ダイバーシティ

ニューロダイバーシティって何?新しい多様性の概念と企業の取り組み事例も紹介

画像:iStock | BeritK

ニューロダイバーシティという言葉をご存知でしょうか?

ニューロダイバーシティとは、人間の脳の多様性を尊重し、その違いを社会の一部として受け入れる考え方です。

よく耳にする言葉として、多様性を意味する「ダイバーシティ」がありますが、脳を意味する「ニューロ」と組み合わせて「脳の多様性」を意味する造語です。

近年、この概念はますます注目されるようになり、特に発達障害を持つ人々への理解と支援が広がっています。

本記事では、ニューロダイバーシティの定義や発達障害との違い、企業におけるニューロダイバーシティに対する取り組み事例などを紹介します。

ニューロダイバーシティという新しい概念を通じて、多様性を受け入れていきましょう。

ニューロダイバーシティとは?

ニューロダイバーシティ(Neurodiversity、神経多様性)は、「脳・神経」を意味するNeuroと、「多様性」を意味するDiversityの二つの言葉が組み合わさってできた造語です。

ニューロダイバーシティとは、「脳や神経に由来する個々の特性の違いを多様性として捉え、互いに尊重し合いながら社会で活かしていく」という理念を表しています。

この理念は、1990年代後半にオーストラリアの学者であり、自閉スペクトラム症を持つジュディ・シンガー氏によって提唱されました。

特に、自閉スペクトラム症やADHD・多動症・学習障害といった発達障害を持つ人々に対して、これらの特性を能力の欠如として捉えるのではなく、「人間のゲノムという、遺伝子をはじめとする遺伝情報の全体における自然で正常な変異」として捉える考え方を示しています。

ニューロダイバーシティが提唱された頃は、インターネットの急速な発展期でもありました。

孤立し、生きづらさを感じていた自閉スペクトラム症の当事者たちは、インターネットを通じて同じような「仲間」を見つけました。

自閉スペクトラム症は、しばしばコミュニケーションや共感の障害とされますが、インターネットを介してこれらの障害を克服し、意思疎通や共感が可能になったのです。

こうした背景の中で、自閉スペクトラム症の人々は、自らの特性を単なる能力の欠如や劣性として捉えることに疑問を投げかけ、「多様性の一部として尊重すべきだ」と社会に訴えかけました。

このように、ニューロダイバーシティは「多様性を肯定的に捉え、互いに尊重し合おう」というメッセージを含む概念として広く認識されています。

参考:日経BP「オーストラリアで推進されるインクルーシブ教育とニューロダイバーシティ視点での学習支援の拡大」
参考:経済産業省「ニューロダイバーシティの推進について」
参考:東京人権啓発企業連絡会「みなさんは『ニューロダイバーシティ』 という言葉をご存じでしょうか?」

ニューロダイバーシティが注目される背景

近年、ニューロダイバーシティが注目される背景には、社会全体でダイバーシティ(多様性)を重視する動きが挙げられます。

ダイバーシティが注目される中で、性別や人種・文化的背景だけでなく、神経の多様性も重要な要素として認識されるようになりました。

ダイバーシティ経営は、イノベーションの創出や生産性向上を促進するための重要な手法です。

少子高齢化が進む日本においても、就労人口の維持や企業の競争力強化の観点から、ダイバーシティ経営のさらなる推進が求められています。

そのため、ニューロダイバーシティへの配慮や支援を行い、このような特性を企業の戦力として活用しようとする動きが企業戦略としても関心を集めています。

これまで、自閉スペクトラム症やADHD・ディスレクシアといった神経発達の違いはしばしば障害として扱われ、治療や矯正の対象とされてきました。

しかし、近年の研究や教育現場での実践を通じて、これらの違いが持つポジティブな側面が広く認識されるようになっています。

例えば、自閉スペクトラム症の人々が持つ卓越した集中力や論理的思考、ADHDの人々の創造性やエネルギーは、特定の状況下では大きな強みです。

ニューロダイバーシティ人材の活用により、多彩な脳の特性や思考スタイルを持つ人々が集まるだけでなく、新たなアイデアや視点が生まれやすくなり、組織内の創造性やイノベーションが活性化するといわれています。

ニューロダイバーシティが注目される理由は、こうした社会的な意識の変化と、すべての人々が自分らしく生きる権利を尊重しようという価値観が広がりつつあるためです。

参考:経済産業省「ニューロダイバーシティの推進について」
参考:Carry Up Magazine「ニューロダイバーシティとは?雇用・採用の新しい概念を具体例を用いてわかりやすく解説」

関連記事:「少しずつ進むダイバーシティ経営とは?改めて考えるメリットと注意点」

ニューロダイバーシティと発達障害について

ニューロダイバーシティとは、「人間の脳や認知の特性そのものを理解する考え方」です。

例としてしばしば発達障害が挙げられますが、「ニューロダイバーシティ=発達障害」ではありません。

発達障害は「脳の特性」であり、病気ではありません。

発達障害から生じる言葉や行動を能力の優劣とみなすのではなく、得意・不得意や多様性として理解するのが適切でしょう。

ニューロダイバーシティは、顔が一人ひとり異なるように、脳の特性もそれぞれ異なるのが当然だとする考え方であり、特定の人を対象にした概念ではありません。

参考:大人の発達障害ナビ「ニューロダイバーシティと発達障害 最新技術の活用」
参考:PASONA「ニューロダイバーシティとは?多様な人材が注目される背景と特徴、企業事例を紹介」

日本におけるニューロダイバーシティ推進への取り組み

欧米と比較すると、日本のニューロダイバーシティへの取り組みは後れを取っていました。

しかし、2021年度から本格的にニューロダイバーシティ推進事業が始まります。

そこで「ニューロダイバーシティに取り組むための5ステップ」が策定されました。

①取り組み開始の社内合意
発達障害のある方を一般業務で雇用する必要性や目的、見込まれる効果を整理し、社内で合意を取る

②体制・計画づくり

  • 協力部署、支援機関等の外部機関を決定し、連携体制を構築する
  • 採用目標、職域、待遇を設定する

③採用
発達障害のある方に対し募集をかけ、選考において評価し、採用を決定する

④受入れ

  • 採用した人材に支援や訓練を提供する
  • 受入れ部署側の教育や啓発を行う

⑤定着・キャリア開発
採用した人材を継続的にモニタリングし、中長期的キャリアを描き、導く

引用:経済産業省「イノベーション創出加速のためのデジタル分野における「ニューロダイバーシティ」の取組可能性に関する調査 調査結果レポート(令和5年3月改訂)」

海外同様、日本においてもニューロダイバーシティを推進するためには、国・企業・福祉の連携が不可欠です。

私たちも日本におけるニューロダイバーシティの理解を深め、国による今後の取り組みに積極的に参加していきましょう。

参考:日本財団「発達障害の特性を企業の成長戦略に。「ニューロダイバーシティ」へ転換するには?」

ニューロダイバーシティに取り組む企業の紹介

ニューロダイバーシティの活用に取り組む企業について、以下の代表的な3社を紹介します。

  • マイクロソフト
  • TiiMO(ティーモ)
  • パーソルダイバース

それぞれの企業の取り組みを見ていきましょう。

マイクロソフト

2015年に開始したマイクロソフトでの「ニューロダイバーシティ採用プログラム」は、企業が取り組んでいるニューロダイバーシティ採用の先駆けといえるでしょう。

マイクロソフトでは、このプログラムを通じて採用された人材に対し、さまざまな障害を抱えるメンバーが参加する自社の従業員グループを紹介します。

また、社内のスタッフをメンターとして割り当てるなど、フォローアップする体制が整っています。

ニューロダイバーシティ採用を開始して3年ほどで56人を雇用した実績があり、マイクロソフトはこの取り組みによって得られる多くのメリットを証明しているといえるでしょう。

他の企業にとっても、ニューロダイバーシティ人材の積極的な採用が組織の強化やイノベーションの促進につながる有益な戦略であることを示しています。

参考:日経BP「国が「発達障害の雇用促進、職場の戦力に!」の背景と意味」
参考:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「ニューロダイバース人材の採用を拡大し、組織の多様性を高める方法」

Tiimo(ティーモ)

Tiimoは北欧にあるスタートアップ企業で、自閉スペクトラム症やADHDなどニューロダイバーシティ(神経多様性)を持つ人々を支援するアプリ開発を行う会社です。

発達障害を持つ人々は、日々の生活を計画してルーティーンをこなすのは難しく、手助けが必要な場面があります。

Tiimoが開発したデイプランナーアプリは、ニューロダイバーシティを持つ人々が効率よく計画通りに日常生活を送れるように設定されています。

チェックリストやアラーム機能、リマインダーの設定も可能です。

また、作業が完了すると祝ってくれる機能もあるため、モチベーションの維持にも配慮されています。

Tiimoは、Nordic Startup Awardsで「デンマークのベストソーシャルインパクトスタートアップ」に選ばれ、現在、世界中の15,000人以上のあらゆる年齢層の人々に利用されています。

参考:北欧ヘルステック「北欧スタートアップ24社ショーケース」

パーソルダイバース

パーソルグループの特例子会社であるパーソルダイバース(東京都港区)は、データを活用した先端IT分野での就労を目指す就労移行支援事業所「Neuro Dive(ニューロダイブ)」を運営しています。

Neuro Diveは、「コミュニケーションに苦手意識がある」「業務を要領よくこなせない」などのニューロダイバーシティの特性を持った人たちの高い集中力や優れた論理力を生かし、IT人材としての可能性を導き出す手助けをしています。

この事業所には、「韓国にもニューロダイバーシティ(神経多様性)を普及させたい」という韓国ニューロダイバーシティ協会の立役者でもあるSohyun Kim氏も視察に訪れるほど。

IT職種への高い就職率と定着率を誇り、利用者の多くがキャリアアップを実現しているNeuro Diveは、海外からも高い関心を集めています。

参考:就労移行支援事業所「Neuro Dive」

まとめ

本記事では、ニューロダイバーシティを紹介しました。

ニューロダイバーシティとは、ニューロ(Neuro)とダイバーシティ(diversity)をつなげた造語で、直訳すると「脳や神経の多様性」という意味です。

これは、能力の欠如や優劣ではなく、「人間のゲノムにおける自然で正常な変異」として捉えられ、多様性の一つとして認識されています。

自閉スペクトラム症やADHDといった発達障害を持つ人たちの中には、卓越した集中力や創造力を持つ人が多いため、ダイバーシティの観点からも企業において積極的に採用する動きが高まっています。

この機会にニューロダイバーシティや発達障害について考え、互いの得意分野を生かし支え合える社会を目指しましょう。

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