格差・貧困・人権

人権問題とSDGs!4つの目標を達成するために考えるべき「課題」

2022年3月21日ウクライナ外務省報道官が、ウクライナで2349人もの子どもが強制移住をさせられたと発表しました。

親のいない子どもでは、このような事態に際して暴力や虐待、人身売買の危険にさらされるリスクが高まります。

当報道官は、この事態をロシアによる人権侵害と批判しています。

「誰一人取り残さない」を原則とするSDGsの根幹には「人権」がありますが、世界では、このような人権問題が依然として残されています。

目標を達成するうえで、世界にどのような人権問題があるのか、私たち日本人が目を向けるべき課題は何かを考える必要があるでしょう。

本記事では人権問題と大きな関わりのあるSDGsの4つの目標と、日本が抱える人権問題について紹介します。

【人権×SDGs】4つの目標からみる現状の課題

人権とは、すべての人が生まれながらにして持つ基本的な権利のことです。

国連によれば、人権とは「人種や性別、国籍、民族、言語、宗教、その他の地位にかかわらず、すべての人に固有の権利」と定義されています。

出典:国際連合広報センター『シリーズ DID YOU KNOW? :人権』

人権に含まれるものには、生存権や労働権、教育を受ける権利、言論や表現の自由、奴隷制や拷問からの自由などがあります。

国際社会の中で、人権の重要性が示されるようになったのは第二次世界大戦後です。

長きにわたる戦争のなかで、捕虜の虐殺・虐待、強制労働、従軍慰安婦など人権侵害の実例は多く、人間としての尊厳を確保し、国際的な正義を示すことの重要性が謳われたためです。

しかし、現在でもすべての人が人権を得られているわけではありません。

SDGsが掲げる4つの目標から、世界が抱える現在の人権問題についてみていきましょう。

目標4「質の高い教育をみんなに」

SDGsの目標4では、すべての人が質の高い教育を受けられる世界を目指すという目標が掲げられています。

しかし、世界を見ると、貧困や紛争などが原因で学校に行けないなど、学習機会を失っている子どもたちが多くいる
のが現状です。

教育を受けられないということは、将来的には仕事の選択肢もかなり狭められるということ。

「学校に行けない」→「良い仕事に就けない」→「貧困から抜け出せない」という負の連鎖に陥ります。

貧困や紛争を解決し、すべての人が質の高い教育を受けられる教育体制を整えることは、こうした負の連鎖を断ち切るために重要なことなのです。

目標5「ジェンダー平等を実現しよう」

ジェンダーとは、ただ単に「男性」と「女性」という性別の違いのことを指す言葉ではありません。

男性と女性では、社会的、文化的な役割の違いがあります。

「男性だからこうあるべき」「女性だからこうすべき」というように、性別によって決められた男性と女性の社会的、文化的な役割の違いをジェンダーと呼びます。

たとえば、「家事は女性がするもの」「男性は外で働いて家族を養うもの」と決めつけることなどです。

世界では、特に女性に対する差別が多く存在しています。

女性というだけで教育が受けられない、外で働くことが許されない、暴力や虐待を受ける、政治への参入ができないといった差別を受けている人が多くいるのです。

そのため、ジェンダーによる違いで人権が損なわれないよう、差別のない社会をつくることが求められています。

関連記事:【SDGs目標5】ジェンダー平等への取り組み~一人一人ができること~

目標8「働きがいも経済成長も」

SDGsの目標8では、すべての人が働きがいのある、十分な収入を得られる仕事、つまり「ディーセント・ワーク」に就くことを目指します。

世界の失業率の推移は微減傾向にありますが、近年コロナウイルスの影響で悪化しています。

2020年における失業率は、アフリカ地域で高い数値となっており、最も高い国は南アフリカで29.2%という結果でした。

出典:「世界の失業率 国別ランキング・推移」(ILO)

完全失業率は、自殺者数や犯罪発生率、貧富の差に影響を及ぼします。

雇用機会の提供により、社会における経済的な損失を防ぐ必要があります。

また、世界には、人権が無視され、労働力を搾取されている人たちがいます。

一生懸命に働いているのに、それに見合った十分な収入を得られず、貧困で苦しんでいる人たちがいるということです。

児童労働や強制労働などでは、武力や脅迫によって低賃金の労働を強いられています。

インドでのダイヤモンド研磨作業の報酬が、7~9時間/1日に対し、30ドル程度/1ヶ月という報告もあるほどです。

このような児童労働は、半数が危険な現場での労働といわれています。

例えば、鉱山や水中など、土砂崩れやがけ崩れ、溺死など事故に巻き込まれる可能性のある現場です。

出典:「児童労働」(DFP)

貧富による格差をなくし、みんなが幸せに暮らせるような世の中にするためには、ディーセント・ワークの実現にかかっていると考えられているのです。

目標16「平和と公正をすべての人に」

海外において、大量虐殺や奴隷制、人身取引などの問題は今もあります。

世界では、約4030万人が奴隷制の被害者と言われています。(2016年現在)

そのうち、2490万人は強制労働を強いられ、1540万人は強制結婚状態となっています。

出典:「現代奴隷制の世界推計(日本語訳)」(ILO)

また、子どもの4人に1人が法的に出生の登録がなされていないなど、身の安全が保証されていない状況にあるのも事実です。

こういった現状を踏まえて、SDGsの目標16では、すべての人に平和と公正をもたらすことを目標としています。

安全で平和な世界、公正な法律に基づいた生活ができる世界を目指すことが、命に関わる人権を守ることにつながると考えられているのです。

日本における人権問題について考えよう

ここまでで主に海外の人権問題について考えてきましたが、日本国内でも人権問題はあります。

日本においてはどのような課題があるのか、みていきましょう。

【ジェンダー】男女差別が存在する

日本では、憲法や法制上で男女平等の理念や原則が確立されています。

しかし、未だに職場や家庭においては、男女差別が生じているのが実情です。

たとえば、日本では現在においても「男性は仕事、女性は家庭」と男女の役割を決めつける傾向が社会一般にあり、それが男女差別を生む原因となっています。

また、職場などでのセクシュアルハラスメント、夫やパートナーなどからの暴力といった問題もあります。

このような状況を受けて、平成11年6月に「男女共同参画社会基本法」が施行されました。

そして、平成13年10月には「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」が施行されるなど、女性への暴力に対する取り組みも行われています。

ジェンダー問題について語るうえで避けられないのが、LGBTQ(性的少数者)への対応です。

日本におけるLGBTQの割合は約9%程度といわれています。

出典:「LGBT調査2018」(電通ダイバーシティ・ラボ)

LGBTQへの日本の取り組みについては、西欧諸国と比較すると遅れているといわれていますが、それでも少しずつ変化がみられています。

令和2年6月に大企業に適用された「パワハラ防止法」では、性的嗜好や性自認における指摘もパワハラのひとつとして扱われるようになりました。

また、日本の法律では同性婚を認めてはいませんが、地方自治体では同性パートナー証明書を発行するなど同性パートナーを認める動きも出てきています。

関連記事:【世界・日本】ジェンダー問題の現状とは?企業の取り組み事例6選

【子ども】体罰や虐待が存在する

子どもの人権問題としては、いじめ、体罰、虐待などがあります。

このような事態を改善していくうえで考えなければならないのは、人目に付かない場所で行われることが多く、事態が悪化するまで周囲が気づかないことです。

特に、虐待は目に見える暴力などの身体的な虐待だけではありません。

  • 暴言や無視をするなどの「心理的虐待」
  • 性的な行為を強要する「性的虐待」
  • 食事や入浴といった生活のお世話をしないなどの「ネグレクト」

も該当します。

令和2年における児童虐待の相談件数は過去最多です。

前年度よりも1万1249件増加し、そのうち心理的虐待における相談対応が増えています。

警察からの通告が増えたことからも、事態が深刻化していることが伺えます。

出典:「令和3年度全国児童福祉主管課長・児童相談所長会議資料」(厚生労働省)

子どもの人権問題を考えるうえで大切なのは、地域全体で子どもが安心して成長できる環境を構築することです。

子どもの人権問題への取り組みとしては、全国50か所の法務局、地方法務局に「子どもの人権110番」を設置しています。

また、インターネットでも人権相談を受け付けており、子どもが相談しやすい体制を整えています。

【高齢者】身体的虐待がある

超高齢社会を目前にして、日本では高齢者に対する人権問題が、社会的に大きな問題となっています。

たとえば、介護のストレスなどが原因の、高齢者への身体的な虐待のニュースは後を絶ちません。

高齢者への虐待は、虐待をしている人に自覚がないケースもあります。

たとえば、

  • トイレの回数を減らすために必要な食事や水分を与えない
  • 徘徊しないように部屋に鍵をかける
  • ベッドや車いすから転落しないように体をベルトなどで固定する

といったことも虐待にあたります。

こうした高齢者虐待の防止と保護、介護者の負担軽減を目的に、平成18年「高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)」が施行されました。

また、高齢者の人権を守るためには、地域の協力も欠かせません。

市町村が設置している地域包括支援センターでは、虐待を受けているおそれのある高齢者を発見した場合は、即座に相談・通報することを呼びかけています。

【障害のある人】不当な扱いを受けることがある

障害といっても、生まれつき障害のある人もいれば、事故や病気によって後天的に生じた人もいて、その症状や程度は、人によって違います。

そのため、一人ひとりの困りごとや特性に応じたサポートが必要です。

障害そのものの理解だけでなく、その人が生活するうえでの一番の障壁は何かを考えることが重要なのです。

しかし、そのような理解や思いやりが不足しており、日本ではあらゆる差別が生じています。

地域の障害者市民施策推進協議会のレポートによると、以下のような訴え事例がありました。

  • 観劇やコンサートで指定席を購入しても一番後ろの通路で観覧させられた(車いすの場合)
  • 精神障害を理由にプールの利用を断られた
  • 視覚障害であると伝えると、医師に赤ちゃん言葉で会話された

出典:「障害を理由とした差別と感じた訴え事例一覧」(箕面市健康福祉部障害福祉課)

現在においても、このような障害者への偏見や差別は存在します。

SDGsの原則である「誰一人取り残さない」を達成するためには、上に挙げたような不当な扱いや尊厳を傷つける行為を許してはならないのです。

国では、差別をなくすために、平成16年には障害者基本法が改正され、障害を理由とする差別の禁止が明記されるなど障害のある人の人権を守るための取り組みが行われています。

企業の取組としては、障害者の「働く」を支援する事業が多くみられています。

一般社団法人障がい者自立推進機構では、障害者のアート作品を企業や個人に販売し、障害者の社会参加と経済的自立をサポートする「パラリンアート」の取り組みを行っています。

一般社団法人農福連携自然栽培パーティ全国協議会では、障害者による自然栽培の農業を広げることによって、障害者の雇用機会を創出しています。

障害など生活に困難がある人の状況や特性を理解し、必要な支援を提供することで、より平等で公平な世界を目指すことができるでしょう。

このような取り組みを推進していくことで、障害の有無にかかわらず、すべての人が安心して生活できる社会づくりにつながります。

【ホームレス】嫌がらせがある

日本では、バブル経済崩壊後からホームレス状態の人が増えています。

野宿生活や安定した居住の場所を持てず、健康面での不安を抱えながらの生活が余儀なくされています。

近年、このようなホームレス状態の人に対して嫌がらせや、暴行を加える事案が生じています。

2020年の11月、ホームレスに対して石を投げつけて、命を奪った事件が発生しました。

加害者の男性は「痛い思いをさせたらあの場所から移動すると思った」と供述したとのことです。

ホームレスになった経緯は人それぞれです。

失業や奨学金の返済、家族との離別や被災など、さまざまあるでしょう。

しかし、一度ホームレスになると、生活基盤を取り戻すのは困難です。

衣食住を得るには一定の費用や信頼が必要で、仕事や身分証、住所がなければそれを得ることは難しいのです。

ホームレスがいなくなるために必要なのは、痛みではなく金銭的な支援や公的な制度です。

安定した生活を得るためのきっかけづくりを、国が、自治体が、住民ひとりひとりが考えていく必要があります。

現在、全国には3824名のホームレスがいるとされています(令和3年時点)。

また、ホームレスが存在する地方公共団体は全市区町村のうち14%、うち半数以上が政令指定都市に認定された都市になります。

出典:「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果について」(厚生労働省)

政令指定都市のなかでも特にホームレス数の多い大阪市では、以下のような取り組みがされました。

  • 巡回相談指導事業による健康相談の実施
  • 技能講習事業によるスキル向上
  • 関係機関との連携による就労支援
  • 公営住宅への入居支援

また、ホームレスの自立支援をしていくには住民の理解も必要です。

人権擁護のため、住民への啓発や人権教育などにも取り組んでいます。

国では、ホームレスの自立をサポートする取り組みとして、平成14年7月には「ホームレスの自立支援等に関する特別措置法」が制定されました。

しかし、「住民対策が不十分な点」「ホームレスになるおそれがある人への支援」「公共施設を生活の場としているホームレスへの対応」など、依然として課題が残されています。

知らないうちに加担しているかも?消費者としての人権問題


日本でも、消費者として人権侵害に加担してしまうリスクがあります。

現在、脱炭素社会の実現に向けて、電気自動車(EV)の普及が見込まれています。

電気自動車の動力となるリチウムイオンバッテリーの原料にはコバルトが使われており、その産出量の6割を占める国がコンゴです。

コンゴでは、コバルト鉱山での過酷な労働環境や児童労働が問題となっています。

子どもを含む労働者たちは、安全対策が取られないまま危険な作業を行い、支払われる賃金もわずかです。

また、粉塵を吸い込むことによる肺疾患のリスクもあります。

日本では、ダイヤモンドやチョコレート、たばこなど、劣悪な労働環境で生産された疑いのある製品が多く流通しています。

知らず知らずのうちに購入して、間接的に人権侵害に加担しているかもしれません。

私たちは先進国の消費者として、購入する製品が作られた背景を知り、労働者の権利が守られた製品を選ばなければなりません。

まとめ

人権は、人種や性別、年齢、社会的地位などに関わりなく、すべての人がもっているものです。

SDGsの基本原則としても大切な要素ですが、本当に「すべての人が本当にもっている権利」といえるのでしょうか。

SDGs目標の達成をするためには、まず、世界や日本で起きている人権問題を「知る」必要があります。

特に、日本では男女差別や虐待、詐欺被害、または社会的に弱い立場である人たちへの嫌がらせなど、なかなか可視化されにくい問題も多く残されています。

国や自治体だけでなく、住民ひとりひとりが地域の問題として解決を目指していく必要があるでしょう。

すべての人にとって生きやすい社会であるために、相互理解と思いやりをもつことが求められています。

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