳 10.8% 10.6%

参考:阿部 彩「貧困率からみる女性の状況:1985-2018

20代の貧困は男女で比較しても大きな差はありませんが、女性の方が男性よりもわずかに貧困率が高い結果となりました。

20代の貧困の大きな要因は雇用形態にあります。

専門学校や大学を卒業したあと、正規労働者ではなく非正規労働者として働く女性は多いです。

2020年度の調査によると女性の非正規雇用労働者の割合は15〜24歳が27.4%、25〜34歳は34.3%でした。

一方で男性は15〜24歳22.2%、25〜34歳は14.4%と大きな差があります。

また正規社員として働いていても、出産や結婚により非正規社員として働く女性も多いです。

【30代】女性の貧困

30代になると貧困率の男女の差は大きくなります。

特に34〜39歳では2%以上の男女間に2%以上の差が出てきます。

女性 男性
30〜34歳 10.2% 11.3%
34〜39歳 11.9% 9.3%

参考:阿部 彩「貧困率からみる女性の状況:1985-2018」

30代女性の貧困の原因として多いのが、シングルマザーです。

結婚や出産のタイミングで非正規雇用や専業主婦になり、その後離婚してシングルマザーとなる人もいます。

30代でシングルマザーになると子どもが小さい場合が多く、正規雇用としての再就職が難しいことから貧困に陥る場合があります。

【40代】女性の貧困

40代も依然として男性より女性の方が貧困率が高いです。

女性 男性
40〜44歳 13.4% 12.0%
44〜49歳 14.7% 12.4%

参考:阿部 彩「貧困率からみる女性の状況:1985-2018」

40代になるとシングルマザーや非正規雇用といった要因に加えて、子供の教育費や親の介護費などの要因もあります。

年齢を重ねるごとに自分と周囲に必要なお金が増えていくため、収入があっても支出が多くなってしまい、貧困に陥ります。

また親や親族の介護のために離職する女性もいます。

介護は時間もお金もかかるうえ、精神的なストレスになってしまいます。

日本では介護者の半分以上が女性です。

「介護は女性に」という考えがなくし、男女平等に介護に携わる必要があります。

【50代】女性の貧困

50代も今までの世代と同じく、雇用形態や介護などが原因で貧困状態になります。

しかし50代になると熟年離婚も貧困の原因になります。

2019年のデータによると離婚した夫婦のうち、熟年離婚(同居期間20年以上)は約20%でした。

参考:厚生労働省|令和元年人口動態統計月報年計(概数)の概況

女性 男性
50〜54歳 10.1% 10.5%
54〜59歳 12.1% 10.9%

参考:阿部 彩「貧困率からみる女性の状況:1985-2018」

2018年時点の貧困率を比べてみると、50代前半はわずかに女性より男性の方が高い結果でした。

しかし50代後半は女性の方が貧困率は高いです。

50代になると定年退職の年齢にも近づいていることから、再就職、特に正規雇用は難しくなってきます。

さらに自身の健康問題も出てきます。

更年期障害や乳がんなどのリスクも高まります。

もし病気になってしまうと医療費がかかりますし、金額も決して安いものではありません。

自身の怪我や病気で退職せざるを得ない状況も出てくるのです。

コロナの流行で見えてきた女性の貧困

コロナにより、女性の貧困はますます深刻な問題になりました。

特に、非正規雇用の多い中高年の独身女性やシングルマザーはコロナの影響を強く受けています。

再就職が困難であること、子どもが家にいることで今までのような働き方ができないなどが原因です。

中高年の独身女性を直撃した勤務先の休業

コロナにより、中高年の独身女性の貧困が深刻になっています。

飲食やサービス業、小売業は新型コロナウイルスの影響を大きく受けた業種の一つです。

そしてそれらの従業員の多くは女性です。

非正規率も高く、多くの女性が解雇されたり働く時間を減らされました。

年齢が上がるにつれ、再就職が難しくなるのは男女同じです。

しかし非正規雇用で長年働いてきた中高年の女性は、男性よりもさらに再就職が難しいのが現状です。

参考:東京新聞「中高年の単身女性、困窮 コロナ禍で相次ぐ解雇、雇い止め、休業が追い打ち」

シングルマザーへの影響も大きい

2020年5月にひとりじゃないよPJが全国のシングルマザー124人を対象にアンケートを行いました。

このアンケートでは、コロナによってシングルマザーが受けた影響を調査するものです。

アンケートは以下のような結果となりました。

経済面:91.1%が経済的な影響を受け、82.3%が「苦しい」と回答。

生活面:74.2%が食費を切り詰めている/そうなりそう、54.0%が貯蓄を切り崩していると回答。

心理面:96.8%が精神的ストレスや不安を感じており、その中の約半数が周りに相談できる人や支援者がいないと回答。

シングルマザーの多くは非正規雇用であり、コロナによる影響も大きいです。

また家族が近くにいない、生活が苦しいとの理由から社会から孤立してしまうシングルマザーも多いです。

学校や保育園が休校・休園になり、子供が家にいる時間が増えたことで、食費や光熱費が今以上に必要となり、生活費を切り詰める家庭もいます。

参考:ひとりじゃないよPJ「COVID-19(新型コロナウイルス)感染防止対策に伴うシングルマザー家庭への影響調査速報サマリー」

シングルマザーを支援している行政や団体などの活動と取り組み

離婚しシングルマザーとなった女性の育児と家事や仕事の両立ができないことで、低賃金の仕事しかできない理由からそのほとんどを占めています。

日本ではこのような環境の女性を支援する制度として様々な手当や税の控除など、支援活動やサポートが行われています。

シングルマザーのためのキャリア支援や就職支援

働きたくても希望通りの就職先が見つからない女性のためのサポートとして、職業安定所やハローワーク、市役所などでは様々なキャリア支援が行われています。

「家事や子育てと両立可能な就業・再就職支援」として、

  • 就業時間の短い
  • フレックス制度を導入している
  • 託児所が完備されている

など、仕事と家事・育児の両立がしやすい条件の就職先を見つけてくれる制度です。

子育てをしながら就職を希望するシングルマザーを対象に、職業相談や職業紹介等を実施する専門相談拠点「マザーズハローワーク、マザーズコーナー」を設置しています。

マザーズハローワークやマザーズコーナーでは、子ども連れで来所しやすいようにキッズコーナーを整備。

担当者制による職業相談や職業紹介を実施しているほか、仕事と子育てが両立しやすい求人の開拓や保育所、地域の子育て支援サービスに関する情報提供等を行うなど、きめ細かな就職支援を行っています。

このような支援は公的機関だけでなく民間でも行われており、保育士や看護師などの専門的資格を持っている女性は復職支援を行っているサイトや団体を利用するといいでしょう。

シングルマザーの生活支援

家事や育児に追われるシングルマザーは、どうしても仕事との両立が難しくなるため行政でも多くの支援が行われています。

自治体によって変わりますが、「ひとり親家庭等日常生活支援」「地域少子化対策重点推進交付金」などの手当や控除を受けることができます。

また、訪問型保育制度やベビーシッター紹介制度など子どもを預けることができるものも。

人手が足りていない企業や業界では、人員増加のためにシングルマザーを支援する活動が盛んで、託児所の設置や勤務時間の短縮など働きやすい環境づくりが行われています。

このように働きやすい支援のある企業から仕事を探すのも、ひとつの方法と言えるでしょう。

シングルマザーの保育支援

シングルマザーが就労するのにあたり、一番苦労するのが「保育園事情」です。

祖父母と同居している女性を除き、万が一母子家庭の子どもが病気になったとき、子どもの面倒が見られるのは母親だけとなります。

シングルマザーの中には「子どもの看病のために会社を休めない」「休むと退職を仄めかされた」などのケースが少なくありません。

このような背景からひとり親の厳しい育児環境を改善させるために、フローレンスは2008年からひとり親家庭に低価格で病児保育を提供しています。

どうしても誰も頼ることができない時は、利用するといいですね。

シングルマザーの心身のケアや健康を守る支援

シングルマザーの女性は仕事と子育ての両立で、想像以上に心身ともに疲れているのが現状です。

このような女性のために「ひとり親家庭への相談窓口」「育児相談窓口」などの、相談窓口が用意されています。

このような窓口ではシングルマザーならではの悩みを無料で相談することができ、内容によっては解決まで導いてくれることもあるのだとか。

仕事や育児など忙しい母親のために24時間365日電話での相談も受け付けているので、積極的に利用するのがいいでしょう。

 

まとめ

女性の貧困は深刻な社会問題となりつつあります。

世代や状況により女性が貧困に陥る要因は異なりますが、非正規雇用の多さやシングルマザーの負担の大きさなどは共通しています。

女性の貧困は社会構造や考え方が原因となっていることが多く、女性個人の努力では貧困から抜け出せない場合が多いのが現状です。

女性の貧困問題を解決するため、支援団体や行政による制度や手当の充実は必要ですが、まずは社会全体がこの問題を知ることが大切です。

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