化粧品業界が取り組むSDGs|解決すべき問題や取組事例を紹介
SDGsは「2030年までに世界中にある問題を解決するための目標・計画」です。
この問題には環境問題や人権問題、貧困問題などさまざまなテーマがあります。
このSDGs、実は化粧品業界でも注目されています。
今回はSDGsと化粧品業界との関連性や対象となる目標、そして各化粧品ブランドの取り組みを紹介します。
化粧品業界におけるSDGsへの取り組み
2021年に経済産業省と日本化粧品工業連合会より「化粧品産業ビジョン」が策定されました。
「化粧品産業ビジョン」には現在の化粧品業界の現状と問題点、さらに今後の取り組みが記載されています。
そして7つの取り組みのうちの1つには「SDGsへの積極的な貢献」があります。
このように、化粧品業界においてSDGsは非常に重要とされているのです。
他にも「ジェンダーレス・ジェンダーフリーを意識した人材の確保」も明記されています。
これは消費者だけでなく、企業側の取り組みも必要不可欠であることを意味します。
化粧品業界と関連の深いSDGsの目標(ゴール)
SDGsには17の目標がありますが、その中でも化粧品業界と関連の深い目標が5つあります。
各目標の現状や問題点、そして取り組みを説明します。
目標5「ジェンダー平等を実現しよう」
SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」のポイントは主に2つです。
- 女性や女の子が差別されることのない社会の実現
- 性別に関わらずすべての人が平等な機会を与えられる社会の実現
目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の現状
世界では「女性であること」が理由で学校に行けない、18歳未満の結婚・出産の強制、人身売買などの差別を受けている女性や女の子がいます。
日本においても男女を比較すると平均収入や役職、雇用形態などに大きな差が見られます。
近年はLGBTQという言葉を耳にする機会が増えました。
しかしいまだに差別されることも多く、一般的に受け入れられてるとは言い切れません。
目標5「ジェンダー平等を実現しよう」に対する取り組み
化粧品業界では目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の取り組みとして、次のことを行っています。
- 女性活躍の推進
- ジェンダーレス・ジェンダーフリー化粧品の開発や販売
- メンズ化粧品の普及
女性消費者が多い化粧品業界には、女性が多く働いています。
しかし女性活躍の取り組みは十分とは言えません。
大手化粧品会社をはじめ、さまざまな企業で女性管理職の積極登用や「子育てサポート企業」の認定取得などに取り組んでいます。
化粧品は女性だけのものではなくなりつつあります。
近頃は「男性コスメ」というジャンルも耳にする機会が増えました。
性別に関わらず誰でも利用できるジェンダーレス・ジェンダーフリー化粧品の開発や販売も重要です。
目標12「つくる責任 つかう責任」
SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」のポイントは主に2つです。
- 天然資源の持続可能な管理・利用
- 廃棄物の大幅な削減
目標12「つくる責任 つかう責任」の現状
私たちは、日々多くの資源を使用して生活しています。
エネルギーや水、食べ物、衣類などすべてのものが何らかの資源です。
そして今では大量生産・大量消費が当たり前になりました。
1970年以降、人間が使用する資源の涼は1年間に地球が生産できる資源よりも多くなっています。
つまり地球の資源を削り続けていることになります。
現在、世界中の人々の生活を支えるためには地球が1.6個分必要とも言われています。
化粧品業界においては、開発や生産時のエネルギー問題があります。
中身だけでなく容器の製造、破棄においても環境負荷を意識する必要があります。
目標12「つくる責任 つかう責任」に対する取り組み
化粧品業界では、目標12「つくる責任 つかう責任」に対して以下のような取り組みを行っています。
- 詰め替えやリユースによるプラスチック容器の削減
- 動物実験を行わない
- オーガニック原料の使用
- アップサイクル原料の使用
- 箱や容器にFSC認証紙を使用
環境負荷の観点から、化粧品の使用済み容器を回収する動きが広まっています。
集められた容器は再利用されたり、資源として利用されます。
化粧品は毎日使うものなので、その分消費も早く空き容器も多く出ます。
その容器をゴミとして出すのではなく、再利用してもらえるのは嬉しいですよね。
また動物実験を禁止することも目標12「つくる責任 つかう責任」の取り組みの一つです。
化粧品は人間が直接肌に付けるもの。
そのため、開発時に動物実験が行われる場合があるのです。
動物実験を行っていない化粧品には、ウサギのマーク「クルエルティフリー」認証が付けられています。
関連記事:【動物実験廃止を目指して】化粧品会社のSDGsへの取り組みとは
目標13「気候変動に具体的な対策を」
SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」に対するポイントは以下の3つです。
- 自然災害への強靭性(レジリエンス)の強化
- 気候変動対策の計画や実行
- 気候変動に対する教育、啓発等を行う
目標13「気候変動に具体的な対策を」の現状
気候変動には集中豪雨や連日の猛暑日、干ばつなどが挙げられます。
気候変動の原因は「地球温暖化」にあるとされています。
そして地球温暖化の原因は、温室効果ガスの発生です。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は2021年、「地球温暖化は人間が引き起こしたもの」と結論づけました。
気候変動をこのまま放置すると、台風などの自然災害による被害の拡大や海面上昇による土地の浸水、農作物が育たないことによる食糧不足などが起きるかもしれません。
気候変動を止めるためには「地球温暖化の抑制」、すなわち二酸化炭素の排出を抑える必要があります。
目標13「気候変動に具体的な対策を」に対する取り組み
化粧品業界では、「気候変動の対策」として以下の取り組みを行っています。
- 再生可能エネルギーの利用
- 生分解性の原料を使用
気候変動に最も有効な対策は、温室効果ガスの削減です。
二酸化炭素は温室効果ガスの7割近くを占めています。
化粧品では、製造時のエネルギー利用や輸送などで化石燃料を使用することで多くの二酸化炭素を排出します。
そのため、エネルギーを化石燃料から再生可能エネルギーに変更することで大幅に温室効果ガスを削減できるのです。
また生分解性原料の使用も二酸化炭素排出量の削減につながります。
自然の中にある微生物の力で水と二酸化炭素に分解することができるので、環境負荷が低いとされています。
目標14「海の豊かさを守ろう」
目標14「海の豊かさを守ろう」のポイントは、以下の3つです。
- 2025年までに海洋汚染の防止と大幅な削減を行う
- 持続的な管理や保護で、海洋生態系の回復に取り組む
- 漁業や養殖において適切な管理を行い、海洋資源の持続可能な利用を強化
目標14「海の豊かさを守ろう」の現状
世界中で魚を食べる量が増えています。
これによる乱獲や違法な漁業が増え、海洋資源が減りつつあります。
国全体が海に囲まれている日本でも、魚が満足に食べられなくなるかもしれません。
また海洋汚染も問題となっています。
プラスチック製品の多くが海に流されているのです。
プラスチックは自然の中で分解されることはありません。
いつまでも海を漂い続けるのです。
年間約800万トンものプラスチックが世界中の海に流れ出ているとも言われています。
そして今のまま何も対策がされないと、2050年には海洋プラスチックゴミの量が海の魚の量を上回ると予想されています。
船などから漏れる石油による水質汚染も問題です。
2020年には日本の会社が保有する貨物船がモーリシャス沖で座礁し、1000トン以上もの重油が海に流れ出す事件がありました。
この事件によりサンゴ礁や海岸のマングローブなどが被害を受けました。
目標14「海の豊かさを守ろう」に対する取り組み
化粧品業界では目標14「海の豊かさを守ろう」に対して以下の取り組みがされています。
- 詰め替えや容器のコンパクト化によるプラスチック使用量削減
- 海に流れても安全な日焼け止め成分の使用
詰め替えなどによるプラスチック使用量の削減は、目標14「海の豊かさを守ろう」だけでなく、目標12「つくる責任 つかう責任」でも紹介しました。
最近では詰め替え用の袋にそのままディスペンサーを差し込むタイプのシャンプーも発売。
本体容器を買う必要もありません。
また日焼け止めに含まれる成分の中には、サンゴ礁の白化現象などを引き起こすものがあることが分かっています。
これは紫外線吸収剤が原因です。
近年では、紫外線吸収剤を使用しない日焼け止めや化粧品も増えています。
目標15「陸の豊かさも守ろう」
目標15「陸の豊かさも守ろう」のポイントは以下の4つです。
- 陸や河川の生態系を守り、持続可能な利用を行う
- 森林減少を阻止し、植林等により森林を増加させる
- 動植物の密猟や違法取引の撲滅
- 絶滅危惧種の保護
目標15「陸の豊かさも守ろう」の現状
1年で約470万ヘクタールという面積の森林が消えています。
森林は生き物の住処だけでなく、炭素の貯蔵庫や土壌保全などの役割も担います。
そんな森林が人間活動や気候変動により減少しているのです。
人間が森林を伐採する理由には、木材や紙の原料にするためや農地や放牧地のための開拓、鉱山開発などがあります。
世界には約213万種の生物がいると言われていますが、その中で絶滅危惧とされているのは約14万種です。
この絶滅危惧種のすべてが森林破壊によるものではありませんが、生息地の減少も大きな要因の一つです。
目標15「陸の豊かさも守ろう」に対する取り組み
目標15「陸の豊かさも守ろう」について、化粧品業界では以下の取り組みが行われています。
- パッケージにFSC認証の紙/リサイクル紙を使用
- オーガニック原料の使用
化粧品のパッケージやパンフレットなどに使われる紙をFSC認証紙にすることで、森林を守ることができます。
FSC認証は、適切に管理された森林から作られた製品であることを証明するものです。
FSC認証を受けるためには、定められた条件を満たし審査に通過する必要があります。
植物や果実などを育てる際、化学肥料が使われる場合があります。
しかし化学肥料の使いすぎは、土の中の微生物に悪影響を及ぼし土の中の生態系を崩す可能性があります。
一方オーガニック原料に化学肥料は使われていません。
またオーガニック原料が使われた化粧品は肌への刺激が少ないため、敏感肌や乾燥肌の方でも安心して使用できるものが多いです。
SDGsに取り組む化粧品ブランド・企業
化粧品業界とSDGsの関連性を見てきました。
ここからは、どのような企業がどのような取り組みを行っているのか、具体的に解説します。
資生堂【目標13・目標5】
「資生堂」では環境・人・社会において、さまざまな取り組みが行われています。
2026年までのカーボンニュートラルを目標に、再生可能エネルギーの導入を進めています。
世界各国の向上や研究所には太陽光パネルを設置したり、他企業との共同配送で輸送時の二酸化炭素削減。
欧州7カ国とブラジルのオフィスでは、100%再生可能エネルギーの電力を使用しています。
資生堂は、女性の社会活躍にも積極的です。
資生堂では1990年頃から女性のライフイベントに寄り添った支援を開始。
2000年頃には育児休業を取得した女性社員がほぼ100%復帰するなど、いち早く取り組んできました。
2020年からはカンボジアで女性向けの美容訓練プログラムを提供し、就労につなげています。
公式サイト:資生堂「サステナビリティ」
ALBION(アルビオン)【目標12・目標5・目標15】
品質にこだわる化粧品会社「ALBION(アルビオン)」。
アルビオンでは2019年にサステナビリティの検討を行う会議体「アルビオンらしさの推進」を発足。
そこでは環境や資源に配慮した容器や原料の使用、生産時の環境負荷の軽減、多様性を尊重した環境作りなどに取り組んでいます。
またアルビオンは白神山地の麓に畑を有しており、無農薬自社栽培を実施。
原料植物の確保にも力を入れています。
生産工場では第三者機関による品質・安全性のチェックを受けており、安心・安全な化粧品づくりを徹底しています。
公式サイト:ALBION
日本ロレアル【目標12・目標13】
ロレアルグループの日本法人「日本ロレアル」もSDGsに取り組む化粧品会社の一つです。
2022年6月からは美容部員の制服をアップサイクルする取り組みを開始。
これは日本の化粧品業界にとって初めての取り組みです。
旧デザインの制服や退職した社員の制服をアップサイクルすることで2022年度は約9トン、以降は約2.2トン/年のCO2が削減される予定です。
また2030年に向け、日本ロレアルは3つの目標を掲げています。
- 100%エコデザイン化
- ゴミのリサイクル化促進
- ゴミの総量削減
廃棄物削減の取り組みとして、2025年までにプラスチック製パッケージを100%詰め替え可能・リサイクル可能・再利用可能・コンポスト可能にしていくことも表明しています。
公式サイト:日本ロレアル
ETVOS(エトヴォス)【目標12・目標13・目標14】
大阪に本社を置く、ミネラルファンデーション・セラミドスキンケア製品の化粧品会社「ETOVOS(エトヴォス)」。
商品の詰め替えやリフィルを販売し、プラスチックの削減を行っています。
ベジタブルインクを使ったパッケージや間伐材を使用し、限りある資源を大切に使う気持ちが込められています。
またエトヴォスは動物実験を行っていません。
人だけでなく、地球や動物にも配慮されています。
毎年行われている「ETVOSと海を守ろうキャンペーン」では、ミネラルUVシリーズの販売期間中にSNSを通じて海の環境を守る寄付活動を行っています。
エトヴォスのミネラルUVシリーズには、サンゴの白化を引き起こす赤外線吸収剤は使われていません。
公式サイト:ETVOS
ヒトと地球に優しい化粧品選びを
化粧品業界でもSDGsに取り組む企業は増えています。
関連記事:国内&海外企業が行うSDGsの面白い取り組み10選
その取り組みは、再生可能エネルギーの導入や詰め替え可能商品の充実など環境に配慮したものから、女性の社会進出などジェンダーに関するものまでさまざまです。
しかし企業がSDGsに取り組むだけでは解決できません。
大切なのは、より多くの企業はSDGsに取り組み、消費者はそのような化粧品会社を消費によって応援すること。
応援された企業は、SDGsへの取り組みへさらに注力することができます。
この仕組みが少しでも多くの人に広まることで、より良い社会が作られていくのではないでしょうか?
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