格差・貧困・人権

マイクロファイナンス(micro finance)とは?グラミン銀行についても解説

マイクロファイナンス(micro finance)とは、経済的に困難な状況にある人々を支援する、無担保・無利子の少額融資のことをいいます。

日本では、あまり浸透していない用語です。しかし、日本でも利用できるサービスです。

今回は、マイクロファイナンスの概要や仕組みを解説します。SDGsとも深く関わっていますので、この機会に学んでみましょう。

マイクロファイナンスの概要と仕組み

最初に、マイクロファイナンスの概要や仕組みを解説します。

マイクロファイナンスとは何なのか

マイクロファイナンス(micro finance)」は、「micro = 単位が非常に小さい」と「finance = 資金・融資」の意味からきている言葉です。一般的に数千~数万円程度の少額融資のことを指しています。

マイクロファイナンスの大きな特徴は、無担保・無利子(低金利)でかつ保証人が不要ということです。

おもに貧困者層・低所得者層など、社会的に弱い立場にある人々の未来を支援するために設立されました。

  • 無職・低所得であるため、融資が受けられない
  • 貧困のために教育が受けられない
  • 十分な教育がないため、仕事が得られない
  • ミソジニー※やジェンダーギャップで仕事が得られない
  • 貧困のために住む家がない
  • 収入がなく子どもが育てられない
  • 貧困のために事業が継続できない

以上のように、金融機関からの借入が難しい人でも、容易に利用できることがマイクロファイナンスの理念の1つです。

融資を行うだけでなく、教育や仕事にかかわる多様な支援プログラムも無料で提供しています。

安定した生活に向けて、総括的に貧困者や低所得者を支援していくことがマイクロファイナンスの最終的な目的です。

※ミソジニーとは、女性であることを理由に嫌悪したり蔑視したり、一般的にいわれる「女性らしい行為や思想」を女性である個人に強制することをいいます。
ここでいう「女性らしい行為や思想」は、国・地域によって格差があります。

参考:About US – Grameen Bank

マイクロファイナンスとマイクロクレジットの違い

マイクロファイナンスのことをマイクロクレジットと呼ぶこともあり、両者に大きな違いはありません。

融資と支援サービスを総合的にまとめてマイクロファイナンスと呼ぶこともあれば、少額融資のみを指してマイクロクレジットと使われることもあります。

SDGs目標1とマイクロファイナンスの関係

SDGsの課題としてもマイクロファイナンスは注目されている制度です。

SDGsの目標1「貧困をなくそう」と密接な関係にあります。

ユニセフによると、世界の約3億5,600万人の子どもたちが「極度にまずしい」暮らしをしています。

6人に1人が極貧生活の中にあり、とくにサハラ以南・アフリカ・南アジアに集中しているとのことです。

UNCDF(国際連合開発基金)は、貧困やその他多くのSDGsの課題解決にあたっては、誰もが平等に金融にアクセスできる包括的なシステムの拡充が必要だとしています。

平等な金融へのアクセス方法として、マイクロファイナンスが果たす役割が期待されています。

GREEN NOTEでは、SGDs目標1について以下で詳しく解説しています。こちらもご参照ください。

関連記事:SDGs目標1「貧困をなくそう」のターゲットや取り組みについて

グラミン銀行のSDGsに向けた取り組み

マイクロファイナンスは、1976年にバングラデシュで開始された、マイクロクレジット(micro credit)と呼ばれる少額融資がきっかけとなっています。

のちに、マイクロクレジット専用のグラミン銀行が設立され、次第にマイクロファイナンスの概念が確立されていきました。

マイクロファイナンスが誕生した背景や概要を見ていきましょう。

グラミン銀行の概要と取り組み

グラミン銀行(Grameen Bank)によって確立されたマイクロファイナンスは、1976年にバングラデシュのチャトグラム地区 “Jobra” という村で、最初はテストプロジェクトとして開始されました。

大まかなプロジェクトの内容は、地域の貧困層に対して、数十ドル単位(千円単位)の貸し出しを無担保・無利子で行い、経済的な自立へと支援することです。

プロジェクトは、バングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス博士によって考案され、のちの1983年にグラミン銀行が創設されました。

融資以外にも、預金口座、送金サービスなども行い、現在は世界の2,568カ所に支店を構えています。

日本でも、「グラミン銀行」の支店である「グラミン日本」が設立されています。

グラミン銀行の創設者:Muhammad Yunus/画像引用:The Origin of Microfinance – Yale University

現時点で少額融資を受ける会員数は10万人以上です。

回収率がきわめて高いことから、功績が評価されたムハマド・ユヌス博士は、2006年には「ノーベル平和賞」を受賞しました。

グラミン銀行の少額融資ベーシックプラン

融資条件 年度 融資上限
新規会員 最初の1年目

50,000 BDT

(約67100円、1BDT
= 1.34円、2024年3月15日現在)

2年目

55,000 BDT

(約73,800円、1BDT
= 1.34円、2024年3月15日現在)

参考:Basic loan – Grameen Bank   (BDT=Bangladeshi Taka/バングラデシュ・タカ )

初回利用者は、バングラデシュの場合で最初の1年目に50,000 BDT、2年目で55,000 BDTの借入が可能です。

他にも、返済状況やそれぞれの用途に応じて多様なプランから融資が受けられる仕組みになっています。

返済期間は最短で数カ月~5年程度です。

例えば、バングラデシュの1カ月の平均的な生活費は21,700BDTで、初回の融資だけでも2カ月分の生活費に相当する額です。

予定通りに返済できれば、融資額も上限が高くなり、それがモチベーションになります。

多くの新興国では、女性が銀行口座を作れなかったり、融資を受けられなかったりと、女性の社会進出が厳しい環境にあります。

グラミン銀行の会員の98%が女性で、そのうちの3分の2以上が貧困から安定した生活へ移行しているとのことです。

物乞いで暮らしていた約21,000人の会員が、経済的自立できたケースも見られています。

参考:About Grameen Bank – Grameen Bank
参考:Loan Product – Grameen Bank

「グラミン日本」の概要と取り組み

マイクロファイナンスは途上国で実施されているというイメージが強いのですが、実はそうではありません。

グラミン銀行は世界40カ国に支店を展開し、それぞれの国で経済情勢や貧困問題に応じた取り組みが行われています。

日本でも活動しており、「グラミン日本」は、2018年に設立されました。

現在、低金利の小口融資と就労支援が主な活動です。

グラミン日本では、将来的な就業や起業を支援し、毎月2回のセンターミーティングへの参加を義務づけています。

5人グループで協力し合って起業を進めていく体制で、シングルマザーや起業家への支援に力を入れています。

いざという時に利用できるソフトインフラの整備と、個人規模のスモールビジネスの普及を目指しています。

参考:グラミン日本 公式サイト

なぜ日本にもマイクロファイナンスが必要なのか

マイクロファイナンスは、アフリカや南アジアを中心に積極的に展開されている融資制度です。

しかし、前述の通り、日本でも取り入れられています。

最後にその理由と普及への課題などについて紹介します。

日本は相対的貧困率が高い

貧困は、ともすると極貧者の割合が高い新興国だけの問題だと思いがちです。

しかし、欧米や日本などの先進国にも貧困は存在し、日本人にとっても決して他人事ではありません。

OECD(経済協力開発機構)の2021年度の統計では、日本の貧困率はOECD38カ国の中で5番目に高く、G7国においてはトップにランクインしています。

OECDの相対的貧困率(2021年度)

引用元:Poverty rate 2021 – OECD(赤:日本、青:韓国、紫:米国)

先進国の貧困率は、平均的な国民の生活水準から著しく低い「相対的貧困」にある人たちの比率で計算されています。

日本では所得の平均値254万円に対して、その半分以下の「約127万円」以下の層を、「相対的貧困」に分類しています。

「低所得者」「生活困窮者」とも呼ばれている層のことです。

等価可処分所得※による国内の経済格差は大きく、中でもひとり親世帯における子どもの相対的貧困率が高いことが日経新聞でも報告されています。

※等価可処分所得とは、税金や保険料・年金などの社会保障料金を差し引いた所得(手取り収入)の平均額のことです。

なお、相対的貧困についてはGREEN NOTEでも詳しく解説しています。

下記記事も併せてご覧ください。

関連記事:【世界の10人に1人】貧困問題を抱えている現状とは?

参考:相対的貧困率とは – 日経新聞

日本に普及しない理由

マイクロファイナンス機関として日本の生活困窮者に支援を行っているのは「グラミン日本」のみです。

日本でマイクロファイナンスが普及していない理由は、まず日本では銀行口座の開設が比較的容易である点が挙げられます。

女性や若者・高齢者、経済的に困難な状況にある場合でも銀行口座が開設できないケースはまれであるため、マイクロファイナンス機関で口座を持つ必要がありません。

また、日本では、起業よりも雇用契約による就業形態が主流となる点も、マイクロファイナンス機関へのニーズが高まりづらい理由となっているようです。

しかし、低所得者を対象とした支援制度の仕組みは日本にも存在します。

次項にいくつかの例を紹介します。

参考:マイクロファイナンスの日本の現状と企業などの取り組みについて – クラウドクレジット (crowdcredit.jp)

日本の支援制度の種類

マイクロファイナンスとは異なりますが、社会的弱者を対象とした日本で実施されている支援制度の例を説明します。

日本政策金融公庫

日本政策金融公庫は、日本政府100%出資する行政の政策金融機関です。

預金などの一般的な金融サービスとは異なり、おもに支援を必要とする中小企業・小規模事業者・一般市民への少額融資がメイン事業となります。

原則として低金利で担保・保証人は不要です。

プランにもよりますが、金融機関での融資が難しい状況でも、融資が受けやすいといわれています。

入学・在学する子どもがいる場合に利用できる「教育ローン」は、返済期間の上限も18年と長めです。

子どもの数に応じた融資が受けられます。

一般的に信用力が低いといわれる女性や若者、シニア専用の「新規開業資金制度」や、介護やまちづくり、地域創生など、幅広いタイプの少額融資プランが用意されています。

参考:国民生活事業 – 日本政策金融公庫

生活福祉資金・緊急小口資金

各自治体では、低所得者・障がい者・高齢者世帯などを対象に無利子・保証人なしでも利用可能な「生活福祉資金貸付制度」を提供しています。

いざという時のために覚えておきたいのが「緊急小口資金」です。

同制度は、新型コロナウイルスや地震・水害などの突発的な災害時に利用できる少額融資制度になります。

緊急かつ一時的な生計維持のために利用することが可能で、無利子・保証人不要です。

かつ状況に応じて償還免除も受けられます。

参考:生活福祉資金貸付制度 – 全国社会福祉協議会
参考:緊急小口資金(生活福祉資金貸付制度)- 全国社会福祉協議会

他にも、地方創生に力を入れる自治体がひとり親などを対象に、魅力ある支援金で移住者を募るケースもあります。

それぞれの状況によって、融資や支援金が活用できますので調べてみましょう。

国・行政機関が行う融資制度は専用サイトにて検索できます。

融資制度 – e-GOVポータル

自治体の支援制度を調べたい方はこちらをご覧ください。

自治体支援制度検索 – 移住・交流推進機構

まとめ

マイクロファイナンスが、今後、日本において普及していくための課題は大きく2つあります。

1つは、日本の事情に沿ったビジネスモデルの形成です。

例えば、銀行口座の開設や起業へのニーズが少ないとすれば、では、どのような支援が必要かを導き出す必要があります。

そして、もう1つは、民間企業によるマイクロファイナンスへの参入です。

マイクロファイナンスを手掛ける企業が増えることで、多彩なサービスへの展開が期待されるとともに、認知度も高まります。

そこから新たなお金の流れが生まれるでしょう。

まずは、身近にできることとして、それぞれがマイクロファイナンスへの理解を深め、周囲にシェアしてていくことが、マイクロファイナンス普及拡大の一歩となるでしょう。

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