生物を絶滅から守ろう!絶滅危惧種の現状と守るための世界の取り組み
皆さんは、パンダに会えることでも有名な上野動物園にいる動物の8割が絶滅の危機にある「絶滅危惧種」だというのをご存知でしょうか。
最近では、オーストラリアで発生した森林火災により、生息していた多くのコアラの命が奪われるという悲しいニュースを目にした方も多いはずです。
近年、絶滅危惧種に指定される動植物の数は増加の一途をたどっています。
この記事では、絶滅危惧種の現状と世界で展開されている取り組みについて紹介します。
動物園にしかいない動物が増える?絶滅危惧種の今
「絶滅危惧種」とはどのように指定され、どのような生物がその危機に瀕しているのでしょうか。
キリンやゾウ、ライオンといったおなじみの動物も、このままでは野生では生息しない動物園にしかいない生物になってしまうおそれがあると考えられています。
ここでは、絶滅危惧種の現状を知るために、その定義や現状について解説します。
絶滅危惧種とは?
絶滅危惧種とは、英語で“Threatened Species”もしくは“Endangered Species”と呼ばれ、国際自然保護連合(IUCN)が定める「IUCNレッドリストカテゴリー基準」という世界的な基準の元に、化学的な評価と科学者間の検証によって決定されています。
IUCNについては別項で詳しく紹介しますが、「現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用するならば、その存続は困難なもの」と判断された陸や海、湖、川などで生息する動物、そして植物なども含まれています。
2021年にIUCNは絶滅危惧種をリストアップした「IUCNレッドリスト」を更新し、そのリストに掲載されている生物の種類は142,577種にのぼります。
出典:「IUCN Red List of Threatened Species」(国際自然保護連合)
数世代以内に絶滅する可能性?加速する絶滅の危機
その独特なしぐさで人気を博したレッサーパンダは、IUCNによると「その動物種の3世代(あるいは10年間)において、生息数が70%減少した」といわれています。
つまり、数十年以内に絶滅してしまう危険があるということです。
世界全体であらゆる環境問題が顕在化し、地球上の生活する多くの生物がその影響を受けています。
恐竜が生存していた時代は、1000年間に絶滅した生物は1種ほどしかいなかったと考えられています。
しかし、1975年には1年間で1000種、そして現在は1年間に4万種以上の生物が絶滅するという驚異的な加速を見せているのです。
参照:「日本の絶滅危惧種」(環境省)
動物だけではない!絶滅危惧種の半数を占める植物
絶滅危惧種という言葉を聞くと、思わず動物に目を向けてしまいがちですが、レッドリストには植物も含まれています。
日本の環境省が発表するレッドリストにある絶滅危惧種約3700種のうち、その半数以上が植物です。
たとえば、アロマセラピーの精油としてもよく耳にするローズウッドは、家具や楽器の材料などにも使われており、乱獲伐採されてきた結果、今や絶滅危惧種のひとつです。
私たちが知らないうちに、野生に生息する美しい花や植物もその姿を消しています。
野生に生息する生物は、その種を問わず確実に絶滅の危険性に瀕しているということをまず把握することが大切です。
絶滅危惧種が増加する原因とは?
これほどまで絶滅危惧種が増加する背景に、どのような原因があるのでしょうか。
地球上の生物を守るためにも、絶滅の危機を引き起こす原因を紹介します。
生息地の破壊
絶滅危惧種を増加させる大きな要因となっているのが、生息地の破壊です。
生息地破壊の原因には次の3つが挙げられ、私たち人間が大きく関与していることがわかります。
- 森林伐採
- 地球温暖化/気候変動
- 環境汚染
森林を切り拓き工業や農業用地を作ったり、木材や紙の原料として過剰な伐採をしたりすることは、その地を生息地としていた生物の命を脅かします。
また、地球全体の喫緊の課題にもなっている地球温暖化も、生物の生息地破壊に直結しています。
たとえば、温暖化により海氷が減少していることで、北極を生息地とするホッキョクグマは獲物を獲ることができず餓死するケースが見られています。
そして、大気汚染や海洋汚染といった環境汚染も、生物が口にするエサの汚染につながるなど、生きていくために必要な環境を破壊する原因となっているのです。
関連記事:絶滅危惧種「ホッキョクグマ」の悲惨な現実。私たちができる6つのこと
密猟・乱獲
人間の活動のなかで最も直接的な原因となっているのが、密猟や乱獲です。
ペット用や剥製用、食用などさまざまな目的で生物が密猟・乱獲され、絶滅のおそれに瀕しています。
捕獲、採集されたものの多くは先進国で利用されており、さまざまな動植物と共存する上で人間の需要を抑止することが根本的な課題ともいえます。
外来種の侵入
生息地の破壊にも強い影響を及ぼしているのが、外来種の侵入です。
「外来種」とは、原産地から偶然もしくは人為的に運び出され、その先で定着した生物のことを指し、その地に在来する生物の悪影響となるものを「侵略的外来種」と呼びます。
外来種によって、その地の生態系が崩れたり、病原菌が入り込んだりすることで、在来種の数に影響を与えます。
具体的な例としては、日本全国で繁殖したアライグマです。
アライグマはもともと日本には生息しておらず、カナダやアメリカからペットとして持ち込まれ、1980年代頃に飼い主が手放すなどして野生化しました。
さらに、日本国内に天敵となる生物が存在しないことから短期間で急増しました。
アライグマが在来動物の食料を奪ったり、固有在来種のニホンザリガニやオオイタサンショウウオを食べてしまったり、元来の生態系への被害を引き起こし、日本では外来生物法により特定外来生物に指定されています。
また、外来種との交雑により、純粋な在来種が減少している事例もあります。
陸の豊かさも守ろう!絶滅危惧種を守るための取り組み
2030年までに達成すべき17の目標を掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の目標15「陸の豊かさも守ろう」では、絶滅危惧種の保護も取り上げられています。
最後に、絶滅危惧種を守るためにどのような取り組みが行われているのか紹介します。
世界最大の自然保護ネットワーク!IUCNの活動
絶滅危惧種のリスト「レッドリスト」を作成し、その世界的基準を定めているのが、1964年に誕生した国際自然保護連合(IUCN:International Union for Conservation of Nature)です。
IUCNは、「動物、菌類、植物の世界的な保全状況に関する世界で最も包括的な情報源」として、保全が必要な種を特定し世界に向けて情報を発信することで、効率よく確実に絶滅危惧種の保全そして回復努力する助けとなる活動を展開しています。
活動は絶滅危惧種の保護だけではありません。生物多様性を前提により多くの種類の生物を評価し、「IUCNレッドリスト」を世界が共有する生物を保全するためのツールとして活用できるよう、評価のための専門家育成にも尽力しています。
生物の絶滅を防ぐために、地球の生態系を正しく「知る」ための世界最大の情報源そしてネットワークとして積極的な活動を進めています。
違法取引を食い止める!ワシントン条約
生物の密猟を抑止するための取り組みとして採択された国際条約が、ワシントン条約です。
ワシントン条約は1973年に採択され、絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制しています。
生きた動物の保護だけではなく、毛皮や牙など体の一部を使用している加工品の取引も禁止しており、絶滅危惧種の保護のための取り組みとして、世界中の多くの国がこの条約を締結しています。
生物を絶滅から救う!環境省による生息域外保全
日本でも絶滅危惧種保護のための取り組みが積極的に実施されています。
環境省では、「生息域外保全」という活動に取り組んでいます。
これは、絶滅危惧種を保護し、その生息地以外の安全な施設で育成そして増殖させる方法です。
この活動でも、絶滅危惧種それぞれの生息域を把握することが基本的な考え方と明言されています。
生息域外で増殖し数を増やすだけではなく、野生復帰を見据え本来の生息域の保全と整備も考慮された取り組みです。
人間の手が介入することで、その生物の自然の性質を損なうことなく保護し育成するという方針のもと、一時野生絶滅指定されたトキが人工繁殖を経て野生の成熟個体数を増やし、絶滅危惧種該当に見直されるなど、回復努力が身を結んでいます。
まとめ
現在も絶滅危惧種の増加は止まることなく、その数は増え続けています。
その大きな原因として、私たち人間の生活が密接に関係していることを、具体的に知ることが、未来の子どもたちも多くの動植物と触れ合う機会を守るための重要な一歩なのです。
これを機会に、私たちの日常生活を見直し、地球であらゆる生物と共に生きていくために何ができるのかを意識することから始めましょう。
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