スタートアップがSDGsをビジネステーマにする理由とメリットは何か。事例も紹介
企業のSDGsの取り組みには、①自社の業務をサステナビリティの観点から見直し、改善する活動と、②SDGsという社会目標を達成するためにどのようなビジネスが可能か(必要か)の発想に基づく活動があります。
近年、②にあたるSDGsをビジネスチャンスと捉えるスタートアップの取り組みが増えています。
本記事では、スタートアップがSDGsをビジネスにする理由と意義、そのメリットについて解説します。
また事例として、多岐にわたるSDGsの目標の中でもダイバーシティ&インクルージョンにフォーカスしたスタートアップを3社紹介します。
スタートアップのSDGsとは
国連は2015年にSDGs(持続可能な開発目標)を採択し、サステナビリティにかかわる17の目標を2030年までに実現することを提唱しています。
掲げられた17の目標は、環境、人権、貧困、教育、平和、経済など、地球と人類の未来に関する多岐にわたる社会課題が包括されるものです。
既存企業は、自社の活動が環境にかけている負荷を軽減する、雇用のジェンダー平等を推進するなど、サステナビリティにおいて欠けている点の改善からまず取り組まなければならないのが実情です。
それに対してスタートアップは、多くの企業や消費者のSDGsを支援するスタンスでビジネスに参入することが可能です。
例えば、節水ノズルを開発して企業の節水を助けるビジネスで業績を伸ばしている企業もあれば、CO2排出量を「見える化」するシステムを開発して企業の脱炭素への取り組みを支援する企業もあります。
このようにスタートアップにとっては、SDGsそのものがビジネスチャンスであり、ビジネスの目標です。
スタートアップがSDCsに取り組む意義
スタートアップがSDGsに取り組む意義は、サステナビリティ推進のために新しい製品やサービスを提供することにあります。
つまり、サステナビリティの活動を「浪費してはならない」「排出してはいけない」「差別してはいけない」など、既存企業のようにNOT DOからスタートするのではなく、新しい価値を起業の時点で創造できるということです。
SDGsをビジネスチャンスにするといえば、抜け目のなさが強調されるニュアンスになりますが、起業家たちの志はもっと高いところにあります。
高い志を持った起業家でなければ、成功はおぼつかないでしょう。
デジタル社会の進展にITスタートアップの存在が欠かせなかったように、SDGs目標9の「産業と技術革新の基盤を作ろう」を達成するには高い志を持ったSDGsスタートアップの活躍が不可欠です。
スタートアップがSDGsをテーマにする5つのメリット
スタートアップがSDGsをテーマにビジネスに参入することには、次のようなメリットがあります。
- 得意分野の1つの目標にフォーカスできる
- マイナスの解消ではなくゼロ地点からスタートできる
- 企業理念に共感する人材を獲得しやすい
- 投資家と消費者の理解と支援を得やすい
- 政府や自治体の支援を期待できる
それぞれについて見ましょう。
1.得意分野の目標にフォーカスできる
既存企業がSDGsに取り組もうとして17に及ぶ目標を見たとき、どこから手を付けるべきか迷う企業もあるでしょう。
しかし、スタートアップなら自分もしくは仲間の得意とする分野に絞って、参入の可能性を探ることができます。
2.マイナスの解消ではなくゼロ地点からスタートできる
既存企業にとってSDGsは高い理念であるとともに、重い義務であり解決すべき課題でもあります。
現時点では、CO2の排出量を減らす、排水をクリーンにするなど、いわばサステナビリティのマイナスの地点からゼロ地点への回復を目指す取り組みが主流です。
もちろん、その取り組みは大切ですが、企業に直接的な利益をもたらす活動は少ないのが現状です。
その点、スタートアップならゼロ地点からのスタートであり、SDGsのためのビジネスそのものが利益をもたらします。
3.企業理念に共感する人材を獲得しやすい
企業の人材不足が深刻化する中で、「共感採用」の採用手法が注目されています。
給与などの条件より、企業のパーパス(目的や社会的な意義)を訴求することで、優秀な人材を採用しようという考え方です。
採用支援会社のWantedlyの調査によると、パーパスを重視して入社した新入社員の割合は70%にも及びます(2022年4月の調査)。
参考:ウォンテッドリー、企業のパーパスと採用に関する調査結果を発表 | Wantedly
サステナビリティへの関心が高まり、グローバルな価値観として認知される中で、SDGsの推進を企業理念にするスタートアップは、多くの就職希望者の共感を得ることが期待できます。
4.投資家と消費者の理解と支援を得やすい
SDGsを企業目的にするスタートアップは、投資家や消費者にとっても魅力があります。
国が提唱する「スタートアップ育成5か年計画」を追い風に、民間の投資会社もSDGs関連のスタートアップへの投資に力を入れています。
投資会社のストライダーズは2023年3月、海外の投資会社と連携してSDGs関連のスタートアップ企業を対象とする融資を行うことを発表しました。
参考:R3i Ventures社とSDGs関連スタートアップ企業を対象とする共同投資アライアンス事業に関する覚書を締結
消費者もSDGsを推進する企業の製品には好意的です。
サステナビリティを掲げる商品には、通常よりも高い価格を支払うことをいとわない消費者も少なくありません。
参考:【市場調査レポート】エシカル消費は存在する?意外な”エシカル消費者層”とは?
5.政府や自治体の援助を期待できる
SDGsは日本政府の重要目標でもあり、開業資金の援助や債務保証など、さまざまな形でスタートアップ支援策を実施しています。
地方自治体にもSDGs関連のスタートアップを支援する動きが広がりつつあります。
北九州市は、北九州市を拠点に事業成長を目指すスタートアップ企業に対して、最大2,000万円の補助金を交付する「スタートアップSDGsイノベーショントライアル事業」を実施し、対象企業を公募しています。
SDGsに取り組むスタートアップの事例
SDGs関連のスタートアップの中から、ダイバーシティ&インクルージョンにフォーカスした事業や経営を行っているスタートアップ企業を紹介します。
ダイバーシティとは、人種・性別・宗教などの異なる人々が、組織や集団において共存していることを指します。
インクルージョンとは、すべての人が尊重され、それぞれの能力を発揮して活躍できる状態を指し、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念にかなうものです。
知的障がい者のアートを版権化 ヘラルボニー
ヘラルボニーは、知的障がい者の絵画を版権化して経済価値を与えることでインクルージョンの推進に貢献しているスタートアップ企業です。
創業者は、絵を描くことが好きな自閉症の兄を持つ双子の兄弟で、兄が周囲から奇異の眼で見られていることに反発を感じ、疑問を抱いたのが創業のきっかけでした。
ヘラルボニーは障がい者の絵画を「異彩のアート」と位置づけて、アーティストと契約して版権を設定。
ネクタイ・バッグなどのファッションアイテムやインテリアなどに落とし込むビジネスを展開しています。
メーカーとコラボして、ファッションアイテムのプロデュースを行うほかにネットショップの運営も行っています。
商品の売り上げの3~5%が版権料として、アーティストに還元される仕組みです。
インテリアへの展開では、JR東京駅の切符売り場のラッピングや資生堂クリエイティブのオフィス装飾などの実績があります。
参考:ヘラルボニー
規格外フルーツのアップサイクル やまやま
和歌山県かつらぎ町にあるやまやまは、子どもに無添加のおやつを与えたい思いから事業経験のない一主婦が始めたスタートアップ企業です。
廃棄フルーツをアップサイクルして作った「無添加こどもグミい~」の開発・製造・販売から事業をスタートしました。
農家からは、これまで廃棄されていた有機栽培のフルーツの規格外品を、他の規格品に対する3割増しの価格で購入し、食品ロスを減らすとともに農家の収入に貢献しています。
そして、おやつの加工を地域の障がい者福祉施設に委託することで、障がい者の仕事の創出にも貢献しています。
2022年には800坪の耕作放棄地を活用して、子どもたちが自由に遊べる観光農園をオープンして話題になり、多くのマスコミの取材を受けました。
参考:やまやま 猪原有紀子
ワーキングペアレンツのための転職サービス withwork
withworkは、子どもができて仕事と家庭のバランスに悩んだ創業者の経験から始めた、キャリアも仕事も大事にしたいペアレンツのための転職サービスです。
登録者に紹介するのは、スタートアップをはじめ、社会に新たな価値を提供し、新しい価値観・働き方を体現している企業を厳選しています。
登録者とwithworkのコンサルタントのやり取りはすべてLINEを通して行われ、履歴書・職務経歴書の添削や面接対策などの支援を受けられます。
応募したい求人があれば、コンサルタントから企業に推薦。選考へ進みます。コンサルタントは、日程調整や条件交渉などもサポートします。
参考:withwork
多岐にわたるSDGsはビジネスチャンスの宝庫
2030年のゴールに向けて残り数年のSDGsは、多岐にわたる目標のどのひとつをとっても簡単に達成できるものではありません。
大企業も自社の力だけでは目標を達成するのは難しいでしょう。
そこでSDGsの17番目の目標として掲げられた「パートナーシップで目標を達成しよう」が鍵になります。
SDGsにビジネスとして取り組むスタートアップと大企業との連携には、新たなビジネスチャンスがあり、無限の可能性を秘めています。
今回事例としてご紹介したスタートアップはダイバーシティ&インクルージョンをテーマにした企業でしたが、他にも環境にフォーカスしているスタートアップも魅力的です。
今後もSDGsに力を入れるスタートアップの活躍に期待が高まっていくでしょう。
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