サーマルリサイクルとは?仕組み・問題点と企業での対応策

「プラスチックのリサイクル率は89%」
こう聞くと、日本の廃棄物処理は非常に進んでいるように感じるかもしれません。
しかし、その大半を支えているのが「サーマルリサイクル」という、焼却による熱回収であることをご存知でしょうか。
国内では有効利用されているこの方法も、国際基準ではリサイクルと認められないケースがあります。
近年はESGの開示や海外での規制が強化されている中で、この認識のギャップは企業経営に直結するリスクになりつつあります。
本記事では、サーマルリサイクルの基礎から日本での背景、国際社会とのギャップ、企業が今すぐ取るべきアクションまでご紹介します。
サーマルリサイクルとは?——3種類のリサイクル手法を整理する

サーマルリサイクル(Thermal Recycling)とは、廃プラスチックや廃棄物を焼却する際に発生する熱エネルギーを、発電や熱供給などに活用する方法です。
素材として再生するのではなく、廃棄物を「燃料」として扱う点が特徴で、サーマルリカバリー(熱回収)とも呼ばれています。
プラスチックのリサイクル手法は、大きく以下の3種類に分類されます。
- マテリアルリサイクル:廃プラスチックを溶かして新たな素材に再生する方法
- ケミカルリサイクル:化学的に分解してモノマー・燃料などに転換する方法
- サーマルリサイクル:焼却熱をエネルギーとして回収する方法
この3つのうち、日本ではサーマルリサイクルが最も広く活用されています。
日本でサーマルリサイクルが約6割を占める理由

プラスチック循環利用協会の統計によると、国内の廃プラスチックの有効利用率は約89%とされています。
しかしその内訳を見ると、サーマルリサイクルが約60%を占めており、マテリアルリサイクルは約20%程度にとどまっています。
なぜここまでサーマルリサイクルが主流になったのかを解説します。
① 焼却施設の整備が進んでいた
日本は国土が狭く、埋立地が限られているため、廃棄物処理では焼却が主に行われてきました。
全国に1,000か所以上の焼却施設が整備されており、既存インフラをそのまま活用できるサーマルリサイクルはごく自然な選択肢でした。
② 分別・洗浄コストが高い
マテリアルリサイクルを行うには、素材の厳密な分別と洗浄が必要です。
汚れた素材や種類が異なる素材が混ざったプラスチックは再生が難しく、コストもかさみます。
一方、サーマルリサイクルは素材の種類や汚染状態を問わず処理できるため、コスト面で優れています。
③「リサイクル率」の計算方式の問題
日本では、サーマルリサイクルを「有効利用するもの」として統計に含めています。
しかし「リサイクル率89%」という数字の大半は、国際基準では「リサイクル」に該当しない、サーマルリサイクルによって支えられているのが実情です。
国際社会との「認識ギャップ」が企業リスクになる理由

日本国内では、サーマルリサイクルが「リサイクル」として扱われていますが、EUをはじめとする国際社会ではその認識が異なります。
EUのプラスチック戦略では、サーマルリサイクルはリサイクルの対象外とされており、廃棄物処理の優先順位においても「リサイクル」より下位に位置づけられています。
2021年には、当時の小泉環境相が「サーマルリカバリー(熱回収)」への方向転換を示唆し、国際基準との整合を意識した発言として注目されました。
こうした認識のギャップは、次のようなリスクが生じる可能性があります。
① ESG評価への影響
投資家や格付け機関がESG評価を行う際には、企業の廃棄物処理の内訳が詳しく問われます。
特に、サーマルリサイクルを主な処理手段としながら、「リサイクル率が高い」と開示している企業は、国際的な評価軸では低評価につながる可能性があります。
② EU規制への対応
EUでは包装材に関するリサイクル義務が厳格化されており、日本企業がEU市場で事業展開する場合、現地の基準を満たす対応が求められます。
そのため、規制を先読みして対応することが、将来のコスト差につながります。
③ 投資家スクリーニングへの影響
ESG投資が拡大する中、廃棄物処理の透明性を求める投資家が増えています。
「サーマルリサイクル=リサイクル」という前提での開示は、国際投資家との認識ズレを生む可能性があります。
サーマルリサイクルのメリットと限界——正しく理解する

とはいえ、サーマルリサイクルをすぐに「悪者」と決めつけるのは早計です。
実際、現段階ではサーマルリサイクルにも一定の役割があります。
ここでは、サーマルリサイクルのメリットと限界について整理しました。
メリット
- コストの低さ:分別・選別・洗浄が不要なため、処理コストを抑えやすい
- 既存インフラの活用:新たな設備投資をせずに、焼却施設をそのまま活用できる
- エネルギー回収:発電や熱供給に利用することで、廃棄物から一定のエネルギーが得られる
- 素材を選ばない:複合素材や汚染されたプラスチックも受け入れ可能である
限界
- CO₂排出:プラスチックを燃やすとCO₂が発生するため、脱炭素目標と相反する
- 資源の一方通行:焼却後は素材として再利用できないため、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現に逆行する
- 国際基準とのギャップ:欧米ではリサイクルと認められないため、グローバルな基準に沿わなくなる
サーマルリサイクルは「過渡期の手段」として位置づけた上で、長期的にはマテリアル・ケミカルリサイクルへの移行を視野に入れることが、今後の企業戦略において重要です。
移行先の選択肢——マテリアル・ケミカルリサイクルの最前線

サーマルリサイクルからの転換先として、2つの方向性が注目されています。それぞれの特徴などをご紹介します。
マテリアルリサイクル(水平リサイクル)
廃プラスチックを溶かしたり再成形したりして新たな素材に再生する方法です。
特に、同品質の素材を繰り返し循環させる「水平リサイクル(ボトルtoボトルなど)」は、サーキュラーエコノミーの観点から最も理想的な方法として高く評価されています。
ただし、素材の純度が求められるため、分別・洗浄コストがかかることや、繰り返し使用による品質劣化が起きやすいことが課題です。
国内では、リファインバース株式会社がポリオレフィン系廃プラスチックの高品質リサイクル事業を展開しており、マテリアルリサイクル技術の最前線として注目されています。
ケミカルリサイクル
廃プラスチックを化学的に分解し、モノマー(原料)や合成ガス・油などに転換する方法です。
汚染されたプラスチックや複合素材にも対応できるため、従来のマテリアルリサイクルが難しい廃棄物の受け皿として期待されています。
BASFは、独自のケミカルリサイクル技術「ChemCycling(ケミサイクリング)」を活用したプロジェクトを進めています。
具体的には、廃プラスチックを熱分解油に転換して、新たなプラスチック原料として活用する取り組みです。
現時点ではコストが高く、大規模に展開するにはいくつか課題も残っています。
しかし、技術開発と規制整備が進む中、次世代のリサイクル手法として注目度が高まっています。
企業が今すぐ取れる3つのアクション

サーマルリサイクルの現状を踏まえ、企業として今できることをまとめました。
① 廃棄物処理フローの可視化とサーマル依存度の把握
まず、自社の廃棄物処理の実態を把握することが出発点です。
サプライチェーン全体でどの程度サーマルリサイクルに頼っているかを数値化し、マテリアル・ケミカルリサイクルへの転換余地を明らかにします。
② マテリアル・ケミカルへの転換ロードマップ策定
短期・中期・長期のフェーズに分け、転換可能な素材や工程から段階的に移行計画を立てます。
最初は包装材や単一素材の廃プラスチックなど、マテリアルリサイクルに適したものから着手するのが現実的です。
外部の処理業者やリサイクル企業との連携も、ロードマップ策定の重要な要素となります。
③ ESGレポートへの正確な記載と目標設定
サーマルリサイクルを「リサイクル率」に含めて開示している場合、国際基準に沿った表記への見直しが必要です。
マテリアルリサイクル率・ケミカルリサイクル率を分けて開示し、それぞれの転換目標を数値で示すことが投資家への信頼につながります。
開示の透明性そのものが、ESG評価の重要な指標になりつつあります。
まとめ——「燃やせばOK」から「循環させる」経営へ
本記事では、サーマルリサイクルの基礎から日本での背景、国際社会とのギャップ、企業が取れるアクションまでをご紹介しました。
- サーマルリサイクルは日本の廃プラ処理の約60%を占めるが、国際基準ではリサイクルと認められない
- 欧米との認識ギャップは、ESG評価・EU規制・投資家スクリーニングという形で企業リスクになりうる
- メリットを認めつつも、CO₂排出・資源の一方通行・国際基準との乖離という限界を正確に理解することが重要
- マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクルへの移行が、長期的な競争力につながる
- 自社の廃棄物処理フローの可視化といった、できることから始めてみることが大切
「サーマルリサイクルで十分」という時代は、終わりを迎えつつあります。
規制や投資家の目が厳しくなる前に、「循環させる経営」への転換を一歩ずつ進めてみませんか。
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